アイ信者たちがゆく ~憑依したらお尋ね者だった件~   作:ニノ推し

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2話 ニノという女性

 

 アイのストーキング、もとい自称ボディガードをしてきた。

 

 それもドームの関係者入り口付近で終えて、リョースケの記憶を頼りに一度部屋に戻った。鍵を閉め、チェーンまでかけて、厚手のカーテンを閉める。

 

 あまり整理整頓がされてないのは我慢するが、カミキヒカルが何を仕掛けているか分からない。毒や爆発物みたいな物ではないことを祈るのみだ。

 

 とりあえず電子レンジと冷蔵庫の中に手紙を入れておくことにする。カードゲームのアニメで冷蔵庫に隠れて生存したデュエリストだっていたからこれで安全だ。

 あるかどうか分からない監視カメラを気にしながら【もし俺が死んだら劇団ララライのカミキヒカルが真犯人、バーカ!】と残しておいた。

 

 残念ながら部屋にノートパソコンなどはなかった。

 仕送りもそこまでは多くないからだろう。学費や生活費も払ってもらっていて、都内でそこそこの広さの部屋を借りられているだけで多額だと思うがな。

 

 さすがに折り畳み式の携帯電話ではないとはいえ、スマホが普及し始めている時代だ。まだSNSも活発とは言いきれず、サブカルに関しては掲示板文化が主流らしい。

 

 そのためドーム公演が順調かどうか、なかなか検索しても出てこなかった。

 いまだ会場でSNSで実況する時代でもないらしい。

 

 手持ち無沙汰になった。

 いざという時にエネルギーを温存するためにも、ベッドで横になって大学の教科書でも読んでみる。しかし彼の記憶があろうと、専門分野さっぱり分からん。

 

 というか卒論どうするんだよ。

 まさか俺が書くのか? しかもまだ手書きの時代か?

 2度目の大学4年目を送りたがっていたアクアすげーよ。

 

 簡単に精神世界に出入りできるわけでもないが、「起きろリョースケ!」と心の中でつぶやいていたら通じるかもしれない。

 

 そんな数時間を過ごしていたが、結局は彼の人格が目覚めてくることはなかった。

 

 携帯に届いたメールを見ると、自然と身体を起こす。

 付き合っている新野冬子さんから「無事に終わった。」という簡素なメッセージだ。わざわざメールを使っている辺り時代を感じる。

 

 きっと今頃は社長さんかミヤコさんが、アイを送り届けていることだろう。

 

 本格的に世界の運命は変わっていくはずだ。

 

 しかし修正力なんてものがあろうとなかろうと、カミキヒカルってヤツが生きている。

 きっと星野アイはその命を狙われる。もしも彼女が死んでしまえば星野アクアは復讐を目的として生きて死ぬ。嘘が嫌いな星野ルビーは母と同じく偶像として生き続ける。

 

 新野冬子さん(ニノ)は、カミキヒカルの操り人形となり、その罪を増やしていく。

 

 問題は山積みだが。

 彼女たちのハッピーエンドを目指すきっかけくらいになれるなら、終わったはずの俺の人生くらい捧げてもいいだろう。

 

 意を決してメールの編集画面を起動して「おつかれ。そのうち会える?」というメッセージを返した。

 プライベートに緩い苺プロとはいえ、それが新野さんにどれだけのリスクを背負わせるか。

 

 そりゃ不動のセンターのアイに比べれば、バックダンサーや引き立て役の劣等感があるかもしれんが、同じグループのメンバーでドームに立ったアイドルだぞ。

 

 俺なんかとは生きていくべき世界が違う。

 そう思わないか、リョースケ。

 

 

 

 それから数日後。

 新野さんとのデートは、芸能界の男女がお忍びで会うような個室のある喫茶店にした。

 

 拙い技術で時間をかけて盗聴器がないことは一応確認したが、まだ俺の部屋はダイナマイトで木端微塵にされるかもしれない。なぜならカミキヒカルはリアリストだからな。

 残り資金から考えて寝泊まりの時は仕方なく帰っているが、最近は図書館や研究室で生活している。

 

 こんな芸能人デートの知識があるのは、悔しいがカミキヒカルのアドバイスだ。

 

 一応はヤツがオススメした場所は避けておいた。あの無駄なカリスマの使い方によって、どこにヤツの駒がいるか分からない。将来的には大人気女優な片寄ゆらにさえ接点を持って、好意まで持たれていたんだ。あのイケメン背中はよ刺されろ。

 

 なんで全部4桁なんだとメニューなんて放り出して、教科書片手に氷水を飲みながら時間をつぶしていると。

 

 やがて個室に入室してきたのはサングラスと黒い帽子で変装していて、コートを着ている女性だった。

 

 少し暗めの茶髪をシュシュでまとめて肩の前に流している。

 サングラスをはずせば、一目見て分かったが相当な美人である。

 

 そりゃ若くて幼く見えるアイドルが主流とされる時代っぽいが、リョースケはここまでの美人と付き合えていたことだけは幸運の持ち主だと思う。

 

「……コーヒーでも頼む?」

 

「……無理しなくていいんだよ、良介君」

 

 心配している瞳で見つめられる。

 

 隣に座ってきて、手を握ってくる。

 ひんやりとした温度が心地よかった。

 

「こんなところに呼んでどうしたの。らしくないよ」

 

 自然と肩を寄せ合い、まるで傷をなめあうような関係なんだろう。

 もしリョースケがいないことに気づけば、きっと心の支えを失い、人形のように操られて生きていく。

 

「あまり眠れてないの?」

 

「いろいろとな……新野(ニノ)…さんはアイドルだから、こういう付き合いがいいだろ」

 

 少年の記憶で知っていても、原作知識で知っていても、この優しい女性のどこが共犯者だと思える。

 

 今後の計画について凡人なりに考えていたが。

 やはり最終手段でしか、カミキヒカルを地獄に落とす方法が思いつかなかった。

 

 そのためにも、新野さんは自分と仲間の力で歩いていかなければならない。リョースケの許可は取っていないが、この共依存は一度終わらせよう。

 リョースケ君に身体の主導権が戻ったら、なんとか関係をやり直してくれ。生きてればなんとかなるさ。

 

「私がすごいんじゃない。全部アイのおかげ」

「でもファンの中に緑の光はあっただろ?」

 

 新野さんは思い当たる様子を見せるも、静かに首を振った。

 

「アイがいなきゃドームにすら立てなかったよ」

 

「みんながいなければアイはドームに立てなかった」

 

 こうして意見が対立するなんて、彼女にとって何年ぶりだろうな。

 

 どれだけ嫉妬してようとアイの信者なだけはある。

 だがこちらだって星野アイについて知識があるんだ。

 

「そんなわけないじゃん。アイなら1人でも行けたよ」

 

「それはそれでありえそうだが。まあキミと一緒だったことを喜んでいたらハッピーだろ」

 

 こっちには用意してきた切り札がある。

 

 彼女たちが書いていたブログを探すのはなかなか骨が折れた。

 だが数年間パスワードを探し続けたアクアと違って、俺には確かな答えとヒントが揃っていた。

 

 だって登録したメールアドレスは、俺とのやり取りに使っているプライベートのものだったんだからな。

 

「これアクセスできる?」

「急に何を……」

 

 スマホの画面を机に置くと。

 今の彼女にとっては記憶が新しいこともあって、45510を迷わずフリックで入力した。

 

「懐かしいなぁ」

 

 自己紹介のページが表示されて、なんというか想像していた以上に絵文字の量がすごかった。星がキラキラしてて、令和人間からすればおじさん構文だ。

 

 新野さんの自己紹介も気になるが、編集ページにアクセスできるところを迷わずタップする。

 

 そこの1つは非公開になっていて、これを閲覧するには編集権限というか、新野さんのメールアドレスとパスワードの両方を知っていなければならない。

 

「神からのお告げというか、まあそんな感じで、ここに答えがあるようだ」

 

「なによそれ……あれ、こんなの昔には……」

 

高峯ニノちゃん渡辺へ

 

このページ懐かしいよね。

私も、まだ残ってると思わなかったな。

最初の頃は私たちも、こんな仲良くやってたんだねー…

 

「まさかアイ……? でもそんなはずは……」

「どうだろうな」

 

 恐る恐るスクロールして読み進めていけば。

 新野さんは思わず両手で口元を抑え、鼻をすする音が鳴る。

 

 俺が代わりに声に出して読むことにした。

 

「皆は私の事 嫌いかもしれないけど、私は皆の事 嫌いじゃないの。出来る事なら、昔みたいにやりたい」

 

もっと私の事、バカにして良いよ。

ちゃんと怒って良い。

遠慮なんてして欲しくない。

言いたい事は言って欲しいよ。

 

もし、このブログを、昔の私たちが良かったって思って、見に来てくれたなら。

今度 会った時に教えて?

 

おい、アイのバカ野郎って言って。

そしたら私、ごめんねバカでって言うから。

 

仲直りがしたいです。

皆にずっと言わなきゃって思ってた事もあるの。

ちゃんと皆と

 

「バカ……アイのバカ………こんな分かりづらいとこ書いて……気づくの普通ムリでしょ……」

 

 

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