アイ信者たちがゆく ~憑依したらお尋ね者だった件~   作:ニノ推し

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3話 カミキヒカルを探せ

 

 泣きやんだ新野さんは、アイとの仲直りについて考えるようになってくれた。

 原作だとブログのメッセージに気づいたのは、すでにアイが殺されてしまった後だったんだ。それよりはまだ未来は可能性に満ちあふれている。

 

 このまま店を出るわけにいくまいと、2人分のコーヒーを注文して話し始めた。

 

 ドーム公演でアイのかわいさを熱弁してくれたし。

 新野さんを応援するためにまたライブに行ってみたい話をしたら照れてくれたし。

 

 他にも女子同士のプライベートに大したアドバイスもできないので、思い出にあるお店に集まればいいだろ的なことを言っておいた。

 

 まさか後日、ありふれたファストフード店にB小町初期メン4人がいることで騒ぎになる、なんて当時は思わなかった。たぶん社長にみんなで叱られたと思う。

 

 また、デートに誘った側としてコーヒー代くらいは奢らさせてもらった。そりゃ稼ぎは圧倒的に新野さんが多いが、ドーム公演のささやかなお祝いとかなんとかで押しきった。

 

 最後まで「何かあったら相談してよ?」と心配をかけながらも、新野さんをタクシー乗り場まで送り届けた。

 

 これで懸念事項の1つはクリアできた。

 

 帰ってすぐに、本格的にカミキヒカルについて調べ始める。

 原作ではいつなのか不確かなのだが、この世界ではすでに劇団ララライからは離れていて、舞台や稽古の場所から居場所を割り出すことができない。

 

 リョースケの記憶にある場所を頼りに、夜の街を徒歩で巡ってみるも、あのイケメン金髪野郎は見当たらなかった。あっちの移動は恐らくタクシー、しかもどうせ女性連れなんだ。

 

 考えが甘かった。

 

 いつ再びアイが狙われるかも分からない。

 教授との面会もあり、大学関連のことも両立しなければならない。

 

 我ながら焦っていたが。

 一度冷静になって、他の懸念事項をクリアする方針に切り替える。

 

 朝の登校時間には、金髪の双子を探すことにした。

 なぜならこの世界線だと、星野アクアは復讐に目覚めていない。カミキヒカルの正体にたどり着こうともせず、五反田監督に弟子入りせず、本格的な芸能界入りすらしないかもしれない。そうなれば原作最強キャラと言える黒川あかねさんもどうなるか分からない。

 

 アイが住んでいたマンションの付近で待つように、再びストーキングした。

 そして駅で買った新聞の切り貼りで作った手紙を、アクアにだけ渡せるようなタイミングで押しつける。

 【アイの命が芸能界で狙われている。マンションの場所はバレているぞ】と。

 

 本音を言えば、アクアにも普通の人生を歩んでほしかった。

 

 だが、もしも俺がカミキヒカルの野郎を物理的に消すことができなかったら、彼がアイやルビーを守らなければならないんだ。

 しかもカミキヒカル以外からも常に狙われそうなほど、時代が時代なら傾国の美女たちだと思う。この世界線では、生きて守り通してほしいものだ。

 

 こうして俺は、昼間は大学関連のことで、夜はカミキヒカル探しを再開した。

 

 

 その日は夜から雨が降り始めた。

 あの野郎はまたタクシーだろうなと思って、一度部屋に戻ることにした。

 

 歩道橋を渡ろうとしていて。

 何度か立ちくらみをした。

 

 だから、タイミングが奇跡的にズレたのかもしれなくて。

 

「っっ!?」

 

 突然の浮遊感があった。

 

 半分ほど階段を下りていた俺の背中が、何かがぶつかるように押された。

 

 転がり落ちながらも咄嗟に頭を守り。

 

 ようやくそれが止まったと思えば、人々がどよめいている声がして、ジワジワと身体中に痛みを感じ始めた。

 

 走り抜けていくヤツは、俺と似た黒いパーカーを着ている。

 でも慌てふためいている様子といい、あれはカミキヒカル本人じゃない。

 

 ヤツが計算してこの事態を引き起こしたのか、それともただ俺が不運だったのか。

 それすら確認することもできない。

 

「だっせぇなぁ……」

 

 謝らずに去っていくのとか。

 通行人に見て見ぬフリされてるのとか。

 

 そんなのどうでもいい。

 原作知識があればカミキヒカルを追い詰められるなんて調子に乗ってた。アイとアクアと新野さんを俺の力で救うなんて勘違い野郎だった。

 

 星野アクアでさえ、黒川あかねさんでさえ、そう簡単に追い詰めることすらできなかった天才なんだ。

 

「はぁ……」

 

 ため息をついて、地面に両手をついて立ち上がる。

 

 やっぱり、神木プロダクションとかいう作った後にでも、カミキヒカルがいる社長室にダイナマイト持って飛び込むくらいしか、凡人の俺では不可能なのかもしれない。

 

 今後の方針はまた考え直すにしても怪我のことだ。

 たぶん骨は折れてないと思いたいけど、足を引きずりながら部屋に戻ることにした。

 

 俺の部屋に救急セットなんてものはない。

 冷凍庫から氷を出して気休め程度に冷やしていた。

 

 電気もつけず、だんだんと意識が薄れていくことに身を任せていた。

 

 しかし。

 

 玄関の物音がして、身体を慌てて起こす。

 

「ハァー……ハァー………」

 

 呼吸が荒くなる。

 今日に限って、チェーンをかけていなかった気がする。

 

 ガタガタと身体は震えて、上着に入ったナイフを取りに向かうことすらできない。

 

 自分の弱さが情けない。

 

 あれだけカミキヒカルを殺すつもりでいたのに、いざとなれば敵に立ち向かうことすらできない。誰かを守るだなんて口だけで、たぶんゲーム感覚で思い込んでただけで、ここが現実なんだと思い知らされる。

 

 玄関の明かりがつく。

 

 戦う覚悟なんてできてない。

 

 扉がゆっくりと開かれていく。

 

「……寝てるの?」

 とても優しい声だった。

 

「………はぁ~~~」

 大きく息を吐いて脱力し、ベッドに背中を預け、目元に腕を当てる。

 

「えっと、大丈夫? 何かイヤな夢でも見た?」

 

「だいじょうぶ、へいき」

 

 そんな言い訳がカッコ悪い。

 

「安心して。私が付いてるから」

 

 頭を優しく撫でられて、涙が止まらない。

 なんて俺は情けないんだろう。

 

 せっかく新野さんとの共依存を終わらせようとしていたのに、俺まで(ほだ)されようとしている。共犯者として付き合っているだけじゃなくて、本気で愛してくれていると感じ取れるんだ。

 

 リョースケてめぇ、ちゃんと新野さんを幸せにしろよ。

 

「もう、だいじょうぶ」

 

「説得力ないよ」

 

 なんとか数分のうちには立ち直れて、鼻をすすりながらも身体を起こした。

 

「その……どうしてここに?」

「ちゃんとご飯食べてるか心配になって来てみた」

 

 リョースケの記憶を思い出すと、合鍵を渡していたらしい。

 でも誘ったタイミングでしか部屋に来なかったはずで、なぜだろう。

 

「大学いそがしい? 卒論書いてるんだっけ?」

「教授に頭下げながら、まあなんとか」

 

 提出日には間に合うペースで書いている。

 その完成度は相当低いものになりそうだが。

 

「そっか。えらいよ」

 

 そう言って頭を撫でてくれる。

 ヤバい、新野さんにバブみを感じそうである。

 

「ほら、ご飯まだなんでしょ? コンビニでお弁当買ってきたからさ」

 

「ありがとう。えっとお代は」

 

 俺の言葉を手のひらを振って止めつつ。

 

「気にしないでいいよ。こっちこそ手料理できなくてごめん」

 

 えっ、なにこの女神な彼女さん。

 ちょー優しいんですけど。

 

 リョースケてめぇ、推し変してる場合か。

 

 1人暮らしを経験したら、手料理の大変さをマジで分かるよな。

 お弁当を買ってきてくれただけで感謝すべき。

 

「ん? これなに?」

 

 ところで、何か忘れている気がしていたが。

 

「……ねぇ、これなに??」

 

 【もし俺が死んだら劇団ララライのカミキヒカルが真犯人、バーカ!】

 廊下の光に照らされた紙に黒ペンで書かれていて、我ながら迫真の文字だな。

 

「やっべ」

「は??」

 

 美人に睨まれると怖いよな。

 

 

 

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