とある精霊が、目を覚ます。
そこはちょうど家一軒分の空き地で、その地を囲う塀の所々には煤が見られる、そんな場所の真ん中。
長く白い髪と裾の広いロングのベアワンピースは風に揺られはためく。山桜に似た白さを持つ肌とは対照的に、胸元に埋め込まれた黒石は今この地を照らし出した日輪の如き光を秘め、火を放つ。
しかし開かれた瞳は冥く透き通っており、その身の純白と赫灼たる焔とは真逆の印象を持たせるようだった。
その精霊は、数刻の間呆けた後、目の色を変えひどく狼狽しだした。信じられないと言わんばかりに、しきりに己や周囲を確認しては、顔色をコロコロと変えていった。
「……何。が…」
低く陰のある声で、精霊が呟いた。それは信じたくないとでも言いたげな、とても震えた声だった。
その直後、精霊は頭を抱え悶え苦しみだした。息が荒くなり、目の焦点は定まらず、声にもならない悲鳴を上げている。
数刻の間のたうち回り苦しんだものの、しばらく経って起き上がった精霊の顔には、不安も憂いも見えず、むしろ得心のいったような、穏やかで虚ろな表情が浮かんでいた。
そっと、精霊の口元が動く。
「さようなら。○○○○。」
風に揺れる中で、精霊は小さく言葉を告げ、そしてふわりと炎となり、音もなく消えた。後には何も残らず、新たな精霊の誕生は未だどこにも気づかれることはなく。
1990年3月4日に起きたという、○○家の原因不明の発火事故は、○○家の家屋1つと2つの大人の遺体の発見のみで、それ以降の進展は一切進むことはなかった。
近隣住民への聞き出しなどから指定暴力団との関係性が疑われるも決定的な証拠が何一つとして見つからず、そのまま○○家の一人娘である○○○○の行方不明の張り出しはされるもののこちらもまた依然として進展はなく、時が経って刑事記録行きとなり数々の未解決事件の1つに埋もれていってしまった。
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「うーん……」
「んー?お兄ちゃん?どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもない。」
「ふーん、まあいいけど。」
五河士道が何と言うこともなくただうめき声をあげ、それを妹である五河琴里に指摘されて慌てて弁解する。そんな、特筆する事もないただのとある休日の昼下がり。
「あら、ソレは本当に、ですか?」
「うお!?び、びっくりした。あまり驚かせないでくれよ、狂三」
「それはそれは、申し訳ありません。」
…は、彼にはあまり訪れない様であった。椅子に突っ伏していた士道の背後から唐突に、声がかけられた。その驚かせた正体であり悪びれもせず謝ったその人物は、時崎狂三。つい先日に会話相手である士道とデートをして、そしてキスをして霊力を封じられた、元精霊である。
「えっと、それで狂三。今日はどうしたんだ?」
「あらあら、用がないと来てはいけないのかしら。昨日デートをして、キスまでして、その上おアツイ言葉までかけてくださったというのに」
「あ、えーと、いや、そういう訳じゃなくて!」
「分かっていますわよ、ウフフ。───それで来た理由ですが、先日お話ししたわたくしの知る精霊について、更に詳しくお話ししに来たのですわ」
ヨヨヨ…とでも言わんばかりの嘘泣きをした後、素早い身代わりで話に入る。
『先日お話ししたわたくしの知る精霊』。
狂三は今日までで、水族館の時と、デートの約束を士道が取り付ける時、その2回でその存在を仄めかしていた。しかし現状、フラクシナスにあるデータにはこれ以上の精霊がいる情報はなく、クルー全員が首を傾げていた。それを話すというので、さっきまでソファでだらけていたはずの琴里もいつの間にか椅子に座り、フラクシナスの艦長としての真面目な表情を浮かべていた。
「それで、あなたの言う精霊とはどういう人物なのか、詳しく聞かせてもらいましょうか」
「そんなにがっつくとは淑女としてなっていませんわね?まあ、わたくしももったいぶる気はありませんし、いつまた襲撃があるかまだ分からないので、早く本題に入りましょうか───わたくしの知る精霊。それは、【フレイム】という識別名の精霊ですわ。といっても、ASTも過去30年の中で19年前の1度しか捕捉できていない、現在では存在自体が疑われている精霊です。」
「【フレイム】………知らないわね。でもそんな都市伝説レベルの精霊が、実在すると?」
「ええ。何せ、過去に何度も会っていますもの。人間嫌いの引きこもりな彼女とそう何度も会うのには苦労しましたけれどね。」
士道と琴里。その反応は二者それぞれであったが、狂三は気にすることなく続ける。
「彼女は、わたくしと同じく固有空間を作り出しています。そして彼女の性分と、厭世的とでも言うような、考え方が合わさってこちら側へほとんど現界しなくなっていますの。更なる問題点は、彼女が空間震を起こせないという点ですわ」
「え「ああ、起こせないというのは不適切でしたわ。より細かく説明するのであれば、警報が鳴るほどの大きな空間震を起こせない。というのが正しかったですわね」
そう、頬杖をついて琴里を煽るような目で見やりつつ訂正をして、続けた。その後も五河兄妹2人揃ってからかわれ続けたが、なんとか【フレイム】について、ある程度の情報を得ることができた。
曰く、それは火を操る精霊である。
曰く、その精霊はウリエルと名乗った。
曰く、それはその身を常に燃やし続けている。
曰く、その精霊は白い髪と肌をしており、白いワンピースを着ていて、胸元に宝石が埋め込まれたような外見をしている。
曰く、それは能力の制御が完全にはできておらず、ふとした時に触れているものを燃やしてしまう事も少なくない。
曰く、約束に関してかなり厳重である。
曰く、それが言うには、人は皆裏切る生き物であり、それ故に隔たりを作りほとんど一切関わろうとしないらしい。
曰く、それは…………既に何度か息絶えた事があり、その度に生き返っている、と。
一通り話を聞いて、お茶をしている最中にまたも来た襲撃を返り討ち、琴里はフラクシナスで船員と情報の整理をした。
しかしそこで、問題点がいくつか浮かんだ。まず、その精霊を捕捉する事が非常に困難すぎるのだ。議題の精霊(ウリエル)が何度現界したのか定かではないが、狂三の口振りからして数回は現界しているにも関わらず、かのASTですらたったの1度しか捉えられていないので無理もないだろう。また更に捕捉できたとしても、人間不信の彼女と話をし、士郎とのデートの約束を取り付け、そしてキスができるようにするまで持っていかなくてはならない。
そもそもここまで情報が出ていないのなら、実在しないのでは、でたらめだったのではという意見も出ている。
しかしその意見も消えたのは数日後の一件。
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琴里が相も変わらず情報をまとめて少しでも遭遇確率を上げようとしていた時。たまたま来ていた四糸乃とよしのんが興味を持ち、近づいてきていた。
「そういえば琴里さん、最近ずっと忙しそうですね」
『そうだぞ〜、少しは休んだ方がいいんじゃないかオネーサン?』
「えあー、そうね。新しい精霊の情報があったのはいいものの、進展が何も無くてね」
「そうだったんですね、お疲れ様です。それで、どんな精霊が見つかったんですか?」
「えーと、ウリエルって精霊なんだけ「ウ、ウリエルさんが見つかったんですか!?」い、いや、その精霊の情報をもらったってだけなのだけれど…と言うか!ウリエルについて知ってるの!?」
四糸乃が座っていた琴里にズイと顔を近づけ叫び、琴里も立ち上がって四糸乃の肩に手を置き、顔を近づけ叫んだ。
『ちょいちょい、そんな近づくのはやめてあげてくれよ〜、四糸乃がびっくりして固まっちゃうよ!』
「ああそうね、ごめんなさい。……えっとそれで、ウリエルの事を知ってるの?」
するとよしのんが琴里を制して四糸乃を落ち着かせ、琴里の疑問に対し四糸乃がリアクションしよしのんが返答する。
「(コクコク)」
『うんそうだよ。と言うか、よしのんに魂を宿させた張本人だからね〜!むしろよしのんが一番知っていると言っても過言じゃないよ!』
「(ムスッ)」
『あ、そうだったそうだった。よしのんと四糸乃が、だったね!』
「(ニコニコ)」
「そ、そうだったのね……それじゃあ、ウリエルの固有空間への行き方、とか知ってたりするの?」
『う〜ん、知ってるか知っていないかで言うのなら知ってるね〜。でも、その方法だと一発勝負になっちゃうかもよ〜?』
その言葉に琴里は少し後ずさりした。しかしフラクシナスの艦長としての責任が、自らの兄への信頼が、彼女の背中を後押しして、決断する。
「っ!…いえ、限りなく0に近かったものが1度だけでも100になるのなら。やる価値は存分にあるわ、だから、教えてちょうだい」
『覚悟決まってるねぇ!それじゃ、行く方法についてなんだけど、それはズバリ!よしのんとウリエルさんの、魔法によるパスを用いて、ウリエルさんのいる場所に強制接続しちゃおう!っていう話、さ!』
「(フンス)」
よしのんが説明を省略したため多少ややこしくなったが。よしのんは、ウリエルの魔法によって、四糸乃と共にいる時限定という制約付きで魂を得ている、という、先程琴里に伝えるまではよしのん・四糸乃・ウリエルの三者しか知らない秘密があった。
そして魂を作り出したのは、作る際のアレコレや他の制約は抜きにしてもウリエルであり、魔法で作られた以上繋がりは例え固有空間や精霊界などで区切られていたとしても切れる事はない。
その繋がりを辿る事で、ウリエルの現在地の座標を割り出し、その場所と接続することで無理やりにでも侵入する、というのが、よしのんの言う1度限りの作戦であった。
実はよしのんだけであれば自由に行き来する事は可能だったりするのだが、四糸乃ができないために実質よしのんが自爆特攻する事になってしまうため、今は敢えて隠しているのはまあ、ご愛嬌というやつだろう。
そしてまた、なぜこの作戦は1度きりであるのか?なぜ断言できるのか?それは簡単だ。
『だってそりゃ、人に会いたくないから厳重に隔絶してるのに、侵入されるルートがあるって知ったらそりゃ封じるじゃん?』
との事だった。よしのんの考察100%であるのだが、やけに確信を持って言うのは、ウリエルの性質を知っているが故かはたまた別の理由か。
斯くして「ドキドキ!一発勝負ウリエルとデート大作戦!」(立案者:神無月恭平)が実行の目処が立ち、敢行される運びとなったのだ。
チュウニズムとコラボしてたので遊んでたら不意に、設定組んで1話だけ書いてたのを思い出したので供養です。
なんか四糸乃とよしのんの感じが違う気がする。結構前に書いた話だし分かんないけど。
要望あったら続き書く。かも。
「白夜極光」ってゲームのウリエルさん、可愛いよ
もうそのゲーム半年くらい前にサ終しちゃったけど