モブ兵士がチート兵器の起動に成功しました   作:あるなし

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11 黒い液体

 なんだ、あれは。

 

 パッと見はただの黒。真っ黒い穴。でも違う。だってあの暗黒には質量がある。その証拠に一切の光を通さない。波打つこともない夜の海のような……ああ、つまりあれは液体なのか?

 

「あれ、調べられるか?」

『無茶を言う。実体化せずにはなにもできんぞ』

 

 それもそうか。会話できるだけでも御の字だよな。

 

 小窓に映り込む黒髪ロングストレートの少女……可愛いけれど、やっぱりモブだよなあ……場所が場所だけにちょっとオバケみたいにも見えちゃうぜ。

 

 旧統治者遺跡、霞ケ峰ミサイル基地の地下二層目。おそらくは司令室らしき場所。

 

 そんな場所にひとりぼっちなんだからゾッとする話さ。

 

 生身の小柄さを活かして通気口を通ってきたけれど、ま、ここらで行き止まりかな。電子ロックならいざ知らず、どうしてこう溶接だのバリケードだのと……場所によっちゃ崩落まで……エクストラダンジョンじゃないのかなあ、ここ。攻略前提のデザインじゃないし。

 

 あの黒いのもさ……ミサイルサイロだろ、あそこって。何階層もぶち抜きの縦坑ってやつ。水面の高さから鑑みるに、第三層から下は水没しているってことじゃないか。

 

「グランヴォルドって水中ではどれくらい戦えるんだ?」

『移動速度帯で回答する。水中用モジュールを装備した場合、通常巡航で時速十二キロメートル、戦闘機動で時速三十六キロメートルだ。瞬発最高速度では時速百キロメートル以上も可能だが、専用機器の破損が前提となる』

「モジュールなしだったら?」

『酸素が尽きるまでの数分間、水底までの旅をお供しよう』

「よし、戻るかあ」

 

 ここの機材だのデータだの、俺じゃよくわからないしね。端末で映像記録だけ撮っておこう。戻ってアマミに判断してもらえばいい……ん?

 

 本。絵本か、これ。場違いというかなんというか。表紙が六芒星て。そこはかとない魔法感。

 

 どれどれ……うーん、読めない。何語だよこれ。絵はわかる。

 

 1ページ目、ハチ。すげえ華やかなスズメバチって感じ。2ページ目、ヘビ。白くて神秘的なヘビ。3ページ目、ガ。チョウじゃなくてガ。そうわかるくらい柄と鱗粉が毒々しいぜ。残る3ページもキモい系の生き物色々。コンセプトのよくわからん絵本だなあ。

 

『それくらいの物品ならば非物質化して持ち運べるぞ』

「へえ、そんなこともできるのか」

 

 証拠ってわけでもないが持っていくかな。アマミの鑑定やいかに、だ。

 

 さあ、戻りますか。天井の通気口へ……ロープ、引っ張ったら落ちてきちゃったし。どう上がったものか。踏み台になるものは……机も椅子も鋲止めされているし。地震に強い設計だね、うん。

 

「グランヴォルドどうしよう」

『一度物質化し、天井付近へ腕を伸ばした状態で着装を解け。小僧が上がったところで非物質化する』

「……お手数かけます」

 

 両手を横へ伸ばし、目を閉じた。持ち上げられる感覚と拘束感。目を開ければスタイリッシュなUIにいろどられた視界。変身と叫ぶべきだろうか。それとも蒸着かな。

 

 え、警告音?

 

『フロムヘルの反応あり。近いぞ。二体……七体、二十体……なおも急速増加中!』

 

 ちょ、なんだこれ。レーダーが意味わからない感じに。この位置、小窓の先の……うわあっ、ベチョってくっついたの、触手だ! あと蛆虫的ななにか! 黒い液体まみれで!

 

「憑依タイプ! あの中に潜んでいたのか!?」

『それだけではないぞ! 破壊Type、捕食Typeも確認している!』

「クソ! なんてこった! それじゃ、まるで……!」

 

 地震。いや違う。フロムヘルが暴れているんだ。ほら、今のは捕食タイプの体当たりだろう。この音と揺れ方には覚えがあるぞ。

 

「アマミ! 聞こえるか、アマミ! 逃げろ!」

 

 窓を破られた! 触手ごときが調子に乗って……つかむ! そして引きちぎる!

 

「おいおいどしたどーした! なにがどーなってんだ?」

「フロムヘルだ! 大量のフロムヘル!」

 

 てめえ、破壊タイプ! 入ってくるんじゃねえ! パンチ! からのエルボー! ブースト、ショルダーアタック! 黒い水面へ帰、れ……おいおいおい、なんだよあれ……黒い液体が、沸騰するみたいにボコボコして……!

 

 フロムヘルの形に、なる!!

 

 小さな泡は憑依タイプに! 大きなやつは破壊タイプに! 底の方からは捕食タイプが浮き上がってきて! 黒いのがどんどんフロムヘルになっていきやがる!!

 

『レーダーを注視しろ! 階下の構造体を破られた恐れがある!』

「……あの黒い液体はなんだ? フロムヘルの素材なのか? そうだとして、どうしてこんなところにああも大量に……」

『小僧! 前だ!』

「え、うわっ!?」

 

 吹っ飛ばされた。今のは破壊タイプ? いや、捕食タイプの尾びれか! 盾がゆがむほどとはやってくれる! フロムヘルめ!

 

『パイルバンカーの使用を推奨する! あの装備ならば天井の構造体を突破できる!』

「りょうか……いや、ダメだ! それじゃあ、こいつらに道を作ることになる!」

 

 アマミたちは地上とはいえ同じ施設の中にいる。あの背負子仕様じゃ逃げ足も知れたもの。

 

「時間を稼ぐぞ、グランヴォルド!」

『バカな! 勇気と無謀をはき違えるな!』

「無尽蔵のエネルギーがあるんだろ!? 無謀でもやらせてみせろ!」

『……ミサイルサイロ側へ行け! 機動力を活用するのだ!』

「了解!」

 

 ブーストダイブ! 破壊タイプを複数巻き込んで、窓の向こうへ!

 

 名状しがたい有り様となった黒色を見下ろす空間は、なるほど、確かに飛行するゆとりがある。ギリギリもいいところだし、墜落したら「水底」だけれども。

 

『ガントレット・ドローンを全て出すぞ! 細かな操作はいい! 意志を! 善きを護り悪しきを討つ熱血のみを伝えよ!』

 

 返事もままならない。敵が、敵が多い。

 

 触手がバンバン飛んでくる。ツタ草とかクモの巣みたいに邪魔をする。破壊タイプもガンガン跳びかかってくる。なんで跳べるんだ。そうか、捕食タイプを足場にしているのか。

 

 利用させてもらう。叩き落し、かーらーの、追撃ニードロップ!

 

 やった。潰してやったけれど……パシャって黒い液体になって……これ、またフロムヘルになるだけでは?

 

「グランヴォルド! PRRの光、もっと強めてくれ!」

『出力限界というものがある! 打突部位に集中させい!』

「じゃあ拳に……あ痛っ!?」

 

 後ろから蹴られたし! 振り向きざまラリアット! そしてPRR発光パンチ! 群がってくるんじゃねえ! 一体捕まえて……ジャイアントスイングだオラァッ! 垂直上昇で脱出! 背部兵装物質化……ヘビーハイドロパイルバンカーだ。このでっかいのをお見舞いしてやるぞ。

 

「武器へのPRRも同じように?」

『そうだ。もとより本機はお前の身体にあらず。感覚を延長せよ! 武器にも、弾丸にすらも!』

「よおし……いっけええええ!!」

 

 おお、すげえ! なんか光が爆発したぞ! ははは! 有象無象も消し飛ばしたし、捕食タイプを貫くどころか、水面に半球上のくぼみができた! 

 

「っ! グランヴォルド、あれは!」

『ミサイルの尖端部だ。あの大きさと形状、大陸間弾道弾と推測される』

 

 黒いのが流れ込んで、巨大なとんがり帽子は隠れた。しかし大陸間弾道弾だって? どこを狙った、どんな目的のミサイルだよ。事と次第によってはとんでもない弾頭を積んでいるぞ。

 

『味方機、安全距離へ到達! 退き時だ!』

「まだやれる! 今のやつを連発すれば殲滅だって!」

『うぬぼれるな! 主観で戦技を振るい、客観で戦況を測るべし!』

「敵数、減るどころか、こんなにも……!? 被ダメも……え、ドローン落とされたのか!?」

『場所が悪いのだ! 本機が決戦飛行隊に所属する高機動戦用機であることを忘れるな! 不利を避け有利を選ぶは戦術の基本だぞ!』

 

 正論! それを言わせたということは、俺が間違ったということ。

 

 パイルバンカーを非物質化して、盾のふちへPRRを集中、振り回す! よし! 迫り来た触手を十数本と一気に斬り払ってやった!

 

「退路を示してくれ! このまま上へか? それとも司令室から?」

『ミサイルサイロの上蓋は重層構造が予想される! 司令室だ!』

 

 飛びこみ、すかさず天井へパイルバンカー! コンクリ片を浴びつつ鉄筋だのなんだのをねじ曲げる。引っ張り落とす。

 

『破壊type! 三体!』

「ちぃっ!」

 

 リボルバーランチャーを物質化し、発射。高硬度ワイヤーネットをぶつけてやった。そこで絡んでもだえていろ。こっちは忙しいんだ。

 

 最後はブースター任せの頭突きだ。あああっ、金属の引っかかる嫌な音がするうっ。なんか脚部に触手が巻き付いた気もするっ。蹴って、ブースターで焼く。おおう、推進の方向性ががが。突き抜けたはいいが壁に激突。壊れたのは壁の方。やったぜ重装甲。

 

『よし! 地表へのコースを表示するぞ!』

 

 第一層の廊下をブーストダッシュし、途中のバリケードをぶっ壊しもして……脱出ぅ!

 

 空へと上がった。吐いた息につばが交じった。モニターが曇るし汚れた。つ、疲れた。今更だけれど、心臓がバクバクしている。汗もめっちゃ出る。これ、割とギリギリだったんじゃ……?

 

「モブコさん! よかった! 地上に出られたんですね? 援護は必要ですか?」

 

 ああ、イツキの方のレーダーに映ったのか。

 

「こっちは大丈夫だ。そっちはそのまま避難を……」

 

 うわぁ……マジかよ……。

 

 溢れ出た。

 

 日差しの下でもドス黒い液体が、施設の地上部分から漏れて、後から後から吹き出して……フロムヘルがうじゃうじゃとうごめいて……捕食タイプが建物をぶっ壊して……黒いヘドロの川のように流れていく。森を蝕み、なぎ倒して。

 

 ええと……これって……「魔の山」イベントじゃね?

 

 外伝最大の戦いであり、プロキア専門学校とニューパラダイス学院が主力部隊を失った激戦であり、<甲守のアオイ>の錯乱原因が明らかにされた鬱イベント戦であるところの、「魔の山」じゃね?

 

 え? 俺のせいで?

 

 俺がなにか余計なことをしたせいで、たくさんの子が死んだり、壊れたり……するってこと??

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