モブ兵士がチート兵器の起動に成功しました   作:あるなし

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15 食料プラント

「第十六辺境区食料プラント奪還作戦について説明いたします」

 

 艦橋下の戦術指揮室にて、艦長帽をかぶったハマチは言ったものである。

 

「目標地点は旧パンワンダ自然保護区の市街地に位置する複合プラント施設です。現在、内部はフロムヘルによって占拠されておりますが、環境配慮の半地下設計であるため、施設自体の状態は良好です。再稼働が叶えば、学園都市の食料供給が最大で三割改善するという試算もあります」

 

 二重の意味で驚かされたよなあ。

 

 まず、すごい場所に目をつけたなという驚き。第十六辺境区って最初期に壊滅した地域だもの。フロムヘルの津波襲撃は、南、北、東西の順だったと設定資料集にあったしね。よくもまあ調査しようと思ったよ。

 

 そして「そうか、その手があったか!」という驚きだ。

 

 学園都市の争いの根本は資源不足だ。連合も鍛造も資源の効率的な分配と運用に腐心している。両者の違いは、結局のところ方法と優遇者の違いでしかない。

 

 そこへ投じられた巨大なる一石。

 

 だったら資源を増やせばいいじゃない、という解決案。

 

 もちろん、連合や鍛造もそれを試みたことはあるはずだ。モブ子がモブ子として死にかけてたいた状況だってその一例だろう。

 

 でも失敗した。両陣営ともフロムヘルへの積極的な攻撃をしなくなった。

 

 臆病とは思わないよ。フロムヘルの脅威を前にしたら、防衛意識に偏って当然なんだ。実際に戦ってみてよくわかった。フロムヘルは恐ろしい。戦力的な云々よりも、悪意がすさまじすぎる。

 

 どこか人間的な生々しさがあって、それでいて意思疎通ができなくて、そのくせ建物にも別の生き物にも頓着せずひたすら少女たちだけをつけ狙う。殺すだけでなく、傷つけ虐げもてあそび、悲鳴を聞くことを喜びすらし、この世に生を受けたことを呪わしいものとさせる。

 

 そんな邪悪にさらされながらも、本編主人公キリエは「手を携え合おう」と言う。素晴らしいことだ。協力したいし、そのために命を懸ける覚悟があるけれど、方法がわからなかった……。

 

 これじゃん。お魚屋さんの「陥落地域奪還作戦」。

 

 これこそ、キリエの目的を助けることじゃないか。

 

 資源不足を改善することができれば、人間同士で争う必要はなくなっていくはず。連合と鍛造の和解も成し遂げやすくなるに違いないから。

 

「サーモンⅡ、グランヴォルド、出ます!」

 

 勢いよく、後部甲板カタパルトから飛び立った。

 

 いい空だ。雨は上がって日が差している。水没した市街を覆う植物たちの緑色がキラキラとして、灰色の海も波が穏やかだ。

 

『バイタルを見るまでもない。良き面構えとなったな、小僧』

「道が見えたんだ。駆けるべき道ってやつがさ」

『地歩を得たか。強き戦士には必要となるそれが』

「また難しいことを……男、大人ときて、次は戦士か」

『三つの言葉の意味が重なり合うところを思うがいい。今のお前はそこにいる』

「そうかな……そうだといいな。そう在りたいもんだ」

 

 クッション材に締め付けられ、ジェットの振動を肌で聞くここは、俺の輪郭がよくわかる。モブ子としての姿形にはやはり違和感しかない。どうしたって不自然だ。

 

 だからこそ意味を求めたい。俺がここにいる意味を全うしたい。目を閉じることなしに。

 

『本機は、決戦飛行隊の一番機として配備されていた』

「どうした、いきなり」

『本懐である。このように敵勢力圏へと飛行することは』

「へぇ、そういうもんか」

『お前はどうだ? 己の本懐を生きているかね?』

 

 こいつ。つくづく人間くさいAIだ。ダンディなおっさんがニヤリと笑った気さえしたぜ。

 

「ああ、お陰様でな。鬱展開をぶっ壊すべく邁進中だ」

『うつむいていたようだが?』

「懸念はあるからな……でも、間に合いそうな気がする」

『……根拠はあるのかね?』

「ない。でも、この作戦が試金石だ。上首尾に終わらせられたなら、きっと」

 

 すでに作戦の第一段階は達成している。

 

 強襲母艦ねぎとろ号は一度の交戦もなくここ水没市街まで到達した。すごいことだが、ワカナさんに言わせれば「本艦の索敵能力をもってすれば当然のこと」らしい。あれやこれや専門用語を並べていたが、要するに機器のサイズや消費電力のスケールが違うのだろう。

 

 今は第二段階だ。グランヴォルドの飛行能力を活かした威力偵察。シドウから「無茶はしてくれるな」と釘を刺されている。もちろんそのつもりだが。

 

「やれる範囲でやる分には、無茶にならないよな?」

『男らしくやれ。言い訳などせずにな』

「ハハハ、そりゃあ男らしい」

 

 笑った。笑えるからには、大丈夫ってことさ。

 

 高度を下げた。下げた分だけ加速して、廃ビルの屋上をかすめるように飛ぶ。右へカーブし、左へカーブし、人っ子一人いない静けさへジェット噴射のけたたましさをばら撒く。

 

 そうら、来た。

 

 廃墟のそこかしこから黒い人型。破壊タイプどもめ。どいつもこいつも何様のつもりで暴力をひけらかす? なんの権利があって子どもを脅かす? 世界が許しても俺は許さんぞ?

 

 光れ、PRR! こいつらを焼き尽くすために!

 

 ひざ蹴りだオラァッ! 

 

 かすめる軌道で。高速度で。ヒットアンドアウェイ。そっちのお前も、あっちのお前もだ。潰れて弾けろ。お前らの相手なんざ俺で十分だ。あの子たちが危険を犯す価値なんてないんだよ。 

 

 ブースト、もっと吹かせろ! シールドバーッシュ! そして盾斬りぃ!

 

 さあ、どうした! どんどん来いよ! 俺はここにいるぞ! 殺せるものなら殺してみろ! 邪悪さにふさわしい破滅を、俺が。戦えるうちに、この俺が。

 

『捕食typeと憑依typeを確認した』

「っ! 生体反応は?」

『望遠画像を表示する』

 

 垂直上昇しつつウィンドウを確認……ああ……黒いタコだのイカだのヘビだの、名状しがたいフロムヘルどもにくっついた機動アーマーの名残……胸から上だけだったり、下半身だけだったり、違う機体の腕が複数ついていたり……あああ……頭蓋骨。眼窩から黒い涙。叫ぶ形の顎。

 

 在ってはならない、こんなことは……こんなやつらは!!

 

「ガントレット! 行けぇっ!!」

 

 殴る。拳を光らせて、ドローンも光らせて、殴る殴る殴る。

 

 ふざけやがって。せめて大人を襲えよ。どこへ逃げたのか知らないが、大人たちを追っていけ。どこだかで汚らしく殺し合ってりゃいい。子どもを巻き込むな。ましてや犠牲にするなんて。

 

 殴っても殴っても、もう救えない……せめて、一瞬でも早くこいつらを殴って、消し飛ばして。

 

 暗転。

 

 頭上。捕食タイプの圧しかかり。後ろからも。複数で潰す魂胆か。破壊タイプどもも跳び来る。この狡猾さ。口腔にしたたるよだれ。その浅ましさ。

 

 いなくなれ。いたことが間違いだったようにして。

 

 閃光。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

 

 パイルバンカーの杭を収納し、ASSで格納する。ガントレット・ドローンたちも招き寄せた。

 

「これ……しまっておけるか?」

『任されよう』

 

 回収した遺骨が小さな光の粒になっていく。ごめんよ、物のように扱ってしまって。落ち着いたらちゃんと埋葬する。信じて、待っていてほしい。君たちにとっては手遅れでしかない俺だけれど、まだ間に合う子たちのために、きっと戦い抜いてみせるから。

 

 離陸。この辺りのフロムヘルは今ので一掃できたようだ。

 

「サーモンⅡへ、こちらサーモンⅠ」

 

 見計らったかのような通信。シドウだ。観測されていたんだろうな。

 

「敵第一波の殲滅、お見事。しかし過剰な戦果は測定の妨げとなる。以後は報告を密にされたい」

 

 ……怒っている? そうでもないかな? 指摘はごもっとも。しかし倒せるだけ倒してしまいたいのが本音。AP値「油田」を最大限に活用すべきだ。

 

「サーモンⅠへ、了解。プラントへのさらなる接近を試みる」

 

 見かけた破壊タイプを逐一倒しつつ飛ぶことしばし、目標が見えてきた。

 

 熱帯雨林に身を横たえたかのような風情だなあ。木々は茂っているし、池と呼ぶべきか湖と呼ぶべきか定かじゃない水面に浸ってもいて。

 

 そしてまあ、いるよねえ、フロムヘルが。

 

 緑化された屋上にも、管制タワーにも、ソーラーパネルにも風力タービンにも防衛タレットにもどこにでも黒々とのさばっていやがる。地下にもはびこっているのだろう……子どもたちを笑顔にできる施設を、無意味に無闇矢鱈に占拠して。

 

「サーモンⅡ、目標視認。これより牽制攻撃を開始する」

 

 無茶はしないさ。

 

 この衝動を我慢するほうがよっぽど無茶なんだから……行くぞ、グランヴォルド!

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