モブ兵士がチート兵器の起動に成功しました   作:あるなし

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19 新秩序

 すべてがうまくいっていた。

 

 

 風呂を満喫しつつ戦い続けること二週間と少し。

 

 鉱山地帯に巣食うフロムヘルを倒し尽くすことこそできなかったものの大いに数を削り、あとはもう時間の問題でしかないというところまでこぎ着けた。リョウいわく「間引き」でしかなかった戦いがきちんと奪還戦になったわけだ。

 

 本腰を入れる証拠とばかりに増派されてきた機動アーマー中隊。

 

 その隊長機はAP兵器だった。

 

 白を基調としライトブルーに彩られた流線形。Si型「シスター・リリィ」。着用者は<正鵠のパリン>。本編主人公をだまし、捨て駒として利用しつくして、灰フロで最もヘイトを集めることとなったキャラだが。

 

「秘匿回線にて失礼いたしますわ」

 

 まだグランヴォルドで飛んでいた俺へと、彼女は語りかけてきた。

 

「まず心よりの謝罪を。ごめんなさい。貴女を含む中隊員を、わたくしは死地へ置き去りにいたしました。すべてはわたくしの責任であり、命をもって償うべきところのものではあれど、AP兵器適合者としての責任もまたあり、恥知らずにも貴女のいる戦場へとまかりこしましたわ」

 

 その声は震えていた。つっかえることすら許されないとばかりに、張り詰めてもいた。

 

「次に、心よりの感謝を。ありがとうございます。よくぞ、生還してくださいました。よくぞ、中隊の仇を討ってくださいました。よくぞ……よくぞ、わたくしの親友を救ってくださいました。すべては貴女の功績であり、軍はもとよりわたくしのすべてをもってして報いたく思います」

 

 泣いていたのかもしれない、パリンは。あの強力なAP兵器の中で。

 

「最後に、祝福を。絶望にくじけず、奇跡を起こし、困難に挑んでいる貴女に、どうか誰よりもすばらしい幸運がありますように……!」

 

 幸運。凡庸な男として生きていた頃にはついぞ手にしたおぼえのないそれ。

 

 不幸の末路として交通事故にあって……どういうわけか、灰フロの世界に目を覚まして。

 

 コガネと出会えた。グランヴォルドを起動できた。戦うことで誰かの悲劇を回避できた気もする……レジィ、ナルセ、マキノ、アオイ、ウティ、シデン……そしてパリン。彼女にもなにか良い影響をおよぼせたのかもしれない。

 

 俺なんかの必死が、子どもの鬱展開をブレイクできているのなら、それは幸運の賜物だろう。

 

 

 そう……すべてがうまくいっていたんだ。

 

 

 だって、生活も豊かになった。

 

 食料プラントの再稼働により缶詰やスパイスが手に入りやすくなった。甘味料も出回ったからスイーツの類も食べられる。天然物の肉やコーヒーだって奮発すれば手が届くんだからステキさ。

 

 各種エネルギーにも余裕が出てきたのか電力税も軽くなったし、日常の品々にしろ兵器類にしろ全体的に値下がりした。工業プラントや資源地帯を奪還したからだけじゃない。フロムヘルを叩きに叩いたから流通が容易になったのだろう。

 

 目に見えて笑顔が増えた。

 

 学園都市に名だたる存在となっていく「ねぎとろ隊」。

 

 連合からも鍛造からも支持され、「お魚屋さん」の業務は拡大する一方。商取引の増加からドリフ商学院は両陣営の会合地としてにぎやかになった。

 

 主要十二校の勢力図にも変化が起きた。

 

 フリーダムライト学院とイスラ工学院がドリフ商学院へ急接近した。

 

 連合に属するか鍛造に与するか結論の出ていなかった両校は、経済のみならず軍事においてもドリフ商学院と密接につながり、結果的に中立的第三陣営とでもいうべき勢力「復興」が誕生することとなった。

 

 連合五校、鍛造四校、復興三校。

 

 ハマチいわく、新たな学園都市秩序において復興はキャスティング・ボードを握ったのだとか。なぜならば連合も鍛造も復興を敵に回せない。復興は学校間の戦いを望まないのだから、自然、両陣営間の軍事的な衝突は起こりにくくなる。

 

 それって……第四章の決戦、潰せるじゃん。

 

 子ども同士で殺し合うなんていう悲惨を、ブッ壊せているじゃん。

 

 このままみんなが仲良くなっていけたなら……団結できたなら、フロムヘルに打ち勝てる。それこそが最高のハッピーエンドじゃないか。見えてきたじゃないか、明るい未来が。

 

 

 

 ……だから、油断していたのだろうか。

 

 

 

 連合から使者が来た。

 

 復興発足後の正式な外交のための使者であり、生徒会長の親書を携えてくるという形式的ながらも格調高い来訪だ。

 

 ねぎとろ隊からも誰ぞ出迎えに出なければならない。

 

 はじめはハマチがという話だったが、使者の名前を見て、俺が志願した。

 

 キリエ。<白風のキリエ>。

 

 学連から「転校生」という特別な肩書を認められた少女。AP兵器・エヴァリエールをまとい、対話による和解と協調を願って、悲劇の中心を駆け抜けていく灰フロ本編主人公。

 

 ずっと会いたかった。

 

 ただ会うのじゃなくて……彼女の願いが実現するためのなにかを示したかったんだ。

 

 第三勢力・復興は、そのなにかだ。

 

 きっと彼女は喜んでくれる。笑ってくれる。彼女の願った未来がおとずれるのだと、安心してくれる。希望を、その胸に抱いてくれる。

 

 ヘリポートで彼女を乗せたヘリコプターの到着を待っている間、ずっとワクワクしていた。

 

 頭の中では灰フロのテーマソングが流れていて、気の早いスタッフロールすら妄想していたかもしれない。脳内アニメをハイクオリティで展開させたりもして。

 

 ランディングの風にあおられて、髪をなでつけそこねつつ、そわそわと歩き回った。

 

 やがて、彼女が降り立った。

 

 銀色の髪と水色の瞳。青い天秤橋学園の制服。スカートがめくれてのぞく黒いハーフスパッツ。すべてがゲームのままだった。ずっと応援し、涙目になりながら見守っていた彼女だった。

 

 っていうか、涙目になった。感極まってしまって。

 

 せめてと直立不動の気をつけ姿勢をたもち、ビシッと敬礼をした。

 

 彼女も答礼をしてくれたけれど、驚いたように目を見開いていた。それはそう。なんか感動があふれちゃって涙がついと流れ落ちたので。

 

 申し訳ないな、と思ったのと同時に。

 

 衝撃がきた。

 

 胸をバットで殴られたかのような、強い衝撃だった。

 

 熱さと痺れもあるなと不思議に感じるや、一気に痛みに襲われた。声も出ないほどの激痛だ。息の仕方もわからなくて、なにかを吐いた。真っ赤ななにかが手にも熱かった。

 

 

 

 狙撃された。

 

 

 

 なぜだ。どうしてだ。すべてがうまくいっていたのに。

 

 油断したから? なにに対して? 政治的なあれこれ? シナリオライターの冷酷さ?

 

 混乱する頭とは別のところで、ひどく冷静な俺が眼球を動かす。急速に近づきつつある地面を見捨て、遠くを。ヘリポートを狙い撃てる位置を求めて、遠くを。

 

 いた。

 

 ビルの建設現場に配置されたクレーンの操作室。スナイパーライフルらしき銃を構えた誰か。

 

 急に暗くなった。死ぬのか? いや、それにしては……耳へ苦悶の声。肌へ熱い液体。とどめの一撃をもらったのか? もう痛みを感じることもない? いや、絶えず痛い。苦しい。寒い。

 

 ここまでか。これがつまりは、モブ子の終わりなのか。

 

 予想していたのとは違うな。もっとこう、薄れて消えていく感じになるかと。

 

「ダメ! 気をしっかり……!」

 

 キリエ?

 

 キリエが、俺を抱しめている。

 

 かばってくれたのか。俺を。

 

 かばわせて、ケガをさせたのか。俺は。

 

 悲鳴。銃声。怒号。

 

 なにもかもがメチャクチャに渦を巻く様を、どこか遠くに感じ取りながら、俺はまた暗闇へ落ちていく。いつもこうだ。だんだんと早く、だんだんと深くへ、俺は落ちていく。

 

 そう遠くないいつかに、戻ってこれなくなると思っていた。

 

 それが今日だからって、文句は言えないけれど。でも。

 

 モブ子として目覚められることの方が、望外の夢だったとしても。それでも。

 

 消えたくない。まだ。

 

 こんな風にも終わりたくない。新たな鬱展開じゃないか、これじゃあ。

 

 ああ、クソ、意識が……もしも、もしも、最期にもう一つ幸運を願えるのなら……子どもたちに幸せあれ。灰フロなんていう不条理な世界に翻弄される少女たちに幸あれ。

 

 ……ミスミちゃん、ごめんなさい。

 

 君の身体を、俺、大切にしなかったよね。

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