モブ兵士がチート兵器の起動に成功しました   作:あるなし

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20 /奇跡の先輩

「思い出させられましたよね……このWebマンガも『灰フロ』だってことを」

 

 ハマチがうなだれている。Vtuber海村ハマチのアーカイブ動画だ。

 

「狙撃犯、海へ飛び込んだきり見つからず……ハァ……これは最悪のパターンです。モブコさんを大切に思う人は多いですからね。誰も彼も犯人探しに躍起になりますし……各陣営はお互いに疑心暗鬼に陥ってしまいました」

 

 スパチャも収益化もオフにされ、背景も黒一色という異様な雰囲気の中で、最新話の感想が語られている。流れていくコメントにも泣き顔や曇り顔の絵文字が多い。

 

 わかる。あと怒りのシナリオライター批判。それな。

 

 全てがうまくいって、ついにモブ子とキリエが会う―――もはやハッピーエンドのプレビューですらあったところへの凶弾だもの。

 

 痛い、胸が。

 

 燃えるように熱くもある。

 

「真っ先に糾弾の声を上げたのは『鍛造』でしたね。『連合』による陰謀であるとの主張です。これは結構な説得力があります。外交使節派遣の計画を知っていればこその狙撃でしたから」

 

 うん。報道官よりもサッチが印象的だった。ブチ切れていた。

 

 ほらこのコマ。「ド阿呆! やったらアカンことやりよったなクソどもッ! もう終いや! 絶対に、絶対に命で落とし前つけてもらうでェェッ!!」と叫んでいる。怖っ。

 

「一方、『連合』は『鍛造』による犯行だと反論しました。これも無理筋ではありません。鍛造は『転校生』の政治利用をやめるよう警告していましたからね。実際、あの場へ介入する機会をうかがっていた節があります」

 

 うん。反論の弁舌を振るったのはパリンだ。こっちもガチギレ。

 

 ほらここ。「罪科処すべし。一発の弾丸が破砕したものの尊さを畏れなさい。罪人死すべし。無知に狂い無恥に暴れるその狂暴を、わたくしは決して許しません」とのたまうこの表情たるや。

 

 そして……このページ。

 

 モブ子。

 

 あれやこれや医療機器につながれて。血の気がなくて。か細くて。

 

 大手術で一命こそとりとめたものの、予断を許さない状態がつづき、意識が戻る気配もない。

 

「両陣営とも『復興』の責任を問い、保護下に置くことを主張していますが……これも理不尽とは言いきれません。もともと南部六校がAP兵器を管理すること自体がイレギュラーなことですから」

 

 グランヴォルドはねぎとろ号に格納されたままだ。描写からすると警備兵もついている。

 

「このタイミングで爆破テロも起きましたね。南部食料プラント、東部工業プラント、西部鉱山地帯と、ねぎとろ隊が解放した場所ばかり。あからさまに狙撃事件と連動しています。せっかくの良い流れを断ち、モブコさんのがんばりを台無しにしようという悪意……明々白々な、この悪意」

 

 そう。悪意だ。個人の暴挙じゃなくて、組織による企みということだ。

 

「……ハァ……」

 

 ため息。ああ、画面からか。遣る瀬無さを漏らすような。

 

 ハマチ。

 

 らしくないよ。暗くしぼんだような語り口も、全然、彼女らしくない。

 

 君はさ、いつでもどこでも明るくて、妙に自信たっぷりで、熱心で丁寧で……なんなら押しつけがましいくらいじゃないか。

 

 思うに、君だけは大人なんだよな。まるで、そう、学園都市にやってきた教育実習生ででもあるかのような分別と関わり方で。少女たちを見守るような微笑みで。なにくれと奉仕的で。

 

「連合も鍛造も、復興すらも、それぞれに大規模兵力を動員する動きを見せて『次話へつづく』となりました。捜査協力どころか容疑をかけあって喧々囂々ですから、動員兵力の向かう先はフロムヘルではありません……ハァ……まさに開戦前夜といったところでしょうか」

 

 どうしてそうなる。いや、流れはわかる。でも認めたくない。

 

 学園戦争はダメだ。

 

 子ども同士で殺し合ってしまったら、もう、ハッピーエンドなんてありえなくなるんだぞ。

 

「戦場となるのはフリーダムライト学院の管轄区域になると予想できます……そう、本編第四章の『決戦』ですよ」

 

 クソが。

 

 回避できるはずだった、灰フロ最大の鬱展開め。

 

 死地からただひとり生還したキリエが目撃する、連合と鍛造の大規模戦の結末は、殺し合いの末の共倒れよりもたちが悪くて……生徒会長と番長の相討ちすらも惨劇の序章で……阿鼻叫喚の地獄絵図が始まる。

 

 フロムヘルだ。

 

 考えうる最悪のタイミングで急襲してきたフロムヘルの大群によって、誰も彼もが喰われてしまうんだよ。凄惨になぶられ、散々に犯され、尊厳という尊厳を穢されおもちゃにされて。

 

 嫌だ。

 

 嫌だ。

 

 だって笑顔が思い浮かぶ。ハマチだけじゃない。みんな笑っていた。現代日本からしてみたら些細でちっぽけな幸せを、大事に大事に、大切にして、喜びあっていた。

 

 この不可思議な記憶は、いったいぜんたい、なんなんだ?

 

 ゲームならよかった。

 

 ゲームと思わせてくれないから、苦しいんだよ。

 

 きっと、みんなまだ生きている。今も、あの水没した学園都市で暮らしている。ほら、手にじんわりと温もりが伝わってくる。誰かが手を握ってくれている。俺の、じゃない。モブ子の手をだ。そうとわかる。誰も彼もやさしい子たちなんだ。

 

 フロムヘルの脅威が、彼女たちに迫りつつあるって思うと、居ても立っても居られない。

 

 どうしようもなくともどうにかしなければどうにかなってしまいそうだから。

 

 慣れないことをした。

 

 有名人へのダイレクトメールなんて初めてやった。

 

 まあ、本命は空振りだったけれども。シナリオライターめ。制作会社のメッセージフォームからも問い合わせたけれど、なしのつぶて。本人まで届いたかどうかもわかりゃしないぜ。

 

 もう一人の方とはトントン拍子に話が進んで―――来た。着信。約束の時間ピッタリ。

 

「失礼いたします」

 

 きれいな声。聞き慣れきた響き。画面の方のそれは停止しておかないと。

 

「海村ハマチと申します。そちら様は……モブコさん、でよろしいですか?」

「は? あ、いや、どうなんでしょう? 俺、めっちゃ男の声ですし?」

 

 笑われてしまった。クスクスって笑い方、本当にあるんだな。

 

「私も男の声ですよ。バーチャル美少女受肉Vtuberですから」

「え、でも……ヴォイスチェンジャー使っています?」

「いいえ地声です。ここだけの話、最初の頃は使っていましたが、今はこれが普通になっちゃいました。髪の色も自然と抜けてきましたし」

「はあ」

 

 奇妙な気分だ。

 

 ファンにとっては夢のような経験をしているのだろうし、俺にとっては身に覚えのない記憶を反芻している感じだ。缶詰クッキーを開けた時の匂いまで思い出してきた。

 

「あ、唐突な自分語りめんどくさいなって思いましたか?」

「いえ、そんなことは」

 

 ちょっとだけしか思ってないです。ぶっちゃけVtuberはあんまり見ないからなあ。

 

「意味があってのことですよ。『灰都のフロムヘル』が特別なゲームであることの、一つの証明になるかと思いまして」

「ええっと」

「メールでは遠回しに表現していましたが、あなたもそう感じているのでしょう? 妄想とも錯覚ともわからないことを書いていましたね? まるで異世界の現実を覗き見てしまったかのような記憶……学園都市の少女たちとのリアルすぎる思い出……胸がわななくような、この愛おしさ」

 

 息を呑んだ。

 

 薄々とは察していた。期待してもいたんだ。そうなんじゃないかって。交通事故にあってからの摩訶不思議……この人ならわかってくれるかもしれないって。

 

 スマホを持つ手が震える。

 

「あなたも?」

 

 はい、という返事が聞こえた。

 

「私は『お魚屋さん』のハマチが見聞きしているのだろうものを、かつては自らの体験のように知り得ていました」

 

 袖を嚙む。本当だろうか。信じていいんだろうか。

 

 あの学園都市がどこかに実在していると、確信してしまえるのだろうか。

 

「今はもう、夢で垣間見る程度でしかありません。だから、私には、モブコさんがどんな声をしているのかもわかりません」

 

 声! そうか!

 

 音声が実装されていないキャラの声がわかるなら、少なくともそれは、ハマチが嘘をついていないハッキリとした証拠になる!

 

「ワカナ! あっちでハマチさんの秘書的なポジションをしている、彼女の声はどんなです?」

「星の瑠璃色的な、クールで凛としつつも可愛らしい声ですね。純粋さや健気さもあって」

 

 うーん? ちょっとといわず主観的すぎる。

 

 コガネも、ナルセも、まあいかにもそれらしい声だしなあ。

 

「あ! じゃあ、ドリフ商学院の学院生食堂の店員さんの声は?」

「配膳の子は見た目と裏腹に低音ですし、逆に調理場の大人っぽい子はロリなアニメ声です」

 

 正解! 店員のツインテールの子、ギョッとするくらいドスのきいた声なんだよね。厨房の、ちょっとおばちゃん感のある子は黄色い電気ネズミのモノマネ上手そうな声でさ。

 

 私の方からも、と問われた。

 

「グランヴォルド、やはりランバなラルさん的な広瀬ヴォイスですか? それとも中田ヴォイスや津田ヴォイス? もしかして速水ヴォイスや井上ヴォイスなんてことも……!」

「あ、中田さんっぽかったですね」

「んんー! たまりませんね!」

 

 笑った。ひとしきり笑いあって、俺はひとつの提案を受けた。

 

「私たち、この『奇跡』のための特別なパートナーになりませんか?」

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