とある転生勇者の異世界ペイガン物語   作:韓非子

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第3話「もう一人の転生者」

 アンリに導かれてダーディアンへと続く街道を歩いていく。アンリは霊体化して姿は見えないけど、確かにそこにいると感じる。なにより体が暖かい。それだけで俺はアンリを感じ、心強く感じた。

 

 ダーディアンとは、魔界と人間界の境界にある交易都市の名前だ。古くから町と町、人間界と魔界を繋ぐ交易拠点として発展したこの町は、様々な種族の様々な側面をを見せてくれる。ゴブリン専用の宿舎、亜人のダンスを楽しめるナイトクラブ。エルフの魔術を使ったサロン、オークのエアロビジムなど、多様な文化の交わる交易都市は、多種多様な産業で溢れている。

 

「ダーディアンには行ったことあるかい?」

「一回だけ。前に所属してたパーティーで物資の買い出しをしてる時にな。エルフの妙薬やら砥石やら買ったっけ。焼き鳥なんかもあっておいしかったな」

 

 過去の事を思い返す。冒険の始まりという事もあって楽しかったっけ。

 

「過去の転生者、お前と同じミズガルズからやって来た人間が発展させたところもあるからね。お前の口に合う料理があるのも当然さ」

「へえ、どうりで……」

 

 焼き鳥やケバブといったすごく見た事ある料理が並ぶ露店があちこちにあって、食事に困ることがなかった。すごくおいしそうな中華料理屋なんかもあって食べたかったけど、当時は無駄遣いができないこともあって断念したっけな。

 

 そんな事を思い返しながら歩いていると、一つの魔力を感じた。どうやら、魔法使いが近くにいるようだ。それも一人でだ。

 だんだんとこちらに近付いてきている。自己防衛手段の乏しい魔法使いがのこのこと一人で街道を歩くとは、とんだ命知らずだ。

 

「感じるかい?アズマ」

「ああ。魔法使いだな。なんだって魔法使いが一人で?」

 

 魔法使いとは、その豊富な魔力と、所持する玉石類の多さから、盗賊によく狙われる傾向にある。だから、専ら魔法使いはパーティーを組んだり、護衛を雇うなどして移動するのが一般的だ。魔術を専門とするギルドであれば、どこもそう呼び掛けている筈だ。それらから考えるに、恐らくは新米魔法使いなのかもしれない。

 

 アンリに言われるがままに適当な木陰に隠れる。そして、魔法使いの正体を確かめる為に息を潜めた。

 

 お互い顔が認識できる距離にまで近付く。そして、俺はその見覚えのある顔を見てひどく驚いた。

 

「あれ……?あの顔……」

「知ってるのかい?アズマ」

「あ、ああ……。アイツ……」

 

 ふらっと木陰から出てその魔法使いに近付いていく。そんな俺の姿を認識した魔法使いの女の子は、俺に話しかけてきた。

 

「あっ……。こ、こんにちは……」

 

 やっぱりどこか見知った顔だ。俺はこいつとどこかで会ったことがある。そう思わずにはいられなかった。それは相手も同じなようで、杖を両手に持っておどおどしている。どうやら、お互いどうすればいいかわからないようだった。

 

 そうしてしばらくまごまごしている内に、女の子の方から話を切り出した。

 

「えっと……。変な事聞きますけど、どこかでお会いしたことありましたっけ…?」

「あれ……。そっちもそんな気がするか……?俺もたまたま見た事ある顔と思って話しかけようとしたんだが……」

 

 お互いドギマギしながらたどたどしく会話をする。初めて知り合ったような感じがしない分、妙に顔見知りしてしまう。この場合、どうすればいいのだろうか。

 

「え、えっと、わたし、モエカっていいます!よ、良ければなんですけど……」

「モエカ…?お、俺、アズマってんだけど覚えてるか……?」

「アズマ…?え、えぇ!?アズマって、もしかしてみんなから主席主席って言われてたアズマくん!!?」

「やっぱり……!どうしてお前がここにいるんだよ!!」

 

 奇妙なところで運命が重なり合った。やっぱりこいつは俺の知り合いだった。中学時代の同級生だった、室見谷 萌香(ムロミヤ モエカ)だ。いつも少数の女子グループで固まって、ほわほわ笑っていたのを覚えている。

 

「え!?えぇ!!?え、本当にアズマくんなの……!?」

「ああ、そうだよっ!!モエカこそどうしてこの世界にいるんだ??」

「わ、わたしはほら、元から体が弱かったし……。その……分かるじゃん…?」

「あー……。まぁ、分かる……かな……?」

 

 モエカは体が弱かったらしくしょっちゅう学校を休んでたのを覚えてる。休む事が多い分自宅学習を頑張ってたのか、テストはいつも平均点くらいを取っていた。

 

「でしょ?アズマくんこそどうしてここに…?」

「仕事中にヘマして事故ったんだよ。それでぽっくり死んじまってな」

「な、なるほど…」

 

 顔を引きつらせて目を逸らして黙り込む。気まずくなるようならどうして聞いたわからないけど、まぁ良い。お互い見知った転生者と偶然にも知り合えた。この世界における唯一の顔見知りという事で、一緒に行動したいところだが……。

 

「あの……。良かったらなんだけど、護衛をお願いしても良いかな…?」

「へっ?」

「じ、実は、協会からの命令でいろんな魔術師を勧誘しないといけなくって……。お金もないし、知り合いもいないしで護衛を雇えなくって……。協会側はお金も護衛も用意してくれなくって、それで……」

「なるほど……。実は今からダーディアンに行くところなんだ。良ければいっしょに行かないか?」

「ホントっ!?あー良かったー……。一人だと心細くって……!」

 

 そうして俺は、旧知の知り合いであるモエカと行動することになった。

 

「協会の命令ってだけど、どうしてモエカが勧誘なんかしてるんだ?」

「わたしの入ってる協会って、まだ創設して間もないんだ。だから、いろんなところを周ってメンバーを勧誘したり、土地の調査をしに行ってほしいんだって。勧誘とか調査とか、わたし全然分かんないよー」

「はー、大変だなぁ。でもなんて護衛を雇ってないんだ?一人じゃ危ないだろ?」

「そう思うでしょー!?わたしもこの世界に来てまだ一週間しか経ってないのに怖くてしょうがないよー!」

「一週間!!?」

 

 ……呆れた。協会は、転生して一週間しか経っていない新人の魔法使いに、護衛もなしにたった一人で調査や勧誘に向かわせているのだ。無知なのを良いことに護衛代をケチってるのだろうか?だとすれば、かなり腹立たしい。

 

 いいや、待て。モエカは何か特別なスキルがあるのかもしれない。それを見越した上で一人で向かわせているのだろう。きっとそうに違いない。

 

「ところでモエカ。何か特別なスキルとか持っているのか?」

「え?えっとぉ、なんだっけ?」

 

 ステータスパネルを開いて忙しなく操作している。転生して間もないためか、見える数字のどれもが心許ないものばかりだ。

 

「あっ、あった!えっと、魔力限界、だって」

「魔力限界?」

「魔力が底を尽きても使い続けることができるスキルだって。これだけ聞くと良いかもだけど…」

 

 これは良さそうなスキルだ。魔力が尽きても魔術を行使できるとは半ばチートのようなスキルかもしれない。

 

「それは結構なスキルだな。だったらあまり心配いらない感じか?」

「……緊急の時にはいいかもしれないけど、魔力の代わりに体力を消費するんだよね、これ。……そうだ、これ一回試したけど、体の内側からキリキリ締め付けられるような感じがして、すっごく苦しかったんだっけ……」

「……なるほど。しっかりとリスクもあるんだな、それ」

 

 やはり、この世には都合の良すぎる事など無いのだと思い知らされる。緊急時以外は使わない方が良さそうだ。己の身を滅ぼしながら魔術行使を行うのだ。そうならないためにも、しっかりと魔力管理をしなくては。

 

「そういえば、アズマくんってこの世界がどんなところか知ってる?」

「いいや。俺も詳しい事はあまりよく分かってないんだ。とりあえずは、この世界が剣と魔法と冒険ものっていうファンタジーな世界だっていう事が分かるくらいかな。俺もこの世界に来てまだ1年とかそれくらいしか経ってないからな」

「へー……。そっかぁ。じゃあ、お互い分からないことだらけなんだね」

 

 そう言ってモエカは苦々しく笑った。

 

 そうして、俺は旧知の知り合いであるモエカと出会い、共にダーディアンへと向かっていった。

 再び始まった俺の物語、奇妙に交わった古き縁。俺たちの物語は続いていく。

 

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