とある転生勇者の異世界ペイガン物語   作:韓非子

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第4話「交易都市、ダーディアン」

 石造りの道を歩いていく。通りには様々なモノが行きかっており、ヒト、馬車、竜車などが所狭しと通りを埋め尽くしている。

 

 エルフ、魔族、人間にドワーフ、よく分からない種族と、様々な人種で溢れかえっている。様々な文化が入り混じり、華やかに栄えるこの街の風景は、いろんな文化的な側面を見せてくれる。

 

 ボロ布を身に纏っオークが道の端に座っている。全くサイズの合っていないニンゲン用の帽子を被っているのは、おしゃれのつもりだろうか。

 

 オークの足元に置かれたザルには貨幣がいくらか入っている。どうやらこのオークは物乞いをしているらしい。よほど生活に困っているのか、身なりは粗末で異臭すら漂ってきている。

 

 そんなオークが俺たちに話しかけてきた。マジかよ。

 

「おい、ニンゲン。これ買わなねえが。今朝獲れたばかりだゾ」

「か、カブトムシ……?いや、いらねえよ、そんなの。何に使えるってんだよ」

「使えるとか使えねえとかそんなんじゃねえ。ペットに良いだろう?買わねえが?」

「いらねえよ!」

 

 変なオークだ。粗暴で凶暴なイメージとは裏腹に、怠惰を極めたようなしゃべり方をしている。モエカも変なものを見たとばかりに奇異な視線を向けている。

 

「変なの……。何だったんだろう……?」

「気にすんな。ああいう奴もいるってことだよ」

「うーん……。そうなのかなぁ……?」

 

 ドン引きするようにモエカが言う。気持ちはすごく分かる。ただでさえ粗暴なイメージがつきもののオークが、ああして汚い身なりで客寄せしているのだ。誰でも引くというものだろう。

 

「ここいらでは有名な物乞いオークだね。もうずっとここで物乞いしたり、いらないモノを売ったりしてる有名な奴さ。ここはひとつ、何か取り計らってはどうだい?」

「な、なんだってそんな事を……?」

「……?」

 

 アンリが俺に語りかけてくる。モエカには聞こえていないのか、ますます訝しむような目で俺を見ている。そういえば、モエカはアンリの事を知らないんだっけ。ここは少し紹介した方が良いかもしれない。

 

「そういえば、モエカにはアンリは見えてないのか?」

「アンリ?なんの事なの?」

 

 やっぱり見えていないようだ。モエカにはアンリを知覚できていないらしい。ここはひとつ、顔合わせしておいた方がお互い良いだろう。

 

「アンリ、出てきてやってくれないか?」

「あいよ!」

 

 ゴウという音と共に火炎が巻き上がり、アンリが姿を表した。赤い長髪が風に舞い、蛇のような鋭い目が爛と輝く。自身の前に現れた神性に、モエカは呆然と立ち尽くした。

 

「わぁ……」

「初めまして、だね、モエカ。私はアングラの主神、アンリ・マンユ。以降よろしく頼むよ」

 

 スッと差し出された左手に気付いていないのか。ぼうっと呆けている。まるで目の前に起きた事象に理解ができずに、意識が飛んでいるようだ。

 

「ほら、モエカ……!」

 

 ちょっと小突いてモエカに意識を取り戻させる。モエカはハッと意識を取り戻し、差し出された握手を求める手に、とっさに応えた。

 

「あっ……!ご、ごめんなさい……!つい、びっくりしちゃって……!」

「あっはっはっ!いいよ、どうってことないさ。しかし、転生者が二人もねぇ。いったいあの爺さんもどういう風の吹き回しなんだか……」

「あのじいさん?」

「ああ、気にしなくていいよ。私もお前たちと同じミズガルズから来た身だしね。ここは転生者同士、仲良くやっていこうよ」

「え、ええっ!?アンリさんも転生者っ!?」

 

 驚くモエカと、俺たちの背中を叩いて親睦を深めるアンリ。

 

 それはそうとして、オークを取り計らうとはどういうことなのだろう?それを聞かない事には話が見えないというものだ。俺はどういうことなのか、アンリにたずねてみた。

 

「なぁ、アンリ。あのオークを取り計らうってどういう事なんだ?」

「ああ、そうだったね。さっきも言ったけど、あのオークはここいらでは有名な物乞いオークなのさ。もう何十年とダーディアンで物乞いをしている変わったやつでね、いろんな話を知ってるかもしれないって言いたいのさ。ここ、ダーディアンでは様々なヒトたちが行きかって、取引をしている。あのオークも、何か耳よりの情報を持ってるかもしれないだろう?」

「はあ、なるほど……」

 

 俺はアンリに言われるままにオークのそばまで行き、オークとどうにか良い情報を得ようと試みた。

 

「なぁ、オークさんよ」

「んあ?カブトムシ買うのか?」

「いや……。カブトムシはいいや。他に何か良いものってあるか?」

「カブトムシ気に入らねえが?まあ、いいがや。土臭くてうまくねえしな。なら、この薬草はどうだ?エルフもよく調合や薬酒に使ってるっていう代物だど」

「う、う~ん……」

 

 ただの雑草にしか見えない青草だが本当なんだろうか?妙な草を売りつけてくるオークに俺は難色を示した。

 

 その後も、ああじゃないこれも違うと問答を繰り返していると、煮え切らない俺の態度に痺れを切らしたのか、霊体化したアンリが俺に詰め寄ってきた。

 

「ああ~~~もうじれったいねぇ……!ちょっと待ってな!」

「あ、アンリっ!?」

「あぁん?なんだぁ?急に」

 

 俺の中からアンリの熱が消える。アンリがどこかへ行ってしまったのだ。

 

 モエカがあわあわとした様子で俺を見ている。そんなにまごまごとしてないで助けてほしいものだが。

 

 ともかく、アンリに見捨てられた俺は一人でオークと交渉を続けるのだった。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「すげえだろ。ここがカブトムシが発情するツボなんだど」

「へえ~~……。そんなツボがあったのか……」

 

 カブトムシのツボというところを刺激されたカブトムシが一生懸命に生殖器を伸ばしている。

 

 そんなことをして俺とモエカとオークで遊んでいると、何か大きな包みを抱えたアンリが戻ってきた。

 

「はいこれ!!!……ってアンタら何やってるの!??」

「おっ、おかえり。何なんだそれ?」

「お前たちのために一生懸命稼いできてやったんだっての!!!なーに勝手に仲良くやってんのさお前ら!!!」

 

 ……どうやら俺の元を離れたのは、一向に進展しない俺たちに代わって交渉材料を用意するためだったらしい。申し訳ない事をさせてしまった。

 

「ともかく、はいこれ!!!これでパーッと遊んできな!!!」

「い、いいのか??これ全部。アンリはどうするんだよ?」

 

 急にこれで遊んで来いと大金が入った包みを渡された俺。しかし、そんな俺をよそに、ぼーっとオークはアンリの顔を眺めていた。

 

「な、なにさ、私の顔をじーっと見て」

「……おめえ、アンリ・マンユか?」

「ぶっ!!!!!!」

 

 唐突なオークの問いかけにアンリが噴き出す。姿を晒してもほとんどのヒトがアンリ・マンユと気付かなかったのに、このオークは一瞬で見抜いたのだ。いや、他のヒトもあえて気付かないふりをしていただけで、気付いていたのかもしれないけど。

 

「な、なな、何を言ってるんだお前は……!?わわ、私がアンリ・マンユだなどと……!」

「やっぱりなぁ。聞いてた通りの美貌だあ。赤い髪に蛇のような目、スラリとした体は噂に聞くとおりだァ。まさかおめえニンゲン、神様と一緒にいるなんてなァ。オラびっくりだぁ」

 

 そう言ってオークはケラケラと笑っている。

 

 俺たちの騒ぎに聞きつけて、周りにぞろぞろと人だかりができ始めた。どうやら、アンリ・マンユ本人が降臨してると知られてしまったみたいだ。これは面倒くさいことになってきたぞ。

 

「ぐっ……。しまったね……。お前たち、掴まりなっ!!オーク、アンタもだよ!」

「オラもかぁ?」

「当たり前だよ!さあ、掴まったっ!」

 

 そうしてアンリは俺たちの腕を掴むと、炎の壁で包み込んだ。

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