とある転生勇者の異世界ペイガン物語   作:韓非子

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第6話「ネメアの谷」

 俺はオークのホバの持つ情報を元に、ネメアの獅子に関する情報をダーディアンで集めて回った。さすがは交易都市という事で、様々な情報が集まった。以下は、ネメアの獅子に関する情報だ。

 

 情報を整理するために酒場に立ち寄り、アンリとモエカと共に情報を精査する。

 

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名前:不明(ネメアが最も通っている名前か?)

種族:亜人(異なる種族同士のハーフという説が濃厚そうだ)

職業:不明(遺跡荒らしが最適か)

属性:不明(こればかりはどうしてもわからない)

アクティブスキル:あらゆる装甲を無効化する爪

パッシブスキル:あらゆる攻撃を無効化する鎧

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 他にはあまり関係なさそうではあるが、ネメアの獅子個人に関する情報もいくらか手にする事が出来た。

 いくらか誇張はされているだろうが、それは怪物と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

 ────曰く、それは身の丈八尺に及び、

 

 ────曰く、それはヒトの姿をしながら獅子の如く振舞い、

 

 ────曰く、それは死の輝きを示す灯火を瞳に宿し、

 

 ────曰く、それは復讐を求め殺戮を好む怪物であり、

 

 ────曰く、その者は神々の血を引くと伝え聞く……。

 

 

 ネメアの獅子……。俺の元いた世界でもその名を聞いたことがある。

 

 それは、ギリシャの英雄、ヘラクレスに与えられた十二の難行で、一番最初に挑んだ怪物の名だ。エキドナに母を持ち、父にテュポンを持つ人外の子である。

 

 まさか、そのような怪物がこの世界に転生しているというのか?それもヒトの姿を取っていると?なんだかひどく胸騒ぎがするかのようだ。

 

 心臓が激しく高鳴る。今感じているこの感情は昂りか、はたまた恐怖からくる焦燥か、今の俺には分からなかった。

 

「…………」

 

 俺は聞いたことがある。曰く、ネメアの獅子はあらゆる刃物であっても傷一つつかず、英雄ヘラクレスは洞窟の中へ追い込み、三日間の格闘の末に首を絞めて殺したのだと。神の子ヘラクレスがそこまで苦戦しているのに、ただのヒトの子である俺にネメアの人食い獅子は倒せるのだろうか?

 

「くそっ。悩んでたって仕方ねえ。やるって決めたからにはやってやる…!神の子だか怪物の子だか知らねえがやってやる…!」

 

 そうして俺は竦む足を無理やり持ち上げた。

 

 獅子に関する情報収集の中で、呪われし者の谷についても、いくつか情報を知る事が出来た。まずは、ネメアの谷付近を通る馬車の確保をしなければならない。それと食料の確保もだ。

 

「決意が付いたようだね」

 

 意を決して立ち上がり、俺は酒場を後にした。ネメアの谷に住まう獅子の討伐…。生半可な気持ちでは決して成し得ることはできないであろう。俺は旧来の世界よりの仲間であるモエカと、アングラの主神アンリと共に、呪われし者の谷へと旅立っていった。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「………くん……ズマ……。………ア…マ……アズマくん!!!」

「……ハっ…!」

 

 不意に俺を呼ぶ声に目を覚ました。俺の視界に映ったのは、古い仲間の魔法使いの少女、モエカだ。

 

 

「もうすぐネメアの谷だよ。早く支度しないと着いちゃうよ」

 

 モエカの言葉に従って身支度をする。モエカも途中まで寝ていたのか、桃色の髪に少し寝癖がついている。

 

「アンリさんとも話をしてたんだけど、ネメアの谷にはスケルトンやゴブリンみたいなモンスターがいるんだって。気を付けないと」

 

 モエカの言葉を尻目に、俺たちは馬車を降りた。

 

 遠くに見える黒い雲に覆われた山脈に、ネメアの谷と思われる小さなシルエットを見る。

 

 神々の呪いを受けた地であり、ネメアの獅子の住まう忌まわしき大地……。俺たちが新たに目指す試練の地だ。俺たちはここで試練を超えて、真の使命である暗黒神討伐の第一歩とするのだ。

 

「ここからあそこまで半日以上かかるだろうから、今日はモーテルかどこかで泊まろうか。しっかりと英気を養って、準備を整えてから向かうと良いだろう」

 

 霊体化したアンリがどこからかアドバイスをした。アンリの言う通り、馬車旅の疲れも残る俺たちは、適当なモーテルを探した。

 

 そそうしてしばらく歩いた先に、長屋のような建物が複数連なっている小規模な町が見えた。あの建物たちがモーテルというものなのだろう。駐車場のようなスペースには、馬車や竜車のような車両が複数停まっている。

 

 その中の一件に入り、受付をする。アンリは霊体化しているので俺とモエカの二人で良いだろう。

 

「宿泊二名、馬車無し、一泊で頼む」

「はい。料金は……」

 

 トントン拍子に事は進んでいった。そうこうしている内に、俺たちは部屋をあてがわれ、そのまま翌朝を迎える事となった。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「アレが……ネメアの谷……か……」

 

 薄雲に覆われた峰々を見て呟く。死の谷、呪われた谷と呼ぶにふさわしい光景がそこにはあった。かの連峰こそが、ネメアの谷に住まう獅子の根城なのだ。

 

 改めて見てみると、やはり二の足を踏んでしまうような感じがする。やっぱり諦めるべきか、死ぬ覚悟で進むべきか…。

 

 二人の様子を見てみると、俺と同じ考えをしているようで、緊張に顔を歪ませている。それもそうだ。相手は狂乱する殺戮者、人を食らう獅子と言われる亜人なのだ。人の身である俺たちが適う可能性は低い。

 

 一歩、ネメアの谷に足を踏み入れる。重く冷たい空気が俺たちに圧し掛かる。改めて俺たちは死の大地に足を踏み入れたのだと思い知らされた。

 

 冷たい風が肌を撫でる。風は俺たちを誘うように、奥へ奥へと吹いている。

 

 そんな風に導かれるように、俺たちはネメアの谷の奥深くへと歩いていった。互いに言葉を交わすでもなく、風が鳴くだけの谷をひたすらに進んでいった。

 

 どれくらい歩いたのだろう。ふと、モエカが言葉を漏らした。

 

「ねぇ、アレ……」

 

 モエカが指をさす。モエカが指をさした先には、何やら人型のものが横たわっているのが見えた。

 

「……白骨死体……か……」

「随分と朽ちているな。かなり風化している」

 

 俺の呟きにアンリが言葉を返す。

 

「ここに迷い込んだのか、はたまた命知らずのバカだったのか……」

 

 骨を指で撫でながらアンリは言う。かなり風化が進んでいたのか、骨は脆く簡単に崩れた。

 

 再び俺たちはネメアの谷を奥へと進んでいった。進む度に亡骸は増えていき、ゴブリンらしき物の骨や、よく分からない亜人の亡骸もちらほらと見えてきた。

 

「…………」

 

 俺らはそれらを横目に、ただひたすらに前へと進んでいった。

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