半人半霊に転生した少女は生きるために鬼を狩る   作:マルメロ

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結晶ノ巫女

 

 

(なるほど……これが上弦。対面しただけでこの圧力……!)

 

 

 盲目の悲鳴嶼にさえ、童磨の恐ろしさは伝わっていた。今まで倒してきたどんな鬼よりも強く、得体の知れない存在。それが上弦の鬼、それが童磨だ。

 

 

「桜乃……魂魄を連れて離脱しろ。ここは我々が引き受ける」

 

「は、はい!」

 

 

 重症を負った妖夢と、左腕が凍らされている華日。二人をこれ以上戦線に残すのは危険と判断、離脱し治療するように指示を出した。

 

 

「おいおい。その子は俺が食べるんだから、勝手に逃げられたら困る……っと!」

 

「貴様の相手はこっちだ」

 

 

 童磨が言い終わる前に背後から伊黒が攻撃を仕掛けた。それをサラリとかわしながら童磨は扇を振るう。この至近距離、吸い込めば一巻の終わりだ。

 

 

「風の呼吸……伍ノ型!!」

 

 

木枯(こが)らし(おろし)!!! 

 

 

 そこに突っ込んできた実弥。童磨の霧を吹き飛ばしつつ、足を斬り裂く回転斬りだ。風の呼吸は童磨の血鬼術に対する貴重な対応策、しかも実弥の技は妖夢よりも更に強い。

 

 

「わぁ、台風みたいな風だ! 今まで会った風の呼吸の使い手の中でも1番かも!」

 

「口の減らねぇ鬼だぜェ!」

 

 

 左腕を失っているにも関わらずこの威力。なるほどなるほど、彼は今の世代の柱の中でも上位の実力を持つのだろう。覚えておかなければ、童磨がそう考えた次の瞬間には次の攻撃が襲いかかってくる。

 

 

「蛇の呼吸……参ノ型!!」

 

 

塒締(とぐろじ)め!!! 

 

 

 蛇の呼吸は伊黒が考案した彼だけの型。独特な形状の日輪刀から放たれる太刀筋は蛇のようにウネウネと曲がる特殊なもの、童磨といえど初見で読み切るのは不可能だ。

 

 

「避けたと思ったのに斬られたね! 面白いなぁ!」

 

「チッ……!」

 

 

 実弥と共に連撃を繰り返しているというのに童磨にはまだまだ余力があるように見える。風の呼吸で霧の対策はできているというのに、それでもシンプルな実力差で抑え込まれてしまう。

 

 

「南無阿弥……陀仏!!」

 

「……!」

 

 

 しかし鬼殺隊にはまだこの男がいる。実弥と伊黒攻撃の間を縫い、童磨の隙を突いて鉄球による攻撃を繰り出す男が。悲鳴嶼の鉄球による投擲は、童磨の頭を確かに吹き飛ばした。

 

 

「いッッ……ったいなぁ……君、目が見えてないみたいなのに正確に攻撃を当ててくるねぇ……その鉄球と斧が共鳴する音で空間を把握してるのかな?」

 

(頭を吹き飛ばしたというのに即座に再生……しかも私の武器の仕組みを瞬時に見破った……!)

 

 

 頭を飛ばしても頸は切れていない。その程度ならば上弦の鬼はすぐに再生してしまう。それにこの洞察力、この鬼は曲者だ。

 

 

血鬼術 “蔓蓮華(つるれんげ)

 

 

「岩の呼吸……参ノ型!!」

 

 

岩躯(がんく)(はだえ)!!! 

 

 

 氷の蔓による鞭打ち攻撃、それを鉄球と斧で全て叩き落とした。一見闇雲に振り回しているように見えるが、鉄球と斧が互いにぶつからないように操る技術、それを可能とする腕力、握力、明らかに人間の常識から逸脱している。

 

 

(俺の攻撃を全て捌いた……この男は現柱……いや、俺が今まで喰った柱の中でも別格)

 

 

 これ程の剣士とは100年以上生きていても会ったことがない。ともすれば単騎で上弦の鬼にも届きうるかもしれない。しかもそれに加えて……

 

 

「風の呼吸……陸ノ型!!」

 

 

黒風烟嵐(こくふうえんらん)!!! 

 

 

 この風柱の男も強い。片腕にも関わらず童磨の霧を吹き飛ばす風を起こす技、鉄球の男を相手にしながらではさすがに分が悪い。血鬼術も効果が薄くなる。更には……

 

 

「蛇の呼吸……伍ノ型!!」

 

 

蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ)!!! 

 

 

 この蛇のような男、柱には劣るかもしれないが強い。柱二人の攻撃の合間にすり抜けるように斬撃を入れてくる、その身軽さも相まって非常にやりづらい。

 

 

 童磨は至って冷静に、そして客観的に状況を捉えていた。今のままでは些か劣勢か……少なくとも今戦っている者は決して侮れる相手ではない。頸を落とされるかも、その懸念は頭から離れない。

 

 

「う〜ん……あんまり情けない戦いをするとあの方に怒られちゃうし、しょうがないか」

 

 

 ──少し、本気を出そうか。

 

 

 上弦の弍、童磨。彼は今までの戦いでほんの少しの実力しか見せていなかった。そんな彼がこの瞬間、遊ぶのを止めた。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

「妖夢ちゃん……! しっかりして……!」

 

 

 戦場から少し離れた家屋の影で、華日は妖夢の応急手当をしていた。妖夢は出血により意識を失ってしまい、呼びかけても返事は無い。必死に止血しようとしても傷が深すぎて血が止まらない。

 

 

「ゲホッ……! 華日……ちゃん……!」

 

「カナエさん!?」

 

 

 そこにふらつきながらも歩いてきたのは胡蝶カナエ。息も絶え絶え、肺をやられて呼吸も苦しそうな彼女は妖夢の前に座り、彼女の様子を見た。

 

 

「傷が深い……縫わなきゃ……ダメね」

 

「か、カナエさんも安静にしてないと……!」

 

「大丈夫よ……ハァ……継子を助けるのは柱の責務だもの……ハァ……華日ちゃんは……悲鳴嶼さん達を助けてあげて」

 

 

 肺をやられて呼吸が使えない自分は最早役に立たない。そう判断して妖夢の治療を買って出た。華日はまだ戦えるし、カナエは華日よりも医療技術が遥かに優れている、これが最も合理的な判断だろう。

 

 

 ──ザッ……! 

 

 

 その時、建物の影から土を踏む音が聞こえた。二人がその方を見ると、氷でできた人形のようなものがそこにはあった。さっきまでそこにあったか? そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間、それは持っている扇を振るった。まるであの上弦の鬼のように。

 

 

「ッッ……!!」

 

 

 華日は咄嗟に妖夢とカナエを抱えてその場から離れた。その判断は正しかったのだろう、今まで彼女らがいた場所は人形の出して冷気によって凍りついてしまったのだから。

 

 

「何……あれ?」

 

 

 あの鬼に似てる? 血鬼術によって作られたもの? 今出した技は童磨のそれと遜色ない威力に見えた。まさか、自身と同じ威力の技を出せる人形を氷で生み出した? 頭の中で必死に考えるがその人形は思考する時間をくれない。すぐさま次の技を繰り出してくる。

 

 

血鬼術 “凍()(ぐもり)

 

 

「冷た……!」

 

 

 妖夢とカナエを庇い、華日はまともにその技を受けてしまった。吸ってはいない、しかし全身の所々が凍らされてしまい、力が抜けていく。

 

 

「カナエさん……妖夢ちゃんをお願いします!」

 

「華日ちゃん……」

 

(守らなきゃ……! 私はいつも守られてばかり……! 今度こそ、私が守る……!)

 

 

 妖夢が重症を負ったのは、妖夢が華日より強かったから。強いが故に童磨に狙われて集中的に攻撃を受けてしまった。いつもそうだ、自分は妖夢に守られてばかり……今回は、今度こそは、私が守ってみせると心に火を灯した。

 

 

「水の呼吸……弍ノ型!!」

 

 

水車(みずぐるま)!!! 

 

 

 大振りの回転からの斬撃。この氷人形は本体と同じく頸が弱点なのか、もしくはそもそも弱点など存在しないのか。わからないがとにかく今はカナエ達がこの場を離れる時間を稼ぐしかない。

 

 

(……! 頸を斬ったのにもう再生した……!?)

 

 

 氷人形の頸は斬った。しかし数秒しない内に再び繋ぎ合わさって活動を再開してしまった。信じ難いことだが、この氷人形を倒すすべはなくどうにかしなければならないのは本体。なんという血鬼術だろうか、凶悪にも程がある。

 

 

「行かせない……!」

 

 

 この人形はカナエと妖夢を優先的に狙っている。恐らく実力の高い者から始末しようとしているのだろう。これを倒す方法がない以上、華日は悲鳴嶼達が本体の頸を斬るまでカナエ達をこれから守らなければならない。本体と同等の血鬼術を扱う氷人形から。

 

 

血鬼術 “(ふゆ)ざれ氷柱(つらら)

 

 

「……ダメ!」

 

 

 間に合わない……! 華日の頭上を越え、大量の氷柱がカナエ達の遥か上から襲いかかる。庇いきれない、守りきれない、守るって誓ったのに、その誓いすらも守れない。

 

 

(鱗滝さん……! 冨岡さん……! お願い、私に力を貸して……!)

 

 

 華日は額につけた厄除の面に手を触れた。最終選別の前に師である鱗滝左近次にもらったものを彼女はまだ身につけていた。これに触れると、自然と勇気が溢れてくる気がする。

 

 

(なんでもいいから……! 技を出せ……! 二人を守れ……!)

 

 

「水の呼吸……拾壱ノ型……!!」

 

 

(なぎ)……! 

 

 

 それは本当に咄嗟の行動だった。華日自身にもどうやってのかわからない。しかし事実華日は兄弟子であり水柱、冨岡義勇の開発した技、凪を出して妖夢とカナエを守ったのだ。

 

 

「守るったら守る……! 絶対に! 二人には近づけさせない!」

 

 

 守りたいという強い想いは華日を強くさせる。親友と師の命を守るため、華日は果敢にも氷人形に向かっていった。

 

 

「華日ちゃん……もう少しだけ堪えて……!」

 

「か……なえ……さん?」

 

「妖夢ちゃん……! しっかりして、死んじゃダメよ!」

 

 

 華日が氷人形を食い止めている間、カナエは必死に妖夢の傷口を縫っていた。緊急を要するので迅速に、しかし丁寧に治療を進めていく。自身も呼吸が満足にできず苦しいというのに、血反吐を吐きながら妖夢を治療している。

 

 

(なんで……? 自分だって重症なのに……)

 

 

 僅かながら意識を取り戻した妖夢は、苦しそうな顔で自分の治療をしてくれているカナエの姿に涙を流した。カナエも肺をやられて苦しいはずなのに、それでも自身よりも妖夢のことを優先してくれている。華日も命を賭けて自分を守ってくれている。自分よりも他人のことを助けようと。その姿に妖夢は自分が情けなくて仕方なかった。

 

 

(馬鹿だな、私……みんなが必死に戦ってる間も……自分の事ばかりだった)

 

 

 それを後悔したところで後の祭り。この戦いに勝利しない限り、この場にいる人間に明日はない。彼女らの運命、それどころか鬼殺隊の命運を背負った戦いは……童磨側が有利に進めていた。

 

 

「クソがァ!!」

 

 

 童磨が出した氷人形、結晶ノ巫女。それは完全自律戦闘が可能であり、本体と同じ強さの血鬼術を使用する反則級の技。これを出された瞬間に形勢は一気に童磨側に向いた。実弥と伊黒はそれぞれ巫女一体に足止めを喰らっている。

 

 

「蛇の呼吸……肆ノ型!!」

 

 

頚蛇双生(けいじゅそうせい)!!! 

 

 

 巫女は頸を斬っても活動を止めない。無視して本体を狙おうにも執拗に追跡し妨害してくる。柱やそれに準ずる実力者でも巫女一体に苦戦している状況だ。

 

 

(何より信じ難いのは……これだけの血鬼術を扱いながらまだ余力を残していること……!)

 

 

 巫女二体に挟まれ、更には本体にも狙われている悲鳴嶼は最も厳しい戦いを強いられていた。彼でも二体分の血鬼術に対処しながら本体の頸を狙うのは無理だ。まだ戦闘を継続できているのが奇跡と言える。

 

 

「凄いな、本当に強いんだね! この子達が二人がかりでも倒せない柱は初めてだよ!」

 

 

 悲鳴嶼を賞賛しながらも、童磨は更なる追撃を悲鳴嶼に浴びせる。遂に悲鳴嶼も微量ながら童磨の霧を吸い始めてしまった。このままジリ貧になれば、肺が壊死して戦闘続行が不可能になる。

 

 

「いやぁ楽しいな! こんなに本気を出したのは久しぶりだ!」

 

 

 そこで童磨は考えた。このまま戦闘を継続しても勝利はほぼ確実だろう。しかし、この鉄球の男の実力は侮れない。確実に、100%の勝利を得るのならば出し惜しみをしている場合ではない。とっておきを出そうと。

 

 

「楽しい時間を終わらせるのは辛いけど……ま、いっか」

 

 

血鬼術 “霧氷(むひょう)睡蓮菩薩(すいれんぼさつ)

 

 

 童磨の背後に巨大な氷の仏像が現れた。悲鳴嶼は見えない目を見開く、この鬼はこれだけの力を示しておきながらまだ切り札を残していたのだ。この氷の像こそが、童磨の本当の奥の手。

 

 

「不死川ァ──!! 伊黒ォ──!! 退避しろ──!!」

 

 

 悲鳴嶼がその危険性を察し、巫女と戦っていた二人に指示を出した瞬間だ。今までとは比較にならない量の冷気を放った。それは一気に周囲を包み込み、町は氷に支配される地獄と化した。

 

 

「あれは……!」

 

 

 戦場より離れたところにいる妖夢やカナエからもその仏像は視認できた。ここまで漂ってくる冷気は、戦闘の激しさを理解されるには十分すぎるものだ。カナエがその光景に息を呑んでいると、横に寝かせていた妖夢がいつの間にか立ち上がっていた。

 

 

「行かなきゃ……」

 

「妖夢ちゃん……! ダメよ、まだ寝てないと……!」

 

「カナエさん、刀借ります……!」

 

 

 カナエの静止を振り切り妖夢は戦場へと駆け出した。傷はまだ吐きそうな程痛いが、妖夢は足を止めなかった。皆命を賭けて戦っている、ここで逃げだしたら本当に終わりだ。そんな思いを胸に、妖夢は覚悟を決めて死地へと向かうのだった。

 

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