半人半霊に転生した少女は生きるために鬼を狩る   作:マルメロ

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柱合会議

 

 

 上弦の弐、童磨撃破。それ自体は百年振りの上弦討伐ということで、鬼殺隊にとって鬼の始祖を倒すまでの大きな足がかりとなった。しかし損害は決して少なくない。岩柱、悲鳴嶼行冥の死。それに花柱、胡蝶カナエも肺をやられ全集中の呼吸を使えなくなったことで柱を引退、鬼殺隊は二人の柱を同時に失うこととなった。

 

 

 更には風柱、不死川実弥も療養のために二ヶ月を要した。伊黒小芭内、桜乃華日は動けるようになるまで約三ヶ月寝たきりとなり、童磨の頸を斬った魂魄妖夢は更にそれ以上の時間が必要だった。

 

 

 そして妖夢が目覚めたのは、童磨戦から実に半年近くが経とうとする時。真冬だった季節は桜の時期を通り過ぎ、夏の趣を感じさせる暖かい春にまで進んでいる。蝶屋敷の一室に寝かされていた妖夢は、うっすらとその瞳を開けた。

 

 

「う…………んん」

 

 

 どれだけ眠っていたのだろうか? 身体が思うように動かない。何とか起き上がり周囲を見渡すが、部屋には誰もいなかった。真冬だったはずなのに妙に暖かいので、外の様子を見ようと窓の方を向いた時だ。パリンっと何かが割れる音がした。扉の方を見ると、少女が一人驚いた顔でこちらを見ている。

 

 

「ハルちゃん……おはよう」

 

「……〜〜!!? しのぶさん!! 妖夢さんが起きたぁぁ!!」

 

「ちょ……!」

 

 

 ハルは親を鬼にされてしまった少女で、任務の際に妖夢達が保護してから蝶屋敷で隊士達の身の回りの世話をしてくれている。そんな彼女だが、起き上がっている妖夢の姿を見るなりドタドタと走っていってしまった。

 

 

「妖夢……!」

 

「しのぶちゃんおはよ……えと、私どれくらい寝てたの?」

 

「そんな呑気な……半年よ、半年! 熱も全然下がらないし、もうダメかと思ったんだから!」

 

 

 抱きしめてくるしのぶに若干照れながら、妖夢は自分が半年寝ていたという事実に心底驚いていた。確かにあの戦いで大きな怪我を負ってしまったし、少しとはいえ童磨の血鬼術も吸ってしまっていた。それにしても、まさか半年も寝ていたとは。

 

 

「しのぶちゃん……他の皆は……? カナエさんは……?」

 

「姉さんは生きてる。肺をやられて鬼殺隊は続けられないけど、命に別状はない……妖夢達のおかげよ。華日も、伊黒さんも、不死川さんも無事。…………だけど」

 

 

 そこで妖夢は初めて悲鳴嶼行冥の訃報を聞いた。あの時、彼が命を投げ打ってくれなかったら妖夢は童磨の頸を斬れなかっただろうし、あの場にいた者は全滅していただろう。本当に見事な最期だった。

 

 

「悲鳴嶼さん……」

 

「鬼殺隊には悲鳴嶼さんに命を救われた人も多いから、みんな悲しんでる」

 

「そうだよね……悲鳴嶼さん、凄く強かったから」

 

 

 胡蝶姉妹は鬼に襲われた際に悲鳴嶼に命を救われているし、妖夢も関わった時間は少ないとはいえ数多くのことを教わった。それだけ彼の存在は多くの者に影響を与えていたのだ。

 

 

「妖夢さん〜!! よかった〜!!」

 

「ハルちゃ……うわ!?」

 

 

 そうこう話している間に蝶屋敷の女の子達が集まってきた。特に妖夢と仲が良かったハルは半ばベッドに飛び乗るように抱きつき、妖夢の無事を泣いて喜んだ。カナヲも表情には出さないが、心の中では安堵している。

 

 

「し、しのぶちゃん……カナエさんは今どこ?」

 

「柱合会議に出てる。あ、そういえばお館様がもしも目が覚めてたら妖夢も連れて来て欲しいって言ってたみたいだけど」

 

「お館様が……?」

 

 

 お館様が自分を呼んでいる、しかも柱合会議にだ。上弦を倒した件で話を聞きたいだとかそんなところだろうか? と考えていると、いつの間にか妖夢の隣に女性の隠が立っていた。

 

 

「魂魄様。お館様がお呼びです、私が産屋敷邸までお連れいたします」

 

「うわビックリした!? ……よ、よろしくお願いします?」

 

「ちょっと……妖夢はまだ出歩ける程回復はしてないんですけど?」

 

「承知しております。しかし今回は緊急を要しますので、胡蝶様にも同行してもらうようにとお館様から言伝っております」

 

 

 妖夢としのぶが考える間もなく、二人は隠におんぶされて連れて行かれてしまった。しのぶは道中もぶつくさと文句を言っていたが、御館様が呼んでいるなら行かない訳にはいかないだろう。産屋敷邸は鬼殺隊にとって最重要拠点、故に刀鍛冶の里と同等かそれ以上に厳重に場所を隠されている。しかも蝶屋敷からそこそこ距離があるようで、道中藤の花の家紋の家で泊めてもらうことになった。

 

 

「妖夢、傷は痛まない? 何かおかしいところはない?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとうしのぶちゃん」

 

 

 就寝する前、布団の上でしのぶは心配そうに妖夢に問いかけていた。心配してくれるのはありがたいのだが、少し様子がおかしい。怯えているのか、小刻みに手が震えている。

 

 

「……しのぶちゃん? 大丈夫?」

 

「ごめん……なんでもない。ただ……あの時、姉さんが上弦と戦ってるって報告を聞いて……私も急いで駆けつけようとした。でも私は間に合わなくて、妖夢達がいなかったら……私は手の届かないところで姉さんを失うところだった……!」

 

「しのぶちゃん……」

 

 

 しのぶは両親を鬼に殺されており、カナエだけが唯一の肉親だ。それを失いかけたら、精神的に不安定になるのも当然。加えて恩人である悲鳴嶼の死、相当堪えたのは想像に難しくない。

 

 

「妖夢……私強くなりたい。悲鳴嶼さんや姉さんみたいに、もう誰も死なせないために」

 

「うん。しのぶちゃんならなれるよ、絶対に」

 

「ありがとう……妖夢」

 

 

 妖夢はしのぶの手を取って鼓舞した。今自分に出来ることはそれだけだろう。今はそれだけでいい、きっとそうなのだ。

 

 

「お二人共、到着致しました」

 

「ここが……産屋敷邸」

 

 

 翌朝、またしても隠におぶられ背中で揺られること数時間、妖夢としのぶは産屋敷邸に到着した。大きなお屋敷といった風体の建物で、どこか懐かしい気持ちになる場所だ。

 

 

「魂魄様は奥の庭園へお進みください……柱の皆様がすでにいらっしゃいます。胡蝶様は応接間にてお待ちください」

 

 

 しのぶと一旦別れ、妖夢は長い廊下を進んでいく。しばらく歩くと美しい日本庭園が見えた。そこには実弥や宇髄、そして冨岡とカナエ、柱の面々がいる。更に驚くことに……

 

 

「妖夢ちゃん!」

 

「華日!? なんでここに……!?」

 

「妖夢ちゃんと同じだよ。それより元気になってよかった!」

 

 

 同期の華日、そして伊黒も呼ばれていたようで柱の面々と一緒にいたのだ。これは予想外、妖夢もさすがに驚いた。

 

 

「妖夢ちゃん、目が覚めてよかったわ」

 

「カナエさんも……よかった……無事で……」

 

「妖夢ちゃんのおかげよ。本当にありがとう」

 

 

 元気とは言えないが、無事に生き残っているカナエの顔を見て妖夢は安堵した。それはカナエも同じようで、二人で抱きしめあって喜びを分かちあった。

 

 

「魂魄、聞いたぜ! お前上弦の弐を倒したってな! 相変わらず派手なヤツだ!」

 

「宇髄さん……私だけの力じゃないですから」

 

「謙遜するなよ、ド派手に胸を張れ!」

 

 

 共に元上弦の陸と戦った宇髄天元。彼もまた、悲鳴嶼の死には少なからず動揺していることだろう。しかし、彼が亡き今最年長の柱として、空気を盛り上げようとしてくれている。

 

 

「皆様、お待たせ致しました。お館様のお成りです」

 

「……!」

 

 

 いつの間にいたのか、まだ小さな子供達が妖夢達に声をかけた。鬼殺隊当主産屋敷耀哉の子供達だ。まだ小さいというのに、すでに独特な凄みを放っている。

 

 

「おはよう皆……今日はいい天気だね。空気も綺麗だ」

 

 

 そして一人の男性が現れた。彼の姿を見た柱達はすぐに膝を曲げ頭を下げる。妖夢達も慌ててそれを真似して同様にした。

 

 

(この人が……お館様…………)

 

「ご無沙汰しております、お館様。お身体の具合はいかがでしょうか?」

 

「うん、今日は調子が良さそうだ。心配してくれてありがとう、カナエ」

 

 

 妖夢は初めて見るお館様に目を奪われていた。身体が弱いのか、顔色が優れないがそれでも形容し難いオーラを放っている。ただ話しているだけなのに思わず聞き入ってしまう何かがあった。

 

 

「さて、皆知っていると思うけれど……前回の柱合会議から随分と状況が変わったね。百年振りの上弦の討伐……これは鬼殺隊の長い歴史の中でも稀に見る出来事……とても喜ばしいことだ」

 

 

 お館様はそこまで一息で話した。皆、彼の言葉に真剣に耳を傾けている。そして次の言葉、これは心做しか少し弱々しく聞こえた。

 

 

「けれども……その代償はとても大きい。特に行冥……あの子は鬼殺隊の皆からとても慕われていたから、悲しみも大きいだろうね。もちろん私もだ」

 

「……」

 

 

 誰も何も言わなかった。それに皆心から同意していたからだ。悲鳴嶼の死は、お館様ですら動揺を隠せない。

 

 

「だけど私達は立ち止まる訳にはいかない。カナエ、行冥は最期まで私達に言葉を残してくれたそうだね?」

 

「はい……悲鳴嶼さんは近い将来……私達の代で必ず鬼舞辻無惨を倒すことができると、そう確信していると言い残しました」

 

「……そうだね、私もなぜだか同じように思うんだ。何か……大きな歯車が動き出しかのように……停滞していた状況が傾きつつある」

 

 

 お館様はカナエの話を聞き、今度は妖夢達の方に視線を移した。特に妖夢を見ると、彼は微笑んで彼女に声をかけた。

 

 

「妖夢、上弦の弐の討伐……本当にご苦労だったね。まだ目が覚めたばかりだというのに、呼び出してしまって申し訳ない」

 

「い、いえそんな……滅相もないです!」

 

「華日も小芭内も、まだ鬼殺隊に入って日が浅いのに……よく戦ってくれた。鬼殺隊の皆を代表して、お礼を言わせておくれ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ありがたきお言葉」

 

 

 優しい笑みで褒められると、圧倒的に絆されてしまいそうだ。あの気難しい伊黒でさえそうなのだから。

 

 

「今日、君達三人に来てもらったのは他でもない……空いた柱の席を君達に埋めて欲しいとお願いしたかったんだ」

 

「……え? それって……」

 

「妖夢、華日、小芭内……君達にはこれから、鬼殺隊の柱として活躍して欲しいと思っている」

 

 

 お館様の口から出たのは、妖夢達を柱にしたいという言葉。鬼殺隊の中でも最高位、他の隊士の模範となるような剣士になって欲しいという願いだった。

 

 

「どうかな? 三人共」

 

「お館様のご命令とあれば、断る理由はありません」

 

「わ、私もです! だけど……」

 

 

 伊黒は二つ返事で了承、そもそもお館様からの命令なので断る理由などない。華日もそれは同意なようだが、何か引っかかることがあるようだ。それを察した実弥が代弁してくれた。

 

 

「恐れながらお館様……柱となるための条件は階級甲の隊士が鬼を50体以上倒す、もしくは柱の手助けなしで十二鬼月を倒すこと……この三人はどちらも満たしていません」

 

「確かに……上弦の弐を倒したのは行冥と実弥の力も大きかったね。けれども妖夢は下弦の弐の頸を斬っている。それに今は規律に縛られている時ではないように思うんだ……もちろん規律を遵守することは大事だけど、今は空いた柱の席を埋めることを優先したい……それ相応の実力をこの子達は持っている」

 

 

 お館様の意見に実弥は身を引いた。三人が柱に相応しい実力を持っていることは彼も認めているし、形式上聞いただけでお館様が言うなら逆らう程でもない。

 

 

「規律に縛られるな不死川……お前は頭が硬すぎる」

 

「あァ!? 喧嘩売ってんのかよォ……冨岡ァ!」

 

「別に……」

 

 

 冨岡の言葉足らずに不死川がキレた。その状況に華日はあたふたするが、お館様の視線に気づいて視線を正し、改めて返事をする。

 

 

「そういうことなら……やります! 他の皆さん程お役に立てるかはわからないけど……柱としてこれまで以上に頑張ります!」

 

「ありがとう……華日。後は……どうかな? 妖夢」

 

 

 華日の元気な返事に微笑んだお館様は、最後に妖夢の方に視線を向けた。しかし妖夢は俯いており、何かを迷っているようだ。しかし返事をしない訳にはいかない、まだ言葉にできていないが途切れ途切れに口を開いた。

 

 

「私は……すみません、お館様……私は柱にはなれません……」

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

 

「私は……私は……! 自分の身を守る強さが欲しくて鬼殺隊に入りました……他の皆みたいに、誰かを守りたい……鬼を倒したい……そんな覚悟が私にはないんです……だから……! 私は柱に相応しくありません……!」

 

 

 それは妖夢が鬼殺隊に入ってからずっと葛藤していたことだった。華日や胡蝶姉妹のような誰かを守る優しさも、実弥や伊黒のような鬼を殲滅する覚悟も妖夢にはない。ただ自分のために鬼殺隊に入った。そんな自分に鬼殺隊の柱は相応しくない。

 

 

「半端な覚悟で柱になられても士気が下がるだけだァ……嫌なら辞めちまえ、馬鹿がァ」

 

「……」

 

「不死川くん……!」

 

 

 実弥の強い言葉をカナエが窘めるが、妖夢にはむしろありがたかった。やはり自分は柱に相応しくない、それが再認識できた。

 

 

「確かに……鬼殺隊の子供達はそれぞれ強い想いで戦ってくれている。だけどね妖夢、私はそれ自体は重要ではないと思う」

 

「……?」

 

「君は自分のために鬼殺隊に入ったのかもしれない。けれど君の行いのおかげで命を救われた者は大勢いる。当人がどう思っていても……何をするか、何を成すかが重要なんだよ」

 

「そうだよ妖夢ちゃん! 妖夢ちゃんがいなかったら私、今ここにいないもん!」

 

 

 お館様、それに華日の言葉で妖夢は唇を噛みしめた。そうな風に言ってくれるなんて、ありがたい限りだ。それでも、まだ自分は柱に相応しくないという考えは拭えない。

 

 

「妖夢ちゃん……お館様の仰る通り。あなたのお陰で私は今ここにいる……誰がどう言おうが、妖夢ちゃんは私の命の恩人よ」

 

「カナエさん……」

 

「それでもあなたが自分を許せないなら……私の想いをあなたに託してもいいかしら? 鬼に殺される人達を少しでも助けたい、その想いをあなたに託すわ」

 

「……!?」

 

 カナエは妖夢の手を握り、自身の刀の鍔を妖夢に渡した。妖夢なら自分の想いを継いでくれる、継げると信じていることの表れだ。

 

 

「妖夢……君は凄い子だ。これからは鬼殺隊の柱として、人々を助けておくれ」

 

「……御意」

 

 

 妖夢は涙を流しながら深々と頭を下げた。自分の行いが人の助けになっていた、他の皆と同じように戦ってもいいんだよと認められた気がして、妖夢の心は救われた。

 

 

「素直じゃねぇな不死川よ。発破をかけるにしても地味すぎるぞ」

 

「俺は本心を言っただけだァ」

 

 

 こうして伊黒は蛇柱、華日は二人目の水柱、そして妖夢は黄泉柱に就任した。上弦の弐を倒した以上、これまで以上に鬼の動きは活発になるだろう。それでも必ず自分の代で鬼舞辻無惨を倒してみせる。お館様だけでなく、それぞれがその想いを胸にこれまで以上に任務に励むのだった。

 

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