半人半霊に転生した少女は生きるために鬼を狩る   作:マルメロ

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十二鬼月

 

 

 狭霧山を後にした妖夢と華日は、北の町に向けて歩いていた。道中鴉から聞いた話では、その町では夜な夜な人々が行方不明になり、後日近くの川で干からびた死体で発見されるらしい。鬼殺隊は何度か隊士を送り込んでいるが、尽く行方不明になっていた。

 

 

「──という連絡を四日前にもらってたの」

 

「4日前!? もっと早く言ってくださいよ幽々子様!」

 

「……幽々子様?」

 

 

 ちなみに妖夢は鴉に“幽々子”と名前をつけた。理由は見た目が何となく似ていたからだが、これではどちらが主人なのかわからない。

 

 

「あ! 見えてきたよ、あの町じゃない?」

 

 

 華日が指さす方角を見ると、確かに町があった。それもそこそこ大きな町だ、あそこで鬼を探すとなると、もしかしたらかなり時間がかかるかもしれない。

 

 

「あれぇ? なんで誰も歩いてないの?」

 

「……行方不明の人が続出してるから、怖がって誰も出歩かないのかも」

 

 

 町に着いたが、そこには人影が全く見当たらなかった。商店や食事処も全て営業しておらず、異様な雰囲気に包まれている。

 

 

「……これだけ町の人達が怖がってるってことは、被害者の数は私達が思ってたより多いのかも」

 

「確かに……! 妖夢ちゃん頭いい!」

 

 

 鬼は強くなれば強くなるほど、人を喰う量も多くなる。人を沢山喰っている鬼は即ち強い鬼、ならばこの町にいる鬼はかなりの強者の可能性が高い。

 

 

「……あの人って」

 

「え? …………あ! 最終選別の時の!」

 

 

 その時、妖夢が通りの向こう側で人影を見つけた。最初は町人だと思ったが、違う。隊服を着ているし、見覚えがある顔だ。最終選別で妖夢と華日以外に生き残った唯一の合格者だ。

 

 

「お〜い! こんにちは〜!」

 

「……お前達か」

 

「こんなところで会うなんて奇遇だね! そっちも任務?」

 

「ああ」

 

 

 華日が話しかけると、少年は嫌そうな顔をしながらも受け答えしてくれた。この間は無視されてしまったので、一歩進展と言ったところだろう。

 

 

「一緒の任務なら名前くらい教えてくれないとやりづらいんだけど?」

 

「……伊黒小芭内」

 

 

 妖夢が言うと、少年は渋々名乗ってくれた。伊黒小芭内、それが彼の名前らしい。同期の名前すら知らないのは少し虚しいので、これは素直に嬉しかった。

 

 

「じゃあ伊黒くん! せっかくだし情報を出し合おうよ!」

 

「いや私達まだ何も知らないでしょ」

 

 

 妖夢と華日はまだこの町に来たばかり。それに町民の姿がないので情報収集しようにも宛がない。

 

 

「行方不明になったのは全員二十歳未満の若者だそうだ。それと……人が消えるのは日付が変わる前に集中しているらしい」

 

「伊黒くん凄い! でも町の人もいないのにどうやって調べたの?」

 

「閉じこもっていた居酒屋の店主を無理やり引きずり出した。それくらい当然だ、そもそもお前達は鬼を狩る覚悟が足りない。だから情報収集すらろくに出来ない。執念が足りない、信念が足りない」

 

「うぅ……ごめんなさい」

 

(すっごいネチネチしてんな……蛇みたい)

 

 

 ネチネチと文句を言う伊黒と謝り倒す華日、そしてそれを横目で若干引いている妖夢。中々カオスな状況だが、まずは鬼の痕跡を見つけないと話にならないということで、3人それぞれ別れて調べることとなった。

 

 

「じゃあ夜明けにまたこの場所で、なにかあったら鎹鴉で連絡して」

 

「うん!」

 

「わかった」

 

 

 妖夢は二人と別れて町の西側に移動した。日も沈み出しており、そろそろ鬼の活動する時間だろう。警戒を怠らないようにしつつ、周囲の状況を観察する。

 

 

「幽々子様、この辺りに人影はありませんでしたか?」

 

「ええ、人っ子一人見当たらないわ」

 

 

 鎹鴉にも上空から探してもらうが、やはり人影はない。まるで人が丸ごと町から消えてしまったみたいだ。伊黒が話を聞けたのだから、少なくとも人はいるはずなのに。

 

 

(おかしいな……いくら鬼が怖いからって、こんなに人が見つからないことがある? 生活もあるだろうし、誰一人外に出てないのは不自然……)

 

 

 こんなに人と遭遇しないことはありえない。町の人々にも生活はあるはずなのに、一日かけても一人も見つからない。考えられないことだ。

 

 

「きゃあああああ!!!」

 

「……!!?」

 

 

 その時だ、そう遠くないところから悲鳴が聞こえてきた。妖夢はすぐに声が聞こえてきた方角へと駆け出した。角を何度か曲がると、女性が何かに引きづられている場面に遭遇した。

 

 

「た、助け……助けて……!」

 

(何アレ……!?)

 

 

 女性は妖夢を見ると、手を伸ばし必死に助けを求めた。よく見ると彼女の身体に何本もの管のような物体が刺さっており、それに引っ張られていたようだ。

 

 

(鬼の血鬼術……!? とにかく、まずはあれを斬らないと!)

 

 

 特定の鬼が持つ異能、血鬼術。直接見るのは初めてだが悠長にはしていられない、妖夢はすぐに刀を抜き技を繰り出した。

 

 

「風の呼吸……弐ノ型!」

 

 

爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)!!! 

 

 

 一気に彼女の身体に刺さった管を斬り裂いた。解放され、地面に倒れ込む女性を庇いながら妖夢は管を注視した。

 

 

「動けますか? 安全な場所へ逃げてください」

 

「あ……ありがとう……!」

 

 

 女性がよろけながらも逃げるのを確認すると、妖夢は刀を管に向けて構えた。その管はどうやら地面から伸びているようであり、斬られた方は動かないが地面から伸びてきている方は未だ触手のように奇妙にうねっている。

 

 

「うわキモ……私こーゆーの苦手なんだけどな」

 

 

 顔を青くしながらこの管を分析する。恐らくこれは鬼の術の一部であり、本体は別でどこかに身を潜めているはず。相当な人数を喰っているなら身を隠すのも上手い、居所を突き止めるのは難しい。

 

 

(ま、私なら楽勝だけど……)

 

 

 しかし妖夢は別だ。霊感が強い彼女は、その人物に取り憑いている霊魂を視認することが出来る。そしてこの鬼は今まで見てきた鬼よりも遥かに多くの魂に憑かれている、どれだけの人を喰ってきたのか。

 

 

(本体は……あっち!)

 

 

 当然、憑いてる魂は本体に近づけば近づくほど見えやすくなる。妖夢はより多くの魂が集まっている場所に向けて駆け出した。

 

 

「もう……! キモイから近づいてくんなー!」

 

 

 迫り来る管を斬りながら妖夢は町の外れにある一軒の家屋へと入っていった。少し大きい造りだが、他は一般の家と変わりない。中からは微かに血の匂い、そして何かただならぬ雰囲気を感じた。

 

 

(あの部屋……あそこだけ魂の流れがおかしい、あそこだ!)

 

 

 長い廊下の一番奥、一際大きな部屋を気づかれぬように覗き込んだ。そこには明らかに人ならざるもの、異形の鬼がいた。周囲には何人もの死体、それらには全て鬼から繋がっている管が突き刺さっていた。

 

 

「う〜ん、やっぱり人間は血……よね。肉なんて下品で食べられたもんじゃないわ♡」

 

 

 その鬼は比較的人間に近い見た目をしていた。しかし、頭から2本の角が生えているし、何より背中から大量の触手に似た管が生えている。とても人間には見えない。

 

 

「ねぇ、アンタもそう思うでしょ?」

 

「……!?」

 

 

 気づかれていた。身を隠して部屋の中の様子を伺っていたにも関わらず、妖夢の存在にその鬼は勘づいていたのだ。もう隠れることは出来ない、妖夢は刀を構えながら鬼の前に姿を表した。

 

 

「また来たのね、鬼狩りが。アタシに上質な血を提供してくれて感謝するわ♡」

 

(今まで見てきたどの鬼よりも憑いてる魂が多い……! この鬼、強い……!)

 

 

 刀を握る手に汗が滴る。しかし、その緊張感よりも気になることが一点あった。この鬼、口調こそ女性的だが見た目はどう見てもおじさん。口紅など、化粧をしているがまるで逆効果……つまり。

 

 

(オカマだこいつ! 鬼にもオカマとかいるの!? クレしん映画の敵で出てきそう!)

 

 

 そう、この鬼は所謂オカマ、或いはオネェだったのだ。それ自体を別に否定はしないが、『にしても緊張感無くなるな』と妖夢は少し拍子抜けした。

 

 

「さぁ……アンタもアタシに血を寄越しなさい!」

 

「……!? 風の呼吸、肆の型!」

 

 

昇上砂塵嵐(しょうじょうさじんらん)!!! 

 

 

 伸びてくる管を叩き斬る。速度と精度ともにかなり高い、自分の身を守るのに精一杯で反撃に転じることが出来ない。

 

 

「アタシはね……綺麗な状態の人間から綺麗な血だけを頂くのよ、それが一番美味だから」

 

(こいつ……見た目はふざけてるのに……! 四方八方から管が伸びてきて、攻めきれない!)

 

 

 妖夢は歯を食いしばり焦りを見せる。このままでは頸を斬る前にこっちがやられる、なんとかしたいが防御だけに全神経を使っている。

 

 

「そろそろ終わりにしようかしら?」

 

 

血鬼術 暗黒誘致(あんこくゆうち)

 

 

(……目の前が!?)

 

 

 真っ暗になった、そう思った次の瞬間には肩に激痛が走っていた。視界を奪われた隙を突かれて攻撃を受けてしまったのだ。

 

 

「いかがかしら? 対象の視力を奪うアタシの血鬼術は♡」

 

「……ッッ!」

 

 

 手探りで肩に刺さった管を探し、斬り落とす。そのまま後方に飛び一旦距離を取った。しかし状況はよくない、目が見えなくては格段に戦いにくくなる。

 

 

「うふふ……ホラ次行くわよ、頑張って♡」

 

(来る……! なにか……なにか手は……!)

 

 

 身構えるが、見えていないので回避のしようがない。何とか目が見えなくても戦う手段はないかと、短い時間の中で懸命に考える。そこで妖夢はとある策を思いついた。

 

 

「ここ……!」

 

(……! 避けた?)

 

 

 妖夢は間一髪で管による攻撃を避けた。目が見えてないはずの相手が攻撃を避けたことに鬼は驚きの表情を浮かべる。まぐれか? と思い、続け様に攻撃を浴びせた。

 

 

(見えなくてもわかる……! アイツの全身から、霊魂達の感情をビンビン感じる……!)

 

(なるほど……何かしらの感覚が鋭いのね。肌? 鼻? 耳? ……いえ、どれもしっくり来ない)

 

 

 鬼の全身から感じる魂達の憎しみ、怒り、悲しみ。それを肌で感じ取った妖夢はギリギリのところで攻撃に対応できていた。その動きを鬼は冷静に分析する。

 

 

「面白いわね。でも所詮は感覚頼り……いつまでアタシの攻撃を凌げるかしら?」

 

 

 確かにしのげてはいる……が、感覚に頼りきった動きでは頸を的確に狙うことはできない。それに守るのに精一杯で攻撃にとても移れないのだ。

 

 

「水の呼吸……壱の型!」

 

「……!?」

 

 

水面斬(みなもぎ)り!!! 

 

 

 その時、鬼の背後から斬撃が浴びせられた。回避したが、僅かに斬られた箇所から血が吹き出す。

 

 

(……! 目が戻った……!)

 

「大丈夫、妖夢ちゃん?」

 

「華日!」

 

 

 華日の手助け、そして彼女が鬼に斬撃を入れた瞬間に妖夢の視力が戻った。状況が目まぐるしく変わる、思考を止めずにこの鬼の頸を斬る方法を妖夢は考える。

 

 

「醜い鬼め……こんなところに隠れていたのか」

 

「伊黒さんも!」

 

「大人しく頸を斬られろ……ゴミ屑が」

 

 

 更に伊黒も助太刀に入ってくれた。これで3VS1、状況は圧倒的に有利になった。しかし鬼はそれでも笑みを崩さなかった。

 

 

「あらあら……3人になったからって、それで勝てると本当に思っているの? この十二鬼月……下弦の弐、啜美(せつび)様に♡」

 

 

 妖夢は2人の隣に立ち、刀を構える。敵の血鬼術の詳細はまだ不明、しかし攻略の糸口は掴めた気がする。勝機は見えた。鬼の頸を斬るため、妖夢は刀を振るう手に一層力を込めるのだった。

 

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「この先ね、鬼の目撃があった町は」

 

「ああ」

 

 

 妖夢達が激闘を繰り広げている町に向けて、二人の男女が走って移動していた。その速度はとても人間とは思えない、異次元の速度だ。

 

 

「癸の隊士がまた何人か町に入ったそうよ、その町に十二鬼月がいるとしたら……少し荷が重いわよね」

 

「死んだらそれだけの人間だったってことだろォ?」

 

「もう……厳しいわね。えっと、お名前は確か……伊黒小芭内くん……桜乃華日ちゃん……それと、魂魄妖夢ちゃん」

 

「……!!」

 

 

 花柱、胡蝶カナエ。そして柱ではないが高い実力を持つ剣士、不死川実弥。二人は鬼の被害が多発しているという町に派遣されてきたのだ。御館様の考えでは、そこには十二鬼月がいるらしい。

 

 

「……? 不死川くん? もしかして知り合いなの?」

 

「……」

 

 

 カナエの挙げた名前の中、魂魄妖夢という名に実弥は露骨に反応を見せた。それをカナエは問いかけるが、思うことがあるのか実弥は答えない。

 

 

「せっかく一緒に任務に来てるんだから、仲良くしましょうよ不死川くん」

 

「俺は鬼の頸を斬りに来ただけだァ」

 

 

 実弥は無愛想にそっぽを向くが、これは照れ隠しだ。内心カナエに惚れているので顔をまじまじと見つめることができない。

 

 

「それじゃあ急ぎましょうか。鬼の頸を斬ってみんなを助けましょう」

 

「当たり前だァ」

 

 

 次の瞬間、閃光のような光が二つ町の方に向かっていった。

 

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