半人半霊に転生した少女は生きるために鬼を狩る   作:マルメロ

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百鬼夜行

 

 

 夜になり、妖夢は実弥と共に再び美術展へと向かった。営業時間はとうに終わっているので、辺りは静けさに包まれている。

 

 

「入口は鍵がかかってます。裏口を探しますか?」

 

「めんどくせェ。正面から突破するぞォ」

 

 

 そう言うと実弥は刀で入口の扉をぶった斬り、そのまま中へと入っていってしまった。少々乱暴ではあるが、この胆力と自身は妖夢も見習いたいところだ。

 

 

「やけに静かだが……確かにいやがるなァ」

 

「え!? わかるんですか?」

 

「ああ……醜い鬼の気配を肌で感じるぜェ」

 

 

 館内は一見すると静かで、薄暗さの中は静寂に包まれていた。しかし実弥は確かに鬼の気配を感じ取ったようだ。そして妖夢もまた、彼とは少し違うが感覚が鋭い。神経を集中させ、慎重に館内を調べていく。

 

 

 1階、2階と部屋を一つずつ探索するが変わったところは見当たらない。残すは2階の奥にある個室だけになった。

 

 

(……! あそこ、昼間にはわからなかったけど……あそこだけやけに霊魂が集まってる!)

 

「お前も気づいたかァ?」

 

「……はい、いますね……あの部屋に」

 

 

 二人共その部屋の異変を感じ取った。確実に鬼がいる、しかもかなりの強さの鬼が。実弥が乱暴に扉を蹴り飛ばし、部屋の中へと突入する。

 

 

「来たのね。会えて嬉しいわよ鬼狩り!」

 

「……!」

 

 

 中にいたのは20代くらいの見た目をした女性。髪を後ろで束ね、上品な着物を身にまとっている。一見すると美しい女性だが、顔には黒色の痣があり白目が黒く染まっている。普通の人間とは思えない。

 

 

「へぇ……そっちの傷だらけのアンタ、強そうね……柱かしら?」

 

「だったらどうしたァ?」

 

「嬉しいのよ。柱を喰えば私は更に強くなれる! わざわざご馳走を届けてくれて感謝するわ!」

 

「ハッ! 喰えるモンなら喰ってみやがれェ!」

 

 

 鬼との対話など不要。実弥は足を踏み込むと一気に鬼に向けて突撃して行った。刀を抜き、先制の一撃を繰り出す。

 

 

「風の呼吸……壱ノ型!」

 

 

塵旋風(じんせんぷう)()ぎ!!! 

 

 

「あは! 速いわね! いいわよ、想像以上!」

 

「チッッ!」

 

 

 並の鬼ならば頸を斬られていたであろう一撃を、簡単に避けられてしまった。流れるように放たれた蹴りをくらい、実弥は部屋の外まで吹っ飛ばされた。

 

 

「不死川さん!」

 

「ここじゃ狭くて堪んない。もっと広いところでやりましょう!」

 

「……!?」

 

 

 吹っ飛ばされた実弥を追い、妖夢は部屋を飛び出した。しかし鬼に追いつかれ、かかと落としで地面に叩きつけられた。床をぶち破り、一階の大広間まで落とされてしまう。

 

 

「ゲホッ……!!」

 

「アンタもそこそこ強そうだけど、柱程じゃなさそうね。あの男を殺した後で遊んであげるから邪魔しないでよ」

 

「その必要はねェよクソ虫がァ!」

 

「……!」

 

 

 倒れる妖夢を見下ろす鬼。しかし復帰してきた実弥が連撃を浴びせた。それらを全て避けきり、鬼は背後に飛んで一旦間合いを取る。

 

 

「今までで一番手応えがあるなァ……! それにその眼、上弦の陸かァ! 上弦と遭遇するのは初めてだぜ!」

 

「上弦……覚えときなさい鬼狩り。私の名は彩葉……元上弦の陸。そしてアンタを喰って上弦に返り咲く女よ!」

 

 

 彩葉と名乗った鬼の両目には上弦、陸、の文字。そしてその上から傷のように罰印が刻まれている。察するに元々は上弦であったが、何らかの原因で追放されたのか? もしそうだとしたら、元上弦でこの強さだということだ。

 

 

「見せてあげるわ、私の血鬼術!」

 

「……!」

 

 

血鬼術 “浮世絵図(うきよえず)”!!! 

 

 

 彩葉が指を鳴らした。しかし何も起こらず妖夢は困惑する。だが次の瞬間、背後から迫ってくる気配に気づき振り返った。

 

 

「弓矢……!?」

 

 

 どこからともなく飛んでくる無数の弓矢。それを刀で叩き落とすが、どこから飛んできたのか全くわからなかった。それを思考していると、すぐに次の攻撃が襲ってくる。

 

 

「グルゥゥゥ!!!」

 

「今度は熊……どうなってるの!?」

 

 

 数頭の熊が妖夢に襲いかかってくる。さっきまではいなかったはずなのに、弓矢同様いつの間にか出現していたのだ。

 

 

「風の呼吸……参ノ型!」

 

 

晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)!!! 

 

 

 迫り来る熊を撃退するが、倒しても倒しても次が湧いてくる。実弥の方も同じ状況で、大量の熊を薙ぎ倒しながら彩葉の方に進軍していく。

 

 

「どっから出てきやがる! この畜生共がァ!」

 

「頑張るわねぇ、でもこれはどうかしら?」

 

 

墨雷(すみいかずち)”!!! 

 

 

「ガァッッ!!」

 

 

 今度は天井付近に浮かんでいる雷雲から雷が放たれた。モロに受けてしまった実弥は怯み、膝をついた。

 

 

(さっきまで何も無かったのに……!? どうなってるの!? アイツの血鬼術は……!)

 

 

 彩葉の血鬼術の謎を解明しなくては勝てない。ヒントはどこかにあるはずだ。少なくとも無条件で何でもかんでも物を出せるのならば、もっとやりようはある。それをしないということは、何か条件があるということ。

 

 

(……! あの絵、真ん中が抜けてる? あれも……あれもだ!)

 

 

 周りを見渡した妖夢は気づいた。美術展用に飾られている数多の絵画、それらの中に不自然に内容が抜け出ているものがある。まさか……と絵を注視しているとその中の一つ、決闘している侍達の絵から侍が一人飛び出してきたのだ。

 

 

「やっぱり……! ッ!」

 

 

 実体化した侍の刀を受け止め、弾き、斬り伏せる。実力自体は大したことないようだが、熊のように大群で来られたらさすがに分が悪い。

 

 

「不死川さん! コイツの血鬼術は絵から人や物を取り出すことができるみたい! 周りの絵に注意して!」

 

「……なるほどなァ!」

 

 

 叫び、敵の血鬼術を共有する。それを聞いた実弥は相手にしていた熊、避けていた雷をくぐり抜け彩葉に向かっていった。絵を無限に実体化されるならば、本体を叩くしかない。それを瞬時に判断したのだ。

 

 

「風の呼吸……弐ノ型!」

 

 

爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)!!! 

 

 

「いッッ……たいわねぇ!」

 

 

 爪のような斬撃が彩葉の腕を斬り裂く。元上弦の鬼ならばすぐに回復するだろうが、実弥はその隙を与えない。

 

 

(私も援護しなきゃ……!)

 

 

 連撃を繰り出す実弥。短期決戦をするつもりならば、それをアシストするのが妖夢の役割。ものすごい速さの技の間を抜け、彩葉の身体に刀を振るう。

 

 

木枯(こが)らし・(おろし)!!! 

 

 

黒風烟嵐(こくふうえんらん)!!! 

 

 

 妖夢の伍ノ型で怯んだ彩葉の頸に、実弥の陸ノ型が届いた。さすがは元上弦、頸の硬さも尋常ではないが……落とせる! 

 

 

「このまま畳み掛けるぞォ!」

 

「はい!」

 

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 

「……ッ! 魂魄!」

 

 

 瞬間、妖夢は腹を蹴られて壁に叩きつけられた。痛みはあるが致命傷にはならない。何故なら蹴った相手は彩葉ではなく実弥、敵の攻撃から守ってくれたのだ。

 

 

「何……アレ?」

 

 

 実弥と二人で畳み掛けていたのに、一瞬で吹き飛ばされた。彩葉の方を見ると先程までいなかった大男が姿を現していた。赤い顔に長い鼻、そして背中の翼。伝承上の妖怪、天狗の姿だ。

 

 

「お気に入りの絵は持ち歩いてるのよ。この子は強いから気をつけなさい」

 

「不死川さん……!」

 

 

 あの瞬間、顕現した天狗が起こした突風によって攻勢は覆された。強力な風の中に斬撃が混じっていたようで、周囲の柱はバラバラになっており、吹き飛ばされた実弥は身体中に切り傷を負っている。

 

 

「あらあら……弱い方を庇ってくれて助かるわね。頼みの綱の柱が虫の息よ」

 

「ッッ……!」

 

 

 吹き飛ばされ、斬られ、柱に叩きつけられた実弥。意識はありそうだがかなりのダメージを受けてしまったのは確かだ。

 

 

「……助かる? ああ、助かるぜェ……! 自分で斬る手間が省けてなァ!!」

 

 

 ──風の呼吸……捌ノ型! 

 

 

初烈風斬(しょれつかぜぎ)り!!! 

 

 

「な……!?」

 

 

 しかし実弥は即座に動き、彩葉に斬りかかった。常人ならば動けなくなるような傷なのに、実弥は技の精度を落とすことなく繰り出している。これには彩葉も驚愕の表情を隠せない。

 

 

「なんで動けんのよアンタ! ホントに人間!?」

 

「テメェを殺すまでくたばるかよォ! ボケがァ!」

 

 

 実弥の頑丈さ、タフさは鬼殺隊の中でも随一。そしてそこに異常なまでの執念を加えれば鬼の頸を斬るまでしなない怪物の誕生だ。

 

 

「チッ! コイツを殺しなさい!」

 

「……!」

 

 

 天狗が迫ってくる。彩葉に攻撃をしつつ天狗も相手するのは実弥でもきついかもしれない。それを感じ取り、妖夢は天狗の攻撃から実弥を守ろうと動く。

 

 

突風旋風(とっぷうせんぷう)”!!! 

 

 

「漆ノ型!」

 

 

勁風(けいふう)天狗風(てんぐかぜ)!!! 

 

 

「……!」

 

「コイツは私に任せてください!」

 

 

 天狗の攻撃を技を出して防いだ。柱の足を引っ張る訳にはいかない、例え実力で劣ろうともやれることはあるはずだ。

 

 

「さっさと頸を差し出しやがれェ!」

 

(なに……? 視界がふらつく……)

 

 

 実弥の攻撃を避けていた彩葉は異変に気づいた。何故かフラフラするし、足がおぼつく。明らかに様子がおかしい、何かされたとしか思えない。

 

 

「おいおいどうした!? 足元がお留守だぜェ!」

 

「ッッ……!」

 

 

 足を蹴られ、倒された。そこに刀を叩きつけられ頸を斬られそうになるが、地面を転がることで何とか避けた。しかし視界のふらつきは治まるどころか強まるばかりだ。

 

 

「アンタ……何をしたのよ!?」

 

「上弦にも効くみてぇだなァ俺の稀血は! 強い鬼ほど激しい酩酊させる希少な血だ! 存分に味わいやがれやァ!」

 

「稀血……!?」

 

 

 稀血による酔いで避けるのが精一杯になってきた。実弥の稀血は稀血の中でも更に希少、相手の鬼が強ければ強いほどよく効く特殊な血だ。

 

 

(コイツ……! 今まで殺した柱にもこんな奴はいなかったわ……!)

 

 

 酔うという感覚がそもそも久しぶり、加えて相手は鬼殺隊最強クラスの柱。元上弦の彩葉とはいえ不利な状況だ。

 

 

(ああ……イラつく! 上弦を追放されてから百年余り……人を喰って蓄えてきた力……こんな奴ら相手に出すことになるなんて……)

 

 

 ──だけどもう、手加減してる場合じゃない

 

 

「血鬼術……!」

 

 

百鬼夜行(ひゃっきやこう)”!!! 

 

 

「ガッッ……!?」

 

「ッッ……!!」

 

 

 実弥と妖夢が吹き飛ばされた。彩葉を攻めていた実弥も天狗を倒そうとしていた妖夢も、まとめてだ。

 

 

「ゲホッ……! 何が……!」

 

 

 腹に何本もの骨を刺された妖夢は何が起きたかわからず倒れ伏す。何とか致命傷は避けたが、どんな攻撃をされたかもわからないがそれはすぐにわかることになった。顔を上げた妖夢の眼に映ったのは、巨大なガイコツや火車、ろくろ首、海坊主、雪女。その他多数の妖怪達、そしてそれを束ねる彩葉の姿だった。

 

 

「この距離で受けたのにまだ生きてるの……呆れた生命力ね」

 

「ぐふッ……!」

 

 

 少し距離のある場所で戦っていた妖夢ですら大ダメージを受けたのだ。彩葉と接近戦をしていた実弥は更に多くの妖怪の攻撃を受け、致命傷を負ってしまった。牛鬼のような妖怪に左腕を噛みちぎられ、雪女に下半身を氷漬けにされ、火車には全身を焼かれた。それでも生きているのは彼の生命力故だろう。

 

 

「稀血……希少な稀血……いいわね、最高のご馳走だわ。私への無礼も許してあげる……私の血肉となり、上弦までの礎になりなさい」

 

「クソ……がッ……!」

 

「不死川さん……! ……ッッ!」

 

 

 実弥にトドメを刺そうとする彩葉。それをどうにか止めようと妖夢が動くが、巨大なガイコツの拳で殴られ吹っ飛ばされた。実弥の元に辿り着くには妖怪軍団をくぐり抜けなければならない。ダメージを受けた今の妖夢では不可能だ。

 

 

「不死川さん……!」

 

「死になさい!」

 

 

 動けない実弥の心臓に彩葉の手刀が突き刺される。妖夢の叫びも虚しく、実弥の命は無常にも刈り取られた。

 

 

「……音の呼吸……伍ノ型!」

 

「……!」

 

 

 だが……そうはならなかった。彩葉と実弥の間に、割り込む者がいたからだ。

 

 

鳴弦奏々(めいげんそうそう)!!! 

 

 

「な……!?」

 

 

 突如起こった爆発により妖怪達は吹き飛ばされ、彩葉自身も皮膚を焼かれた。何が起こったのか把握出来ていない彩葉を他所に、実弥は救出される。

 

 

「だ……大丈夫ですかぁ!」

 

「援護するから一旦離れな!」

 

「まずは傷を治療しなきゃ……!」

 

「……え?」

 

 

 そして妖夢の方にもクナイで戦う三人の美女が援護に入った。妖怪を相手に時間稼ぎをし、妖夢が治療する時間を稼いでくれるようだ。

 

 

「お前がここまでやられるとはなぁ……ド派手な血鬼術だ」

 

「……宇隨」

 

「派手に時間を稼いでやる、その間に治療しろ」

 

 

 音柱、宇髄天元。そして三人の妻である雛鶴、須磨、まきを。ここに来ての柱の援軍、鬼殺隊一の派手男が見参だ。

 

「こっからは俺が相手だ妖怪女! 祭りの神、宇隨天元様の御通りだ!」

 

「……今度は誰?邪魔すんじゃないわよ!」

 

 

 柱ですら押される彩葉の強さ、それが現上弦ではないという絶望。それらを全て吹っ飛ばす、祭りの神が到着した。この激闘の行方がまた、誰にもわからなくなった。

 

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