高校生が漫画を買うだけの話

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田舎の高校生と夏

 朝、俺はボロボロのコンクリート道路を自転車で走っていた。

 

 照りつける日差しが頬や腕を焼き、汗と一緒に、さっき塗った日焼け止めも流れていく。

 一旦自転車を止めると、風がなくなり、汗が生ぬるく肌に張りついて、不快になる。

 

 俺の自転車はマウンテンバイクなので、籠がない。

 飲み物に口をつけるには、いちいちリュックから水筒を取り出さなきゃいけない。

 氷を入れてきた水筒の冷たい水を飲みながら、スマホの時計を見ると、もう10時を過ぎていた。

 

 

 今、俺がなぜこんな暑い中を走っているかというと、予約していた本を受け取りに行くためだ。

 

 別に、特別な本というわけじゃない。

 街中の本屋なら、予約せずとも並んでるような漫画だ。

 

 でも、俺の行く小さな書店では、超メジャータイトル以外の漫画はまず置いてない。

 だから俺の好きな本を読むには、いちいち予約しないといけない。しかも届くのは発売日より数日遅れだ。

 

「じゃあ、街中の本屋に行けば?」って思うかもしれない。

 でも、電車とバスで往復すれば余裕で1000円は飛ぶ。

 そんなの気軽に出せる金じゃない。

 

 田舎は物価が安いってよく言われるけど、安いのは野菜くらいで、漫画も文房具もイヤホンも都会と変わらない。

 通販しようにもカードは持ってないし、プリペイドカードを売ってるコンビニも近くにない。

 

 結局、いちばん安く手に入れるには、自転車を走らせるしかないのだ。

 ただし、この辺りで自転車を走らせるには、ちょっとしたコツがいる。

 

 まずは道路選び。坂道じゃないこと、交通量が少ないこと、そして、舗装が荒れていないこと。この三つは最低条件だ。

 

 この辺の道は細いから、車通りが多いと、真面目に死ねる。

 舗装がガタガタな道だと、タイヤがあっという間にダメになる。実際、友人は半年でタイヤを二つ潰していた。

 

 それから、木陰も避けたほうがいい。

 木陰には虫が大量に潜んでいて、蜘蛛の巣がまとわりついたり、よくわからない毛虫で腕が腫れたりすることがある。

 

 そんなわけで、日差しにあぶられながら、片道1時間半を走り続ける。

 道中、自販機はあるにはあるけど、夏場の自販機は虫の巣みたいになってるので使いたくない。

 夜中なんか、蛾やクワガタに混じって、猫まで寄ってくる。

 なんで猫が? って?

 ──あいつら、自販機に集まったクワガタを食うんだよ。

 

 

 そんなことを思いながら走っていると、潮の生臭い匂いがしてきた。

 テレビなんかでは「海を見ると悩みを忘れる」なんて言うけど、うちの海も忘れられるかもしれない。

 

 グレーの底の見えない海。

 カメノテが張りついた岩礁。

 打ち上げられた気持ち悪い海藻。

 

 その陰鬱さに、悩みとともに命も消えるだろう。

 

 釣り人はたまにいるが、いつも同じおっさんだけだ。学生が釣具を買うにも場所が遠いし、道具も高い。それに、休む場所も、荷物を置く車もない。

 

「じゃあバイトすれば?」と思うかもしれない。

 

 でも、学校はバイト禁止だし、そもそも働ける場所もほとんどない。

 高校生でもバイトできるようなチェーン店は、先生たちも来るから、やってるのがバレるのも時間の問題だ。

 バイトが認められているのは、家業、宗教、新聞配達くらい。新聞配達も苦学生向けで、ここ十年以上、やってる生徒はいないらしい。

 

 

 足代1000円のための自転車漕ぎ。往復3時間。

 時給換算すると333円。最低時給割れだ。

 ようやく本屋にたどり着く。

 

 中はエアコンが効いていて、ようやく涼しい。

 しばらく店内を眺めるが、本のラインナップは相変わらずだ。

 

 予約していた本が届いているか店員のおばさんに聞くと、棚から目当ての漫画が出てきた。

 1冊、880円。

 足代より安いや。


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