カントー地方クチバシティ、その郊外にある邸宅にて。
朝の陽ざしを受けてポッポをはじめとした鳥ポケモン達が活動している中、家の主は熟睡していた。ベッドルームにかかる分厚い遮光カーテンは黒い霧も吃驚の闇をもたらし、陽光が届く余地すらない。このままいけばきっと
≪ギャギリリリリリリリリリ!!!!≫
だがそうはさせじとベッドルームは金属音と嫌な音で満たされる。ニャースやドーミラーのデザインが施された立派な目覚まし時計だった。
ニャースの小判やドーミラーのボディを模した金属板が派手に振動し、けたたましい不快音でもって持ち主の覚醒を促す。
気持ちよさそうに寝ていた家主が顔を顰め、覚醒の扉を開く寸前。
「ぐおぅ!!」
その隣で丸まって寝ていた赤き猛獣が煩わし気に尾で一閃。
安眠の世界が取り戻され、平穏を手にした家主と猛獣は再び心地よさげな顔を浮かべている。
なお、家主のスマホロトムは寝言で火炎放射でも受けたらたまらないと近寄れない。情けない悲鳴が邸宅からあがるのは2時間後であった。
家主は一般的な男性トレーナー。家主の傍にいるのはメスのリザードン。
この物語に大きな冒険はない。有名トレーナーと積極的に関わることもない。ポケモンカードのイラストからストーリーを考察する話でもない。ただ、ポケモンが好きな人間達に愛されて育ったポケモン達、その日常の一端を切り抜いただけの話だ。
『失われた野生~case.リザードン~』
突然だが自慢話をしよう。
私が住む、この家は広い。規模で言えばちょっとした豪邸と言えるかもしれない。
これだけでは伝わりにくいだろうから、自慢を続けよう。
柱を少なく、しかし天井は高く、開口幅も広く。そんな無茶ぶりに完璧に応えたリビングルーム。
採光をこれ以上なく取り入れる天井高一杯のフルサッシ仕様の窓。
滑らず、頑強で、それでいて重厚感がある木材(名前忘れた)使用のフローリング。
とりあえず置いておけば高級感でそうという理由で購入設置したL字ソファ。
とりあえず置いておけばなんかオシャレという認識で依頼設置した、匠がデザインしたとかいうアート本棚と飾り棚。
横から出しゃばった知人の細かな指摘と言う名の要望を全て叶えたゆとりある広さをもったキッチンルーム。
私の要望全てを叶えた結果誕生した蛇口とシャワーがついた大きな玄関。
その玄関から入ってすぐの位置に存在するバスルーム。
火事に備えて瞬時に室内をみずびたし状態にできるスプリンクラーシステム。
寝室とマイルームについては語るまでもないだろう。
あらゆる将来を見越した空き室(現在は段ボール置き場)も複数あるし、2階はゲストルームも用意されている。
広い庭、緊急用地下室、趣味の物品を詰め込んだ結果ちょっとした立体パズルと化してしまった物置etcetc……ともかく、素晴らしい住環境だ。
なお、私は別に資産家ではない。
ホエルオージャンボで夢を手にして調子に乗った結果がこの邸宅なのだ。将来的な事を考えると真面目に働かなければ大変な未来が待っているとだけ言っておこう。現金一括購入という見栄貼った結果の馬鹿な結末と笑いたくば笑うがいい。
それほどまでにこの家が良かったとか、そういう夢があったとか、一度はやってみたかった『㎏にして数える紙幣払い』で魔が差したとかいうわけではない。しょうがなかったのだ。
私のリザードンが快適に過ごせる住環境を整えるにはこれしかなかったのである。
ポケモンはモンスターボールに入れておけば共生は成る。
極論として解釈可能なこの一文だが間違いはない。むしろボール無くして人間とポケモンは共生が難しいとすら言えるだろう。レアコイルを街中で放し飼いにするトレーナーがいようものならそいつはただのテロリストだ。
ボール内環境については我々人間が味わえるものではないが、ポケモンのストレス値などを始めとした研究結果で証明されている。ゴージャスボールで捕まえたポケモンが懐きやすいのは洗脳でもなんでもなく、本当に心地よい環境になっているからである。ボールを嫌がるポケモンがいないわけではないが小数だ。
それを理解した上で、それでもなるべくボールに入れたくないとする人は少なくない。私もその1人だ。
新築購入に関して、食事や散歩、入眠時など必要時にボールから出すというライフサイクルであればここまで大きな家を買う必要性はないと主張した友人に対し、私は真っ向から対立した。
『彼女はヒトカゲの頃からずっと共に過ごしてきた半身に等しい。リザードンに進化してからは実家では狭くなり、窮屈な思いをさせることも少なくなかった。だからこの機会に家の中でも悠々と過ごしてもらいたい』
といった主張を貫き通した私は正しい世界にいると今でも信じている。少なくとも両親は賛同してくれた。ただ、費用問題は大きかった。40年ローン上等とするにしても、理想の家は高かった。
もはやお守り小判を抱えてお坊ちゃま達から巻きあげる非道の手段しかないのかと悩みもした。金策目的でポケモンリーグへ挑もうとしたのはおそらく私ぐらいなものだろう。
万事塞翁がギャロップ。ホエルオージャンボのおかげで私の願いは全て叶えることができたのである。
立地の妥協すらせず、リザードンが番になっても問題なく放し飼い可能にできるほどの細かな条件すら整えた新築である。もっとも理想を叶えた結果、その他諸々の出費を考慮すると無効数年は私個人の節約レベルは大変なものになったが(ポケモン達は例外だ、当然である)。家計簿で先5年の貯蓄計算をした結果、ヒトモシに魂を吸われた顔をしたのは記憶に新しい。
だが、記念すべき新築入居日。庭の方で寝そべろうとしていたリザードンが呼び止め、家にそのまま入るよう促した時に大はしゃぎして私を抱きしめ飛び回ってくれた事には予算オーバーした価値があったと思う。
私の主張の正しさは彼女が証明してくれたのだ。リビングルームで寛いでいいと言われた時、本当に嬉しい事だったに違いない。間違った選択をしなくて本当に良かったと思っている。
さて、ここまでが前振りだ。
私が自慢や苦労を長々と語っているのはイイハナシダナーでオチにする為じゃあない。というかぶっちゃけ「あぶく銭なかったら詰んでた」で終わる話を延々とするのはよろしくない。
「おっと」
「!」
「こらー、床に落ちたものは別にお前のものじゃないんだからー」
「ぐぅ」
全長1.7mにして横にも広いこの大型ポケモンが、虎視眈々と拾い食いチャンスをうかがっている。
身をかがめ、首を突っ込めるように構えている。ロケット頭突きはカメックスの専売特許ではなかったのかと言いたい。
今まさに私の手から零れ落ちたグミに向かって突撃し器用に舌で奪おうとしたのを寸前で止めたところだ。
叱ると拗ねたような顔をして一歩下がるが諦めた様子ではないのが丸わかりである。だって視線が私の手から離れないんだぞ!?
このように屋内生活を満喫してる愛しいリザードン、完全に野生を失っている。これが私の本題であり今の悩みだ。童心に返ってるのか、リザードンは実はみんなこういう性格なのか、リラックスしてる証なのかはわからないが、もうちょっと外見相応のカッコよさをキープしてくれんものか。
こいつがヒトカゲならまだ可愛かろうで許せるが、高さ1.7m重さ90.5㎏の猛獣が突進してくるのは我が半身と呼称する私ですら構えを要する。私に頭突きぶち当てないだけ、過去の躾が活かされたポケモンである部分は出ているのだが……。
いや、可愛いんですけどね? ウチのリザードン。
「りざぁ……」
なんだその不満げな声は! このグミはあくまで人間用だと言ってるでしょーが!
わかった、後でポロック用意するから! 『ならいいんだよ、はよ』ってツラすんな!!
ポケモンのSSって山ほどある上に、『ポケモンと生活』ともなるとpixivで専用タグができるぐらいあるので、ネタ被りはあるよなぁと思いつつ投稿しています(一応該当タグでリザードンで被りないかは探しましたけど)。怖いのがパクリレベルでそっくりだぞってなったケースですが、その時はごめんなさいと即消去土下座の構えしかない。
他に怒られる要素あるだろ?それはそう。
・男性トレーナー
宝くじ当たった以外は一般的なポケモン世界の住民。一人立ちしている大人。リザードン以外にも手持ちはいるし可愛がっている。一人称は『私』。
・リザードン
豪邸生活ですっかりだらけた。リザードンの野生要素維持は放牧が肝要なのだ、多分。
イメージは動物園のライオン+屋内まったり暮らしの大型犬。だいたい動画投稿サイトとか、SNSであがっている犬猫たちの失われた野生要素で性格や行動構築しています。
性格:ひかえめ(だった)
・豪邸建設
ポケモン世界の家ってそもそも普通に大きかったりしますし、なんだかんだ中型ポケモンまでなら問題なさそう。ただリザードンは横にも縦にもでかいので、のびのびするのはちょっと大変。一般的な部屋扉だと翼畳む必要ありますし。現実でも大型犬の為だけに豪邸建てる人はレアな方だとは思いますが、このトレーナーは溺愛でやらかした。