ポケモン~失われた野生~   作:鵺崎ミル

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短編思いつきですので、そのまま連続投稿


クチバシティのリザードン2

「Grrrrrr……」

 

 リザードンは大変人気のあるポケモンだ。

 リザード時代よりもひときわ目立つようになった牙や角。新たに身に着けた、大きく広がった翼。どっしりと構える両足に、より器用になった両腕。『炎』らしく感じるオレンジの体色は赤々しかったリザードよりも目立つように感じる。闘争本能を目覚めさせ、強敵を求めて大空を自由に舞い、岩をも溶かす火炎を吐くその様子は心を震わすものがある。

 

「くわぁぁぁぁ……(あくび」

 

 こう書くと暴君のようにも思えるが、格下相手には最も得意な火炎放射を自ら封じるという習性がある。誇り高き支配者とも言えるポケモンであろう。

 見た目、強さ、気性ともはや下手なドラゴンポケモンよりドラゴンしていると言って良い。もっともこの辺つっつくとドラゴンポケモン愛好家たちに怒られるのでほどほどにしておく。

 

「りっざりっざ」

 

 そう、リザードンはすごいのだ。ガラルの無敗チャンピオンを始め、相棒に選んでいるトレーナーも少なくない。無論、ヒトカゲ時代での育成難度と隔絶しているので、「御三家の中でもトラップ」とすら言われている。ヒトカゲの頃より紡いだ絆と、強い信頼関係、トレーナーとしての高い実力、その全てが要求されるポケモンなのだ。

 中には野生のリザードンを手懐けてしまう変態もいるがあんなのは例外中の例外である。

 

「……何も間違ってないはずなんだけどなぁ」

 

「ぐる?」

 

 窓を通してなおサンパワー溢れる日差しを、ごろ寝したまま浴びてまったりしてるこのりざぁどんを一瞥する。視線にすぐ気づいて、三白眼とは思えない程つぶらな瞳の印象を与えてくる表情を向けてきた。ヒトカゲかな?

 愛らしさににやける表情を笑顔に整え直してからなんでもないよと返せば、嬉しそうに一鳴きしてまた日光浴を楽しんでいる。

 

 大変可愛らしいし、ウチのリザードン最高でしょと自慢したい一方で、リザードンとしてどうなのかとも思う。これを王者の余裕とみるべきか、失われた野生とみるべきかは判断に別れるところだろう。

 実際、リザフィックバレーというリザードンの修行場とすら言われる谷の特集で、のんびり欠伸しているリザードンの様子が映し出されているのを確認している。あのお腹吸ってみたい。

 だが、傷だらけの猛者であるというのは映像越しにも伝わってきた。そう、やはり強いリザードンというのはオーラがあるのだ。私のリザードンも歴戦のつわものだ。ポケモンバトルにおいて、彼女は私のエースである。

 

「明らかに映像のとはオーラも態度も違うんだなこれが」

 

「りざぁ?」

 

 あるいは私がリザードンをパートナーにしてなお、リザードンの幻想を抱きすぎているのか。

 でもガラルチャンピオンのリザードンが、顎を置く場所ほしさにソファのクッションを寝ころんだまま尻尾ではたいて落とす姿なんかTVで見たことないぞ(むしろチャンピオンの代わりに目的地までの道のり確認したり荷物受け取ったりしっかりものな様子しか映っていない)。というか寝ころんだままなにやってんだこいつは。ものぐさな性格にするハーブでも吸ったのかお前は。

 

「りざぁ~♪」

 

 く、幸せそうだから叱れない……!!

 スマホロトムにこのでかいヒトカゲを最高のアングルで撮影しまくるよう指示を出し、私の休日は穏やかに過ぎていく。

 

 

 

「あ、そろそろ散歩の時間だな」

 

「!」

 

 まったりしていてあっという間にお出かけタイムだ。いそいそと準備をする。リザードンのモンスターボール、ゴージャスボールの方が好きだといつも引き籠っている子が入ったボールを腰につけ、バッグを手に取る。他の子も誘おうかと思ったが、冷えた空気が流れてくる部屋を覗けばすやすや寝ているのでそっとしておいた。そもそも散歩必須なのはウチの手持ちではリザードンだけだ。

 

 リザードンのようなポケモンは運動不足があってはいけない。

 ポケモンバトルで大暴れする体力を使わないでいると、太るならまだマシで、放熱不足によるうつ熱症状や逆に燃焼不足による炎ポケ冷え症状など病気のリスクが生じてしまうのだ。理想はポケモンバトルやそれに準じた訓練だが、私はトレーナーが本業ではないのであくまで健康意識に留めた範疇になる。もちろん、庭はポケモン達の運動場となっているし、散歩と言っても途中でバトルしようぜと言われたら財布が軽くなる恐怖を隠して応じる所存だ。

 

「リザードン、用意、を……」

 

「りざ!」

 

 ごろ寝していたはずが、いつの間にか片手にタンブラー(彼女愛用のもの。メガサイズ)を持っている。ウチのリザードン、散歩の場合は必ず途中のカフェに立ち寄ることを催促するのだが、「たまにはね」で時々承諾してた頻度が気づけば毎回と化している。下手な人間より人間意識が高いルーティーンだ。栄養バランス的に問題ないとはいえ、リザードンらしさとは一体……。

 

「やる気があるだけいいか。行こう」

 

「リザ~♪」

 

 余談だが、これで騙してポケモンセンター(歯科健診、予防接種など)へ連れていこうものなら滅茶苦茶拗ねられる。しかし正直に伝えたところで拒否リザしてくるだけなので、次も黙って立ち寄る予定だ。当然逃げればモンスターボールで回収される、慈悲はない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クチバシティまではリザードンの背に乗り、『そらをとぶ用発着ポイント』で降りる。一度教えたら何も言わずとも法令を守るウチのリザードンは賢くて偉い。ご褒美ポロックを貰えるとわかっているのもあるだろう。

 強靭なあごと牙でポロックを噛み砕く様子は彼女が一応猛獣であると理解させられる。口元にのみ目をやればその一瞬は格好良さを取り戻しているように見えなくもない。目がにっこにこだが。

 

 クチバの海岸沿いにあるエリアをのんびり歩く。この辺はポケモンを伴って歩くトレーナーも多く、定番散歩コースだ。すれ違いに挨拶しつつ、お互いのパートナーを素早くじっと見つめるのはお約束。貴方のガーディももふもふで可愛いですが、ウチのリザードンもかっこ可愛いでしょう。

 何故かここら辺の連れ歩きは犬ポケが多い。何故か専用カートに乗せてもらっていることも多い。ワンパチとかイワンコとか。

 

「ぐるぅ」

 

「なんでちょっと羨ましそうなんだ」

 

 日よけ付きカートで周囲をきょろきょろ見回すワンパチ達を見つめて唸るリザードン。

 流石に大型ポケモン用の連れ歩きカートは無いというか、リザードンのように翼も尾もある二足歩行タイプだと、もう車に乗せた方がいい話になってくる。リザードンには我慢してもらおう。

 

「失礼」

 

「はい」

 

 ジェントルマン風のトレーナーから話しかけられた。こういう場合、パターンは決まっている。

 

「一戦、よろしいですかな?」

 

「喜んで」

 

 バトルだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「リザアアアアアアアアァァァァァ!!!」

 

 赤いレンガの建物と海が背後に映えるバトルコート。

 そこで勝利の咆哮をあげるウチのリザードン。こういう時はとてもとても格好いい。

 相手はウインディだったが、ウチのリザードンは炎技一辺倒ではなく、サブウェポンが豊富な型だ。相手が悪かったと言える。ただ飛び跳ねてはしゃいでるようにしか見えなかったと思いますがあれは剣の舞です、ごめんなさい。

 

 あと、いかくされた時は「なんて野蛮なポケモンなんでしょう、これだから炎ポケモンは」といった素振りで首をそむけていたのはどうかと思う。自分が何タイプか、どういう種族か自覚してます?

 

「「対戦ありがとうございました」」

 

 バトル後、回復も終えたトレーナー同士握手を交わす。賞金は手早く、お互い気にしないように済ませる。礼儀は大切である。

「つよいウインディでした。毛並みも奇麗で素晴らしい」「貴方のリザードンはよく鍛え上げられていますね。ウインディのしんそくを受け止めるとは」など、簡単な雑談も嗜みだ。その間お互いのポケモンが背後でなんかはしゃいでいようが気にしてはいけない。「はよ」とタンブラー押し付けるのやめなさい。あとそちらのウインディさん回復終わったばかりなのに元気ですね、貴方のステッキくわえ盗んで構ってモード入ってますけど。

 

「わかったわかった。すみません、この子がお気に入りの店へ急ぎたいようですのでこれで失礼します」

 

「ええ、此方もウインディが待ち切れないようですので。ではまたご縁があれば」

 

 彼方のウインディも大概野生を失っている気がする。欲を言えば、ちょっともふらせてほしかったが、今は勝利したウチの子を構うべきだろう。

 

「りざ、りざ」

 

「うん、急ぐから。頑張ったご褒美も買ってあげるから」

 

「りざ!」

 

「よろしいって顔やめないか? 立場がおかしくなる」

 

 その後、彼女が強請ったご褒美により得た賞金は泡となって消え果てることになる。頑張ったのはリザードンなので文句はないが、主人の節約ぶりは察してほしい。一瞬見せた野生っぽさはどこへやら……ま、人間社会に適応してるからこそ失ったとも言えるのだし、私の悩みはただの我侭なのかもしれない。

 

 なにより、これはこれで可愛いのだから。

 

「りざぁ」

 

「いやもうダメだよ? 食べすぎだからね?」

 

「りざ~」

 

「ぶーたれないの」

 




軽く読めるようにと文字数抑えようとすると逆に難しくなる現象に苦しむ。

・他の手持ち
出番なし。思いついたら書けるように伏線にしているが、エピソード思いつかなければそのままである。ごめん。

・運動不足問題
発想の元ネタは昔見かけた、『ポケモン特有の病状』。鋼ポケモンのさびだとか、草ポケモンの発育不足とか、進化不良とか。獣型の炎ポケモンであれば、放熱、うつ熱、燃焼などで症状あってもおかしくないなとは。リアルでも運動必須のペットはちゃんと運動させましょう

・「そらをとぶ発着場」
独自解釈。飛び立つ場所は自由でもいつも降り立つポイント決まってるから法令で定まってそうだなって。ガラルタクシーとかは例外あるに違いない。

・わんこカートで散歩する犬ポケたち
クチバシティの該当場所が該当場所なので。現実でもあそこがサントアンヌ止まりましたからね!

・ジェントルマン
多分サントアンヌ号から降りてきてた。
賞金やり取りは速やかに、はゲームシステムメタ解釈。

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