金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
「うおおおおおお!?今まで目立たなかった選手が決死のスティールでボール獲って、金剛が決めたぞ!?」
「これで6点差!このまま本当に逆転もありえるんじゃないか!?」
観客の熱狂とは裏腹に帝光の士気は下がりに下がっていた。金剛阿含に出し抜かれるならまだしも、特に特徴の無い選手にこの土壇場でやられるのは精神的なダメージが大きかったのだ。
それこそ、フェイクを見破られスティールされた張本人である黄瀬は尚更だ。
───そしてそれが意味することは、自分の方に近付いてくる男の顔を見れば一目瞭然だった。
「ククククッ、絶望させちまったか?黄瀬涼太クン。お前のペテンはとっくに見破ってんだよ」
阿含は呆然とする黄瀬の近くまで歩いていき、そのペテンを白日の下に晒していく。
「テメーの『
そんな阿含ですらできない『
「そんなお前が俺と同じか俺よりも優れたものは何だ?───観察眼だ。それで俺の動き限定の先読みをしてたって話なんだよなあ?カスモデル?」
「……ッ!!」
黄瀬の目が見開く。今までの汗とは違い冷や汗が全身を伝う。それは間違いなく驚愕だった。
「第1Qから第4Qまでの間、テメーは俺の動きを見ていた。コートではヘルプ要員として、あのガングロ野郎と俺とのぶつかり合いを間近でな。
第2Qはベンチから俯瞰して俺の動きを観察し、第4Qでようやく俺のリズムとテンポを頭に叩き込んだってところだろう。テメーらを霞ませるほどの天才である俺であっても、癖と最適な動き……つまりはパターンは存在する。
お前はこの試合中長い時間を掛けて、俺のパターンを解析したってわけだ」
それを聞いた黄瀬は小馬鹿にするかのように言う。
「俺の『
阿含に不敵な笑みを浮かべて挑発をするが、阿含はその内心の焦りを見破ったかのように黄瀬を見下して嘲笑う。
「ハッ!だからこそ、
見た目だけならただのドリブルだ。『何度も何度もアンクルブレイクができるか試していました』なんて、誰も思わねえからな」
運良く上手く言ったというだけの話だった。例えスティールされて点を取られてしまっても、それを許容する価値があるのだと黄瀬は考え実行し、結果的に今の膠着状態を作り出した。
「そして、お前の『
テメーは1度も荻原の奴には『
荻原は言った。
『……そう言えば、黄瀬はディフェンスのときとは違って、ドリブルで俺を抜くときには、1度も「
てっきり、お前にはする価値もないってことなのかと思ったけど、何か他に理由があるのか?』
その何気ない言葉で阿含には充分だった。
「テメーは俺のことを注視し過ぎて、荻原のことなんざ碌に見てなかっただろうからなあ?
荻原で試してアンクルブレイクできなければ、その時点で未完成の劣化品だと見破られる可能性がある。普通に考えりゃあ俺に通用して荻原に通用しない理由なんてねえからな。だから、テメーは一度も挑戦することはなかった」
散々、『
「テメーが荻原相手に『
アンクルブレイクの効きの甘さか、あのお坊ちゃんのやるシュートモーションや、ドリブルの隙間を縫うようなスティールでの失敗だ。
後者で失敗をすればディフェンスファールを取られ、随分と目立つことだろうなあ?
雑魚の荻原相手にファールも取られるだけじゃなく、俺からの疑念も抱かれる。つまりは、リスクばかりしかねえプレーだってことだ」
だからこそ、荻原には普通のテクニックで抜くことばかりをしていた。
それこそアンクルブレイクで自分の前方に荻原を倒し、ゴール前からディフェンスにやって来る阿含の障害物として使えたにも拘わらず、1度もそうしなかったのは単純に黄瀬にはできなかったというだけのことだ。
「そもそもの話だが、あのお坊ちゃんのコピーなんざなくても、あのガングロのプレースタイルをコピーしちまえば、楽々と荻原くらいなら余裕で抜ける。
俺はこの試合であのガングロを完封してやったから、テメーはしてこねえもんだとばかり思っていたが……テメーのコピーが不完全で再現できてねえってんなら話は変わってくる。
あのガングロ野郎はシュートもドリブルも変則で、
青峰大輝のプレーを黄瀬はコピーできていない。それが立証できれば、黄瀬の『
あのプレースタイルを練習無しの一発勝負で試すには、余りにもリスクと難易度が高すぎたというわけだ。
「あのカスノッポのコピーも、結局のところはシュートを打つ奴が、一体どのタイミングと位置でシュートを打ってくるのか、事前に予測する観察眼こそが肝だ。
カスノッポと変わらない高さや威圧感?そんなもんはその場で全力で跳ぶだけで出せる程度のもんだ。
大方、再現するためにブロックする手の角度を気を付けるだけぐらいなもんだろう。他の奴のコピーと比べちまえば必要とされるテクはそこまでない」
読者の中でも『紫原のブロックは何か違くね?』と、度々言われてたくらいだ。
『動きを予測して相手が動くよりも先にハイジャンプで飛び、シュートをブロックをする』
結果だけを見れば、確かに紫原と同じだけのブロックの高さと威圧感を有しているが、紫原とは違い3Pラインの全てのエリアがディフェンスで賄える訳ではない。
その身長の高さと長い腕のリーチによるブロックの範囲の広さに加えて、反射の速さと長い足を活かした脚力こそが紫原の強みだ。
そんな紫原の生まれ持った才能を存分に活かすプレーを、『
つまり、『紫原のブロック』はバスケを始めたばかりの黄瀬であっても再現可能な、数少ない『キセキの世代』のコピーなのである。
「そして、俺とは違い荻原のリズムやテンポをテメーが理解してなくても、どのタイミングでシュートを打つのかの予測は充分可能だ。
───どうやらテメーらの中には、選手の動きの癖なんかをリアルタイムで解析できる奴が居るみたいだしなあ?」
「ッ……まさか、桃っちのことまで気付いてたんスかッ!?」
黄瀬が驚きの声を上げる。コートに出ている選手だけならまだしも、ベンチに居る者の能力まで分析しているとは思わなかったのだろう。
「俺の動きの予測は第1Qから長い時間を掛けて、ようやく俺限定の『
それこそ才能が無い上に、あいつの筋力で実現できる程度のことをコピーすらできないのなら、テメーは文字通りのカスでしかねえんだからな」
だが、実はこれこそが阿含にとって厄介なフィルターの1つだった。
「(原作じゃあ黒子の技である『
無意識に黒子のコピー技を使う以上は、『
監督に『パス回しの速さは段違いだったが、他のプレーよりかはそこまでの派手さはなかった』と言われてようやく思い至り、阿含は1人苦々しい顔をした。
原作知識の悪影響だ。まあ、様々な帝光の情報を考えれば誤差と呼べる程度のものでしかないが。
「そんな、どれもこれも不完全なコピーしかできねえお前が、100%の精度を誇るあのイカレ眼鏡の3Pシュートをコピーする?バカか、できるわけがねえだろ。
だからこそ、俺にわざとブロックされに来たんだろ?
これこそが阿含の感じた違和感の正体。
右手で全力ブロックしたからこそあのときは深くまで気にしてなかったが、もしコート内にボールが残り阿含が決めることができてしまえば、『
それこそ『阿含ならば今の黄瀬相手でも問題なく凌駕できる』と言った流れが、僅かにでも生まれていたことだろう。
考えてみればおかしな話だ。
ゲームメイクが天才的に上手いあの赤司が、あらかじめ黄瀬に注意もせずに、この試合を左右しかねないプレーをさせることなどまずありえない。
───ならばこそ、あの全てが計算であった方が納得できる。
「わざわざブロックされるシュートを打った意味なんざ、ここまで分かればバカでも分かる。ここ一番でフェイクを入れて俺を外に釣り出し、点を確実に入れることが可能な、ゴール下からドフリーでシュートを打つ布石しかねえ。
使えない手札を見せ札として利用する。確かに効果的だよなあ?ここ一番の百発百中3Pシュートなんざ、是が非でも止めたいのが普通の思考だ」
帝光が仕込んでおいた渾身の一手。これに気が付けなければこの試合は確実に終わっていた。
「テメーができるのは俺限定のプレーの先読みと、俺以外にしか通じないハイジャンプブロック。そしてあのお坊ちゃんのパススキルに全てを委ねた俺の真似事に加えて、カスザコのパススキルの4つだけ。
しかも、その不完全な4つのコピーをするだけで、息が上がっているテメーなんざ俺の脅威でもなんでもねえよ」
それが阿含が導き出した結論だ。
自分のような原作にはない要素の介入で黄瀬が変質したのではないとするなら、バスケをしだして1年未満の黄瀬ができる、ギリギリ『キセキの世代』の技を、『
「条件付きの上に周囲のフォローありきで成立する、『キセキの世代』のコピーこそが、テメーの『
不可解な事実と敗北の予感で塞がっていた思考が晴れた。もし、1人で悩み続けていれば答えは出せなかったことだろう。
「(……つーか、考えてみればどれもこれも違和感しかねーわ……)」
原作でも『
だが、今回の黄瀬は驚くことに『キセキの世代』の超人的なプレーと、普通のプレーを交互に使い分けていた。
「(チッ……これに関しての違和感はすぐに気付かなかった俺が間抜け過ぎた。少し考えれば分かったつーのによ)」
この黄瀬のスイッチのオンオフを無理やり理屈立てて説明をするのなら、自分よりも格上の技術を模倣するため、『
つまり、感覚を研ぎ澄ませた『
───逆説的に黄瀬がそれを無視できるということは、黄瀬は未だに『キセキの世代』達がいる領域までは届いておらず、周囲のフォローありきでコピーをしているだけのペテンなのだと予想ができた。
そしてその推測はどうやら正解のようだった。今の動揺しきった黄瀬を見れば的外れでないことは明らかである。
「(……まあ、この反応も含めて計算の可能性もあるがな。チッ、黄瀬だけなら断定は可能だろうが、赤司ならあらかじめ仕込んでおいてもおかしくねえ……メンタルが崩れてさえいればそんなことをする余裕は無かったと断言できたんだがな)」
ここまで先読みされるのを織り込み済みで、黄瀬に演技するように伝えていないとは断言ができない男だ。
だが、ここはそんな疑念を一切表に出さないようにする。仮に俺の推測が間違いでも正解でも、それは確実に黄瀬のプレーに出てくる。
だからこそ、今はそこまで計算をしていることを悟らせるつもりはない。
「(天才故に今まで1度も本気でスポーツをしてこなかった奴が、この局面で一切動揺せずプレーをすることなんざ不可能だ。
それこそ赤司にどれだけ言いくるめられてようが、精神的な未熟さは早々解決するもんじゃねえ)」
そこで改めて判別をし確定させる。
十中八九の状態から緑間の『高弾道3Pシュート』は、『
つまり、それは明確にゲームの均衡が崩れることを意味していた。
黄瀬は1度歯を食い縛ると、ボールを持つ赤司に強く声を出す。
「ッ……ヘイッ!パス!」
「……(さて、どうするべきか)」
赤司は高速で思考を回す。
『涼太の考えは分かっている。真太郎の3Pシュートを打つことだろう』
「(ああ、それで以て自らの『
だが、今の黄瀬では実力が足りず、運の要素が極めて高いシュートになるだけではなく、体力も2割程度の黄瀬が金剛を躱し『超高弾道3Pシュート』を行うのは余りに現実的ではない───成功する可能性は0%だ)」
『だが、このままでは帝光が詰むのは変わらない。「
帝光全員の体力が残り心
「(……そして黄瀬の心情からしてもここで打たせなければ、後に引き摺る可能性がある、か…………ならば、オレが取る選択肢はこれか)」
導き出したその答えを信じて赤司はボールを渡す。
「勝てッ!黄瀬!」
「了解ッ!」
そう言って、黄瀬にパスを出した。それだけなら、黄瀬に命運を託しているかのようだが……、
「(ククク……何が『勝て』だホラ吹き野郎が。俺にブロックされることを織り込み済みで後ろに控えてんじゃねえか。それにまんまと騙される黄瀬クンが可哀想だとは思わねえのか?)」
ブロックされた後にそのボールを自分が取れれば取り、相手選手の手に渡ればそれをスティールすることで、24秒のリセットによりまた時間が稼げる。
それは、どこまでもチームが勝利することしか考えていない動きだ。
ドリブルで揺さぶり、間合いを生み出すとそのまま3Pラインよりも遠くでシュートモーションに移る。それを見た阿含は───一歩退いた。
「ッ!?」
「(自分の出した推測だからといって、この局面でその選択を取れるのか……!?)」
この局面での9点差がどれほど痛手なのか分からない阿含ではない。つまり、この動きが意味することは───、
「ほら、打って来いよ。ドフリーで打たせてやるからよ」
「ッッ……舐めてんじゃねえよッ!」
溜めの長いシュートモーションから、黄瀬は右手からボールを打ち出す。その放物線は想像を絶するほどに高いループを描き、長い滞空時間を稼ぎながらゴールへ飛んで行く。
それをコートに居る全ての選手だけではなく、会場に居る全ての者がその軌道を見送り、上に昇っていた弾道は頂点を超えると流星のように下へ落ちていく。
緑間のシュートを見慣れていた者は、次に起こることを予見して眼を見開いたが、1人だけ口
「ククク……良い夢は見れたか?カス──これがテメーの限界だ」
───ガイィイインッッ!!と、激しく音を鳴らしながらボールがリングに弾かれて横に飛んで行く。100%の成功率を誇る緑間のシュートとは思えないミス。
それが意味することは1つだけ。
ここに確定した、黄瀬の『