金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
ディフェンスはそれだけプレッシャーを与えるみたいです
「帝光の奴らついに最後のタイムアウトを取りやがったか」
これで帝光は後半戦で使えるタイムアウトの3回を全て使い果たしたことになる。タイムアウトが明ければ残りの1分42秒はノンストップだ。
「(チッ……あいつらのスタミナがガス欠したあとに、残りの5分で惨めになるくらいに蹂躙してやろうと思っていたが、黄瀬のペテンに騙されて現実的な時間になるまで稼がれた。
その上、赤司が壊れなかったせいで、イカレ眼鏡にボールが集中せずにまだ弾数が残っていやがる。あいつの100%の3Pは後半戦の終盤にこそ真価を発揮するクソだ。
……なんとしてでも潰しておきたかったんだが、然う然う上手くはいかねーな)」
綿密な計画を立てたというのに、歪みに歪み最後には残り2分を切った。そのせいで最後には『ゾーン』を利用したギャンブルに頼るしかなかったというわけだ。
「『ゾーン』の極限状態で3Pラインからの成功率は90%……いや、そこまでは流石に高くねえな……精々80%前後ってところか?
そして、ゴールから離れれば離れるほどに成功率は下がっていくことを考えれば。ハーフラインから打てば60%前後。
練習の時よりかは多少マシになったってところか……チッ、話にならねえ」
100%の精度には程遠い。こんなもの猿真似以下の偽物でしかない。
「いや、充分すぎるだろ。あの頭のおかしい3Pシュートを、紫原のブロックありでハーフコート内なら50%で決めるとか、どういう精神力とテクニックなんだよって俺は思うけど。
つーか、プロと変わらないって凄くないか?充分エグいだろ」
明洸中のベンチで俺の隣に座る荻原がそんなことを言ってくるが、こいつは何も分かっていない。
「俺の普通の3Pシュートの成功率は96%だ。普通に打った方が高けえとかマジやる意味ねえだろ。あのイカレシュート」
「……いや、だったらどうしてあんなにあのシュートを練習してたんだよ……というか、3Pシュートほぼ100%とか普通に考えて化け物だからな?」
ジト目で見てくる荻原。当たり前だけど男がやっても全然可愛くねえな。女を連れてこい。
「バーカ、その96%もお前らを相手にしたときの数字だろうが。あいつら『キセキの世代』相手だとそう上手くはいかねえ───大体90%とかだろう」
「いや、化け物じゃん。マジな話、そんなにスゲー才能持ってるだけで勝ち組なのに、どうしたらそんな向上心持ってられるんだ?俺だったら、そこまでできねえよ」
荻原が心底理解できないといった顔をする。
「ハンッ、だからテメーはカスなんだ。周りなんてど~でもいいんだよ。自分自身の目的と理想さえ描ければ、自然と俺のようになる」
「そんなもんか……天才様が見ているものは俺には遠いな」
そんなことを言うと、荻原はスポドリを口にして失った水分を補給する。その言葉を聞いて俺は思う。
「(そりゃあそうだろ。俺が見ているのは俺の死なんだからな)」
仮にこの世界が【SLAM DUNK】の世界なら、確かに90%は充分すぎる数字だろうが、【黒子のバスケ】の世界ではモブキャラであろうとも、強豪ならばゴールを全然外さないことが、まるで当然であるかのような化け物の巣窟なのだ。
怪我や精神的なデバフが掛かっていないと、シュートを外してくれない化け物達を相手に、『試合での3Pシュートの成功率が50%を超えた』なんてものは、まるで自慢にならない。
必要なのはどんな状況でもシュートを入れる集中力と、身体に染み付くほどの反復練習。
そして、身に付けた知識と実際に測った数値で導き出した、無駄の一切無い最大効率を叩き出すシュートモーションの構築。
10年掛けてようやくものになった。
しかし、金剛阿含の可能性を最大限引き出して、緑間のシュートはおろか普通のシュートですら成功率が100%に届いていない。
つまり、金剛阿含という超天才が緑間よりも劣っているということを証明してしまっていた。
「(あ゛~?そんなことは絶対に許されねえ。必ず超えてやる。
だが、緑間のシュートに関しちゃ身体の負担を考えて小学生の最高学年から始めたが、3年も費やしてこれだ。
最低でも緑間のシュートをハーフコートラインからノーマルの状態で80%、『
……完成するなら高校行ってる時期か……いや、それよりは女だな。この試合でこいつらぶっ倒して女遊びしてやる。それはそのあとでいい)」
何が言いたいかと言えば、精度100%の3Pシューターが居るのだ。成功率をプロと比べてもまるで意味がない。
必要なのはあいつらを超えて俺が勝つことにあるのだから。
「つーか、荻原も3Pシュートの成功率が33%から40%まで上がってただろ。3年になればどこの強豪からも推薦が引っ張りだこになんじゃねえか?」
阿含が基本的に1人でどうにかするしかないと思っていたときに、この男が自主練に参加を名乗りあげた。
荻原シゲヒロという不憫な原作キャラトップ5に入るだろう男。
青峰にも同情の余地はあるが、それでも荻原は純粋な被害者でしかないという確固たる事実がある。
『キセキの世代』による最大の被害者である荻原は、臆すること無く……いや、最初はビビりながらも阿含に話し掛け、今では相棒のような立ち位置にあった。
「うーん、どうだろうな。ぶっちゃけると、金剛と練習し過ぎて今自分がどんくらいの実力なのか、全然実感できてないんだよな。
ここまでの試合も思ったよりすんなりと勝ち上がれたけど、あいつらには全然通用しないしなぁ」
才能、努力共にエベレストのせいで常識が壊れてる荻原クン。ハハッ、笑える。
「でも、金剛の練習に付き合ってれば3Pシュートの練習は山ほどすることになるんだから、誰でも成功率だって必然的に上がるだろ。
それこそ、金剛が効率的なフォームを教えてくれたりもしたし、下手くそなままの方がおかしいくらいだ。
それに金剛のディフェンスのプレッシャーを受け続けたあとじゃ、並の学校のディフェンスなんて有ってないようなもんだからなぁ」
「(原作でも知っていたが、どんだけ精神力が高いんだ?こいつ。あの練習量(俺がする自主練の4割)に付いてくるなんて、正気だとは思えねえ)」
自分自身のように死ぬ未来があるわけでも、
『こいつはマジでイカレているのか……?』、と。
「まあ、それに加えて教えてもらった
ドリブルもシュートも可能なSFだったが、今ではSGのポジションで3Pシュートを打つ選手に変わった。
今でもドリブルはできると言えばできるが、『キセキの世代』を仮想敵にすると3Pシュート以外ではまず通じないため、荻原の能力を伸ばすのならこっちの方がまだマシのはず。
「今までの相手も多く3Pシュート打ち込んでくる俺達の攻撃に何もできず、点数を離された感じだったし、3Pシュートを打ち込んだ方が勝算が高くなる……だっけ?どこのデータによるものなんだ?」
「俺の頭」
「はあ……」
それを聞いた荻原はやれやれと言わんばかりに首を横に振る。
バカにしているのか、信じた上で呆れているのかは分からないが、俺の言葉を信じて3Pを多く打つチームに変わったのだから問題はない。
……イラつくが。
「──で、作戦は?まだなんかあるのか?……いや、黄瀬も下がったしアレをやるつもりか?」
何かに気付いたような顔をして荻原は尋ねてくる。これまでの短くも深い仲だ。察することができない奴じゃない。
「ククク……分かってるじゃねえか、秀才クン?」
そして、阿含は作戦を───そして、この試合が始まる前から可能ならばしてみようと思っていた目標を荻原に話した。それを聞いた荻原は言う。
「………………性格悪くね?何?あいつらのこと嫌いなの?」
俺の目標を聞いた荻原が、なんとも言えない微妙な顔をすることも俺には想定通りでしかなく、実に分かりきったことだった。
◇◇◇◇◇
「何で俺がベンチに下がんなきゃいけないんスかッ!?」
大声を上げて黄瀬が監督に非難をする。だが、それを見る監督はまるで声が聞こえていないかのように無反応だった。
「俺はまだやれるっスよ!確かに、緑間っちの3Pシュートを外したっスけど、次は必ず入れてみせます!」
「──駄目だ。お前をこれ以上出すわけにはいかん。頭を冷やせ、黄瀬」
「っ!あんなこと言われて黙ってろって言うんスか!?俺なら大丈夫っスよ!今度こそ緑間っちのシュート成功させてみせるっスから……ッ!!」
静まり返る帝光ベンチの中で黄瀬の声が響く。
明らかに冷静さを失っている黄瀬を見て、ベンチに下げた方がいいと思う者が多いが、それでも今の明洸を……金剛阿含を止めるには、『
だが、白金は断固として拒否をする。
「駄目だ。何故、最後にフリーで打たせられたのか分かっていないお前ではな」
「はあ……?そんなの俺への挑発でしょ?だから、それを───」
「───お前を熱くさせ、緑間のシュートモーションに移る度にスティールしやすくするための布石だ。今のお前のプレーは他の選手でも容易に読める」
「なッ……!」
考えてみれば、危険はあったが実に合理的な一手だったと白金は考える。
帝光はこれまで『
それを金剛阿含によって綺麗にやり返されたのだ。
「(……真に黄瀬が『
不完全。完成形を明確に思い描けるだけでも黄瀬が秘める才能の高さを物語っているが、それでも余りに足りないものが多すぎた。
「(確かに、今でもその片鱗はある。実際に他の者の助力あってのものもあるが、僅か半年で他の『キセキの世代』の技をコピーすることができるなど思わなかった)」
青峰の才能が開花していくことは見てれば分かった。だが、黄瀬のこの試合における異常なほどの成長幅は、とても予測できるものではなかった。
それほどにこの試合が黄瀬にもたらしたものは大きい。
「(これから経験を重ね続け身体も成長と共にできあがっていけば、黄瀬の力のみで『
全く不可能なことを金剛阿含がしているわけではない。
「(言ってしまえば、目の前に餌をぶら下げられているようなものだ。好奇心だけではなく挑発による闘争心まで火を付けられれば、黄瀬の抱えるその『飢え』は凄まじいものだろう。
あの黄瀬が目を剥きここまで獰猛な顔をして、私に意見してくる姿など一体誰が想像できただろうか)」
だからこそ、あの『キセキの世代』の中でも比較的我を張ることが少ない黄瀬が、これだけ取り乱し騒ぎ立てている。
その普段から逸脱した黄瀬の姿に、他のチームメイトもどこか唖然としているようだ。
「(……ここまで計算ずくならば恐ろしい男だ。黄瀬の精神がここまで崩されてしまえば残り時間での復帰は難しい。
本当のところは先ほどのように『
チームプレーを無視するなど許されることではない。
「(……仮に打てたとしても、技術不足に身体能力の未熟さとそこに体力の大幅な低下も含めれば、成功する可能性は15……いや、10%あればいいといったところか)」
そんなシュートを打たせるなど許していい筈がない。このスタンドプレーはチームの士気に関わる。
いつもの黄瀬ならば渋々ながらも最後は納得するのだろうが、今の黄瀬には難しいと言わざるを得ない。
「(黄瀬がコピーするとなれば当然緑間の3Pシュートだろう。あれはただでさえ溜めが長い。
スティールできる可能性は他のコピーよりも高いために、それこそ金剛阿含でなくてもいい可能性まである)」
もし、そうなれば最悪だ。
「(懸念通りに阿含はおろか、自分以下の格下の選手にブロックやスティールを黄瀬がされれば、さらに緑間のシュートで点を取ろうと躍起になることだろう)」
そうなれば、ドツボ。黄瀬はチームが勝つのに不必要どころか有害な選手になりかねない。
「(何より、これ以上この試合で失敗を繰り返せば黄瀬が潰れる。それは指導者として絶対に避けねばならん事態だ)」
黄瀬はまだその土壌ができていないため、才能が開花してもプレーとして実現をすることはできていないが、自らのスタイルの完成形は既に見ることはできた。
今回の試合はこれで良しとして貰おう。
「取り敢えず、お前は下げる。これは決定事項だ」
「~~ッ!分かったっスよ!!」
そう言って、黄瀬はタオルをベンチに叩き付けた。
「(ふぅ~やれやれ、中学生ならば仕方ないことではあるが、あとで叱ってやらなければな)」
赤司のように常に冷静でいられる中学生の方が異常といえば異常だ。白金は次にその赤司へ話し掛ける。
「赤司、何か考えていることはあるか?お前の意見が聞きたい」
白金としても自らの考えている戦略を伝えたいところだが、対戦相手である金剛阿含の存在により、その能力が飛躍的に伸びている。
この試合で発現した赤司の『
「(本来ならばコートに立つ選手の負担になるようなことはするべきではないが、今の相手以上にこいつらが成長できるときはない。
強敵に立ち向かうためにあらゆる可能性を模索するこの瞬間は、赤司にとって大きな財産になる筈だ)」
獅子は我が子を千尋の谷に落とす。『キセキの世代』に誰よりも期待をしていると同時に、誰よりも厳しいのが彼だった。
「(フッ……だが、文句はもちろんこちらに不信感やイラつきの視線を向けることすらなく、思考に没頭する姿はさすがとしか言えんな)」
赤司は目蓋を閉じると、改めてこちらに眼を向ける。
「──……そうですね。確証はありませんが金剛による緑間のシュートの成功率はそこまで高くはないでしょう。
もし緑間ほど精度が高ければ金剛阿含も緑間同様に、アウトレンジからの3Pシュートを多用しない理由がありませんから。
実際に金剛が打った場所は3Pラインからです。『ゾーン』による恩恵があったとしても、その成功率は精々30%~80%……ハーフコートラインからは60前後だと推測できます。
それでも、充分高いですが緑間の100%と比べてしまえばその差は明らかです。
つまり、オレ達が
「うむ、同感だ。赤司は無理でも黄瀬と黒子は間違いなくそのフェイクに釣られていた。3人のマークにあそこまで苦しんでおきながら1度も試さずに温存する必要はない。点数が離されていることも含めると特にな」
赤司は頷く。
「ええ、ですが緑間のシュートがどれだけ脅威なのかは、帝光メンバーに向けてわざわざ言うまでもありません。あのブラフはそれほどまでに強い見せ札です。
金剛の姿が緑間と重なり、必要以上に3Pシュートを警戒してしまうのは仕方のないこと───ですから、もし金剛がアウトレンジから3Pを狙うようならば、ブロックに跳ぶことを徹底的に止めるべきでしょう」
「「「あ、赤司……!?」」」
驚愕の声をチームメイト達が発しているが赤司は揺るがない。
「確かに金剛の普通の3Pシュートの精度は凄まじく、緑間の『超高弾道3Pシュート』のインパクトはこちらの戦意を削ぐほどに絶望的だ。
しかし、こちらにはその金剛を
「誰にものを言っているのだよ赤司」
緑間はベンチに置かれていた、明らかに場にそぐわない物を手にする。
「今日のラッキーアイテムも俺は準備を万全にしている。俺のシュートが落ちることなどありえん」
緑間真太郎はその左手にしゃもじを握り締めながら断言した。
◇◇◇◇◇
頬に伝う冷や汗にも気付かずに、白金耕造は呆然とした声を出す。
「金剛阿含……ここまで、人外染みているとはな」
白金は帝光選手の作戦と戦意の向上から、ここから流れはウチに来るのだと確信をしていた。
───しかし、帝光との予想とは裏腹にタイムアウトが明けて10秒も掛からず、帝光は明洸に失点した。
「そして荻原シゲヒロ……彼もここまでできるとは予想外だ。低く見積もったつもりはなかったが、まだ甘く見すぎたな。金剛阿含だけではない。彼もまた明洸を支える選手だ」
コートに居る赤司も知らず知らずの内に、阿含に意識を向け過ぎていたことを知る。
「くっ……まさか、こんな手で来るとはな……いや、考えられなくはなかった。オレのミスだ」
赤司は苦々しい顔をしながら、今のプレーに内心で称賛を送る。今のプレーには阿含と荻原の強固な信頼があった。
でなければ、あのようなプレーはできない。
「クククク……どうだ?『キセキの世代』共。テメーらからすればカスでしかねえ荻原に同点にされた気分は?───ついでに、景気良く綺麗に揃っただろ」
「揃っただって……一体何を言ってる……?」
黄瀬の代わりに入った帝光の選手が阿含の言葉に
「まさかお前は……ッ!この試合が始まってからこれを目指していたとでも言うつもりか!?」
緑間が阿含の目的に気付き驚愕する。阿含は堪えきれないとばかりに嗤った。
108対111→111対111
「両チーム1のゾロ目だ、綺麗に揃ったな。これで分かっただろ?テメーらカス共の頑張りなんざ、この俺の手の平の上だっつーことが。ここから存分に蹂躙してやるよ『キセキ世代』。
……クク……クハハハハハハハハッッ!!!!」
このゲスゥ!!
金剛阿含は人類最高峰の肉体スペックですが、緑間の100%の再現は不可能です(さもありなん)
なんだったら、黄瀬も緑間のシュートは描写されてないだけで、70%ぐらいなのではないかとか個人的には思ったりしてます。最低でも緑間みたいに爪の手入れとテーピングぐらいはしないとねぇ……?
(阿含は家から出る前と試合の休憩時間に、トイレや人目につかない場所で爪研ぎしてます)