金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
帝光の動きに意識を向けつつ、アイコンタクトで意志疎通をする。
『さすがにバレたな。あいつをこれ以上、言葉で動揺させるのは無理だ』
『……いや、別に俺は特に演技とかしてないけどな?全部、本心だぞ』
『ククク……その本心をわざと詳しく言葉にしている奴が何を言いやがる。テメーも動揺させる気満々じゃねえか』
荻原の苦虫を噛み潰したような顔を見たあと、阿含はディフェンスのためにハーフコートよりも奥へ戻る。
「(奴らの手札は、青と黄を失って赤、紫、緑、黒。どいつもこいつもほとんどガス欠間近だが、黒はガス欠もガス欠。だいたい1割かそこらだ。もう速い動きにはもうまともに付いて来れねえ。
要するに、死にかけの赤、紫、緑に警戒すればいいだけ)」
戦力など青峰と黄瀬が居たときよりも、半分以下に落ちているだろう。だが、まだ阿含には余裕がある。
もちろん、『キセキの世代』を相手に戦っていたことと、攻守ともに動き続けたこと、そして『ゾーン』による体力消費も考えれば残り1割と言った具合だが、ガス欠状態での追い込みの特訓なんてものは慣れ親しんだものだ。
パフォーマンスが『キセキの世代』より落ちることなどありえない。だからこそ、普通に考えれば圧倒できる。
「(……まあ、そんな簡単に行くならバカみてーに練習なんてしてなかったがな)」
帝光の『奇跡の世代』は
「(実際に黒子テツヤという主人公がガス欠状態から活躍したのなんざ、数えきれねえくらいある……
あれまでされると『ゾーン』状態でも後手に回る)」
黒子を封じれたのもパス以外の選択肢が無く、基礎能力の低さがあったからだ。他の『キセキの世代』ではああも上手く封じることはできない。
「(
……まあ、赤司が黛にしたように、赤司が
その上、黄瀬による黒子のコピーによって伸ばされた影の薄さの延長もあれば、影が濃くなるよりも先に体力の方が無くなり動けなくなるだろう。
「(黄瀬の暴走かあるいはチームで決めていたことかは知らないが、今、俺が特に警戒しているのは1人だけだ……なあ、イカレ眼鏡)」
◇◇◇◇◇
「(オレ達を相手にこの最終局面まで手札を温存し続けることなど並みの忍耐力ではない。それも優勢ならばともかく点数が離されている状況が続けば使いたくなる……いや、使わなければならないのは定石だ。
それでもそれを行うだけの余裕が明洸にあるのだとすれば、彼らがどれだけ手札を揃えているのか分かったものではないな)」
甘く見積もっていたつもりはないが、ここまで用意周到で
「(……そして理解をした。金剛が率いる明洸相手に守りに入れば帝光に勝ちはない!ここから残りの1秒まで全力で攻め続ける!)」
だが、黄瀬が抜けた穴は大きい。黄瀬の代わりに入った控えの選手も悪くはないが、『ゾーン』によりさらに隙がなくなった金剛阿含の、『超広範囲ディフェンス』に対応することは絶対に不可能だ。
だからこそ、フォーメーション自体を組み替える必要がある。そして、同時に戦い方も一新しなくてはならない。
「(───ならば、方法は1つだ)」
体力も少なくなっていることは分かる。普段の様子ならば、いつ試合を投げ出してもおかしくなかった。
その試合で貯めに貯めたフラストレーションを解放させる時が来た。
「来い、紫原───進撃を行う」
◇◇◇◇◇
それを見た荻原が思わず口に出す。
「紫原がディフェンスだけじゃなくオフェンスに参加してきた……これはつまり、帝光は守備を完全に捨てたのか?」
何故、紫原をディフェンス一辺倒にしてきたのか。それは偏に阿含よりも足が遅く、速攻をされてしまえばどうしようもないからである。
「(最初は攻撃力重視で青峰と紫原にオフェンスをさせていたけど、紫原の才能でゴリ押すスタイルは阿含には通じずに、青峰と揃って『神速のインパルス』のディフェンスの餌食だった)」
紫原は今までアリウープはもちろん、普通のパスで充分だった。身長と腕の長さによる高さは相手選手を寄せ付けることなく、適当にリングへ投げれば得点する。
技術も何もないその工程を行うだけで、『キセキの世代』の中でも有数の攻撃力なのだから始末に負えない───金剛阿含という怪物が現れるまでは。
紫原の攻撃はその
ダンクとリングのすぐ近くの位置から放るシュート以外に、攻撃のレパートリーが無いのだから当然ではあるのだが。
「(そのまま金剛にボールを奪取されて、青峰と同じ速度で走る金剛に紫原は当然追い付けず、ディフェンスになんとか追い付いた青峰も、金剛の『
次からヘルプで黄瀬も加わったけど、結局スクリーン代わりに使われたりで阿含を止めるどころか悪化した……それなのに、なんで今さら?)」
破れかぶれという訳ではないのだろうが、その意図が読めない。
「青峰も黄瀬も居なくなって攻撃力も守備力もかなり落ちた。それに今の金剛は『ゾーン』だ。その集中力とスペックの高さは第1Qの比じゃないぜ、黒子」
「はい、それを含めてこの作戦です」
だから、負けるはずなどない。だが、黒子の返答の力強さとボールを持つ赤司の迫力を感じれば、どうしても不安が押し寄せる。
そして、その胸騒ぎが現実のものへなるかのように、驚きの光景が目の前で作り出される。
「……あ゛~?カスノッポ。テメー、どういうつもりだ?」
「はあ?分かんないの?お前をいい加減捻り潰しに来たんだよ……!」
ペイントエリアの中央に居る阿含を、後ろに押すかのように圧力を掛ける紫原がそこには居た。
「……まさか、物理的に守備エリアを縮小させるつもりなのか……!?」
幾ら『神速のインパルス』で常人よりも圧倒的に速く反応できたのだとしても、物理的に届かないものはブロックもスティールもできない。
たからこそ、実に効果的ではある。───それが実現できるのなら。
「───オイオイ、テメー随分と控えめじゃねえか?やる気あんのか?……あ゛?」
「ぐ、うおおお……!」
紫原が全力で押すがまるでびくともしない。まるで岩を押しているかのような感覚に、紫原は驚きながらも歯を食い縛って押し込み続ける。
「前に聞いたことあるけど、金剛の奴格闘技も習ってたらしいぜ。空手、柔道、合気……まあ、そのどれも1ヶ月で辞めちまったらしいけど、それで完璧に習得するのは充分なんだってよ。
そんな金剛が『ゾーン』で身体能力が増してるんだ。体格がデカくても今の金剛にパワー勝負で勝てる奴なんか居やしない」
『金剛阿含はどんな相手にも負けない』。明洸バスケ部が共有する絶対の共通認識である。
「(……というか、天賦の才能がありながら誰よりも努力をする金剛が、同年代に負けるのだとすればそれは理不尽を超えた不条理だろ)」
だからこそ、エースが体格が
「……そうかもしれません。事実、紫原君はこの試合で金剛君にパワー勝負で1度も勝てていませんから。……でも、問題はありません───勝つことが目的ではないので」
「はあ……?」
勝つことが目的ではない。
その疑問はさらにおかしな光景を目にしてしまい、頭の中から失くなってしまった。
「(ん……?何だ……
この試合はおかしなものばかり見てきたが、その動きは群を抜いて珍妙だった。その摩訶不思議な光景に呆然としていると、視界の右隅で動く人影が居た。
「フッ……!」
緑間の左側に居る赤司から投げられたボールは、空中でシュートの動きをする緑間の両手の中へ、1mmのズレなく綺麗に収まったのだった。
「…………………………は?」
◇◇◇◇◇
「赤司、金剛の奴は灰崎のことを知っていると思うか?」
タイムアウト中に緑間から尋ねられる。
「あの仕草に言葉。とても、偶然の一致だとは思えん」
しかし、中学2年からの入部したことと、帝光と明洸は今まで練習試合はないこと。
対戦相手として戦ったこともない相手の情報を、知っていることに不気味さを感じているのだろう。
「さあ、どうだろうな。灰崎と個人的な付き合いがあるのかもしれない。オレもそこまでお前達の人間関係は知り得ないさ。
まあ、灰崎が居ない以上は確かな答えはでないだろう。金剛に聞いたところで真実を教えてくれるかは分からないわけだしな」
確かに、友人関係だとするなら色々と納得できることではあるが、直近で問題となっているのはそこではない。
「だが、1つの事実を口にするなら、あれは極めて灰崎のスタイルと似ている───本人にその気があるかは分からないが、相手に与える影響は同じだ」
それが解決できなければ帝光の勝利は遠退く。
「金剛阿含の観察眼は黄瀬には届かなくても灰崎と同等だろう。だからこそ、その精神的圧迫は凄まじいものがある。
あるいは、参考程度に留めて我流にカスタマイズしたのかまでは分からないが、利き手が同じということもあって、結果的には灰崎の
灰崎のコピーと同じ効果。
それはつまり、見た目は同じでもリズムとテンポを我流にされた動きを見てしまい、本来の使用者が感覚を狂わされて使えなくなる、相手のプレーを強奪する灰崎の能力。
それが先ほどの阿含の『高弾道3Pシュート』にもあるというのなら……、
「緑間、
「そんなものがあれば、お前はそっちを選んでいる。お前が好き好んでこのようなまねをするタイプではないことに、俺が気付かん訳がないだろう、赤司」
『体勢を崩されなければ緑間の3Pシュートは外れない』という認識は、帝光バスケ部全員が持つ絶対の共通認識である。
しかし、灰崎の相手の技を奪うコピーは、スタメンに選ばれるほど強力なものだった。
緑間のシュートは針の穴を通すような絶技だからこそ、その影響は誰よりも大きい。
「……確かに、灰崎のコピーが与える悪影響は大きい。どんな対戦相手でも調子を崩して弱体化をした。帝光の勝利の積み重ねの中に奴の技の功績があるのは否定しないのだよ」
同じチームで共にプレーをしていた仲だ。その凶悪さを知らないわけがない。
しかし、それでも緑間は平然と言い放つ。
「だが、問題はない。俺に対してだけはあいつの強奪の効果が及ぶことは決してないのだから」
◇◇◇◇◇
「(あの黄瀬へのアリウープのときから分かってはいたが、ここまで正確無比なパスができる奴など、俺はお前以外には知らないのだよ赤司)」
空中で構えたところにピンポイントに収まるパス。その妙技に感嘆しながら緑間は思う。
「(これで失敗をすれば俺の落ち度としか言えん。ならば、何一つとして問題はない)」
そして赤司が言った不安材料を思い出しながら、緑間は小さく口にする。
「───人事を尽くして天命を待つ」
赤司からのパスが完璧に手の平に収まった以上は、することは1つだけ。
しかし、強奪の影響により緑間の頭の中で、阿含の放ったシュートモーションがノイズのように、いつもとは別のリズムとテンポで打つシュートが想起された。
「(それが俺のモットー……だからこそ、俺は努力を怠ったことは1度足りともありはしない)」
───だが、まるでレールの上をなぞるように緑間の身体が勝手に動く。
それは成功率100%達成するために、誰よりもボールを放ち続けたことによる、決して歪むことのないシュートモーションの動きだった。
例え、感覚が狂おうとも身体は知っている。
関節の動きも、筋肉の収縮も、腕の角度も、指先のボールの掛かり具合も、その全てが緑間の意識とは切り離されたところで行われていた。
修正など考えるだけ無駄だ。ただ信じる。
自分が3Pシュートに捧げてきた、その時間と努力の重さを。
「(その俺のシュートが落ちることなど、万に一つもありはしないのだよ!)」
「……シッ!」と、短く呼気を吐き出して打ち出されたボールは、試合開始直後と変わらず高く正確なループを描き───ゴールリングを通過してコートに突き刺さる。
111対111→111対114
「今日の『おは朝』の星座占いで、蟹座の俺の順位は1位。そして、ラッキーアイテムも準備している俺に隙はない」
残り時間、1分29秒。明洸に『
グリーンレボリューション……いや、フォントダッサ。我ながらダサ過ぎないか?これ?
批判が多ければ無くします