金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
卒業後に海外に行ったので、試合には結局最後まで出ていたのではないかと思いました(あと、メタいことを言うと突然それっぽいオリキャラのモブを出しても、場違い感が強いという理由からです)。
それからも試合の速さは落ち着くことはなく、明洸と帝光が3Pシュートでゴールを決め合う。
111対114→117対120
残り36秒。
「負けるかッ!阿ご───な、なんだッ!?」
阿含にボールを出そうとした山根だが、すぐ目の前で発するその余りにも大きい威圧感に
「例え、勝利への飢えで勝てなかろうとも、勝利することが王者のプライドだということを見せてやる……絶対はボクだ!」
それは阿含が行ったスローインへの超攻撃型マークの再現。『
「(いや、そうだ足……!)」
帝光の虹村と呼ばれていた選手がしたように足を狙うべきだ。手や胴体ならばボールを奪取される可能性が高いが、足ならば例え獲られても体勢を崩せるはず。
そう考え、赤司の足に向けてボールを投げるが、その瞬間にバックステップで躱され、いとも容易くボールを奪われる。
「あっ……!?」
「よし、これで5点差───何ッ!?」
「バーカ、テメーの視界が今は山根の一挙手一投足しか見えてねえのは分かってんだよ」
赤司がスティールしたボールを、さらに横から阿含が奪い取りスティールを行う。散々やられた死角からのスティールを赤司にやり返した形だ。
阿含はそのままコートを縦に走り抜ける。
「(チッ……あのお坊ちゃんがたった3秒稼ぐために山根に張り付いたのは、カスノッポがディフェンスに万全の状態で着くための時間稼ぎだ。ガス欠でディフェンスをするよりかはマシってところか)」
もしそれでボール奪取で点が取れればそれでいいし、取れなければ次の攻撃で確実に3Pを決めてくれる緑間に託せばいい。
緑間のシュートがどれだけ高弾道だろうとも、コートを歩いて往復できるだけの時間は稼げはしない。その証拠に息を整える時間も無いせいで阿含にゴールを奪われたのだから。
残り32秒。
「──まあ、あのお坊ちゃんがディフェンスしねえ時点で、どっちにしろ詰んでるっつー話だがな」
「クソッ!……マジかよッ!?」
「速過ぎる……!」
虹村が黒子と共にボールを奪いに行くが、その黒子を逆に壁代わりに使いチェンジ・オブ・ペースで虹村共々抜き去る。
「うおおおッ!!」
「チッ!(さすがに3Pしか選択肢がねえとディフェンスもそれに合わせてくるか)」
紫原のゴール下から離れたディフェンスによって、完全に追い付かれる。
「ククッ、なら、やるしかねえな」
そのまま、シュートモーションに移る───かと、思わせてフェイク。
「しまっ……!」
「なっ……これはまさか……!」
紫原の巨体にぶつかりながらボールを放る。その圧迫感と重さを無視するようにブレることのない体幹により打たれたボールは、1回リングに触れて跳ねるがそのままネットを揺らした。
「すげぇッ!!4点プレーだ!」
「なんて度胸……!どんな心臓してるんだッ!?」
このフリースローが決まるかどうかで試合が決まる。その事実に会場全体がその緊張感で張り詰める中で阿含は笑う。それを見て緑間は眼鏡のブリッジを指で押し上げながら呟いた。
「……今までのプレーから推察するに、金剛は『無冠の五将』の【鉄心】木吉鉄平と同じだけの強心臓なのだよ。まず、間違いなく決めてくるぞ」
「ああ、ここで外してくる様な奴ではない」
緑間は阿含が行うフリースローのこの時間を使い、赤司と話し合う。
「『無冠の五将』の【夜叉】、実渕玲央の技である『「地」のシュート』……『無冠の五将』の技をここでしてくるとはな。ボク達の技も真似されるのだから、彼らの技を習得できない道理はないということか」
「その手札の多さも凄まじいが紫原の4ファウルもまずいのだよ。残り時間がたったの30秒だとしても、紫原の居ないゴール下はこれから奴の独壇場になるぞ……!」
さらにこれで紫原は4ファウル。ゲーム終盤のため必要以上に警戒をする必要はない。
しかし、相手があの阿含のため紫原の退場を狙ってきてもおかしくはなく、もし紫原が下がれば今の帝光に阿含の動きを抑制できるだけのセンターは存在しない。
間違いなく紫原が退場となれば帝光にとって致命傷だ。
「成功率100%の緑間のシュートで、このまま押しきり優勝するか同点での延長になる手筈だった。同点か敗北かという事実はこれ以上無いほどの絶望感を生み出す。
明洸にはその精神的な負荷を与え続けるつもりだったが、この4点でそれも無くなった。これから先は純粋な地力の勝負だ」
金剛阿含を止めることは至難であることは変わりはないが、他の選手は二軍に入れるかどうかという選手ばかりだ。
そのため、ラン&ガンによるコートの往復で既にガス欠間近の明洸選手のスタミナをさらに限界まで削り、ミスを誘発する状態にすることを注力し続けた。
だからこそ、阿含は第4Qの最終局面で他の選手にパスを出さない。ほぼ死に体の彼らの3Pシュートが外れると半ば確信をしているからだ。
「金剛の事だ。このまま熱くなり攻撃を仕掛け続けて俺達に隙を作るようなヘマはしないだろう」
「ああ、分かっている。両チームがお互いに残りの時間を潰し合いながら詰ませていく試合展開になる。───ここから先はオレと金剛が行うゲームメイクこそが勝敗を決するだろう」
阿含はこの試合の明暗を分け兼ねないこのフリースローを、一切の動揺を見せずに沈めた。
そして、──明洸は遂に帝光相手に逆転をする。
117対120→121対120
「うおおおッ!!ついに、あの帝光に勝ち越したぞ!」
「今大会初めてじゃないか!?」
騒然とする会場中の声を聞きながら、赤司は思考を巡らす。
「(紫原がこの試合中に金剛に
もし、阿含がスタンドプレーで押し切るスタイルならば、今よりもずっと点数を抑えることはできた。
しかし、阿含は『ゾーン』に入りながらもチームプレーを忘れず、荻原や他のチームメイトにパスをすることにより、帝光の意表を何度も突くことに成功している。
個人技だけでなく司令塔としても優秀であることは明白。自分という強い手札を上手く使いながら的確に弱い札も使ってくる。実にやりにくい相手だ。
「(唯一こちらが対抗できる手札は緑間の3Pシュートのみ。安易なパスは簡単にカットされてしまう。そうなれば、逆転する機会は永遠にやってくることはない……だからこそ、ここで慎重に動き24秒という時間をパスワークに使えば敗着に繋がりかねない)」
バスケには24秒以内にシュートを打つことができなければ、相手ボールになってしまうルールがある。
この時間稼ぎを行うことは悪いことではない。ゲームの戦略として正しい。
───しかし、それは相手が金剛阿含でない場合だ。
『相手はあの「神速のインパルス」を持つ金剛だ。体力がかなり減ってしまったボクと限界間近のテツヤのマークを外せる余裕もある。逆に研ぎ澄まされた超反応によりボールを奪取される可能性が高い』
赤司はもう一人の自分と作戦を練っていく。
「(既に金剛の不安材料は他のチームメイトのスタミナ不足によるパスミスのみ。金剛がミスをすることは無いと見ていい)」
『だからこそ、そこを突くことこそ勝機はある』
「(ならば……)」
そこまで考えて、赤司は緑間に作戦を告げた。
◇◇◇◇◇
「「「押せ押せ帝光!行け行け帝光!」」」
ベンチと観客席から声援が飛ぶ。
「うおっ!?あの帝光がガチで応援してる……俺、初めて見たわ」
「基本的に帝光は圧勝してるのが普通だからな。特に今の代は『キセキの世代』なんて言われている。勝つのが当たり前のチームになっていたからな」
そんな会話をする観客が居るなかで、阿含は警戒を強める。
「……何かあるな」
この試合が決まるかどうかの場面で、応援を送られること事態は何も不自然ではないが、1つだけおかしなことがある。
「どうして、この瞬間までその素振りすらなかった?超強豪故の傲りか?……いや、違うな。校長はカスだが前監督の指導が根付く今の帝光に、そんな馬鹿な考えは蔓延していない」
だからこそ、士気を上げるという理由ではない。他にその理由がある。
「(そして、それを考えたのは赤司だ。桃井という可能性もあるが応援1つでどうにかなる場面じゃないのは分かりきってる筈だ)」
ただの応援な訳がない。明らかなトラップ。……だが、その理由が分からない。
「精神的なプレッシャーによる動揺……いや、『キセキの世代』共が居る以上、今さらそんなチャチなもんで動揺を誘える訳がねえ。つまり、俺以外の他の奴らにも効果は限りなく薄い」
『言うだけタダ』という言葉がある。
「リスクフリーの精神攻撃だと考えても、この局面まで温存する理由が無い、とくれば……その理由は物理的な意味がある」
精神的なものではないとすれば、明確な実害があるしかない。
「ククク……カスの分際でせせこましい努力をしてるじゃねえか」
阿含はその意図を理解する。
「カスザコのスキール音を掻き消すためか。終盤のこの局面は観客共も声を出すからな。そこに上乗せすれば掻き消す可能性も高まるって訳だ」
「くっ……!」
今までしなかったのは慣れさせないためだろう。もちろん、逆転されればすぐにでも行っていただろうが、それをしないだけの余裕があったためこの策略を隠し続けることができた。
そして、それを行ってきたということはここが勝負所と判断したということ。だからこそ、阿含は防御ではなく攻撃に転ずる。
「金剛の奴、ここで仕掛けに来たッ!?」
「勝負が決まりかねないこの場面で躊躇無く攻めるのかよ!?」
「勝負を焦ったのか……?」
金剛が赤司に厳しくディフェンスを行う。だが、それが有効な手であることを帝光ベンチのアナリストは理論的に導く。
「赤司君の『
今の状態で赤司君が金剛君を真正面から抜くのは、5~10%あるかないかってところ」
ベンチに居る桃井が悩ましげに口にする。
「ええっ!?それじゃあ、ヤバいじゃないっスか!?この残り時間で4点取られたら試合が決まっちゃうっスよッ!?」
緑間の『
「ここに来て無尽蔵のスタミナがある金剛の猛攻だ。『ゾーン』状態のキレもあってボールキープは至難も至難だ───赤司以外ならな」
青峰がそう言うと同時に事態は動く。
「あ゛……?」
ドン!と、何かに阿含がぶつかる。スクリーンアウト。だが、それはあり得ないことだった。
「(これは……カスザコのスクリーン?だが、スキール音がしなかった……?幾ら声で掻き消すつもりだったとしても、それを前もって分かっていたからこそ音には細心の注意を向けていた。それにも拘わらず、察知できなかったということは……───そもそも、動いてない……!?)」
赤司はディフェンスを振り切った緑間に視線を向ける。
「緑間ッ!」
「ナイスボールなのだよ!」
そのままコートを切り裂くように前線にボールを送り、緑間の手にボールが収まった。
「あっ……くっ!……いや、まだだ!」
「止めろッ!」
緑間に抜かれたダブルチームだが、シュートを打たせないようにディフェンスをするが、埋められない実力差に疲労困憊の状態で緑間に付いて行ける筈もなかった。
レッグスルーからの切り返しで簡単に千切られる。
「シュッ!」
緑間が3Pシュートを打ち込んだ───次の瞬間。
シュートを放った緑間の手の上を、阿含の手刀が横薙ぎに通過する。
「!……クソカスがぁ~ッ……!」
「な……ッ!?(馬鹿な!?コイツ、今の僅かな時間で俺が居る場所まで追い付いたというのか……!?)」
ディフェンスを
121対120→121対123
阿含が人を殺しそうな眼光を後ろからやって来る赤司に向ける。
「チッ……俺が追い付つけないだけの距離をイカレ眼鏡に稼がせやがったな」
全力ダッシュからのハイジャンプ。
終盤も終盤のこの局面で、未だにそんな芸当ができてしまうことに驚愕する。文字通りの無尽蔵スタミナと、その超高校級の敏捷性と跳躍力を今なお行えるその事実。
それは努力だけでどうにかなるものではない。まさに、『神に選ばれた肉体』を持つが故。
阿含の身体能力が試合開始直後から全く衰えていない事実を悟り、緑間の背中に悪寒が走った。
……だが、緑間はその程度で腰が引ける男ではない。圧倒的な才能と自分と同じ様に人事を尽くしている目の前の男に向けて、瞳の奥を燃やしながら笑みを浮かべた。
「フッ……面白い。そのレベルの怪物だからこそ、全力で倒しに行く価値があるのだよ」
残り───22秒
◇◇◇◇◇
再び明洸ボールになり今日何度目かになる、阿含と赤司のマッチアップが行われた。向き合った2人は言葉を交わす。
「……なるほどな。その場から一切動かなければスキール音が出るわけがねえ。
「フゥー……、お前ならばこの局面でとどめをさしに来ない訳がないと予測していた。だからこそ、黒子にはすぐ近くに待機して貰っていたんだ」
人読み。
しかし、赤司のそれはこの試合で集めた阿含の情報によって導き出されたプロファイリングだ。臆すことなく攻める度胸と確かな勝負勘が阿含にはあることを察し、今まで通用していたやり方を崩した。
もし、阿含が攻めずに今まで通り超広範囲ディフェンスをしていれば、体力がガス欠の黒子は置いていかれディフェンスに参加できない。
そうなれば、阿含のプレーに迷いはなくなり高確率で緑間へのパスをカットされていた。
一か八かの策を赤司はあの阿含を相手に成し遂げたのだ。
「……しかし、残り20秒はショットクロック限界まで時間を使うだろう───本当の勝負はここからだ」
ジェイソン・シルバーと金剛阿含(原作)って、人種による有利を無くしたらほとんど同じなんですよね。努力しない天才……でも、何でか阿含の格落ち感がない。身長とパワーが劣る筈なのに。
神作画の描写とキャラクター性ですかね?