金剛のバスケ+10cm   作:藤原わさび

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19.帝光中学決勝ーー鳥籠

 凄まじいプレッシャーを放つ目の前の男を前にして、赤司は疲労が溜まる中で神経を最大まで尖らせた。

 

「(───だからこそ、ここで奪い取る)」

 

 これこそが、赤司が思い描いたシナリオだった。必ずボールキープのためにゴールできるにも拘わらず、阿含はシュートを打たない。

 

「(阿含以外のチームメイトは疲労が溜まりミスをしやすい状況だ。そんな選手にこの局面でボールを回す必要はない。つまり、最後は阿含1人で勝負を付けに来る。そこに何重にも罠を張り攻撃を(しの)げば───ボク達の勝利だ)」

 

 赤司は残りの秒数を体内時計で計り、16秒を切ったタイミングで虹村にハンドサインを送る。

 

「……虹村が加わって金剛にダブルチームッ!?」

 

 体力を比較的に残している虹村がサポートにやって来るが、それでも止められない。青峰のようなストリートバスケのドリブルに翻弄されてしまう。

 

「(クソッ!マジでなんつーキレだ……!フルタイムで出ておきながらその運動量とか、本当にどんなエンジン積んでやがるッ!?コイツ……本当に人間か!?)」

 

「チッ……」

 

 赤司がスティールし易いようにディフェンスをしているつもりだが、変幻自在のその動きに付いて行けずにボールを取れないままだ。

 

「(───いや、これでいい。これで金剛の後ろに回りやすくなった。金剛は3Pラインより内側でシュートを打たない。打つのは3Pラインよりも外側。そこをボクと言う蓋で閉じて動きにくくする)」

 

 1つ1つ丁寧に策を嵌めていかなければ、またファールを狙われてしまう。一度に纏めて仕掛ければそれを防がれた時に何もできずにシュートされたボールを見送るしかない。

 

「(こちらの策を金剛が全て振り切ったとしても、打開する時間もなくシュートが打てずに終わらせることこそ、ボク達の勝利条件。終了間近のギリギリの時間で終わらせたい金剛の心理を逆手に取れ!)」

 

 ボールをスティールすることもブロックすることも、今の阿含相手には極めて難しいとしか言いようがない。だからこそ、諦めた。

 

「(残り10秒……来い、紫原)」

 

「潰す……ッ!!」

 

 ゴール前に居た紫原が3Pライン付近まで出てくる。

 

「まさか、ダブルチームじゃなくて、トリプルチームか!?」

 

 これで、前、後ろ、上を完璧に塞ぐ。これで留め……ではない。

 

 

「(だが、お前のことだ。これでもどうせ止められはしないんだろう?)」

 

 

 追い詰められたと知ると、金剛は青峰並みの敏捷性で横に逃げ出して(かわ)した。

 

「……冗談だろッ!?」

 

 その判断の早さと身体を動かすその速度に、虹村も赤司も紫原も置いてかれる。まだ、ウイングスパンが長い紫原ならばカットもできるかもしれないが、『不可侵のシュート(バリアジャンパー)』や三渕の三種のシュートを使用されれば、防げない可能性が高い。

 

 金剛は完全に3人を振り切った。───赤司の想定通りに。

 

 

「(この場面、この状況。だからこそ、今までシューターとして役目を徹底していた───慎太郎でシュートコースを完全に潰す……!)」

 

 

 緑間は3Pシュートに目を向きがちだがディフェンスも含めた全てのスキルが高く、身長も紫原に次いで高い。つまり、シュートブロックにおいても強力な手札となり得る。

 いきなり、緑間がディフェンスに参加して動揺しない者がこの場にいない訳がない。それほどに100%の精度を持つ3Pシューターの印象は凄まじいからだ。阿含は必ず一度体勢を立て直してからシュートを行う。そこが勝機だ。

 

「(もし、残り時間が3秒程度ならばそのまま3Pシュートに繋げるだろうが、8秒というこの時間でお前は必ずボールキープを選択する)」

 

 あとは4人でサイドに囲い込めれば、シュートコースなどもうあってないようなものだ。他の者をパスワークに使おうとしても、ミスをする可能性が高い。

 これこそが、必勝の策。

 

「(この鳥籠でお前の動きを止めさせて貰うぞ……!)」

 

 ダブル(2)チームでもなく、トリプル(3)チームでもなく、クアドラプル(4)チームによる封殺。青峰でさえシュート体勢に移ることさえできない鉄壁の布陣だった。

 

「──よしっ!これなら……………………え?」

 

 

 

 桃井が先の展開を予測し笑みを浮かべた次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()3()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「3Pラインの内側に……?」

 

「いやでも、それじゃあ……同点になっちまうぞ……?」

 

 体力がある帝光ベンチのことを考えれば、阿含以外の選手は黒子と同じくらい体力が消耗している明洸が、太刀打ちすることは不可能なのは明らかだった。

 そこまで理解した者は阿含が帝光に一矢報いるために、同点ゴールをすることに切り替えたのだと認識する。

 

 ───だが、真に戦況を理解している者は、それがどれだけ帝光にとって致命的なのかをすぐに察する。

 

 

「ッ……まずい、赤司ッ!!」

 

「分かっている!戻れ、紫原ッ!()()()()()()()()()()!!」

 

 

 その言葉を聞き、類い希なる反射神経を以て紫原がゴール下へと戻る。『キセキの世代』で唯一理解できていないのは、またしてもベンチに下がった黄瀬だった。

 

「ええっ!?同点なら全然良くないっスか!?ベンチの厚さじゃこっちの方が上なのに……金剛っち以外はまともに動けないんスから、同点になれば俺達が勝つと思うんスけど」

 

「バカか。ちゃんと状況を見ろよ、黄瀬。延長になったら2分の休憩時間のあとに5分間更に動き回らなくちゃいけなくなる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ……!」

 

 そうなれば、確実に帝光は阿含に蹂躙されて敗北する。それほどに黒子の存在は大きい。

 

「うん、テツ君の『視線誘導(ミスディレクション)』による金剛君を狙った強襲が無くなれば、金剛君による一方的な蹂躙が始まっちゃう。それに……もう、みどりんもとっくに限界を超えてる。

 多分あと1発打てるかどうかだと思う……金剛君の動きを阻害するテツ君と、唯一点の取り合いができてるみどりんが機能しなくなれば……私達の、帝光の負け」

 

「つまり、3Pシュート打たれても同点にされても俺達の負けだったんスか!?」

 

 対等に渡り合えていると考えていた黄瀬からすれば青天の霹靂だ。

 

「だから、赤司の奴は執拗にラン&ガンでの3Pシュートの打ち合いなんていう、イカレた試合展開で金剛に3Pシュートの意識を高めていたんだろうが。誰しも息も吐かせぬギリギリの試合展開が続くくらいなら、シュート1本でケリを付けたいと思い始めるのは自然なことだからな。

 だが、赤司の策を金剛の読みが最後の最後に上回りやがった。闘争心を抑え付け、点を取りたいという選手としての本能を、鋼の理性で捻じ伏せて最適解を導きやがったんだ……!」

 

「……もしかして、体力が尽きた上に『視線誘導(ミスディレクション)』をもう満足に使えなくなったテツ君に、明洸の中でも金剛君の次に実力のある荻原君を付かせたのも、体力を少しでも回復させて延長戦を戦うために……!?」

 

 赤司の思考誘導は完璧だった。しかし、阿含には一切の油断も無ければ慢心もない。あるのは、勝利に掛ける10年以上の長い月日で溜め込んだ妄執とも取られかねない執念だけ。それが赤司の上を行ったのだ。

 

「みんな……!」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「うおおおおッッ!!」

 

 赤司に言われるまでもなく、阿含の進行方向に割り込んだ紫原は止めに掛かるが……、

 

「───なっ……!」

 

 フルドライブからのフルブレーキ。その緩急に紫原の膝から力が抜ける。

 

「なっ……紫原をアンクルブレイク!?」

 

 そのまま正面を向いてゴール下からシュート体勢に移る。

 

「させるかよ!」

 

 すかさず、虹村がブロックに跳ぶが……、

 

「甘えよ、カス」

 

「なん、だと……ッ!?」

 

 阿含がした動きは横っ飛び。原作で青峰が木吉を(かわ)した時のように、虹村のブロックを潜り抜けた。

 

 

「これで俺の勝ちだ」

 

 

 阿含がボールを放るその寸前、目の前に人影が現れる。

 

 

「───いや、勝つのはボクだ!」

 

 

 阿含を防ぎに来たのは一連の流れを、『天帝の眼(エンペラーアイ)』で見通した赤司だった。

 

「赤司っち!」

 

 桃井が気付く。

 

「あっ!そうか、『ゾーン』状態のジャンプ力に加えて身長差もある赤司君と金剛君だけど、横に金剛君が跳んだから赤司君でもブロックできる高さなんだ!」

 

 完璧なタイミングでのブロック。ここからさらに赤司を抜くには、原作同様に体勢を下げて下からボールを投げれば点を取れるが、これからの成功率は『ゾーン』状態でも約50%だ。

 勝負強い阿含ならば決して不可能ではないギャンブル。そのギャンブルを───阿含はしなかった。

 

 

 

「……待ってたぜ。この瞬間を10年以上もな」

 

 

 

 阿含は頭上に掲げたボールを真横に投げた。

 

「な、に……?」

 

「ククク……伏線は張ってただろうが、見えなくても投げるってよ」

 

 逆サイドに居るフリーの選手にボールが渡る。

 

「お、おい、アレってずっと緑間のマークに付いていたダブルチームの奴か!?」

 

「どれだけ周りが見えてるんだよ!?」

 

 ざわめく声がそこら中から溢れる。阿含は嘲笑いながらコート中央に集まった帝光中の面子を見下ろす。

 

 

 

「最後の最後にしてやられたのが、意識すらしてなかった凡人のカスなら言い訳もできねえだろ?散々、人の人生を面倒臭くしやがったんだ───惨めに負けさせてやるよ。カス共」

 

 

 

 終了まで残り5秒。この試合を決定付けるラストプレーのボールが、今まで陽の目を見ることのなかった選手に渡る。




※ただの八つ当たりです
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