金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
2.100年に1人の天才
「うおおおおおおおッッ!?スゲー!!」
「たった一人で何得点してんだよアイツ!?」
大勢の人間が観客席に埋まる中学の決勝の大会。例年に見ない盛り上がりを見せるのは、帝光中学に集まった10年に一人の天才達、『キセキの世代』の影響だろう。
テレビで紹介をされるほどのスター性と、神憑り染みたスーパープレイを当たり前のように行う彼らは、メディア人気をすぐに獲得し中学バスケ界に脚光を浴びせるほどになった。
──超強豪の帝光中学バスケットボール部に、その天才達は在籍している。
PG、赤司征十郎。
以前は神憑り的なパスワークを主にしていたが、最近では新しいプレイスタイルに目覚めたのか、相手の意表を突くドリブル突破を主にしている天才ゲームメーカー。
SG、緑間真太郎。
ハーフコート以内ならば、100%の精度を誇る天才3ポイントシューター。
SF、黄瀬涼太。
一目見たプレイを完璧に再現するどころか、さらに上の完成度で実現させる、瞬間記憶能力と高い学習能力を持つ天才オールラウンダー。
C、紫原敦。
この先、200cmに届くだろう恵まれた体格と、既に高校バスケでも通用する圧倒的なパワーがある天才センター。
まだ中学二年生の彼らだが、全国で相手となる同じポジションの選手はいないと断言できる天才バスケットマン達だ。
「信じられねぇ……オフェンスだけじゃなくてディフェンスも神憑ってる。アイツが居なかったら試合の展開もまるで違っただろ……」
「あのキレに反応速度で動き回って、第3Qまで一切パフォーマンスが落ちないとか、なんなんだよあのスタミナッ!?
高校生はもちろんプロの世界でも、あんなに体力があるヤツなんて見たことねーぞ!?」
PF、青峰大輝。
帝光中学のエースにして、型にはまらない変幻自在のプレイスタイルで、
中学生になる前から大人相手に、互角の勝負を繰り広げていた青峰は中学では敵無しだった。
──その青峰大輝が……
「はあ……はあ……っ、……ハハッ!この俺がここまで封じ込められるなんてな……!───金剛阿含。……お前、最高だなッッ!!」
目の前の男によって彼の持ち味が
彼の前に立ち塞がるのは、今の今まで特別名が売れていた訳でもない男。敢えて言うならその風貌からヤンキーが、暴力目的で出ているのではないかと噂されていたぐらいだ。
その男が150点以上の点差を、帝光に付けられるだろうという下馬評を見事に引っくり返した。
「あ゛~?テメーみてえな曲芸頼りのクソカスがこの俺に勝てる訳がねえだろうが。……プチッと潰してやるよ」
そんな粗暴な言葉遣いをする男は、顔は整ってはいるにも拘わらず切れ長の目付きにドレッドヘアの髪型が、イケメンという印象ではなく強面のヤンキーにしか見えなくしている。
そしてコートで彼と対面している『キセキの世代』からすれば、その姿は鬼か、悪魔か。
「……外で偶然会ったときは、あの見た目に加えてサングラスを掛けていたから、てっきり見た目通りの不良だとしか認識していなかったが、まさかここまでの実力があったとは……帝光にも数ヶ月前まで灰﨑という不良が居たが、発せられるそのプレッシャーは雲泥の差だ」
「ああ、だが奴は言葉こそ悪いが灰﨑のように煽れば頭に血が昇るタイプではないだろう。必ずやり返しに来るだろうがそこにあるのは完璧に潰すと決めた冷徹な殺意。
例え、どんな状況に陥ろうが精神的な脆さは出てこないと見ていいだろう」
「ああ。奴に対して下手に刺激をすべきではないが、好戦的な大輝や敦、そして涼太が虎の尾を踏む可能性がある。
注意はしておくが余り効果は無いだろう。つまらない試合を何度もしていた彼らに、それだけの自制心が残っているかどうかは疑問だ」
『キセキの世代』を纏めるキャプテンと副キャプテンの話し合いが終わると、緑間はオフェンスのポジショニングに着きながら、阿含の今までのプレイを思い出す。
「あの青峰と同じスピードだということだけでも脅威的だというのに、
直感的に『キセキの世代』の全員は悟っていた。この男、金剛阿含は『キセキの世代』である自分達よりも上なのだと。
「寄越せ!赤司っ!今度こそ俺のドライブで抜いてやる!」
「……いいだろう。現状、奴と渡り合える身体能力を持つのは、帝光中エースであるお前だけだ。お前に託そう」
そんな話し掛けるのも躊躇われるような男に対し、青峰は目を輝かして向かう。
「……行くぜ!金剛ッ!!」
単純な速さだけでも中学生の陸上で全国を狙えるほどであり、一度抜かれてしまえばボールを持ってるハンデをものともしない俊足。
……だが、この男には自慢の脚も特別な意味は持たない。
「速さがあれば俺から逃げられるとでも思ったか?何度やっても同じだ。テメーは俺から逃げられやしねえよ」
だが、それは阿含も同じ。青峰のスピードに完璧に着いてきている。
何もせずとも一流のスポーツ選手と同等の動きが可能な阿含が、長い期間に渡り本格的に身体を鍛えれば、超一流選手さながらの動きを体現することは道理だった。
「ハッ!そうかよ!──なら、これならどうだ!!」
一度完全に止まったかと思えば、次の瞬間には全てを置き去りにするかのような超加速。一瞬にして行われた0から100のチェンジ・オブ・ペースは、まるで黒豹のような獣染みた敏捷性を実現している。
「
今出せる最高速だったが目の前の男を振り切ることは叶わず、間合いから外すことができないでいた。
「チッ!ワンテンポも遅らせられねぇか!それじゃあ、これならどうだ!?」
そこからの青峰の動きは冴え渡っていた。
「うおっ!?ヤベェ……!?青峰のドリブルの切り返しエグ過ぎるだろッ!?」
フロントチェンジ、レッグスルー、バックチェンジを高速で行い、どのタイミングで抜いてくるか予測できなくする青峰のハンドリングが、会場をわっと湧かせた。
下手にボールを取りに行ってしまうと、青峰の敏捷性によってボールに触れることもできずに、抜き去られてしまうだろう。
「フッ……!」
ドリブルを細かくした動きで翻弄していた青峰は、全くの予兆も無しにドリブルの動きのままコートに向けて勢いよくボールを叩き付ける。
バンッ!と、勢い良く地面から跳ね返ったボールを、ジャンプと同時に流れるような動きで空中で掴み取り、そのままボールを掴んだ右手をゴールに向けて振りかぶる。
「……って、はああああッ!?なんだそりゃあ!?」
「そんなのありかよ!?」
客席から驚愕の声が飛ぶ。今の動きは『
「(巧い……!青峰の才能が開花したのは知っていたが、この土壇場でキレがもう一段階上がったのか!?
おそらく一連の動きに反応できるプレイヤーはプロでもそう多くはない。今度ばかりは青峰の勝ちなのだよ)」
それを見た緑間は青峰のギアがさらに上がったことを確信する。最近は練習にも来ておらず、試合でも骨のある選手が居なかったためにどこか弛んでいたが、どうやら強敵との対決で勘を完全に取り戻したらしい。
全国レベルの速度に加えて、バスケの動きから逸脱したそのプレイスタイルに対応するのは至難の業だ。
──あの金剛阿含でなければ。
「オラァッッ!!」
「なっ!?」
まるで上へ同じタイミングで跳んだかのように、少しのタイムラグ無く青峰に追い付いて、青峰の『
その光景を見ていた目を見開いて驚愕の言葉を口にする。
「信じられないっス……あの青峰っちの動きに着いて来れる奴が居るなんて……」
黄瀬の口から思わずと言ったようにその言葉が溢れた。青峰に対して強い憧れを持つ黄瀬からすれば、才能が開花した青峰を真正面から立ち向かえる存在が居るなんて、考えられなかった。
「……え?」
弾かれたボールはチームメイトの元に飛んでいき、ほとんど偶然彼の手に中に収まる。しかし、その選手はそのボールを持ったままドリブルなどしない。
阿含でおかしく見えているが、『キセキの世代』相手に勝負を挑むなど自殺行為に他ならないからだ。
「あ、阿含っ!」
「チッ……」
だからこそ、次のアクションは余計なことを考えず、すぐさま阿含にパスをだすことだけ。
一年前に突如入部して、たった数週間でエースの座を瞬く間に勝ち取った阿含に、彼らは恐怖と共に絶対の信頼を寄せていた。
だからこそ、阿含以外の選手がミスをするその隙を狙っていた赤司の眉根が下がる。
「(まさかここまで一選手に全てを委ねるとは……これはエースにチームの命運を託すというのではない。自らで考えることを放棄した盲信に近い依存だ。
……だが、僕達を相手にするなら確かに最適解ではある。『キセキの世代』と戦うのなら同格の選手しかいない)」
金剛阿含がボールを受け取り、青峰と並ぶ中学最速の足でコートを横断していく。
「止めるぞ黄瀬!」
「了解!行かせないっスよ!」
緑間と黄瀬が止めに掛かる。超強豪の帝光中のメンバーとあって得意の3ポイントやコピーだけではなく、ディフェンスとしての能力も中学バスケ選手の中でも上澄みの二人だ。
二人がかりで抑え込むのならどうとでもできる。
「……っとでも、考えてるんだろ?クククッ、ならいいもん見せてやるよ」
ダムッ……。
と、ボールを身体の向きと反対に突いたかと思えば、余すことなく全身の脱力。それを見た多くの観客はとうとう阿含の集中力とスタミナが尽きたのかと考えた。
──だが、対面する緑間と……特に黄瀬は身体中を走り抜ける悪寒に、目を見開いて総毛立つ。
「(いや……これって、まさか……ッ!?)」
その直感が正しいことを証明するかのように、いつでも取れそうな浮いたボールが突如として目の前から掻き消える。
──それは
緑間も黄瀬も碌な反応ができずに、風のように抜き去っていく阿含を見送ることしかできない。
「そんな馬鹿な……!?」
それを見て緑間は阿含の能力を未だに低く見ていたことを知る。
「(黄瀬ですらコピーができない青峰のプレイスタイルを、この試合だけで真似て見せたとでもいうのかッ!?)」
緑間の驚愕を余所にゴールまで一直線に向かう阿含。その前に紫原が立ち塞がる。
「いい加減、潰す……ッ!」
「ハッ!散々力負けしといて何言ってんだカスがッ!」
信じられないことに阿含はあの紫原のブロックを吹き飛ばして、ダンクを何度も叩き込んでいる。中学二年で197cmの紫原を
「紫原だけじゃねぇよ!金剛ッ!」
「チッ、また来やがったか」
緑間と黄瀬を抜く一瞬の僅かな時間で、青峰が自陣のゴール下まで下がって来ている。紫原と青峰の二枚ディフェンス。
「紫原!わりぃが俺もやらせて貰うぜ!」
「……あー、もう好きにすればぁ?」
この二人をダンクで吹き飛ばすのは流石に不可能だと、一瞬で算出した阿含は攻撃のやり方を変える。
ゴールに向けて真っ直ぐ進んでいた軌道を突然変えて、フリースローラインからゴール横に突っ込んで行くかのように斜めに走り抜ける。
今までのようなダンクによる力業で紫原のブロックを捩じ伏せるのではなく、側面からのミドルシュートに切り替えたのだと察して並ぶように守備に付き、二人は阿含のジャンプのタイミングに合わせてブロックに跳んだ。
「二人とも完璧っ!」
思わずといった様子で桃井が手を握る。
MGR、桃井さつき。
帝光中学バスケット部のマネージャーにして、優れた分析能力と戦略立案能力を持ち、その能力は『キセキの世代』にも匹敵する天才参謀。
阿含について情報収集できなかったのは、阿含がこの決勝まで目立ったプレイをしてこなかったため。
「(阿含君は大ちゃんと同じスピードと、むっ君を超えるパワーがある。でも、むっくんが何度もダンクされちゃったのは、パワー以上にテクニックの差によるもの。
阿含君の動きを見て少しずつ改善されていったけど、このままやっても阿含君を止められるかは難しい。なら、もう二人がかりで止めるしかない。『キセキの世代』でも群を抜いた敏捷性と反射を持つ二人なら、フェイクは通じないしダンクもブロックできる!)」
阿含の攻撃は身体能力にものをいわせたものであり、強力無比で弱点が無く、桃井であっても明確な対処法は分からなかった。
しかし、おそらく試合開始直後からダンクばかりなのは、紫原の反射の速さと腕の長さを警戒してたのだというのは理解できたため、人数を増やして二人でブロックすればいいと、第1Q終わりのインターバルの間に桃井は全員に伝えていた。
それがこの第3Qまでしなかったのは……単純に紫原の意地だった。
「(むっ君の我が儘を赤司君が許すとは思ってなかったけど、ミドリンの3ポイントもあって帝光がずっと優勢だったからかな?でも、これでダンクによるインパクトが強い失点もこれで終わっ…………え?)」
桃井が見たのは二人にゴール横でブロックされる阿含ではない。ブロックに跳ぶ二人の横を、シュートもせずにそのまま通り過ぎて行き、
「ま、さか……」
隣で彼女の想い人である黒子テツヤが驚愕の声を上げる。
幼馴染みの桃井ほどではないが、帝光中の光と影として彼のプレイをずっと見てきた相棒である彼なら、その動きで容易く連想できてしまうのも無理はない。
「クククッ、テメーらと俺との格の違いを教えてやる」
阿含はゴールの裏からボールを頭上に向けて放る。ループの高さがこれまでと全く違う、そのシュートとも呼べるかどうかも分からないそのボールの軌道は、まるでゴールに吸い込まれるかのように、リングに触れることなくゴールネットを跳ねさせて決まった。
82対91 → 84対91
たかが1プレイ。それこそ、点数では未だに帝光が勝っている。だが、今のプレイには2点以上の意味があった。
「嘘……だろ……?今のは峰ちんの……」
「馬鹿な……あれは間違いなく青峰の『
黄瀬のお株を奪うコピーに帝光中はもちろん、観客全てに衝撃が走る。そして誰もがそれを思い浮かべた。
『キセキの世代』すら不可能なコピーを実現するというならば、それは
「あ゛~、確か帝光中学2連覇が掛かった大事な試合なんだっけか?
……クククッ、全国大会2連覇?夢見ちゃったカスの2年間も───めでたくGAME OVERだ」
舐め腐ったその態度も、その圧倒的な実力があるからこそだと言われてしまえば納得もする。いや、それを自分達が散々していたから何も言うことができないと言うべきか。
赤司は眼を鋭くして男の能力を算出する。
「スピードは大輝と同等。
それに加え、涼太すら
そして、『キセキの世代』をたった一人で相手にする緊張感の中で、試合開始から途切れることのない異常なまでの集中力の持続力……僕達が10年に1人の天才だとすれば、金剛阿含は100年に1人の天才かもしれない」
スペックの高さが日本人離れしており、あらゆる分野のスポーツで世界の頂点を取れるだろう天才だというのは理解をした。
理解をしたが、それで負けるつもりは更々無い。
「だが、───勝つのはボクだ!」
「クククッ、プチッと潰してやるよお坊ちゃん。『神速のインパルス』を持つ俺に敵う奴なんざ、誰一人として居ねえってことを教えてやる」
【説明】
・金剛阿含
『アイシールド21』のキャラクター。
作中で『純粋な悪』と言われるほどの悪役であり、努力家ばかりのキャラクター達の中で、努力を一切せずに才能のみで一流プレイヤーと渡り合う怪物。
・神速のインパルス
先天的な才能があり、人類最速の反応速度である0.11で動けるというもの。短距離走のフライングの反則が0.1秒以内とされている。
(※『反射』と誤解されるが『反応速度』は脊髄による指令ではなく、五感から伝わる刺激を脳で処理をして、脳から筋肉への指令を出す伝達速度のことであり、意識下か無意識下という明確な違いがある)
例:死に損ないの敵がナイフを握り、間合いの内側から不意打ちで攻撃してきた。
反射-①身体を守るために盾をとっさに滑り込ませる。
反応-①盾で防ぐ。②盾でパリィをする。③避ける。その中から即座に選択し行動に起こすことができる。
・100年に1人の天才
『神速のインパルス』だけではなく、一切のトレーニングをしていないにも拘わらず、アメフトのWRという一際運動量の多いポジションでありながら、疲れる様子が全く無い無尽蔵の体力と、同じくトレーニングをしていないにも拘わらず、アメフトという筋骨隆々の男達が出てくる漫画でも、上位のパワーを有するヤベー奴。
そして運動だけではなく勉強も成績優秀で、アメフトの戦術も碌に練習しておらずとも記憶しており、それを実戦で使用して問題ないどころか完璧にこなすことが可能。
全く練習をしないで最強格と渡り合う化け物。