金剛のバスケ+10cm   作:藤原わさび

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20.帝光中学決勝ーー GAME SET

 明洸の2年、田島治。ポジションはSG……スタメン落ちの控え選手。それが今の俺の立ち位置だった。

 俺は……俺の居るチームの奴らが理解できない。

 

「(金剛の野郎は暴力三昧のカスヤンキーかと思えば暴力はしないし、馬鹿みたいに練習するし……何であんな奴が真面目にバスケなんかしてるんだよ……)」

 

 明洸でそれなりに俺は有望だった。

 荻原ほどじゃなくてもそこそこの実力はあったから、2年でレギュラーに加われるなんて言われてたのに、突然ポップした同い年の色々ヤバい奴に天才と凡人の違いを分からされるとか、不運も良いところだ。

 

「(どいつもこいつも、金剛の奴を尊敬してるとか言ってるけど本音じゃビビってるのが丸分かりなんだっつーの。見た目怖えーしガチの天才だしよ。自分との違いをまざまざ見せ付けられて、普通に接する奴なんて荻原以外にいないのは当然だろ……やっぱり荻原の奴はドMだわ)」

 

 絶対に金剛の奴も俺達のことを友達とか思ってないからな?大方、それなりに使える駒とかだろ。それなのに、『エースとしてチーム全体が認めます』っていう空気はずっと違和感があった。

 

「(年功序列にしろって訳じゃない。実力がある奴が重宝されるのは強豪じゃあよくあるし、勝つことが最重要だってことも理解してる。でも、アイツには周りと歩調を合わせるなんて価値観は欠片もないだろ。もしあれば、チームメイトに向かってあの口の悪さはありえないし)」

 

 先輩相手にもタメ口は当たり前。敬意なんて微塵もない。本来ならそんな奴を皆が認めるなんてことはあり得なかった。そうならなかったのは、荻原が必死に金剛に付いていこうとしたからだ。

 萩原が必死に食らい付こうとしなければ、金剛は間違いなくチームで孤立していた。

 

「(先輩も監督も他の奴らも、金剛が『天才で誰よりも努力してるから』って注意をすることもしなくなった。『キセキの世代』や『無冠の五将』を擁するチームに勝つには金剛の力がいるのは、間違いないけど、周囲にリスペクトもせずに好き勝手にやる奴を見て、好印象を抱けるほど俺は人間ができてない)」

 

 ただの私情でしかない俺の嫌悪感。でも、俺は金剛の明らかな特別扱いが気に入らない。

 

「(アイツの馬鹿げた練習量を真似しようとして、挫折した先輩を知っている。凡人が唯一天才に一矢報いられるかもしれない努力量ですら、金剛は許しはしなかった。

 ……心が折れる方が悪いって言い分も分かるさ。でも、金剛のは異常なんだ。普通ならオーバーワークで死ぬ量を毎日目の前でやられれば普通の奴の心が耐えられる訳がない)」

 

 才能の化身たる阿含の存在はそこに居るだけで、凡人の心をへし折ってしまう。それが同じチームメイトだったとしても。

 

「(部長でもない2年の分際で、チーム全体に突然3Pシュートの練習量を増やすように命令したり、勝手に自分の練習メニューを作って勝手に1人の練習やってたり……どれだけそれが合理的だったとしても、そんな風に好き勝手にすることが正しい訳じゃないだろ?才能があるジャイアンが好き勝手に暴れるようなものだ。そんなもの付き合ってられない)」

 

 俺達と金剛の関係性はビジネスライクの繋がりしかない。それなのに、そんな奴をエースにして本当にいいのか?って……そんなことを考えてたよ。本当にずっと。ずっとな。

 

「(あぁ……クソッ、こんなことを考えてるから俺は凡人なんだと再確認しちまう。荻原みたいに金剛の事を誰よりも先に受け入れる奴が、きっと強くなれる奴だ)」

 

 そんなだから、俺はずっと『キセキの世代』のSG、緑間慎太郎のダブルチームに付かされてるんだと思う。この試合の半分以上出場してた癖に、ボールにまだ触ることができなかったのもそのせいだ。

 

「(クソッ、本当に嫌になる……あんだけ必死に練習してやることがシューターのマークをするだけ。しかも、その役目すら満足にこなせずにシュートを何本も打たれる始末。モブ野郎も良いところだ……)」

 

 居ても居なくてもいい存在。良くて、あの化け物シューターの引き立て役。それが俺だった。

 

 

 

 誰からも注目されていないそんな俺に───金剛の奴は勝負の命運を分けるボールを寄越して来やがった。

 

 

 

「(マジで、ありえねーだろ。クソが……)」

 

 阿含からのパスされたボールを掴み取る。そして、その意味を当たり前のように理解した。

 

「(……つまり、この最後の局面で俺に3Pシュートを決めろってのか?怪物同士のやり合いに凡人をいきなり放り込んでんじゃねーよ、傲慢超人クソ野郎め)」

 

 あのドレッド野郎はいつもそうだ。この局面で俺に渡すくらいなら『自分でやれ!』と、心から言いたい。どうせ、その方が面白いだとかそんな理由だろ。アイツのぶっ飛んだ実力とプライドを考えると、ここで逃げるなんて選択肢は絶対にないんだから。

 

「(人をテメェの都合で好き勝手振り回しやがって……!マジでコイツのことが嫌いだッ!)」

 

 天才を超えた化け物達の戦いに引き立て役で巻き込まれるわ、出場した時間はずっと地味な役目を押し付けられるわで、今日だけで何度バスケが嫌いになったか分からねーよ。

 

 

「決めろ!田島ぁッッ!!」

「行けぇ……!決めろッ!」

 

 

 この試合で初めて自分の名前が呼ばれた。別に嬉しくはない。どっちかと言うと(わず)わしいくらいだ。……なんだよクソ……声援が力になるとか嘘じゃねーか。

 

「(こんな絵に描いたようなモブの働きを散々させられれば、そりゃあ、『ヒーローになれるかもっ!』……とかそんな感情湧くわけねーよな。端的に言うと(はた)迷惑もいいところだ)」

 

 金剛が超天才な癖に超努力家な所が分からない。

 荻原の真面目で良い奴なのにドMなとこが分からない。

 山根先輩がアイツ相手に意地を張り続けられるところが分からない。

 柏木先輩が金剛の崇拝者になっちまったのが分からない。

 

 あぁ、クソ……『キセキの世代』以上に理解できない、頭のおかしな奴らしか居ねーじゃねーか、俺のチーム……。こんな気持ち悪い奴らと優勝して本当に嬉しくなれるのか?俺は?

 ……でもまあ、結局のところは……。

 

 

「───勝たなきゃ、それも分かんねーよな」

 

 

 3Pラインからボールが高く放られ、放物線を描いたシュートがリングに向かって飛んでいく。

 

「……いや、まだだ!アイツは初めてボールを触ったんだ!このシュートは落ちるぞ!」

 

「リバウンドッ!」

 

 その声を聞きながら納得する。

 

「(ああ、確かに、俺は凡人だからな。こんな場面でビビらないイカレた肝の太さはねーよ。……でもな、ゴール下に誰が居ると思ってんだよ?あの言わずと知れた超人ドレッド似非ヤンキー様だぞ。リングに弾かれて外れたとしてもリバウンドを取るし、(かす)りもせずに完全なルーズボールでも勝手にアリウープにしちまうんだよ、ソイツはな)」

 

 絶対的な信頼。それは親愛でも信仰でも何でもない、冷めた目で阿含を見てきた彼だからこそ分かる、純然たる事実だった。

 

 

 ───金剛阿含がゴール下に居るのなら、外しても何一つ問題は無い。

 

 

 その確信は彼から緊張から来る力みの一切を無くさせた。

 

 帝光からリバウンドの声が飛ぶ中で、この会場で最もシュートが上手いNo.1、SGは目を閉じ、その肩から力を抜いた。

 

「……ボールのスピン、高さに角度……万に一つも落ちることなどあり得ないのだよ」

 

 田島が放ったボールは綺麗なループを描き、バスッ!とゴールリングに一切触れること無くネットを揺らした。

 

 

 こうして、明洸はこの決勝点を守りきり、長く白熱した中学決勝は124対123で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「お、俺らが……負け、た……?」

 

 黄瀬が呆然としながらスコアボードを眺める。

 

「そんなことが…………あり得るん、スか……?」

 

 あらゆる動きを一目で習得してしまう万能の天才たる黄瀬は、『敗北』の二文字を味わったことがない。そして、帝光中はそんな自分すら超えるような天才達が集まった黄金世代だ。溢れんばかりの歓声すら遠い世界の事のようだった。

 

「……あ゛ー、この感じ……何度味わっても良いもんじゃねーな……」

 

 目の前で喜びに泣く明洸選手達と、顔を俯かせてる自分達。勝者と敗者がそこには居た。それを見ながら青峰は読み取れない複雑な感情をその瞳に宿していた。

 

「胸が締め付けられて、吐き気がするようにムカついて……俺を負けさせてくれるような強い奴と戦いてぇとは思っていたが、いざ負けて見れば苦い気分になるだけで、何も良いことなんかねーわ」

 

「大ちゃん……」

 

 久し振りに見るそんな姿の幼馴染みに、さつきの口から昔ながらの愛称が自然と出てくる。

 

 

 

「はあ……勝ちたかったな……」

 

「……うん、きっと次は勝てるよ」

 

 

 

 苦い敗北の味。しかし、その顔から滲み出る無気力感は試合開始前よりも不思議と無い。彼が今まで求め続けた全力でやっても壊れないどころか、逆に倒されてしまうほどに強い敵。そんな相手が現れてくれた。

 だからこそ、その瞳には絶望なんてどこにも宿っていない。あるのはバスケットが好きな少年が抱く、どこまでも健全な『敗北感』だけだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「(ああ……負けたのか)」

 

 瞳が滲む。呼吸が荒くなる。手が震える……今まで、味わった事の無い感情に無様に振り回されていた。

 

「これが敗北というものか……筆舌に尽くし難いものだな。……最悪、という言葉が……これほど相応しくなる気持ちとは……」

 

「赤司……」

 

 緑間がオレを気遣うようにオレを見る。それほどに酷い顔をしているらしい。

 

「……ああ、分かっているよ、緑間。───整列だ」

 

 雄叫びを挙げている明洸を見ながら、キャプテンとしての責務を……敗者としての義務を果たしに行こう。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「うおおおおおおおおッッ!!」

 

 観客席と明洸のベンチから歓声が轟く。

 

「よおおおし!勝った……!勝ったぞ!!俺達の勝ちだッ!」

 

「はははは!あの最強の帝光に勝ってやったぞ!!」

 

 その光景を前にしても同じ様に大声を挙げて喜ぶような事はなかった。

 

「(どいつもこいつも、泣きながら笑っていやがる。疲労で足腰ガタガタしている奴らが馬鹿みたいに飛び跳ねやがって……ガキかよ)」

 

 監督も両腕を挙げて喜ぶとか……まあ、どこの中学も長年勝てなかったから当然なんだろうけど。

 

「どうだーッ!見たかああああ!!俺の最後に見せた神掛かった3Pシュート!決勝点もぎ取ってやったぜッ!だーはっはっはっは!今日のヒーローはこの俺様だ!……うおおおおおお!!」

 

「(最後の最後にようやく点を入れた程度のカスが調子に乗りやがって……みっともなく泣きながら叫んでんじゃねえよ)」

 

 無駄に自己主張しながら田島が叫んでいる。いつもは愚痴やら嫌味をぐちぐち言いながら最後まで練習をしている奴の癖に、決勝点を決めたからか調子に乗って声高々に自慢していた。

 今だから許されるが数日経っても言い続けるようなら、間違いなく辟易とされて距離を開けられること請け合いだな。

 

 ……でも、何でだろうな。

 

「(死ぬほど嬉しくなると思ってたんだが……なんだか、ピンと来ねえ)」

 

 10年以上もの間、ずっと馬鹿みたいに練習をしなければならなかったし、本番でも散々手を焼かされ続けた。苦労ばかりの第2の人生。憎悪やらなんやらが煮凝りのように沈殿していると思っていた。

 それこそ、負かした『キセキの世代』を相手に喜びの余り、煽りに煽り散らす自分の姿も予測していたが、不思議とそんな気持ちにならない。

 虚無感とは違う……現実味が無いというべきか。

 

 そんな俺にドンッ!と、後ろから誰かがぶつかってくる。

 

「やっぱり、お前はすげーよ!金剛ッ!本当にアイツらに勝っちまいやがった!『キセキの世代』を……無敵の帝光中学を倒したんだよッ!」

 

 荻原が泣き笑いをしながら肩を組んでくる。……考えてみれば、原作では『お痛わしい枠』だった凡人代表の荻原が、俺がする馬鹿みたいな練習に付き合ったから勝てたんだよな。最初はチームプレーを捨てることも考えていた訳だし。

 

 なんだろうな……原作じゃあ絶望顔ばかりだった荻原がこんなに嬉しがっていると、実感が少し湧いてきた。

 

「(……最初は『強くてNEW GAME』かと思いきや、クソみたいなルールを付けられて、習慣になるまで馬鹿げた練習量を日夜やる羽目になるわ。地獄みたいな毎日だったが……俺はあのチート集団に勝ったのか……!)」

 

 荻原を振り解くこともせずに俺は右手を握り込み。ガッツポーズをしながら万感の思いを込めて叫んだ。

 

 

 

「シャアアアア……ッッ!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「って、感じで喜んだんだがな……」

 

 帝光中学を倒した俺は次の日に枕元に1枚の紙が置いてあった。

 

 

『お主の使命である「キセキの世代」の打倒を果たした事を認める。少し物足りない気もするが……まあ、よいじゃろう。それなりに、見応えのあるものを見せて貰った。儂は次の転生者の人生を観賞しに行くからの。好きに生きると良い』

 

 

 そして、早速次の日から彼女を作るために動き、なんと2日目で巨乳のリア充の彼女ができた。

 

 学校一の不良(見た目と言葉)で才能に満ち溢れ(ノー勉で学年トップレベルの成績&どんな競技のスポーツでも一番)る男。適当に話していたら向こうから告ってきた。

 

「(まあ、カス共をイジメだのなんだのはしてなかったからな。そんな無駄な時間も理由も余裕さえなかったから当然だが……今まで付き合いが悪かったのも『キセキの世代』に勝つためだったとか思われてるようだしよ……いや、それはまあ間違ってはいないんだが)」

 

 どうやら、あの大会を見ている奴もそれなりに居たようで、俺の評価は学校でもトップレベルに良くなっていた。

 見るからにヤバいヤンキーだが威張り散らすこともなく、授業は真面目に聞く(勉強で時間を取られたくなかったため)上に、舐めた態度だが教師の言うこともしっかりと聞くため(親を呼び出された結果バスケの練習ができなくなることを避けて)、よく分からない奴認定をされていたらしい。端的に言うと生態が全く分からない、肉を食べない肉食獣だ。

 

「(まあ、見るからに学校1の危険な男だが、刺激的な恋愛をしたいスリルを求める女にモテにモテた)」

 

 それこそ、原作阿含と同じ様なコミュ力の振る舞いをすれば人気は鰻登り。……端的に言うと肩透かしだった。

 

「(強面イケメン+天才+バスケットマン+マッチョ……まあ、モテるか。周囲に圧を掛けるドレッドヘアーもやめたしな)」

 

 ドレッドヘアーは験担ぎであり、俺にとっては戦化粧のようなものだった。目標をやり遂げた以上は特別する理由もない。

 そんな強面要素が減り『極道一直線の激ヤバヤンキー』から『バスケットマンの不良』に見た目が落ち着いた俺は、普通の中学生として過ごしていた。

 サングラスを掛けながら目に映る青空を眺める。

 

「……そういや、転生してからこんなに気を抜いたこともなかったな」

 

 俺としては『キセキの世代』を倒すことと、同じくらいの難易度を求められるかと思いきや、簡単に付き合えただけじゃなく童貞もすぐに卒業してしまった……なんというか、こんなに達成感の薄いものだったのか?

 スッポリと何か大事なものが抜けてしまったような感覚に、陥っていることを自覚しながらも何をすればいいのか分からず溜め息を吐く。

 そんな俺に声を掛ける奴が現れた。

 

 

「おっ!やっぱりここに居たな、金剛。屋上なんかで何黄昏てんだよ」

 

「……全く、毎日毎日飽きずによく来やがる」

 

 

 屋上の屋根の上で寝転んでいると、梯子を上がって荻原の奴が顔を出しに来た。その手には何故かボールを持っている……どう考えても邪魔だろそれ。

 

「そりゃ、会いに来るだろ。俺が明洸の次期キャプテンなんだからよ」

 

 明洸の次期キャプテンには荻原がなった。最初は帝光に勝った立役者ってことで俺がされそうになったがそれを辞退。自分の目的のためだけに生きてきた奴がキャプテンなんかできるか。

 

「まあ、あんだけ頑張ってたんだし、目標を達成したから休みたいってのも分かるけどな。でも、いい加減来いって。バスケ部の幽霊部員がエースだなんて聞いたことないぞ」

 

 何か気が乗らずにサボり続けてしまった。これが青峰状態なのか?いや、違うか。アイツのは強くなることにうんざりしてただけだし。

 

「それに、色んな女子と付き合ってはすぐに別れてるみたいだし……あんまり、女の子を泣かせるなよ?」

 

「あーはいはい、荻原ママはお小言が多くて嫌になるぜ」

 

 そう、今までは俺が自主的にバスケ部に行っていたこともあってか、クラスが違う荻原と教室で話すようなことはなかったが、俺がこの3ヶ月の間バスケ部に行かなかったせいで、教室まで呼びに来るようになった。

 荻原はあの真面目で明るい性格で友達が多い。だからこそ、そんな奴が意気揚々と俺に話し掛けて行く姿を見た奴らは、俺への警戒心を失くした。これも俺が今モテている要因の一つなのだから、何がモテに繋がるかは分からないものだ。

 

「今付き合ってる子とはどうなったんだ?」

 

「別れた」

 

「またか……この3ヶ月で何人と付き合ったんだよ?」

 

「5人だな。どれもイイ女だったぜ……でも、何か違え。だから、別れた」

 

 気持ちいいこともしたし、長年の夢だった可愛い女子とイチャイチャする欲望も叶って人生ウハウハ……の筈なんだけどな。何でか、つまらない。

 才能、名声、女。前世から欲しかった男の理想をしっかりとこの手に掴んだ筈なのに、物足りないったらありゃしない。

 

「はあ……あのな。今までは燃え尽き症候群だとかそういうので言わなかったけど、俺もキャプテンになった訳だし注意しなくちゃならないんだよ。それに、2週間後に俺達は『PRRRRR……』……って、誰だよこんな時に……」

 

 荻原の説教中に電話が掛かる。どうやら、神も仏もまだいるらしい。……いや、神はあれだから居ない方がいいか。そんな事を思っていると、荻原が自分の携帯を俺に渡してくる。

 

「ほら、お前に言いたいことがあるってよ」

 

「あ゛ん?俺にだあ?」

 

 まさか、田島?……いや、アイツとは別に仲良くもないから違うか。どこの誰だ?

 そんな事を考えながら携帯を受け取ると、本人の口から大して聞いたことが無い筈なのに、やたらと聞き覚えがある声がする。

 

『もしもし、金剛君ですか?』

 

「あ゛?テメーは、まさか……」

 

『黒子テツヤです』

 

 通話先は作品の主人公様でした。

 思わず荻原を見るが、以前からの友達であの試合のあとも考えれば連絡先を交換しているのは自然か……っていうか、電話越しとはいえ阿含相手にも物怖じしないのなコイツ。まあ、映画でもあのチンピラ集団『Jabberwock』相手に、真正面から啖呵を切るような狂犬だし……本当に何で影が薄いんだろうな?

 

『2週間後の練習試合、楽しみにしてます』

 

「あ゛~?そういえば、そんなのもあったか?」

 

 他県にも拘わらず、あの超強豪の帝光が明洸に練習試合をするためにやって来るらしい。わざわざご苦労なことだ。

 

『もしかして、金剛の奴と話してんのか!?テツ!』

 

『あっ、ちょっと、青峰くn『オイ、金剛!次は負けねーからな、覚悟しとけよ!』』

 

「……うるせえ」

 

 青峰が割り込んで来てデカイ声で暑苦しいことを言ってくる。

 

『金剛っちスか!?おーい、聞こえてるっスかー!俺も次は負けないっス!覚悟してくださいね!』

 

『って、おい!黄瀬!俺とまんま一緒じゃねーか!パクってんじゃねーよ!』

 

「……何やってんだコイツら」

 

 また増えた。人がこれからのやりがいを探してるっていうのに、自分の都合を押し付けやがって。こいつら自己主張が強いんだよ。

 

『──俺に替わるのだよ。金剛か。俺も今度は負けん。人事を尽くしてお前との試合に望もう。次に勝つのは帝光なのだよ』

 

 いや、何でお前ら一緒に居るんだよ?まさか、練習中か?でも、帝光中はそんなこと許されるような弛いところじゃないよな?

 そんな疑問を浮かべていると、圧のある威風堂々とした声音が聞こえてきた。

 

『──やあ、金剛。みんながすまないね。あれから僕達は「打倒金剛」を掲げて……いや、「打倒明洸」を掲げて努力を積み重ねている。次の試合を楽しみにしているよ。

 では、最後に紫原に代わるよ……「いや、いらないから。俺は試合でアイツを捻り潰すだけだし」……そうか。オレ達から言いたいことは以上だ。黒子に電話を返すよ』

 

 見事にバスケ馬鹿しかいないな。原作でもそんな感じだけど。というか、この雰囲気は俺の冷めた心情が全く伝わってない感じだな。人生を賭した一戦を終えてもう熱とか無いんだけど……。

 

『金剛君。君はスゴい選手だ。まさか、みんなを倒せる人が同年代に居るとは思ってもいませんでした。僕達はあの日から強くなるために努力をし続けています。

 それこそ、色々と問題も起きましたが、全員が一丸となって君を倒すために頑張ってます。負けたくない……その気持ちがこんなに努力するための力となることを、思い出せました。ありがとうございます』

 

「…………」

 

 いや、これ何の時間?何を聞かされてるんだ?お前はポエマーか?……いや、待て。火神の印象があったけど黒子も『僕は影だ』とか言っちゃう奴だから、その要素はそういやあったか。

 

 

『───だから、今度は僕が君を倒す』

 

「……あ゛?」

 

『僕ももっと強くなります。それこそ、君を倒せるくらいに』

 

 

 それは予想外の言葉だった。それを言うのは誠凛高校に上がってからだと思っていた。しかも、それを言う相手が他の誰でもない『キセキの世代』を破った俺に対してだ。

 

 それは黒子が言うのは確かに予定調和で……でも、俺が予想してなかった言葉だった。

 

「『キセキの世代』だとか言われてる、お前のお仲間を倒したこの俺をクソザコのお前がか?」

 

『はい、僕が君を倒す……あと、クソザコじゃありません。黒子テツヤです』

 

 その原作でも言いそうな言葉に自然と口角が上がる。

 

「ハッ!だったらドリブルもシュートもできる様になるんだな、カス」

 

 ピッ!と通話ボタンを切って荻原に投げ付ける。

 

「うおっとと……!──いや、投げるなよ!?……ふぅー、危ねー……」

 

「ったく、その程度で慌てふためいてんじゃねえよ。──オラ、行くぞ」

 

「ん?行くってどこにだ?」

 

 はあ……話の流れで分かるだろ。荻原が手に持っているボールを奪い取りながら屋上の床に降り立ち、ボールを指の上で回しながら上に居る荻原に向かって口を開く。

 

 

 

()()()。カス共を調子に乗らせるのも目障りだからな。プチッとまた潰してやるよ」

 

 

 

 そのまま指の上でボールを回しながら、荻原を置き去りにして扉を開けて放ち階段に向かうと、『ああ!頑張ろうぜ!』なんて声が聞こえてくる。

 やっぱりアイツはドMだな。

 

 その荻原(雲水)の声に対する(阿含)の返答は決まっている。階段を降りながら人知れず呟いた。

 

 

「───言われねえでも、そのつもりだよ」

 

 

 

 

 

 【金剛のバスケ+10cm】ーー帝光中学決勝編 完

 




ストックは切れた。
ちなみに、最後の阿含の姿は中学生の時のものです。

取り敢えず、キリがいいのでここで一旦完結とします。時間ができたら続きを描こうと思います。
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