金剛のバスケ+10cm 作:藤原わさび
『お主は死に、トラック転生で第2の人生を歩むことになった。───それで憑依転生するキャラクターは何が欲しいんじゃ?』
「ええ……幾らなんでもスピーディー過ぎない……?」
目が覚めると見たこともない爺さんにそんなことを言われた。馬鹿馬鹿しいと一蹴したくても、トラックに跳ねられた衝撃も激痛も簡単に思い出せてしまう。
あれを夢だと言い張るのは流石に無理だ。
『だいたい流れは分かるじゃろう。お主の転生先はスポーツ漫画の世界じゃ。バトル漫画はそろそろ食傷気味でな。お主で味変してみようかと思ったのじゃ』
「人の新しい人生をラー油扱いとか、人の心無さすぎだろ」
神に言うセリフではないかもしれない。とはいえ、情緒も何もあったもんじゃない。自分が言いたいことを言っている感じだ。
『どのスポーツ漫画の世界に転生するかは秘密じゃ。お主にはその世界で個人かチームで一位になるか優勝をして貰うぞ。じゃが、憑依転生した先に転生することはできん。
その作品で既にチート扱いのキャラクターで優勝をしても、面白くもなんともないからの』
「なるほど。それは確かに……」
強いキャラがただ予定調和のように強いだけのため、斬新さはまるで無いだろう。
「転生するに従ってこなして貰うノルマがある。できなければペナルティじゃ」
「はあ!?ペナルティだって!?」
「はて?何かおかしな事があるかの?憑依転生をしておいて無双するだけなんぞ何も面白くもない。それなりのリスクを背負って貰うのは当然じゃ。
第一、そこまで下駄を履かせてやって結果を残せんでは期待外れも期待外れよ」
……まあ、そう言われるとその通りだけど……。
何も言えなくなっていると、爺が片眉を上げて見下ろしてくる。
「それでどうする?憑依転生をするか。それとも、このまま死ぬか」
「……転生をさせてください」
義務でもあるのか、あるいは自身の愉悦のためかは知らないが第2の人生、それも強くてNEW GAMEでやらせてくれるんだ。乗らない手はない。
「なら、とっとと選ぶんじゃ」
簡単に言ってくれるが、神様なんだしそんなものだろう。だが、ここで慎重に選ばないとその世界で詰むことに……
「スポーツ漫画……【テニスの王子様】とかだったら隕石落ちてきたり、ホームランされるかもしれないし、【はじめの一歩】とかだとデンプシーロールを食らう羽目になるかも……どんな世界でも戦える強靭な肉体が欲しい」
スポーツ漫画の世界でも普通に死ぬ。何故なら、漫画の描写を良くするため、回が進む度にファンタジー要素がスポーツ漫画には付け加えられていくものだからだ。
「【ブルーロック】の世界だと身体能力だけじゃなくて、頭も良くないと一位にはなれないんだよな……クソッ!潔世一が魔王過ぎる……」
あれ相手には前世の知識ありでも、頭の出来で全てのパフォーマンスが完封されかねない怖さがある。適応力の天才相手に原作知識なんてゴミだ。
つまり、どんな技や事象に遭っても無事でいられるフィジカルに、潔世一の操り人形で終わらない頭脳を持つチートキャラクター。
……となると、俺が次の人生で生まれ落ちる身体は一つだけ。
「(圧倒的なフィジカルに類い希な頭脳を有する超天才キャラ、【アイシールド21】の『金剛阿含』しかない)」
金剛阿含なら頭も良いし読みも鋭いから、【ブルーロック】の世界でも活躍できる筈だ。そして『神速のインパルス』もあるから、頭脳面で対抗できなくても格落ちすることはまずない。
【はじめの一歩】なんかのボクシングや、空手、柔道なんかでも優勝をすることは難しく無いだろう。
「それじゃあ、金剛阿含でお願いします」
『よかろう』
ふぅ、チート過ぎたから無かったことに、なんてことにならずに済んで良かったぁ……阿含ってモテてたし顔もイケメンの筈……転生ライフ勝ち組確定だろこれ。
……。
……。
…………ちょっと、不安になってきた。
な、なんかすごい上手く行き過ぎてる……!な、なんか見落としたか……!?ヤ、ヤバい!このまま阿含になるだけだとすっごい不安だ……!
「え、えーと……えーと…………あっ、そうだ!阿含の身長って伸ばせますか?」
『ほう?身長かの?』
「阿含って175cmしかないんですよ。多分、日本人と外国人との体格の違いを描きたかったんだと思うんですけど、100年に1人の天才っていうには名前負けかなって」
これさえあれば問題ないだろう。
もちろん、プロレス格闘ギャグ漫画の【キン肉マン】だとか、超次元サッカーの【イナズマイレブン】、直撃してしまえば身体に穴が空きそうなタイガーシュートなんかがある、【キャプテン翼】とかじゃなければだけど。
大概の世界であれば、10cm背が伸びた金剛阿含で頂点が取れる筈だ。
『プラス10cmか……ならば、それ相応のデメリットを受けて貰うぞ』
「マジですか」
『トラック転生にて少女を助けた善行は認めるが、それは憑依転生で充分お釣りがくる。さらに求めるなら相応の対価が必要じゃ』
正論だった。
転生なんてそうそうあることじゃないのは誰だって分かる。そこから、さらに注文したにも拘わらずちゃんと方法を考えてくれるんだから、きっとこの神は良い神様なんだろう。
了承の意味を込めて頷くと、神様はそのデメリットを教えてくれた。
『では、お主が行く【黒子のバスケ】の世界で、『キセキの世代』を含めた帝光中学出身の生徒と、同じチームを組まずに優勝をできない間は、永遠に童貞とする』
…………………………………………はぇ?
『中学時点で勝てなければ、悪縁ばかりが結ばれる人生となり、原作時、つまりは高校1年生の1年間で勝てなければ厄運が襲い続け、高校の3年間でまだ勝てなければ───お主は死ぬ』
し、ししししししし……死ぬぅッ!?
『それでは、見ごたえのある転生ライフを期待しておるぞ』
「いや、ちょ……まっ───」
その言葉を最後に俺の意識は暗闇に包まれた。