金剛のバスケ+10cm   作:藤原わさび

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4.中学2年決勝ーー狡猾な罠

「(あ゛~、あのクソ神がぁ~!!どうせ見てほくそ笑んでやがるな?この俺が死に物狂いで戦っているこの状況を眺めてよお……!)」

 

 帝光中学との決勝戦の第3Q。青峰と対峙しながら歯噛みをする。これまでのことを思うと鬱憤が溜まりに溜まってしょうがない。

 

「(チートありでの転生ライフにも拘わらず、地道な体力作りに筋力トレーニングの毎日……。

 これが漫画の世界で活躍できるかどうかって話なら別だったが、死ぬ可能性がある以上は全力でやるしかなかった)」

 

 何でもすぐにできてしまい一番になってしまうため、適当にトレーニングをしようかと考える日もあったが、帝光中学の『キセキの世代』オールスターズは、金剛阿含のフルスペックでも勝てるかどうか怪しいために、ほとんど虚無の感情でやり続けた。

 気分は素材集めのエンドレス周回である。才能がありすぎることがこんなに退屈だとは思わなかったわ。

 

「(何よりあの『金剛阿含』が死ぬまで童貞なんざ許される訳がねえ)」

 

 基本的に女好きのヤリチン野郎には嫌悪感が出てしまうが、金剛阿含は女を取っ替え引っ替えしなければ金剛阿含じゃない。

 中学の頃から常に女が居て、経験人数が高校入学時点で20人ぐらいあることこそ、読者が思い浮かべる阿含の理想像ではないだろうか?

 

「(その金剛阿含がチェリーボーイでその生を終える……?絶対にありえねぇだろ!金剛阿含として自分自身を高め続けてきた俺だからこそ、そんな汚点は許せねぇ……)」

 

 金剛阿含として生きる上で媚びへつらうなんて解釈違いだったため、口調から振る舞いまで何から何まで全てを『金剛阿含』に変えて生きてきた。

 

「(努力をすればするほどに結果に結び付く快感!凡人の努力と天才の努力がまるで違うことを俺は知った。

 この肉体に、『金剛阿含』という存在に対して、読者としてじゃなく張本人として俺が敬意を抱くのは早かった)」

 

 100年に1人の天才。その肉体がどれほど素晴らしいのかまざまざと認識をした。だからこそ、原作の金剛阿含の息苦しさがより分かるというもの。

 

「(……雲水が生まれていないのは神の慈悲かもな。俺にはノルマを達成しなくちゃいけねえ制約がある。原作の阿含とは違って努力をしないで才能だけに頼るつもりなんかない。

 努力する天才に桜庭が絶望したように、雲水がそんな俺の近くにいれば絶望して最悪命を断つ可能性だってある)」

 

 俺はこの身体を使い倒す。全てはこの肉体に対して恥ずべきことをしたくないがために。

 

 

 

「(だからこそ、金剛阿含のためにも……あと俺自身の欲望のためにも必ずこの試合に勝つ!)」

 

「ははっ!さらに集中力が増したな金剛ッ!そうでなくちゃな!」

 

 

 

 8割もシュートが俺に防がれているにも拘わらず、笑顔を浮かべる青峰。動きのキレも増している気がする……。

 

「(落ち込んだりしないのか?落ち込んで調子を崩せよ。赤司と違ってどいつもこいつもメンタルが無駄に強えヤツばっかりだな。うぜぇ……)」

 

 

 

 ───まあ、それも終わりだがな。

 

「……なっ」

 

 

 

 ドシャッ、と音を立てて青峰がコートに転倒する。シュートをするために構えた右手から溢れたボールが転がり落ちて、チームメイトがそのこぼれ球を手にすると俺にパス。

 それをゴール前まで持っていき、そのままウィンドミルダンクで紫原を躱しながら決めた。

 反射がどれだけ良かろうと、体勢の整わない突発的な動きじゃあパワーのある動きには押し潰される。

 

 そのままボールデッドとなり、笛が鳴ると同時に赤司が青峰に近付いていく。

 

「───大輝。交代だ」

 

「……って、はあッ!?オイ、赤司ッ!テメーどういうつもりだ!?」

 

 青峰が赤司に反論をするために立ち上がり詰め寄るが、赤司の意思は覆らない。赤司は青峰の震える足を見ながら冷徹に告げる。

 

「お前の身体がお前自身のプレーに耐えきれなかった。それだけの話だ」

 

「こ、こんなもん、少し転んだだけじゃねえか!俺はまだまだやれる!最後までやってやるッ!」

 

 震える右足で無理をして立ちながら青峰は反論をしたが、説得力は誰が見ても皆無だった。

 

「まだ身体が出来上がっていないにも拘わらず、第1Qから今の今まで全力を出し続けてきた影響で、このままでは怪我をするリスクが高い。キャプテンとしての判断だ、下がれ大輝」

 

「ッ!……やっとだ!やっとなんだぞ!?ようやく出会えた俺より強えヤツがそこにいるってのに、このまま引き下がれってのか!?」

 

「おいっ、やめるのだよ青峰!」

 

 赤司の胸ぐらを掴み青峰が言葉をぶつけるが、赤司の冷めた視線は変わらない。

 

 

 

「───ボクと監督は何度も一度休憩をしにベンチに下がれと言った筈だ。それを無視して金剛阿含が出続けるならと、自分も出ると言って聞かなかったのはお前の判断だろう。

 お前が楽しむことを優先してチームを負けさせる訳にはいかない。下がれ、大輝。今のお前はチームの邪魔だ」

 

「……ッッ!!」

 

 

 

 唇を噛み締める青峰は反論の言葉を持たない。青峰が赤司の言われた通りにコートから出ないのは、感情からの我が儘でしかないのは分かっていた。

 ───それでもようやく出会えたライバルがそこに居る。その一点が青峰の足を止めていた。

 だが、その抵抗に止めが差される。

 

 

 

「青峰、交代だ。ここでお前の選手生命に(ひび)を入れることは私が許さん」

 

 

 

 しかし、ベンチに居る白金監督に言われてしまえばどうしようもなかった。赤司のユニフォームから手を離して歯を食い縛る。

 

「クソがッ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ、上手くいったか」

 

 青峰がベンチへ去っていく姿を見ながらほくそ笑む。

 

「高校時点ですら身体が出来上がっていなかった『キセキの世代』だ。なら、当然中学のときはもっと壊れやすい。俺と青峰が1on1をし続ければ必ず青峰の身体が先に音を上げる」

 

 この戦法も肉体が金剛阿含でなければ共倒れでしかなかったが、それに加えて子供のときから筋肉トレーニングもしていた俺なら、無茶な運動量にも耐えられると判断した。

 

 

「……だが、流石は練習をサボっていた高校の時点で、試合をフルタイムでプレーし続けられる化け物と言ったところか。第2Qで潰すつもりだったがまさか第3Qまで動き続けるとはな」

 

 

 そもそも何故、『キセキの世代』が中学の2年生の今この時期に勝負を仕掛けたかと言えば、俺が思うにこのタイミングこそが最高の狙い目だったからだ。

 身体が出来上がっていない『キセキの世代』は、100%の潜在能力を引き出してしまうと、身体が耐えきれなくなるのは原作で言われている。

 だからこそ、『キセキの世代』の戦力を削ぐ合理的な手段として、あいつらの身体を壊す他なかった。

 

「雑魚ばかりを相手にしてきた青峰は、フラストレーションが溜まりに溜まっていた状態だ。そこに俺という存在が現れれば、少し挑発しただけで無理に出続けるのは分かり切っていた。

 ククククッ……相手が出ずっぱりの中で自分だけベンチで見てるなんて、あの青峰にできる訳がねえよなあ?」

 

 だが、これにも穴がある。それこそ、もし虹村が未だに部長ならばあの青峰もシバかれてベンチに連れていかれたかもしれない。だからこそ、彼が親の都合で引退するこの2年生のタイミングしかなかった。

 

「まあ、赤司も青峰を下げる可能性はあった。その見極めができないヤツじゃない」

 

 冷静沈着で勝つことに全てを尽くす赤司がキャプテンなら、この作戦も潰されていただろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「だから、僕司クンが必要だったワケだ。プライド激高の勝利至上主義の僕司がな」

 

 

 

 頼りになるキャプテンが家庭の事情でその立場を退き、帝光バスケ部の精神的な支柱が消えたことにより、赤司の負担が大きくなったこの時期なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そのプライドを虚仮にしてやればイチコロだ。青峰を外すことのリスクを取って、使い潰すようになってくれたのは最高の結果だったな」

 

 まあ、僕司からすれば青峰と一緒に潰れることを期待したのだろうが、金剛阿含の無尽蔵の体力は伊達ではない。見込み違いでしたとしか言えないな。

 

「俺司クンなら負担を分散させたゲームメイクをするだろうが、黛を使い潰した僕司クンならそうしてくれると思ってたぜ。

 どうせ第1Qでの借りを、体力を使い果たしてガス欠の俺に返すつもりだったんだろうが、その思考は余りにも予想通りすぎる。

 あいつが言っている事前の忠告も、青峰のヤツが言うことを聞かないことを見越して言っていた癖に、白々しく言うじゃねえか……クククッ、良い子ちゃんから随分と悪いヤツになったんもんだ」

 

 まあ、生まれて数十分なのだから調子に乗って失敗するのは当たり前である。僕司からすれば報復を超えた粛清とかなんとか思ってそうだが。

 

「(まあ、その経験の薄さを狙って無理やりこの試合の間に引っ張り出してやったんだがな)」

 

 時間は掛かったがこれで第1段階クリアだ。ここから先は『キセキの世代』を1人1人潰していくだけでいい。

 

「これで青峰は潰れて俺に着いて来られるヤツは居ねえ。陽泉のゴリラから教わったテクニックすらねえ紫原の相手は楽勝。

 『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』ができず、灰崎みたく奪う技術すらない今の黄瀬は他より上手い程度。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 原作で見たあのドリブルをそのままするだけだ。覚える時間はたっぷりあったのだから、ドリブルぐらいできない方がおかしい。

 速度も青峰と同じに加えて、実際にこの試合で見本も見たのだから、再現ぐらいならできて当然だろう。

 

「(片手投げとゴール裏からのシュートは再現率90%ってところだが、体勢を後ろに傾けてのシュートと、ファールされながら後ろ手で放るシュートは意味が分からねぇ……意識を切り替えて少し試したらできましただあ?……あの野郎、舐めてやがるのか?)」

 

 ちゃんと鍛えた金剛阿含でも不可能なプレーをやるとかイカレてる。……チート転生をしてるのに転生先にチート野郎がゴロゴロ居やがるとか、理不尽がすぎるだろ。

 

「……特に緑間のヤツは不可能だったがな」

 

 『超高弾道3Pシュート』なんざ練習時点でも成功率30%とか40%とかだぞ。それを試合中に100%でやるとかどう考えても無理だろ。

 

「(なんだったら、失敗前提で最初にやって賭けてみるべきだったか?……いや、失敗すれば調子に乗らせて作戦に穴が生まれてたな)」

 

 それこそ、相手が帝光で破れかぶれのシュートを打った雑魚だと思われるのがオチだ。

 帝光に俺が最大限警戒されなければ長年用意してきた策の数々は失敗する。この試合はそういった綱渡りの戦いなのだから。

 

「……緑間はダブルチームで対処させてるが、あいつは3Pシュート以外のスキルも高い。ボールが渡れば止めようがない。

 ───なら、攻略すべきは僕司の『天帝の眼(エンペラーアイ)』一択。まあ、その対策は何通りも既に考えている。『神速のインパルス』なら未来が見えようが問題ねえよ」

 

 心が未熟で暴走しがちな『キセキの世代』の中学時代。突然現れた俺という爆弾に誘爆して、青峰は限界度外視の全力プレーでリタイア。

 赤司は解離性同一性障害の発症。

 

 ……幾ら桃井でもこれを予測して対応しろなんて無理だな。

 

「紫原はダンクを俺に決められ続けたことにイラついたのか、無理やり俺を止めようとして3ファール。ククッ、まだ第3Qの中盤なのになあ?

 例え、ここからゾーンに入ったとしても、試合終了前に体力切れは間違いねえし、青峰同様に身体が耐えきれず壊れるかだ。

 それこそ『キセキの世代』を潰せるなら20点や30点は充分安いが、『神速のインパルス』の超反応ブロックなら緑間以外は10点前後で済むだろう」

 

 ベンチメンバーは全国的にみれば優秀な選手だが、(阿含)からすれば雑魚でしかない。簡単に巻き返せる。

 

 ここまでの全てが計算通りだった。

 

 

 

「クククッ、同じチームメイトですら知らない個々人の精神的な状態を隅々まで完璧に把握して、その対策に何年も掛けてきた男がお前達の敵だ。

 この馬鹿げた難易度のクソゲーも完璧にクリアしてやるよ。クハハハハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯き歩く青峰のその姿から、その内心で感情が暴れ回っているのが見て取れた。

 ベンチに近付いて来る彼に誰も声をかけないどころか、目を逸らしてその鬱憤を向けられないようにするくらいだ。それほどまでに、今の青峰は鬼気迫る雰囲気を出している。

 

 だが、そのことにまるで一切気付いていないかのように声を掛ける存在がいた。

 

 

「交代です。青峰君」

 

「テツ……」

 

 

 声を掛けられてようやくコートの前に立つ人物を認識する。相変わらずの影の薄さと言うべきか、あるいは相棒のことすら認識できないほど平常心を保てていないのか……まあ、間違いなく前者だと思いながら青峰は顔を上げて彼を見た。

 

「言ったでしょう?青峰君よりすごい人なんてすぐに現れるって」

 

「ああ、そうだな。お前が言った通りだった」

 

 おそらく目の前の彼もこんなに早く現れるとは思っていなかっただろうが、結果として言われた通りになったのだから、思い上がりだったのは間違いない。

 

「青峰君。また来年には彼と戦えます。それこそこの試合から彼が居る中学と、これからは練習試合も増えるかもしれません。

 この試合っきりじゃないんです。これから、もっと沢山練習をして彼と戦えるように頑張ればいいんです」

 

「そうだよ!大ちゃんっ!これから何度だって勝負できるんだから……!」

 

 幼馴染みのさつきも自分を見て笑っている。自覚はあったが最近の自分はそれほど酷い状態だったらしい。すると、一転して小馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 

「それにスタミナ切れや筋肉疲労でベンチに戻されてたら、金剛君からライバル認定もされないんじゃな~い?」

 

「はあっ!?ふざけんなっ、さつき!金剛のヤツにも絶対に負けねえ体力と身体を作ってやるっての!」

 

 売り言葉に買い言葉だが、燻っていた感情はいつの間にか無くなっていた。

 

「あとは任せて下さい」

 

「……そうだな。あとは任せるわテツ」

 

 パンッ、と手を合わせて青峰の代わりにこの試合、初めてコートに彼は踏み入れる。

 そしてこの会場に居る全ての人間が、余り近付きたくないだろう金剛阿含という男に、彼は一切の躊躇無く近付いて声を掛けた。

 

 

 

「……僕は君に感謝をしています。多分、この会場に居る人間の中でもトップクラスに」

 

「……あ゛ん?」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのいつも通りの様子を小慣れたように受け入れるその人物こそ、このコート上で最弱の選手だった。

 

 

「でも、それとは別にして、────負けるのは絶対に嫌なので、君を倒します」

 

 

 

 

 

 不明、黒子テツヤ。

 生来の影の薄さを視線誘導(ミスディレクション)で補強することにより、相手の意識から自らを完全に外す異端技術を持つ秀才パサー。

 

 

 

 

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