金剛のバスケ+10cm   作:藤原わさび

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5.帝光中学決勝ーー対処不可能

 黒子テツヤ。

 【黒子のバスケ】の原作主人公。地味で大人しそうな癖に作中一番の狂犬と言われるヤベーヤツ。

 

 ───今、俺はそのヤバさを身を持って体感している。

 

 

「(クソが……!()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 赤司の出したパスが通る。今までならスティールできていたパスがいきなり方向を変えて曲がった……ように錯覚してしまう。

 赤司→黒子→黄瀬のパスワークに俺も味方も着いていけず、そのまま点を決められてしまった。

 

「(他の『キセキの世代』の奴らの方が対処はまだ現実的だった。『神速のインパルス』と脚力を鍛えて中学二年で40ヤード4.4の足を手に入れた俺に隙はない。

 そして手刀で相手を薙ぎ倒すパワーと無尽蔵の体力……これだけ身に付ければ対処できないヤツの方が少ねえからな)」

 

 しかし、目に見えない。……そんな存在に対しての明確な対処法だけは思い浮かばなかった。

 

 

 

「(『キセキの世代』は身体をブッ壊してやればいいが、こいつは既に限界値のポテンシャル。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)」

 

 

 

 身体が壊れるまで体力の方が保たないと言うべきか。雑魚すぎるが故に無理ができない性能だから自壊をしない。

 そして黒子の影の薄さが薄れると、ベンチに下げられるが既に試合は第3Q中盤。インターバルを挟めば最後まで保つ可能性は高い。

 

「……その上、『キセキの世代』が周りに居やがるせいで影の薄さが無くなる気配がねえのが厄介だな」

 

 

 

 (まさ)しく天敵。認識できないものに反応することはできない。『神速のインパルス』殺しともいえる相手が黒子テツヤだ。

 

 

 

「(原作の攻略方法は高尾の『ホークアイ』に花宮の100%スティール『蜘蛛の巣』。それと今吉の読心術と青峰の読みってところか……チッ、どいつもこいつもワンオフ技能しかいやしねえ)」

 

 実は黒子対策に高尾のホークアイも身に付けようとしたが無理だった。

 

「(俯瞰して見えますってんならまだ分かるが、コート全域を見てるから視線誘導(ミスディレクション)は効きませんってのはどういう理屈だ?

 試合中に幽体離脱でもしてんのか?首振りをしてコート全域を把握しているように認識するならまだしも、ガチで視点がコートの上空にあるとか超能力だろ)」

 

 それこそ作中で地味なキャラである誠凛の伊月の『イーグルアイ』も、馬か何かとしか思えない視界の広さだ。人間のできることじゃない。

 

「(なんで10年に1人って触れ込みの『キセキの世代』より、サブキャラの方が人外染みた能力を平然と持ってんだ。まさか、赤司よりかは下の性能だから雑魚能力、とでも言いたいのか?

 未来を見る『天帝の眼(エンペラーアイ)』のせいで感覚バグってるだけだろ。人外能力だってんだよ馬鹿が)」

 

 ボールを受け取りながらグチグチと考える。ボールの軌道が目の前で不自然に変わるという超常現象を目の当たりにすると、その凶悪さがよく分かる。

 

「(原作はずっと誠凛視点、黒子視点だったからな。相手チームの視点で試合描写が終えることがなかったせいで、コートでの対処のイメージが定まらなかったが、ここまで意味不明の怪奇現象だと思わなかったぞ)」

 

 それこそ洛山の黛もそうだが、読者視点ではちゃんとパスをする動きが描かれていたため想像しにくかったが、黒子と黛の姿を画像処理で消してあのパスワークを実現されてると考えると、頭がおかしくなりそうだ。

 原作主人公という認識がある俺でもこれだから、もしその知識がなければ何もできずに負けてた可能性が高い。

 

「(花宮の『蜘蛛の巣』も無理だな……あれは花宮だけじゃなくIQ160の頭脳を持つ天才の補佐が居ねえと始まらねえ)」

 

 そもそも花宮の政治力なんざないし、途中参加のためにチームワークなんてあるわけもない。実現不可能。

 

「(今吉の読心術も阿含の頭脳なら再現はできそうだが、桃井っていう黒子の癖を知り尽くしている情報源が無いから不可能───まあ、そもそもする意味もないがな)」

 

 意味がないのは何故か。それは実に簡単な理由だった。

 

「(今吉は黒子に張り付いて動きを封じたが、他メンバーが『キセキの世代』の帝光中にそれをやるとか自殺行為でしかねえ。

 しかも、そこまでして潰せるのが帝光中学最弱だぞ?割りに合わねえにも程がある)」

 

 金剛阿含の全てを費やして黒子を封じても、得点力皆無な雑魚を止められる利点しか生まれない。ダブルチームをしている緑間はともかく、赤司と黄瀬、紫原がほぼフリー状態になるのは確定。

 俺がここから一点も取れずに、あいつらにバカスカ点を取られて敗北する光景が目に浮かぶ。

 

「(PGである赤司が攻撃の始点なのは間違いない。そして『天帝の眼(エンペラーアイ)』に対抗できるのは『神速のインパルス』だけだ。

 つまり、俺が最優先に対処しなくちゃいけねえのは赤司なんだが黒子が邪魔だ。マジで邪魔だ。……もういっそ、手早くラフプレーで退場させるか?)」

 

 そんなことを考えてしまうくらいには鬱憤が溜まっていた。手刀ぶち込みてえ……。

 

 黒子のプレーは強いというか、ひたすらにウザイ。

 

 

「(チートキャラクター詰め合わせみたいなクソゲーに、クソみたいなバグギミックぶち込みやがってッ!!)」

 

 

 物理演算を無視して軌道が変わる。加速して軌道が変わる。持ってたボールが脈絡も無しに相手に奪われる。

 最強人権キャラパーティー+システムバグによるクソ攻撃を食らってる気分だ。死ね。

 

 あ゛あ?青峰の読み?黒子と同じチームなんて組んだことねえよ。死ね。

 

 

「(帝光の光と影が同じコートに立たないように仕向けても、大して攻撃力は変わってねえなこりゃ。……つーか、意味分からんパスのせいで緑間がボール受け取る機会が増えやがっ───クソがッ!?」

 

 

 ほんの僅かな気の弛みを突くように、黒子の影薄スティールでボールを奪われた。コートに居る『天帝の眼(エンペラーアイ)』と『超高弾道3Pシュート』を打つ化け物のせいで、黒子テツヤという存在に対する意識がどうしても薄れてしまう。

 そしてまたしてもチームメイトの意表を突くようにヤツにボールが渡る。

 

 

「───これで15点差なのだよ」

 

 

 87対99→87対102

 

「おおっ!これで帝光中学が100点の大台へ先に乗ったぞ!」

 

 観客の湧く歓声すら不愉快な雑音として聞こえる中で、思考を回して勝ち筋を探す。

 

「(チッ……試してみたがあいつでも黒子を抑えられねえんなら、仕方がねえ。成功するかどうか不明瞭な作戦にすがるしかねえか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手チームのタイムアウトにより60秒の休憩になる。

 先ほどとは打って変わって、青峰と緑間以外のシュートが入るようになったことで、チーム全体の血液が回り出した帝光の足取りは幾分か軽いものになっていた。

 ベンチに座ると赤司は黒子に話し掛ける。

 

「どうだ?テツヤ。金剛阿含は封じられそうか?」

 

「(テツヤ?)……え、ええ。問題はないと思います」

 

 雰囲気がどこか違う赤司に戸惑いながらも、金剛阿含に感じた感覚を口にする。

 

「最初は僕が曲げたボールの軌道にさえ、反応するスピードに驚きましたが彼の間合いは理解しました。幾ら反応速度が超人的でも届かなければボールには触れられませんから」

 

「フッ……、流石なのだよ黒子。まさか、たった5回のプレーであの男を封殺するとはな」

 

「そうっスよ!あの人からゴール取るとか、もうこの試合の間はできないかもーとか実は内心で思ってたんスけど、黒子っちのお陰で俺のシュートも入るようになってきましたからね……まあ、それでも少しでも遅れたらブロックされるスけど」

 

 黒子が作り出す1秒の遅れは『神速のインパルス』でも追い付けない猶予を生ませる。

 だが、下手にボールを持てば『神速のインパルス』によるディフェンスでボールキープは困難なため、ボールを受け取ると共にシュートを決めなければならないプレッシャーが襲う。

 だからこそ、100%のシュート成功率を誇る緑間にボールが渡るようになるのは必然だった。

 

「それにしても、なんていうか金剛っち以外はフツーっスね。よくて帝光の2軍って感じの人が1人2人って感じで弱い人ばっかり。だからこそ『神速のインパルス』で広範囲ディフェンスを、金剛っちがしてるぐらいだし。なんで帝光に来なかったんスかね?」

 

「確かに、あれほどの才能ならば、帝光で今のレギュラーとポジション争いをしていてもおかしくはなかった」

 

 黄瀬の疑問に赤司も賛同する。

 

「だが、それよりも不可思議なのは今の今まで一切名前が売れていなかったということだ。

 桃井があれほどの能力を持った選手を、リサーチ不足というのはまずありえない。ヤツが試合に出ることに消極的だったのか、あのチーム独自の取り決めなのかは分からないが」

 

「え……それって弱い先輩に花を持たせるために出れなかったってことっスか?うわー……無いわぁ。あそこまで態度が悪くなっちゃうのも仕方がないっスよ」

 

 嫌悪するかのように相手のチームを見る黄瀬。だが、それに反論の声が飛ぶ。

 

「黄瀬君。余り推測で言うことじゃないと思います」

 

「そうなのだよ黄瀬。穿った推測を真実であるかのように言うなど馬鹿のすることなのだよ」

 

「ええッ!?いやでも、赤司っちもそう言ってたじゃないっすか!?」

 

「赤ちんが言ったのはそうかもしれないって話でしょ?勝手に考えて勝手に人にイラつくとか止めた方がいいんじゃない?」

 

「つーか、あの金剛が上級生にどうこう言われて止まるようなヤツなわけあるかよ。実力で捻伏せることなんざ目に見えてるだろーが。馬鹿じゃねーの?」

 

「紫原っちに青峰っちまで!?それにあの青峰っちに馬鹿って言われた!?」

 

「おいっ!黄瀬!そいつはどういう意味だ!?」

 

「ええいっ!今は大事な休憩の時間なのだよッ!大人しくしているか作戦の内容を聞けッ!」

 

 ギャーギャーと(やかま)しく騒ぎ立てる、『キセキの世代』の面々の姿を見ている黒子と桃井の胸に、熱く沸き上がる感情がある。

 滲む視界に気付き、桃井が袖で目元を拭う。

 

 

「え、えへへ……あれ?なんでだろ……まだ優勝もしてないのに涙が出ちゃうや……ぐすっ」

 

「はい……本当に彼には感謝の言葉が尽きませんね」

 

 

 青峰大輝が腐っていく姿を見ているだけだったこの数ヶ月は、とても見ていられなかった。

 幼馴染みの桃井も相棒の黒子も何もできず、才能が開花してさらに周りとの実力が離れてしまったことで、絶望の雰囲気を纏う青峰の力に一切なれない無力感を抱く日々。

 

 

 ───それが金剛阿含という『キセキの世代』を超える逸材と出会ったことで、雨雲が晴れるかのように綺麗に消え去った。

 

 

 青峰が浮かべるあの顔には無気力感もなければ、退屈だと思う表情もしていない。バスケがしたいバスケ馬鹿が身体が不調で出られずに、黄瀬に八つ当たりをしている姿だった。

 そこにバスケに対する絶望は欠片もない。

 

「(よかった……本当によかった!)」

 

 黒子からすれば青峰は相棒であり、辞めようとしていた自分を引き留めて、3軍レギュラーから1軍に成るまで共に過ごしてきた恩人でもある。

 その人が救われたのだ。嬉しくないわけがない。

 

 

 

 

「あっ、でも、あれぐらい周りが弱くないと100%の実力を出してくれなかったのかもしれないっスね。俺達『キセキの世代』を1人で相手取るなんて、そんな環境じゃないとしようとも思わないだろうし」

 

 そんな黒子の万感たる想いに、泥を塗るようなことを言う男が居た。

 

 

 

 

 

「……黄瀬君。そういうことは言わないで下さい。余りいい気分ではないので」

 

「へ?何でっスか?事実っスよね?誰がどう見ても金剛っちのワンマンチームじゃないっすか。金剛っちが居なかったらウチが楽勝で優勝してたでしょ?」

 

「「「……………………」」」

 

 黒子と桃井と緑間が何とも言えない顔をする。黒子と桃井はそのナチュラルな見下し発言に冷たい目を向けた。

 アナライザーとして桃井も同じ見解ではあるのだが、それをこのタイミングで口にする空気の読めなさは絶句する。

 

「はあ……だからお前は馬鹿なのだよ黄瀬」

 

「なんか緑間っちに唐突にディスられたっス!?」

 

 緑間も青峰の状態は分かってはいたが、同じポジションでもない自分ではどうしようもないため静観をしており、黒子と桃井の感情も粗方は理解はしていた。だからこその、黄瀬に対する呆れだった。

 

「……だが、涼太の言うこともあながち的外れということでもない。チームの戦力を補うためだとはいえ、あれほど広範囲をカバーし続けているのにも拘わらず、ヤツの集中力と反射速度に衰えは見えないのだから」

 

 PGの赤司が3Pラインに辿り着くと後退し、フリースローラインよりも内側に居座る金剛の広範囲ディフェンスは、第1Qから帝光を苦しめた。

 他でもない赤司の新たな力である、『天帝の眼(エンペラーアイ)』にすら対処可能なそのディフェンスの前では、青峰の変則なプレイスタイルで揺さぶりを掛けるしかないと、()()赤司が判断するしかないほど。

 

 

「第3Qは残り2分。20点差まで広げれば安全圏だとは思うな。全員気を引き締めろ。ボクの予測が正しければもう一波乱あるはずだ」

 

 

 その赤司の言葉に頷いて誰よりも真っ先に同意する男がいた。『キセキの世代』という天才達を見てきた彼だからこそ確信がある。今のこのやり方で簡単に終わるわけがないと。

 

「はい、僕もこのまま金剛くんがこのまま終わるとは思いません」

 

 そしてチラリと相手ベンチを見る。話題に上がった金剛阿含と……そして()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイムアウトを取った明洸中学のベンチで、汗を流しながら一人の選手が頭を下げる。

 

「……ごめん、金剛。黒子のマンマークディフェンスに着いてたのに何度も不意を突かれちまった」

 

「あ゛ーあ、()()()()には期待してたんだがなあ?」

 

 以前からの友人ならば、影の薄さの影響もどうにかなるかもとは思っていたが、視線誘導(ミスディレクション)で簡単にディフェンスを抜かれ続けている。

 

「(……まあ、以前から知っている程度で影の薄さを克服できるなら、チームメイトだった期間から大して経過をしていない『キセキの世代』相手に、視線誘導(ミスディレクション)でああも対抗できねえわな)」

 

 それこそ火神の前の相棒である青峰でさえ、相棒としての経験値からの読みでしか、『消える(バニシング)ドライブ』を攻略できなかったんだ。

 少し前から仲が良いですって程度でどうにかできるほど、チャチな代物じゃないか。

 

「まあ、他に対処法もねえしな。今のままやれ」

 

「それはいいけど……このままでいいのか?その……俺達が言えることじゃないかもしれないけどさ」

 

「(目は死んでねえが自信は俺という天才に打ち砕かれてるな。まあ、たまに勝負を挑んでくるヤツだから諦めが悪いというかなんというか……)」

 

 まあ、原作であんな目にあってまだ一年も経たずにまたバスケをする男だからな。そんなものなのかもしれない。

 

「点を取られるようになったのは、あのカスザコが入ってきたことで俺の間合いを把握するヤツが、あのお坊っちゃんの他にも増えたからだ。

 どんなに速く『神速のインパルス』で反応しようとも、0.5秒の遅れでポイントを取られる。姿が見えないカスザコのせいでな───なら、それを埋めちまえばいいってだけだ。問題ねえ」

 

「ッ!?そ、そんなことができるのか……!?」

 

 方法はある。理屈の上では黒子の視線誘導(ミスディレクション)でさえも無効化できる取って置きの解決策が。

 

 ……だが、それも今の状態ではできない。例え金剛阿含でも情報処理能力が足りなくなるからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「タイムアウトの残り時間は……残り10秒か。充分な時間だ……クククッ」

 

 そして、60秒のタイムアウトの時間が経過し───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────黄金色の雷光がコートに瞬いた。

 

 

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