金剛のバスケ+10cm   作:藤原わさび

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半月ぶりです


9.帝光中学決勝ーー『完全無欠の模倣』

 明洸中学のタイムアウト。これは阿含が監督に合図して取らせた時間だった。阿含はイラついた調子でベンチに座ると、頭の中で更なる理不尽に殺意を向ける。

 

「(クソがッ……!『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』だと!?ふざけてんじゃねえぞ……!)」

 

 阿含の予想では今の状況になるはずもなく、帝光中学は終わっていたはずだった。

 

 1.赤司の解離性同一性障害の発症から俺司→僕司へ。

 2.僕司の『天帝の眼(エンペラーアイ)』を封殺し精神崩壊。

 3.青峰の疲労による戦線離脱。

 4.紫原が金剛阿含との実力差からやる気を失くし無気力化。

 5.緑間の体力切れ。

 6.黒子の視線誘導殺しの『ゾーン』。

 

「(計画の全て上手くいっていただろうが!どうしてここまで立て直しやがったッ!?

 チームをまとめるキャプテンが精神崩壊を起こし、エースは戦線離脱。そこまでしても崩れねえわけがねえ!『キセキの世代』だのなんだの言われようが、所詮は粋がった中坊だろうが!

 ここまでガタガタにしてやったのに、どうしてここまで接戦になりやがる……ッ!)」

 

 並より少し優れた選手から、文字通り『キセキの世代』という化け物になった黄瀬に歯噛みをする。

 

「(この局面で緑間が二人になったのと同じだ。緑間と同じ様にダブルチーム……いや、そうなるとパスの選択肢が完全に死ぬ。

 ダブルチームしてるってことは、同じ場所に固まるっつーことだ。相手チームにパスコース前もって教えてるのと変わらねェ。

 俺がどれだけあいつらを上回ろうが、ボールを持たないとどうしようもねェからな)」

 

 緑間が二枚。それがどれだけ反則的なのか馬鹿でも分かる。

 

「(ディフェンスへ最小限にしか入らず、ハーフコート内に陣取り青峰にボールを集めたとしても、フルタイムで高弾道3Pシュートを撃ち続けた上に、ダブルチームで体力を削ったことで虫の息になる計算だった。

 だが、黄瀬の奴が『完全無欠な模倣(パーフェクトコピー)』をできるなら、『超高弾道3Pシュート』のヤバさは続くことになるぞ)」

 

 舌打ちをすると阿含は対策を練る。

 

「……荻原、テメーはあのカスザコのマークを外れてあのカスモデルに付け」

 

「え?ああ、いいけど……黒子のマークを別のヤツにしていいのかよ?」

 

「あいつの攻略はもう済んだ。それに見えねえヤツより見えるヤツに張り付いた方がまだマシだ。いいか、あのカス眼鏡のスリーを打つ素振りをしたら全力で止めに行け。

 高弾道を飛ばす性質上、必ず他のシュートよりも溜めが絶対に長いからな。そこを刈り取れ」

 

 その言葉を聞いて萩原がぎょっとする。

 

「ちょ、ちょっと待て!嘘だろ……まさか、あいつ『キセキの世代』のコピーまでできたのか!?」

 

「……そうでなきゃ、この局面でいちいちタイムアウトなんざ取るわけねえだろカス」

 

 阿含の心底イラついた態度に荻原達もそうなのだと確信する。卓越した技術を持つ優秀な選手から、黄瀬は他と同じ化け物になったのだと。

 

 

「『キセキの世代』の追い込みってか……ハッ!本当にクソだな」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 笛が鳴りタイムアウトが終わる。残り6分05秒。

 

「第4Q残り半分!他の『キセキの世代』の技を使える俺の『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』なら、ここから点数を引き離すこともできるっスよ!金剛っち!」

 

 試合が再開すると共に、黄瀬のディフェンスが襲い掛かってくる。開始直後のマンツーマンディフェンスを仕掛けられた。

 

「チッ……調子に乗ってんじゃねえよ、パチモン風情がッ!(だが、攻めればリスクしかねえ。後ろに居るボールを出した荻原がスクリーンをするまでボールキープすべきか……)」

 

 言葉とは裏腹に思考は冷静だ。だが、それを黄瀬も分かっているため、状況を良くするために高速で思考を回す。

 

「(幾ら『神速のインパルス』で速く動けたとしても、それまでの動き自体は金剛っちのもの。つまり、桃井っちが第4Qまでで手に入れた情報と、俺の観察眼を合わせれば…………そこッ!!)」

 

 

 

 『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』ーー『天帝の眼(エンペラーアイ)

 

 

 

「ッ!舐めてんじゃねえぞ!クソカスッ!」

 

 取られそうになったボールを、『神速のインパルス』で無理やりボールを掴みロールで躱す。そのまま一度黄瀬を抜き去ろうとするが……、

 

「───こ、んの!カスザコ風情がッ!」

 

「……やはり、バレましたか」

 

 前を向けばそこには黒子のスティールが待ち構える。このまま、持っていれば黄瀬のバックチップの餌食だ。

 逆サイドに居る萩原にボールをすぐさま出す───ッ!?

 

 

「……ふむ、見抜いたか。あと0.1秒気付くのが遅れていればスティールできたんだが」

 

 

 超然とパスコースに立ち塞がる赤司に阿含は苦々しい顔をする。

 

「(クソがッ、……『天帝の眼(エンペラーアイ)』が二人の時点でめんどくせえにもほどがあるぞ……!しかも赤司の野郎、今のはどこに出すかをあらかじめ予測して動いてやがったな?

 ……チッ、新米をサポートしてるつもりか?あ゛あ?)」

 

 そして随分と僕司と他のメンバーが仲良くなっていることも、阿含の計算違いだった。

 

「(僕司は打算で繋がる関係性しか作れなかった筈なんだが、まさか『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』で真似られることを許容してまで、作戦を立ててくるとは予想外だったぜ、クソが。

 嫌悪感はもちろん、黄瀬が使えることを前提に動くなどありえないとすら考えていたんだが……クソッ、どいつもこいつも予想と全然違う動きをしやがって……!)」

 

 黒子をマークする筈だったもうチームメンバーにパスを渡し、ボールを渡すことだけは防ぐ。

 

 

「───だが、どれだけ真似ることができようが、テメーは身体能力が劣るプレーはできねえよなあ?」

 

「くっ……!」

 

 

 そのまま全速力でコートを駆け抜けながら、ボールを受け取りハーフラインを通過する。どれだけ先読みをされようがなんだろうが、距離さえ取ってしまえば問題はない。

 

 

「フゥー…………───潰す」

 

「チッ……このカスノッポが……(この集中力は今までで一番ヤベーか……)」

 

 

 紫原の集中力の高さがまるで視認できそうなくらいに、空気をピリ付かせている。取られる事はなくても間違いなく簡単にはいかない。

 

「(ドリブルでの揺さぶりも通じねえか……1on1だとめんどくせえな)」

 

 萩原にパスを出す。速行とはいかなくても速い攻撃。少なくともこれで紫原の体力をまた減らせる。

 

「……あ゛?テメー、どういうつもりだ?」

 

「フゥー…………」

 

 目の前の紫原は微塵も動かない。俺にのみ全集中力を注いでいる。荻原もそれを見て速いジャンプシュートからより確実な、より近い場所からのシュートに切り替えてシュートを放つ。

 

 

 

「うおおおおおおおッッ!!」

 

 『完全無欠な模倣(パーフェクトコピー)』ーー『紫原のブロック』

 

 

 

「マジかよ……っ!?」

 

 コートを端から端まで駆け抜けた黄瀬が紫原のブロックでボールを弾く。呆然としながら荻原は黄瀬を見つめる。

 

「(何度も止められたから分かる!この高さと空中での圧倒的な体勢の余裕……!どんなシュートをしても止められると思わされる紫原のあの感覚だ!)」

 

 遥か上空から覆い被さって、手の平で叩き落とされるような威圧感とプレッシャー。その迫力とどんなシュートも止められるかのような絶望感は本物さながらだ。

 

「(中学で始めた癖に『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』だと?一体全体何が起きてやがるんだクソが!俺の原作知識とは逸脱した世界だとでも言うつもりか……?)」

 

 疑問を抱くがこのまま黄瀬にボールを運ばれては点を取られる。

 

 

「───よお、良い夢は見れたかよパクリ芸。テメーじゃ俺は振り切れねえよ」

 

 

 すぐに追い付き隣に並つ。あと1秒で回り込めるだろう。

 

「知ってたっスよ。追い付いて来るってねえ!」

 

「何だと……ッ」

 

 阿含を全く見ずにハーフラインで全速力からの急停止。阿含の身体が僅かに流れる。

 

 

 

「これで4点差から7点差っス!」

 

 『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』ーー『超高弾道3Pシュート』

 

 

 

 これが決まれば帝光に流れが持っていかれるゴールだ。あの高弾道による滞空時間は心を折ってくる。阿含はともかく他のメンバーが見れば折られてもおかしくはない。

 

 

 

「チィ……ッ!この俺を、舐めてんじゃねえぞおおおおッッ!!」

 

 

 

 超反応で追い付き黄瀬のシュートを阿含がギリギリでブロックする。弾かれたボールはアウト・オブ・ハウンズとなった。

 

「……パスも出さずに1人でこの俺の守りを超えられるとでも思ったか?あ゛あ?」

 

「いやー……今のでもダメだとは、流石っスね金剛っち。それでこそっスよ」

 

 黄瀬の『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』を防いだ。つまりは、作中最強格を倒せる力を有しているということ。それが証明できたというのに……。

 

「(だが、何だこの違和感は?)」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 阿含の背中を見ながら深く息をする。黄瀬がしようとも思わなかった戦い方に神経が削れていく感覚があった。

 

「(まさか、こんなとんでもない人が居るとは思ってもなかったスわ……何でもっと早くにバスケに出会わなかったんスかねぇ)」

 

 吹き出る汗を拭いながらそんなことを思っていると、隣から誰かが話し掛けてくる。

 

「黄瀬君、大丈夫ですか?」

 

「え?……あー、大丈夫じゃないっスね、マジの話。やっぱり全然体力削れてる感じしないし、どこまで作戦通りやれるのかあんま自信ないっすわ」

 

 汗を流して荒い息を吐きながら黄瀬は黒子の問いに答える。

 

「青峰っちが金剛っちと1on1をしまくってたとき、第2Qは丸々ベンチに引っ込んで試合に出なくて、他は青峰っちとは違ってほとんどヘルプをしてたにも拘わらず、今じゃ体力半分くらいっスよ。

 体力はもちろん経験でも技術でも勝ってなさそうだし、ぶっちゃけ心折れそうっスわー」

 

「黄瀬君はまだバスケを始めて1年経ってませんから当然ですよ。ぶっちゃけると、そんな君があの金剛君とやりあえていることが少しムカつきます」

 

「いや、幾ら何でもぶっちゃけ過ぎじゃないっスか!?」

 

 その声を聞いて少し笑みを広げると、黒子は声を潜めて話を続ける。

 

「───僕もできる限りサポートするので、()()()()()()()()()()()()()()()()。『ゾーン』状態の金剛君相手だと、このままでは僕達の体力は残り3分も保たないというのが、赤司君と桃井さんの見解です。

 ……端的に言うと、今の点差をキープできなければ敗北です」

 

「……分かってるっスよ。でも、今ので最低限仕込まないといけない布石は置けたんで、少しの間は大丈夫だと思うっス。

 まあ、最後まで金剛っちを騙せたらそれが一番いいんスけど、今の状態でも5分保つか怪しいんスよねー……精々、ボロが出ないようにするっスよ」

 

 黄瀬の仕掛けた詐称に阿含が気付かないことが、帝光の唯一の勝ち筋。見破られたその瞬間に今の形勢は簡単に傾いてしまうのだから。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 残り5分12秒。

 

 ベンチに居る青峰は今の戦況を正確に判断する。

 

「金剛がやってるのは紫原と同様の、3Pエリアを埋めるほどの超広範囲ディフェンスだ。しかも、金剛の『神速のインパルス』に『野生』、それに加えて『ゾーン』状態となればその固さは紫原以上。

 なんせ紫原の反射と手足の長さを、『ゾーン』状態の超反応と跳躍力でカバーしてやがるだけでも手に終えねえのに、『野生』なんつー直感による先読みもあるんだ。今の赤司でも攻めあぐねるのは当然だろう。

 金剛の様子から見るにそのつもりはないんだろうが、あれこそが『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』だと言われても納得しちまう───だからこそ、黄瀬も手本にしたんだろうがな」

 

 試合にもう出られることが無いためか、青峰が足を休ませながら隣の桃井に話し掛ける。

 

「やっぱりそうなんだ!きーくんは『キセキの世代』のみんなの技はコピーすることはできないって、きっとどこかで思ってたんだと思うんだよね。

 きーくんがずっと勝てなかった同じスタイルの灰崎くんすら、みんなのコピーはできなかったから、自分もみんなのコピーだけはできないか、あるいはまだ自分には早いって思ってたんじゃないかな?」

 

「まあ、実際バスケ始めて1年も経ってないヤツが、俺達の技をコピーできるなんて思う方がどうかしてるがな」

 

 青峰はスポドリを一口飲んで話を続ける。

 

「おそらく、明確な『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』の発想は俺の技を金剛が使い出したことだ。あれで本家本物の俺達以外のヤツでも、技のコピーすることが不可能じゃねーと理解したんだろう。

 そしてあの紫原張りの超広範囲ディフェンスが、例え身体能力が劣ろうとも、俺達のスタイルを真似することが可能であることを立証した。

 それこそ、この試合で見ただけで俺の技を再現しやがった実例が目の前に現れたんだ。金剛のプレーが黄瀬の固定概念を壊し、新しいステージへ押し上げた」

 

 見ればすぐにコピーできる黄瀬がコピーできない『キセキの世代』。

 その突出した才能と技術を持ち合わせる『キセキの世代』のスタイルをコピーするどころか、凌駕する才能と実力で圧倒してみせた。

 それにも拘わらず、できないということは黄瀬自身の努力不足に他ならない。

 

「でも、大ちゃん……今のきーくんは……」

 

「──ああ、余りにも早すぎる」

 

 それは考えるまでもないことだった。

 

「入部してから鍛え出した黄瀬じゃあ、俺達のプレーを再現するのは身体への負担が大きすぎる。ガス欠ならまだしも身体がぶっ壊れる可能性が高い。

 だからこそ、あの戦略なんだろうが……阿含は身体能力に依存してるだけの脳筋野郎じゃねえ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 帝光ボールから始まったプレーは、体力を回復する点数有利のままで時間を稼ぐような消極的なプレーではなかった。

 

「行きます」

 

 その声と共にボールが勢い良く撃ち出された。

 

 

 『加速する(イグナイト)パス』

 

 

 黒子が掌底でボール殴り抜くことによって、パスの速度を上げる高速のパス。彼の影の薄さもあって誰も反応することはできない───金剛阿含を除いて。

 

「それは第1Qから散々見てんだよカス。それで俺の守りを突破できるとでも思ってんのか?」

 

「うおおおっ!?今の曲がった速ぇパスに反応したぞ!?」

 

 ギャラリーからもその人外染みた動きに驚愕の声が上がる。だが、ここからが彼らの策略だった。

 

 

「それじゃあ、これならどうっスか!」

 

 

 『完全無欠な模倣(パーフェクトコピー)』ーー『加速する(イグナイト)パス』

 

 

「チィ……ッ!」

 

 黄瀬は黒子が飛ばした『加速する(イグナイト)パス』を受け取らず、そのままさらに『完全無欠な模倣(パーフェクトコピー)』でコピーした『加速する(イグナイト)パス』で、ボールの速度を連続で加速させる。

 その『加速する(イグナイト)パス2段式』にはさすがの阿含も追い付けず、ゴール前に走っていた赤司にボールが渡り、そのままレイアップでゴールに沈めた。

 

 103対107→103対109

 

「マジかよ……あんなの無理だろ……」

 

 明洸メンバーから弱音が出てくる。だが、それも無理はない。

 阿含の『神速のインパルス』で追い付けないものに、当然自分達ではまともに反応ができるわけもない。

 しかも今の阿含は『ゾーン』により感覚がさらに研ぎ澄まされた最高の状態。それはつまり、完全に阿含の身体能力を上回ったということだ。

 

「金剛阿含の絶対に触れないパスルートが生まれちまった……」

 

 そして、明洸中の不運は続く。

 

「……ん?お、おい、気のせいか……?阿含のスピードが落ちてる気がするんだけど……」

 

 そんな観客席からの声を証明するかのように、阿含の動きが僅かに鈍くなる。

 もちろん、『神速のインパルス』による0.11秒の反応速度が超人的なのは変わらないが、そのプレーを見続けた者達の中にはそれに気付く者もいた。

 

 

「金剛阿含の『ゾーン』が切れた……!?」

 

 

 精細が失くなることはないが、先程のコート全域に伝わるような圧迫感は薄れていた。

 

「チッ……!」

 

 黒子と黄瀬のバックチップによりボール奪取に成功。これは『ゾーン』に入ってからは見られなかった光景だ。

 

 

 つまり、『ゾーン』による蹂躙は終了したということ。

 

 

「っ!……まだだッ!」

 

 だが、明洸メンバーのヘルプにより黄瀬に追い付いた阿含を見て、即座に黒子にパスを出そうとするがそれをすかさず荻原がスティール。

 一進一退の攻防が続く。

 

 ──だが、赤司は確信する。流れは確実に帝光にあると。

 

「(『ゾーン』は極度の集中状態にならなければならない。ならば、雑念を生み出せば『ゾーン』は消える。

 この局面に来てからの『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』の衝撃と厄介さは、あの阿含であっても雑念を抱かずにはいられない)」

 

 緊張や焦りは『ゾーン』には不純物。だからこそ、それを赤司は狙った。

 

「(帝光中のスタメンの動きはあらかじめ研究されている。超強豪であるだけではなく、金剛阿含だけならまだしも他のメンバーまでウチのプレーを初見で見て驚かないのはありえない。

 だからこそ、涼太の新技である『完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)』が刺さる。

 ボク達チームメンバーの帝光の面々ですら驚いた黄瀬の進化に、動揺するのは必然だ……だが、やはり無理はさせてしまったか)」

 

 金剛阿含を攻略する上で『ゾーン』こそが鬼門。

 身体能力と反応速度の向上だけでも手に終えないというのに、黒子を察知するセンサーとしても機能してしまう金剛阿含の『ゾーン』は、帝光の機能を著しく低下させてしまう。

 

「(それこそ、もし金剛阿含の体力が帝光メンバーと同じ様に減っていれば、ここまで涼太に無理をさせる必要もなかったが、あの無尽蔵のスタミナを有する金剛阿含の相手では、残りの3分をガス欠のまま全力疾走し続けることと同義だった)」

 

 3分44秒。

 タイマーを見ながら赤司は一息吐く。赤司の予測では残りの3分で30点差を付けられる可能性もあった。それほど、スタミナ無尽蔵の『ゾーン』状態は理不尽そのものだ。

 

「このまま進めば、帝光の勝ちだ」

 

 流れというのは無視できない。例え、どれだけ天才的なプレーを行う選手がいてもチーム全体の士気が下がれば、点数を取ることは難しい。

 

 現に───、

 

「あ、ああ……っ!く、くそ!」

 

 明洸中の選手がファンブルを起こす。全力でシャトルランを繰り返すような地獄のゲーム展開に、体力か、はたまた集中力が切れたのか。

 あるいは、汗で滑ってしまったのか。ただ1つ言えるのはボールが手から弾かれ、コートを跳ねていき赤司の手に収まる。

 

 そして、目の前に現れる修羅の形をしている影。

 

 

「金剛阿含。お前は確かに強い。───だが、勝つのはボクだ」

 

 

 『天帝の眼(エンペラーアイ)』による、100%のアンクルブレイクが阿含を襲う。

 

「ッ!……オイオイ、忘れたのかよ。テメーのそれは『ゾーン』に入る必要もなく攻略してんだぞ」

 

 『神速のインパルス』で固まった関節とは、逆の足を動かし体勢を無理やり整える。

 もしこれが紫原と同じく反射であれば、転ぶ衝撃を軽減させるために、受け身へと身体が反射的に身構えるのだろうが、脳で無理やり指令を出すことにより、驚異的な立て直しを実現していた。

 

「だが、0.5秒を稼げれば充分だ───そうだろう?()()

 

 赤司はゴールに向けて青峰のような勢いのあるボールを出す。

 

「チッ……!」

 

 その軌道を見て何をしようとしているのかを、すぐさま看破した阿含だが、さすがにアンクルブレイクで立て直した直後でなくとも、このプレーを止めることは物理的にできない。

 

 

「うおおおおおおおッッ!!」

 

「嘘……だろ……(幾らコピーするスタイルだからってアレまで再現できるのかよ!?)」

 

 

 その『加速する(イグナイト)パス』かと見間違うほど、直線的な動きで撃ち出される高速のボールを、黄瀬は阿含さながら空中で完璧に受け取り、ブロックに跳んだ荻原の上から叩き付けるようにそのままアリウープを決めた。

 

 

 

 『完全無欠な模倣(パーフェクトコピー)』ーー『神速のインパルス』

 

 

 

 103対109→103対111

 

 

「はあ……っ、はあ……っ、さっきの仕返しのつもりかよ?」

 

「……ふぅーー…………実は俺、バスケでお返し忘れたことないんスわ。……んん?いや、でもあれでやられたの紫原っちだから、俺の仕返しじゃないっスね。まあ、代行ってことで」

 

 軽い調子で言われて歯噛みをする。

 

「(ガチでどんだけだよ『キセキの世代』ッ。俺達と違って交代で休んでた時間も少ないのに、ここに来てこんなヤバい動きができるのか!)」

 

 ここにきて、まだこれほどのプレーを簡単に行うなど、荻原にはとても信じられなかった。

 

 ──そして、目を逸らせない新たな問題がまた1つ生まれた。

 

 

「……どうやってあのプレーまで再現したんだ?あれは金剛の才能ありきだろ?……まさか、黄瀬も阿含と同じ反応速度だってのか?」

 

 

 あのプレーを実際にした自分だから分かる。あんな受け手の事を考えないパスを取るには、『神速のインパルス』がなければ可能なはずがない。

 つまり、それは逆説的に……。

 

 

 ピーッ!という笛が吹き、明洸側からタイムアウトを掛けられ、荻原の疑念を晴らすことなく燻らせる。

 

 

 答えが出ずに苦悩を顔に浮かべたまま、荻原はベンチに戻って行った。




・完全無欠の模倣の説明

黄瀬は自分の身体能力を超える技術はコピーできない。
「へー、そうなんや。まあ、コピー能力のあるあるやな」
黄瀬は5分だけ最強の4人のコピーができるようになる。
「うーん……まあ、時間制限とかあるなら……」
黄瀬はそのコピー元のシューターのように、コートのどの場所からでもシュートが100%入るようになる。
「そうはならんやろ」
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