昔から好きだったアースティアの世界を自分なりに落とし込んで書きました。
オリジナルキャラがいますが、アデューやパッフィーを立てて書いたつもりです。
アースティアを今でも愛する人に届いてくれたら嬉しいです。
高い塀に囲まれた武家屋敷の庭で2体のリューが睨み合っている。
リューが動き回っても問題の無い広さ庭と、少し離れたところにある豪華な屋敷、美しく並び立つ木々からこの場所が高貴な者の土地である事が伺える。
睨み合うリューの一方は東方の騎士型、甲冑を着た侍武者の姿をしている。
もう一方は白いボディに浅葱色がペインティングされた、どことなく羽織を着たようなフォルムのリューだ。
先に動いたのは羽織のリューだった。
羽織のリューは刀を振りかぶり、甲冑のリューに斬りかかる。
甲冑のリューが迎え撃とうと振りかぶった刀の軌道を読み、羽織のリューは刀を一時停止させて衝突を避ける。
甲冑のリューの刀が空振りしたのを確認してから、羽織のリューが刀を振り下ろす。
羽織のリューの勝利かと思われたが、甲冑のリューは足を踏み出し体当たりを繰り出して羽織のリューを吹き飛ばす。
フェイントを読んでいたというよりはとっさの行動だったのだろうが、勝ちは勝ちだ。
甲冑のリューは羽織のリューに刀を向けると動きを止め、中から搭乗者が飛び降りてくる。
『流石は拙者と同じく日の出国でも5本の指に入ると言われるサムライでござるな。
良い勝負であった、太刀花 奏(タチバナ カナデ)殿。』
現れたのは背丈も高くガッシリとした身体付きの若侍。
その体格とは裏腹に顔は温和でややお人好しの相が見える。
彼の名は月心(ゲッシン)、リューサムライ・疾風丸の乗り手である。
一方、羽織のリューからも搭乗者が姿を現す。
細身で端正な顔立ちだが、目つきは鋭くあまり社交的ではない印象を受ける。
『負けは負けだ。
次はこうはいかんぞ月心。』
そう言い残すと奏と呼ばれた男は立ち去っていく。
怒らせてしまったかと頭をかく月心に、精悍な面持ちの白髪の老人が背後から話しかける。
『心に於いても月心殿の勝ちじゃな。』
『おお、龍磨(タツマ)殿。
本日はお招きいただき感謝いたします。
おかげさまで噂に名高い太刀花の技をこの身で感じる事が出来ました。』
畏まる月心の緊張を和らげようと、龍磨と呼ばれた老人が笑いながら話す。
『月心殿にアヤツの鼻っ柱を折ってもらいたくて呼んだのじゃから気にせんでくだされ。』
ついでに月心の不安を吹き飛ばすように笑い飛ばすと、老人は座布団を敷いた縁側に座る。
手招きして月心にも座るように促すと、急須から湯呑みに茶を淹れて差し出した。
『奏のヤツは少々天狗になっておったのでな。
君を呼んで正解じゃった。』
『ははは、お役に立てたなら何よりですが3本先取のうちに1本は取られてしまった。
天狗になってなければ勝負はわかりませんでした。』
湯呑みを持ちながらお互いに笑い合うと、2人は羽織のリューを見つめる。
『リュージンギ・クサナギ。
ヤタ、ヤサカニと共に日の出国の者ならば知らぬ者はおらぬ、我が国の象徴とも言えるリューですな。
立ち会っただけでも伝統と歴史の凄みを感じさせる高潔なリューでござった。』
『左様、三種の神器と呼ばれるクサナギ、ヤタ、ヤサカニの3体のリューを我が太刀花家がミカドよりお預かりし、代々一族の者が搭乗者となり管理しておる。
3体とも本来はミカドが搭乗するリュー故に格式に於いては他の追随を許さぬよ。』
老人が誇らしげに語ると、それ以上は無駄であると話題を変える。
日の出国の者ならば当然知っている事なのだ。
『それにしても月心殿。
そなたは日の出国でも5本の指に入ると謳われているが、ワシの見立てではそなたに勝てる者はアースティア広しと言えどそうはおらんと思う。
そろそろうちの娘でも貰って身を固めてみないかね。』
突然の申し出に月心はむせてしまうが、すぐに持ち直して答える。
『いやいや、拙者はまだ修行中の身ゆえ慎んでお断りさせていただきます。
それに少なくとも一人、拙者に勝てそうな者に心当たりがあります。』
『ほう、そなたにそこまで言わせる者がいるのか。』
老人の言葉を聞いて、月心は目を細めて遠くを見つめる。
『ええ、リューパラディンを覚えておいでですかな?』
月心の問いかけに老人は不敵な笑みを浮かべながら答える。
『邪竜族との戦いで人類に勝利をもたらしたパラディン殿の事じゃな。
あの場にはワシもヤサカニで戦っておったが、実にあっぱれな騎士殿じゃった。
ワシが後10年若ければ、彼に戦いを挑んでおったじゃろうな。』
隠居した老人のような言葉を吐きながらも、その瞳は少年のようにギラついている。
この場にアデューがいれば、老人は斬りかかっていたのだろう。
『実はあのパラディンはまだ14の若者だったのです。
どんどん成長して今頃は拙者などとっくに追い抜いているかも知れない。』
『いやいや、そなたとてまだ若い。
あのパラディン殿が相手だとしても、成長に於いて後れを取る事はあるまいよ。
焦らず進みなされ。』
そう言うと老人はお茶を飲み干す。
月心はここまでの会話を振り返り、ふと周囲を見渡して気付いた事を口にする。
『そういえばご息女達を一人もお見掛けしませんな。
特に末っ子の藍殿は兄上と拙者の立ち会いとあらば必ず姿を現すと思ったのですが…。』
『ああ、藍ならば姉の杏樹と共に実戦に向かわせたよ。』
まるで何でもない事のように間髪入れずに答えるが、その答えに月心は大声を挙げてしまう。
『実戦にでござるか!?
2人共まだ13のはずでは!?』
非難のようにも聞こえる月心の問いに、老人は覚悟を秘めた表情で答える。
『2人とも女の身でありながら太刀花の剣士としての道を選んだ。
だが立ちはだかる敵は2人の事情など顧みてくれぬ。
女だからと進むべき道の手を抜いてしまい、現れた敵を前に無駄死にさせるわけにはいくまい。
かなり荒っぽい修行じゃが、道半ばで死ぬようであればそれが娘たちの選んだ人生であったというだけじゃ。』
老人の言葉には娘を決して縛り付けぬという決意と娘を失う覚悟があった。
『…相変わらず厳しい教育方針でござるな。
太刀花家が強者を輩出し続けているのも頷ける。』
月心が腕を組んで唸るように上を向くと、一羽の鳥が飛んできて老人の横に止まる。
老人が鳥の足に縛られていた紙を取ると、鳥は腰を下ろして休み始める。
『伝書鳩ですかな?』
『うむ、噂をすれば藍から手紙が届いたようじゃ。』
老人は手紙を広げて読み始めると、途中で何かに驚き大きく目を開いた。
『縁と言うヤツかもしれませんな。
なかなか面白い事になっておるようじゃ。』
老人の言葉を聞いて首をかしげる月心を見て、老人はイタズラっぽく笑うと楽しそうに呟いた。
『君の仲間が日の出国に来ておるそうじゃよ。』