舞台はある小さな街へと移り変わる。
『ええっ?
もう解決しただって!?』
街の入り口で若い騎士が2人の憲兵に手荷物検査を受けながら大声を挙げる。
『ああ、つい昨日の事だよ。
太刀花様がこの街を通りすぎるついでに魔物を討伐して下さったのさ。
まだ中央通りの宿に泊まってるよ。』
『チックショー、俺が退治してやろうと思ったのに!』
若い騎士は腕を振り下ろして悔しさを身体で表現する。
『それにしても何人もの侍がやられたっていう魔物を1日でかぁ。
そいつはよっぽどの凄腕なんだなぁ。』
若い騎士が感心した声を挙げると2人の憲兵は怪訝な顔をして騎士を見つめる。
少年とも青年とも言い切れない年齢。
二本の角がついた赤い兜に肩だけを守る赤い軽装鎧は戦争の為の装備ではなく旅をするための装備である。
若い騎士は特定の主君に仕えない、いわゆる放浪騎士なのだろう。
『この国の民ならば太刀花様を知らぬものはおらん。
学が足らんな騎士殿。』
憲兵は瞳を閉じて説教でもするように答える。
その仕草には気さくさと少々の嘲笑が含まれていた。
『へぇーそうなのか。
そんなに凄いヤツならきっと腕も確かなんだろうなぁ。
サンキュー!教えてくれて助かったぜ!』
憲兵の態度に気にした素振りも見せずに騎士は礼を言って立ち去った。
ただの田舎者故か、はたまた大人物なのか。
その答えを憲兵が知る事はなかった。
中央通りの宿。
1階の広間は食堂となっており食事のためだけに訪れる者もいる。
いつもならば静かな店内だが、今日は人だかりが出来るほどの客が押し寄せていた。
『さーて、噂のタチバナサマってのはどいつだぁ?』
先ほどの若い騎士が店内を見渡していると背後から聞き覚えのある声に呼び止められる。
『相変わらずのマヌケ面だな、音速バカ。』
『なぁにぃ~、誰が音速バカだ!って…』
振り向いた若い騎士は懐かしい顔を見て驚きの声を挙げる。
『お前サルトビか!?
なんでお前がこんな所にいるんだ!?』
『それはこっちのセリフだ。
俺は元々ここの生まれだろうが。
お前こそ日の出(ヒノデ)国で何してんだ、アデュー。』
アデューと呼ばれた若い騎士とサルトビと呼ばれた忍びの青年からはお互いに遠慮が感じられないが険悪な空気も感じさせない。
2人の間には強い絆が感じられる。
『俺は相変わらず修行の旅さ。
ヒノデ国って地図で見れば狭いけど実際に歩いてみれば広いからさ。
まさかサルトビに会うなんて思ってなかった。』
『別に会いたくはなかったけどな。
俺は今はパフリシアを離れて、ある高貴なお方の旅を護衛してる最中だ。
気楽な一人旅を続けてるお前と違って俺は忙しいんだ。』
『ちぇっ、言ってくれるぜ。
一人旅だって毎日命懸けで大変なんだぜ。
みんながいた時は楽しかったんだけどなぁ。』
その言葉を聞いてサルトビは静かにアデューを値踏みする。
くたびれたマントに傷のついた兜、肩の鎧もいくらか色が剥げている
アデューも今日までかなりの激戦を繰り広げていたようだ。
思えば最後に出会った邪竜族との戦いから2年の月日が流れていた。
『まっ、俺達のありがたみが理解できる程度には苦労してるみたいだな。
で、この街には何しに来たんだ?』
アデューは懐かしい顔に出会ってすっかり忘れていた目的を思い出す。
『そうそう、俺はタチバナサマってヤツに会いに来たんだ!
サルトビ知らないか?』
『あぁ?
そりゃ知ってるさ。』
サルトビは親指で人垣を指差して答える。
『そこのひとだかりの真ん中にいるぜ。
…って、お前太刀花様に勝負を挑む気か!?』
『当たり前だろ!?
どんな凄いヤツか知らないけど、そんな事で怯むアデュー様じゃないぜ!』
『バーカ、俺は知らねぇからな。』
サルトビはまるで表情を隠すように背を向け、大袈裟に両手を横に広げて呆れてみせる。
その意味に気付いていれば、アデューはこの後に起こる悲劇を避けられたであろう。
『たのもぉー!!
俺は人呼んで音速の騎士アデュー!!
俺と剣で勝負しろぉタチバナサマぁ!!』
アデューが大声を挙げると店内が静まり返る。
いつもと違う独特な空気に少しだけ戸惑うがアデューは止まると言う事をあんまり知らない。
『お客さん…』
後ろから料理人に声を掛けられる。
『なんだよ注文なら後にし…いてぇ!!』
続いてフライパンを思いっきり背中に叩きつけられる!!
『何すんだよ!注文なら勝負の後に…ぐぇぇ!!』
料理人に振り向いて抗議したところを、今度は人だかりの男達に袋叩きにされる。
『コイツなんてことを言いやがる!!』
『お前、それでも男か!!』
『恥を知れ!恥を!!』
男達からの非難の言葉が尋常ではない。
『なんだよ強い奴と戦おうとして何が悪…いでぇっ!』
男達に袋叩きにされるアデューを笑いながら指を差し、サルトビは人だかりの中央にいる誰かに話しかけていた。
サルトビが話しかける人物こそが噂のタチバナサマだろう。
『卑怯だぞタチバナサマ!
正々堂々と俺と勝負しろぉ!』
『もちろん武人としてお引き受けいたします。
みなさま乱暴はおやめください。』
アデューに応えた声は、場の空気に似つかわしいなんとも可愛らしい声だった。
割れる人だかりの中から現したのは10代前半の少女だった。
長い銀色の髪をリボンで2つ束ねたツーサイドアップの髪に
紺色のセーラーカッターが付いた巫女服を思わせる真っ白な礼服で身を包んでいる。
背丈は150シン(150cm)に届かないくらいだろうか。
小柄ながらも細身でスラッとした印象を受ける。
気品のある立ち振る舞いと整った顔立ちから高貴な身分である事がアデューにも理解できた。
『太刀花 藍(たちばな らん)です。
女だからと侮らず全力でお願い致します。』
『お…女の子ぉぉぉぉぉぐぇっ!!』
アデューの叫びは男達の繰り出した頭部への一撃で中断された。