覇王大系リューナイト ~退魔の花~   作:アフロダイB

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藍と杏樹

 

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食堂の中央の机にはアデュー、サルトビ、そして先ほど藍と名乗った少女タチバナサマともう一人少女が座っている。

そしてその周りを囲むように男達の鋭い視線がアデューに突き刺さっていた。

迂闊な事を言えば袋叩きでは済まないかもしれない。

アデューは妙な緊張感に包まれて珍しく緊張していた。

 

『なぁサルトビ、この女の子達がタチバナサマで間違いないんだよな?』

 

隣に座るサルトビにすがるように囁く。

この場を何とかしてくれそうなのはサルトビだけだと救いを求めるがサルトビの方は薄ら笑いを浮かべている。

こういう表情の時のコイツは敵だ。

 

『ああ、このお二方がお前の探してる太刀花様で間違いないぜ。』

 

サルトビはアデューを煽るように笑うと、藍は両手を膝もとに於いて丁寧に頭を下げた。

 

『改めまして、妹の太刀花藍と申します。

歳は13です、よろしくお願い致します。』

 

藍のお辞儀に釣られてアデューが頭を下げると、横にいた少女も小さく頭を下げる。

その仕草は藍と違って適当だ。

 

『こんにちは。

姉の太刀花 杏樹(たちばな あんじゅ)、13歳です。』

 

『あ、ああ、こりゃどうも。

アデュー・ウォルサム、16歳です。』

 

杏樹と名乗った少女はウェーブの掛かった亜麻色の髪に目を引く黒い大きなリボンで飾りつけている。

袴をチェック柄のスカートに置き換えた巫女服を着ている。

姉と名乗っていたが背丈は藍よりさらに低く140シンもない。

全体的に細く不健康な印象を受け、顔立ちは作り物のように整いすぎていて違和感すら感じる。

子供でありながら顔立ちが整いすぎて少し不気味な印象を受けるくらいだ。

 

杏樹の挨拶に合わせてアデューも小さく頭を下げる。

礼儀作法に詳しくないアデューが縮こまる度にサルトビは笑いを殺している。

 

『凄腕だって聞いてたのにこんなお嬢様だなんて。

そりゃ勝負なんか挑んだら男じゃないって殴られるのも無理ないぜ。』

 

『女と言えど武の道に携わる身です。

その発言は少々悲しいですわ、アデュー様。』

 

藍が目を伏せると周囲の男達の目が怪しく光る。

 

『わわわっ、俺が悪かった!

なんとかしてくれサルトビ。』

 

『さて、どう説明したものかな。

日の出国はお前のいたバイフロストとは文化が違うからなぁ。』

 

アデューの願いなどどこ吹く風とサルトビは天井を見つめる。

 

『そんな事いわずに教えてくれ。

このまま無礼を働いたらまたアイツらに袋叩きにされちまう。』

 

『緊張なさらずリラックスなさってください。

そのような非道な事は絶対にいたしませんから。』

 

『君がしなくても周りにいるアイツらがやるんだよ。』

 

周りにいる男達の目は今も怪しく光っている。

怯えるアデューを見て、そろそろ頃合いだろうとサルトビが語り始めた。

 

『そうだな…。

よし、よく聞けよアデュー。

まず日の出国にも王がいるにはいるが

実態はというと地方の領主が城を建て自分の領地を一国のように納めているのが現状だ。

お前から見たら同じ文化に見えるんだろうが、実は領地ごとに文化も法律も違うんだ。』

 

『なるほどー、それで土地ごとに少しずつルールが違ってたのか。』

 

その言葉からここに辿り着くまでにもアデューがいくらか問題を起こしていた事が伺える。

サルトビは小さく溜め息を付きながら話を続けた。

 

『だが、そんな国々さえも不可侵とする共通の財産。

もし誰かが独占しようもんなら即行で袋叩きに合っちまう。

いわば日の出国の国宝として扱われているのが太刀花家だ。

こちらのお2人は太刀花家の娘…そうだな、日の出国にある全ての国にとってのお姫様みたいなもんだ。』

 

『そ、そんな偉い女の子なのか!?

でもどうして…?』

 

『それは言い過ぎですサルトビ様。

私達など少しばかり特殊な能力を持つ武人に過ぎませんわ。』

 

驚くアデューを制止するように藍が口を挟む。

 

『いや、しかし…

コイツにもわかるように説明するとそうなると言いますか…』

 

『サルトビ様は私達を持ち上げすぎです。

後は私から説明させていただきますね。』

 

どうやら藍の方はあまり仰々しく扱ってもらいたくないらしく、自ら説明役を買って出た。

 

『サルトビ、お前って昔から身分の差には敏感だよな。

パフィーにもずっとヘコヘコ頭下げてたし。』

 

『忍びは主君に従うもんだ。

騎士だってそうだろうが!』

 

見習い故かはたまた本人の性質か。

アデューは高貴な人物にも物怖じしない。

とはいえ、今のように己の行動に非があった場合はそうもいかないが。

 

『それで君達…じゃない、お2人のようなお嬢様方がそんなにもとっても大切になさられているのは…

えっと、一体どんな理由がおありなのでしょうか?』

 

『敬語めちゃくちゃ…』

 

呆れるように杏樹が目を細めて呟くが、逆に藍は安心したように笑みを浮かべて話す。

 

『ふふっ、私も敬語は苦手なんです。

お互いに肩肘を張らず、共に戦った戦友としてお話ししませんか?

大賢者ナジー様に認められし勇者、アデュー・ウォルサム様。』

 

『へ?俺の事を知ってるのかい?

それに戦友って…?』

 

予想もしない言葉に戸惑うアデューをフォローするように杏樹が説明を入れる。

 

『私達もいたの。

あのアースブレードでの邪竜族との戦いに。』

 

杏樹は何故か両手でピースをしてアピールする。

 

『へぇー、あの戦いにこんな女の子達がいたなんて知らなかった…。

わかった、じゃあ俺も一緒に戦った戦友として話そう。

それでいいよな?』

 

アデューは目の前の少女ではなく周囲の男達に確認すると、男達は解散し鋭く光る視線は静かに消えていった。

 

『ありがとうございます。

私の事は藍と呼んで下さい。』

 

『私はアデューって呼び捨てにする。』

 

『えっ、ああ、別にいいけど…なんか杏樹には調子が狂わされるなぁ。』

 

杏樹の独特なノリに翻弄されるアデューをクスリと小さく笑うと、藍は佇まいを改めて説明を再開した。

 

『私達は死霊や魔を退ける退魔師と呼ばれる存在です。

そして太刀花家は数多くの優秀な退魔師を生み出している退魔師の名家なんです。

太刀花家が重宝されているのは特殊な魔物や特殊なドゥームに対抗できる数少ない血筋だからです。』

 

『その特殊な魔物や特殊なドゥームって言うのはなんだい?』

 

『力だけでは倒せない存在。

私達の国では不死身と呼んでる。』

 

藍に続いて杏樹も説明に加わる。

上品な語りの藍とは違い、ミステリアスで物静かな語りだが確かな知性を感じる。

だが杏樹の言葉はアデューにはピンと来なかったようだ。

 

『それってアンデッドとは違うのか?

アンデッドなら坊さんの力かとびっきりの強い力で粉々に砕けば動かなくなるぜ?』

 

アデュー自身もかつてはアンデッドのドゥームに苦戦した事もあるが武人のカードの力を引き出して勝利した事がある。

その事を語っているのだろうと、同じ思い出を共有するサルトビが説明を加える。

 

『不死身はアンデッドともリーバンの野郎とも少し違う。

日の出国にだけ眠る特殊な存在で、力技でも一時的には破壊できるんだがしばらくすると復活しちまうんだ。

イズミのような僧侶や武人のカード、それこそ精霊石の力でも完全には消滅させられないのさ。』

 

『そ、そんな奴がいるのか。

じゃあこの子達がいないと不死身が現れた土地に住む人たちはどうしようもないじゃないか。』

 

『うん、どうにもならない。

仮に不死身を倒せるほどの凄腕を雇って退治してもしばらくすると蘇る。』

 

『だからこそ不死身を完全に消滅させられる力を持つ太刀花家の者は国宝とされているのさ。

理解したか?』

 

『なるほどぉ』

 

感心したようにアデューが見つめると藍は少し俯いて照れ隠しのように笑う。

やがて藍は少し悪戯っぽくアデューに話しかけた。

 

『それでアデュー様。

勝負の方法についてですが…』

 

『いぃぃ!?

そ、それは勘弁してくれ!

いや、武人として侮るとかそういうのじゃなくて女の子とは戦えな…

じゃなくて、怪我でもさせたら…でもなくてー!』

 

アデューが慌てふためきながら言い訳を始める。

 

『かかってこいやぁー、シュシュ』

 

杏樹がシャドーボクシングを繰り出して挑発をする。

気を散らされてますます混乱するが、アデューにはこういう時にこそ役に立つ行動指針が存在する。

 

『そ、そうだ!

騎士道大原則!!』

 

しどろもどろな態度から一転、人差し指を立てて声高々に叫び出すアデューに2人は圧倒される。

 

『き、騎士道大原則…ですか?』

 

『そう、騎士道大原則ひとぉーつ!

騎士は女性を手荒く扱ってはいけない!

だから騎士である俺は、君と戦うわけにはいかない!』

 

『人として当たり前の事だと思うけど、わざわざそんな原則あるの?』

 

杏樹が至極真っ当なツッコミを入れる。

 

『俺の師匠が言ってたんだから間違いない!』

 

(その師匠は子育てで面倒な事を騎士道大原則と言い切っていただけなのでは。)

 

ともあれアデューが正しく育っている事は間違いないので杏樹は黙る事にした。

 

『うふふ、冗談です。

あの月心様も認めたアデュー様に未熟者の私が挑んでもすぐに負けちゃいます。』

 

『うん、私も痛いの嫌だしやめよやめよ。』

 

『そ、そうか…良かった、安心したよ。』

 

アデューはホッと胸を撫でおろした。

彼女達に傷の1つでも負わせようものなら街の男達にどんな目に遭わされるかわからない。

 

『でもちょっと残念です。

アデュー様の戦いぶりを目の前で見てみたかったです。』

 

『え、俺の戦いぶりを?

そ、そうかい?』

 

藍が心の底から残念そうに目を伏せるので、アデューは気を良くしてしまう。

 

『そっかぁ、そんなに見たいのかぁ…』

 

藍にそのような意図はなかったが、アデューはおだてに弱いのだ。

 

『それならアデューを雇ったらどう?

私達の仕事を手伝ってもらうの。』

 

杏樹がアデューと藍に提案する。

 

『そんな!?

アデュー様をお金で雇うだなんて失礼ですよ。』

 

『そんなことないぜ?

修行の旅を続けるには金は必要だからな。

どんな仕事だって修行の内さ。』

 

アデューとしても懸賞金の懸かった魔物を退治されてしまい路銀が心もとない。

杏樹の提案は願ったり叶ったりだ。

 

『でも、アデュー様を雇うなら最低でも1日2万ゴルゴルくらいはないと…

家のお金を勝手に使うわけにはいきませんし。』

 

『ふっ、まぁ俺も安くはないからなー!

って、ええぇっ!?

に、に、2万ゴルゴルゥ!!?』

 

路銀どころではない金額を提示されてマヌケな声を挙げてしまう。

アースティアでは1ゴルゴルでパンが1つ買える程度の価値だ。

 

『ご、ごめんなさい!

勇者であるアデューさんにはやっぱり安すぎましたよね!?』

 

『いやいやいやいや!逆!逆だってば!

いくらなんでもそんなにいらないって!!』

 

『えぇ!?

で、でも一流の学者様や剣士様に講師を頼めば5千ゴルゴルは掛かります。

まして実戦もして頂くともなれば…』

 

雇われる側が値引きを要求して雇用側がそれを断る。

なんとも不思議な値引き交渉が繰り広げられるのをサルトビが制止する。

 

『今のコイツは勇者じゃなくただの放浪騎士、いわば無職の男ですよ。

50ゴルゴルで十分ですよ。』

 

『誰が無職だ!』

 

とは言え食事と宿代込みならば日雇いの労働よりはずっと稼げる値段でもある。

明日の食事さえも危ういアデューにとっては十分助かる提案だ。

 

『それにお前には特別ボーナスもある。

絶対についてきた方がいい。』

 

『なんだよその特別ボーナスって。』

 

『ついてくればわかる。』

 

サルトビがこういう言い回しをする時は善意である事が多い。

アデューはサルトビの提案を受け入れる事にした。

 

『まぁこれも修行だしさ。

俺が付いていきたいってだけだからお金はそんなにいらない。

男に恥をかかせないでくれよ。』

 

アデューも藍の性格が読めてきた。

日の出国の女性、ヤマトナデシコは男性のプライドを何よりも優先する。

ヤマトナデシコの典型とも言える藍はこういう言い回しに弱いはずである。

 

『わ、わかりました。

では宿代とお食事代込みで…』

 

杏樹が値段を提示しようとする藍の口元を抑えて制止する。

 

『騎士道大原則ひとつ、騎士は女の子を無償で助けなければならない。

とかあるんじゃないの?』

 

『え、無償で!?

いや、でも待てよ。

そんなのもあったような…。』

 

アデューの騎士道大原則も実は曖昧だ。

杏樹はそこにあてずっぽうで畳みかけていく。

 

『騎士は手伝わなければならない。

騎士は金銭に執着してはならない。

騎士は気前よくなければならない。』

 

『ええ、ちょ、ちょっと待ってくれ。

そんなのもあったような…なかったような…。』

 

杏樹の適当な大原則に混乱させられていく。

 

『そ、そうだ!

騎士は人助けに見返りを求めてはならない、だ!

適当な事を言って俺を惑わすのはやめてくれよ。』

 

『ほぉ、流石は騎士様だ。

つまり金は要らないって事でいいんだな?』

 

杏樹に続いてサルトビがトドメを刺す。

アデューは何も言い返せず言葉に詰まる。

 

『わかったよ。

俺は騎士だからお金もいらない。』

 

アデューは観念したように肩を落として呟いた。

 

『ただしそれは女の子だけの話だ。

サルトビ、俺はお前の仕事も手伝ってやるんだから俺の飯と寝床くらいは用意しろ。』

 

『ほぉ、お前にしちゃ頭を使ったじゃねぇか。

まぁそれくらいは出してやるよ。』

 

アデューが起死回生の提案で何とか衣住を確保する。

長旅でアデューの交渉能力も上がっているのだ。

 

『わかりました。

ではアデュー様のお言葉に甘えちゃいます。

でも何かあれば遠慮なく仰ってくださいね。』

 

『よろしくねーアデュー。』

 

『お、おう。

杏樹は距離感がわかりにくいな。』

 

かくしてアデューは藍達の不死身討伐の旅に加わる事にした。

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