日の出国は街道や宿場町が整備されているため旅は徒歩での移動が基本となる。
アデューやサルトビはもちろん藍も徒歩で街道を歩きサカイに向かっている。
なお、杏樹だけは自身の魔力で浮かせた畳に座って移動している。
1日の行程は約7.5クタクタ(30km)ほどである。
『なぁサルトビ。
さっきの街で退治した魔物ってどんな奴だったんだ?』
『あぁ、大蛇だよ。
リューも丸呑みしちまいそうなデカイ奴だったな。』
『そんな大きな蛇と戦ったのか?
いくら爆裂丸でも相当苦戦したんじゃないか。
お前よく頑張ったなぁ…。』
アデューとの会話に違和感を感じ、サルトビは少しだけ思案する。
『あぁ、なるほど。
お前は俺が一人で退治したと思ってるのか。』
『え?どういう意味だよ?』
言葉の意味が理解できずアデューが聞き返すとサルトビはゆっくりと前方を指差した。
『ちょうどいい。
面白いものが見せられそうだ。』
サルトビが指を差した先にはソリッドに乗った侍の集団がいた。
『頼もおぉぉー!
そちらにおわすご令嬢は太刀花家のご息女とお見受けするがいかがであろうか!!』
顔にカブキめいた化粧を施した200シン以上はある大男がソリッドから降りて大声で叫んだ。
『はい、太刀花藍は私です。
何か御用でしょうか?』
『…太刀花杏樹。』
美しい所作で頭を下げる藍とは対称的に杏樹は面倒くさそうに対応する。
名乗り出た2人を舐めまわすように眺めると、大男は舌なめずりをして再び叫んだ。
『吾輩は平和で緩み切った軟弱者共に真の男の剣術を広めるため!
天然無双流という史上最強の流派を立ち上げたタブチと言う者であります!』
タブチの大地を揺らさんばかりの大声に、普通ならば気圧されてしまいそうなものだが
藍は一切の身動きも見せずに平然と聞き、杏樹は相変わらず面倒くさそうに聞き流している。
『しかしながら我らには天然無双流を天下に広めるにあたって先立つものがありませぬ!
つきましては太刀花家のご息女であるお二人に寄付金を賜りたく、こうして頭を下げております!
聞き入れられなければ我が天然無双流の素晴らしさをここで実演させて頂く所存である!!』
『どけどけ、見せもんじゃねぇぞコラァ!!』
侍達が一喝すると周囲の旅人達は逃げるようにその場から離れ、辺りはアデュー達と天然無双流の男達を残した人垣が出来た。
『何が寄付だ!
要するに恐喝じゃないか!!』
男達の横柄な態度にアデューが噛みつくが、男達はニヤリといやらしい笑みを浮かべる。
『なんと無礼な!
我らは侍ゆえに窃盗など働かん!
これは大義のため、あくまで寄付を願っているにすぎん!!』
大義や誇りを自身の欲望のために置き換えるような男はアデューがもっとも嫌うタイプである。
今にも飛び掛からんとするアデューを制止すると、藍は一歩前に出てタブチに頭を下げる。
『申し訳ありませんが、家のお金については私の一存だけではどうにもなりません。
どうしてもというのであれば太刀花家に赴き、祖父や叔父様達に直接ご相談して下さい。』
藍の言葉が意外だったのか男達は少しだけ戸惑ったが、すぐにニヤけた笑みを浮かべた。
『ほう、ならば我が天然無双流の素晴らしさをこの場で実演させて頂く事となるがよろしいか?』
『自慢の用心棒様も2人ぽっちじゃ俺達の相手にならないぜぇ!』
男達の挑発じみた態度とは対照的に藍は丁寧な姿勢を崩さず答える。
『はい、ぜひ拝見させていただきたいです。
天然無双流の技の冴え、お手本にさせていただきます。』
『おいおいおいおい!
藍、コイツらの言ってる事はだな…。』
『いえ、大丈夫です。
アデューさんとサルトビさんは下がっててくださいな。』
アデューが慌てて止めに入るが、藍はアデューを落ち着かせるように穏やかに答える。
『これは面白い冗談だ!
かの太刀花家のご令嬢だと持て囃されて現実が見えておらぬと見える!
これは少々きつーく教育せねばならんなぁ!』
『お前らだってこの2人がどんな子か知らないわけじゃないだろ?
下手に手出ししたらタダじゃ済まないぞ!』
タブチはアデューの警告を鼻で笑う。
『知っておる。
その家名故に娘が辱めなどを受けてしまえば大事になるであろうなぁ。
たちまち我に大金が積まれて口封じをされてしまうに違いない。
あぁ恐ろしい恐ろしい。』
『いっそ無理やりに兄貴の嫁にしちまったらどうですかい?
太刀花家の婿になっちまえば金なんか使い放題ですぜ。』
『それは良い。
今は小娘だが将来はさぞ美しい女子になるであろうなぁ。』
タブチが鼻の下を伸ばす。
どの国にもゲスはいるものらしい。
アデューは怒りを沸騰させる。
『おいサルトビ!
ボーッと眺めてる場合じゃないぜ!?』
『んー、しかし下がってろと命令を受けたしなぁ。』
憤るアデューとは裏腹にサルトビは両手を頭の裏に当てて寛いでいる。
『あのなぁ、そんな事を言ってる場合じゃ…!』
2人が言い争っている間にタブチは藍に向かって身の丈ほどもある大太刀を振り上げる。
『では、我が愛刀の無敵丸の一撃を特等席でご覧あれ!!』
『おい待て!
相手は女の子…って、あっ!』
アデューはタブチと藍の間に割って入ろうとしたが何故か途中で声を挙げて足を止めた。
振り下ろされた大太刀は藍の眼前で止まる。
『ふははは、我が無敵丸の太刀筋はいかがでしたかな!?
おっと、もしかして恐ろしくて震えが止まりませんかなぁ?』
高笑いをするタブチとは対照的に、藍は怯えるというよりは気の毒そうな表情を浮かべている。
『…あの、無敵丸さん…壊れちゃってましたよ?』
『は?』
タブチが振り下ろした愛刀に視線を落とすと、大太刀の刃は半分ほど無くなっていた。
『なぁぁぁ!?バカな!?
無敵丸よ、我の振りの速度に耐えられなかったというのかぁ!?』
『お前見えてなかったのか?
藍がお前の武器を横から斬ったんだぞ!?』
『な、なにぃ!?』
振り下ろされた大太刀を藍が目にも留まらぬ速さで刀を抜いて横に振り払うと無敵丸は粉々に砕け散ったのだった。
『…あの、刀は手入れをしないとすぐにダメになっちゃいます。
無敵丸さんの脆くなっている所をちょっと小突いただけで壊れてしまいました。
あのまま剣を交えていたら大変な事になってました。』
『ぬ、ぬぬぅ…。』
『おいマヌケやろう。
ついでに頭も見てみろよ。』
サルトビに言われてタブチが目線を頭上に向けると、なんと髷が燃えていた。
杏樹がやったようだ。
『ぬわぁああ!いつの間にぃ!』
『…もう帰って。』
杏樹が不機嫌そうに手を動かすと、今度はタブチの頭上から大量の水が降る。
タブチはびしょ濡れになりながらもどうにか頭の火を消す事が出来た。
『…頭冷えた?』
冷えたらしい。
タブチは少しだけ考えると、再び大声を挙げた。
『よかろう!
ならば次はソリッドにてお相手させていただこう!』
生身では分が悪いと踏んだタブチは逃げるようにソリッドに乗り込んだ。
『てめえ!
生身の人間、それも女の子相手にソリッドで襲い掛かるなんて恥ずかしくないのか!』
『黙れぇ!
より良い装備を持って戦に臨むのは実戦の常である!
我らは常在戦場、実戦派の流派なのだぁ!!』
アデューの当たり前の抗議に逆ギレで返すと複数のソリッドが藍と杏樹を取り囲んだ。
『卑怯者には容赦しないぞ!
そっちがその気ならこっちも…』
アデューがカードを取り出しリューを召喚しようとしたが、サルトビが腕を掴んで止めた。
『まぁ待て。
面白いモンが見られるって言ったろ?』
『藍と杏樹がかなりの腕なのはわかったけど、ヒッテルじゃあるまいしソリッド相手に生身じゃ無理だ!』
『生身なもんかよ、見ろ。』
サルトビが指を差す方に目をやると、藍は空に向かって刀をかざして叫んでいた。
『リューオンミョウ、聖冥(セイメイ)!』
藍がその名を呼ぶと、吹き荒れる形代と共に刀を携えた一体のリューが姿を現す。
白を基本として赤色のラインが通ったボディは陰陽師をイメージさせる。
『藍もリューの乗り手だったのか!?』
藍達が邪竜族と共に戦っていたと言っても後方支援だとばかりだと考えていた。
まさか自分より若いリュー使いが戦っていたとは夢にも思わなかったのだ。
『藍様だけじゃない。
杏樹様もだ。』
『なんだって!?あの子も!?』
驚いたアデューが辺りを見渡すと、杏樹がいたはずの場所には誰もいなくなっていた。
だが、目に映るリューは1体のみ。
少し考えてからアデューは結論に至る。
『まさか2人乗り!?
あのリューはイエーガーと同じ複座型なのか!?』
かつてアデューの仲間だったリューワイアット・イエーガーは妹のカッツェが操縦、兄のヒッテルが銃撃を担当していた。
ならばセイメイも同じように藍が斬撃担当で杏樹が操縦担当なのだろうとアデューは考えていた。
突然リューが現れた事でソリッド達は包囲を忘れて後ずさっていく。
『りゅ、リューだとぉぉお!?
こんな苦労知らずの小娘がリューの乗り手に選ばれたというのか!?』
『本当に苦労知らずのお嬢様達なら今頃はお屋敷で大切にされてるさ。
ピーピー喚いてるだけの怠け者がどっちかお2人に教えてもらいな!』
サルトビの言葉を合図とするかのようにセイメイはゆっくりと刀を抜く。
『天然無双流の技、兄上達に代わって私達が見定めさせていただきます。』
セイメイが刀の切っ先をソリッド達に向けて宣言すると、タブチは露骨に狼狽える。
『え、えぇぇい!
いくらリューとてしょせん乗り手は小娘よ!
かかれぇい!』
狼狽えながらもタブチが指示を出すと再びソリッド達がセイメイを取り囲む。
続いてセイメイの背後にいる二体のソリッドが斬りかかって来たが、セイメイは軽やかに宙を舞って躱すと同時に包囲を突破した。
『猫みたいに身軽だな。
でもあんな動きが出来るって事は疾風丸みたいな突進力やパワーは無いって事だな。
じゃあどんな攻撃をするんだ。』
アデューの見立てが正しいのでサルトビの表情が変わる。
あの戦いから2年が経ったがアデューの実戦勘は衰えていないらしい。
『やぁ!!』
セイメイが刀を抜いて横に薙ぎ払う。
閃光のような一撃の後、2体のソリッドのボディが横に真っ二つになる。
『速い!それに凄い切れ味だ!
いくらなんでも刀が軽すぎるぞ!?』
『あの刀は実体がないのさ。
一見すると刀のように見えるがとてつもない魔力を凝縮した光の塊なんだ。
日の出国には蝶のように舞い、蜂のように刺すって言葉があるが
藍様とあのリューはまさしくそれを体現している。』
『へぇー、武器に重さがないからあんなに軽くて速いのか。
サムライとニンジャが合わさったみたいだな。』
アデューにとって侍と言えば真っ向勝負で鋭く重たい攻撃を仕掛けてくる戦士だ。
軽業師のように身をこなし敵を一刀両断にする姿に見入ってしまう。
実戦になれば身体が大きいほど有利であり古今東西の戦士達はほとんどが大男である。
アデューを含む体格に恵まれない者達が一度は憧れる理想の戦士像をセイメイが体現しているかのように見えた。
『藍、そこの岩陰と丘の上にもいるよ。』
『では杏樹お姉様、お願いします!
変化、陰!』
『おっけー、リューテラー・セイメイ。』
杏樹の報告を聞いて藍が叫ぶと、杏樹の呑気な名乗りと共にリューのボディの色が白基調から黒基調へと変化する。
『オンミョウってのは光と陰って意味だ。
光の刀を操るのが藍様で闇の魔法を扱うのが杏樹様ってわけだな。』
『すげぇー、魔法戦士じゃなくて完全に戦士と魔法使いで切り替わってる。
リューのクラスと属性そのものが変化するのか。』
リューが特殊なアイテムを使用してクラスチェンジという上位互換にパワーアップする事は合ってもクラスそのものが変化する事はない。
どんなリューにもそれぞれ特徴があるが、リューオンミョウの最大の特徴はモードチェンジにあるのだろう。
セイメイが宙に印を結ぶとリューの中から複数の子機が飛び出す。
『行って、クダギツネ。』
杏樹の指示でクダギツネと呼ばれた子機が飛び出すと、岩陰と丘の上に潜んでいたソリッドがクダギツネの魔法攻撃を受けて爆発した。
『なぁっ、我輩の作戦が見破られたぁ!?』
ソリッドで包囲した上でさらに狙撃を企んでいたらしい。
不意討ちによる勝利に賭けていたタブチの希望はアッサリと崩れ去った。
『リューテラーに騙し討ちは通用しない。
じゃ、後はよろしく。
変化、陽。』
『リューサムライ・セイメイ。』
杏樹がシートにもたれ込み藍の可憐な掛け声を響くと、リューのボディが再び白基調に変化する。
『タブチ様、もう策はないようですね。
では、正面から勝負いたしましょう。』
再び光の刀を構えたセイメイが今度は自ら攻撃を仕掛ける。
ソリッドが慌てて刀を構えるが、光の塊である聖冥の武器はソリッドの刀を一方的に斬り裂いてボディを一刀両断にする。
別のソリッドが慌てて斬りかかるがセイメイは素早く飛んで攻撃をかわす。
戦いは1分もかからず決着がついた。
タブチ達は一撃も攻撃を当てることなく全てのソリッドを失う事となった。
『な、なんという事だ…。
天然無双流を世に広めるという我輩の夢が…こんな形で終わってしまうとは…。』
タブチ達は煙を上げて横たわるソリッド達を呆然と眺めていた。
『…かくなる上は!』
『ま、待ってください!!』
タブチは座り込むと短刀を抜いて腹を出す。
藍が大慌てで手を伸ばしたが、その横をアデューが素早く駆けていく。
間一髪、切腹に勘付いたアデューがタブチの腕を掴んで制止した。
『バカ野郎!
腹なんか切ってどうすんだよ!!』
『放してくだされ騎士殿!
武士の情けでござる!!』
アデューが腕を掴んだ事で藍はホッと胸を撫でおろす。
タブチがアデューの腕を振り払おうとするがアデューは腕を離さない。
(アデューのヤツ、かなり腕を上げたみてーだな。)
200シンを超える大男であるタブチの剛腕にアデューが食らいついている事にサルトビは驚く。
が、それはそれとしてアデューの行為を見過ごせないのでサルトビは声を挙げる。
『アデュー!そいつを死なせてやれ!
侍ってのは何よりも誇りを大切にするモンなんだ。
お前のやってる事はコイツらにとっちゃ何よりも残酷な事なんだぜ。』
『だからって死んじまったら誇りを取り戻す事も出来ないじゃないか!』
『わ、私もアデューさんに賛成です!!』
高く大きな声が辺りに響き渡る。
大声を発した藍に全員が注目する中、藍はリューから降りてゆっくりと2人に近付いていく。
『私が未熟なばかりに危うく大切な命を散らしてしまう所でした。
アデューさんありがとうございます。』
藍は両手を身体の前に添えてアデューに頭を下げると、ゆっくりと両膝をついてタブチの両手を握りしめた。
『な、なにを?』
突然の事にたじろぐタブチに藍は優しく微笑みかける。
『どうです?
非力なものでしょう?』
藍の言葉を聞いてタブチはハッとする。
手を握るにしては少しばかり力強いが、タブチにとってはほとんど痛みを感じない。
この程度が目の前の少女の全力なのだと気付いたのだ。
『私の強さは掴まってしまえば何も出来ないカゲロウのような強さです。
タブチ様の剛力は私では到底成し得ない素晴らしい物ではありませんか。』
藍は優しく心地よい声でタブチに語り掛けていく。
『侍の本懐は武を誇る事ではなくお国を守り民を守るために尽くす事です。
私は技で、タブチ様は力で、それぞれのやり方で尽くしていけばいいではありませんか。
負けたから捨ててしまうなんて悲しい事は…どうかおやめください。』
藍が祈るように瞳を閉じて懇願すると、タブチは姿勢を改めて藍に深々と頭を下げた。
『…藍殿の言う通りでござる。
国と民に尽くす事こそが侍の本懐でござった。
本懐を見失い武を振りかざしていた我輩が負けるは当然の摂理であった。』
タブチが改心したと確信し、アデューも警戒を解いてタブチに目線を合わせて屈みこむ。
『そうだぜ。
アースブレードの戦いの時は善も悪も一緒になって邪竜族と戦ったんだ。
悪党は許せないけど、国を守る侍って言うなら多ければ多いほど良いに決まってるぜ。』
『…騎士殿にも感謝いたす。
お国と民のために尽くすべき命を自分勝手な判断で捨ててしまう所でござった。』
藍の手を離すとタブチは地面に両手を付けて頭を下げた。
ドゲザと呼ばれる日の出国の最上位の礼である。
『いよっ!太刀花家!!』
周囲のヤジウマ達から自然と拍手と歓声が沸き起こった。
『…俺は足手まといはごめんだけどな。』
『…私もアイツ嫌い。』
拍手と歓声の中、小声で悪態を付くサルトビと杏樹はこっそりと拳を突き合わせていた。
杏樹の思考はやや現実的かつカオス寄りでサルトビと気が合うらしい。
やがてヤジウマもいなくなり、ソリッド達の残骸を街道外れの場所にまとめ終わるとタブチ達は列を形成してアデュー達に頭を下げた。
『この度の事はどれだけ感謝しても足りませぬ。
我輩、すっかり藍殿のファンになってしまいました。
これからは全国に藍殿の素晴らしさを広めて全力で推させていただくつもりです。』
『そ、それはやめてください。
それよりもお互いに切磋琢磨して民とお国のために尽くしてまいりましょう。』
タブチの熱い思いを藍は戸惑いながらも拒絶する。
その後、タブチ達と別れて歩き始めると藍はアデューの横に並んで礼を言った。
『タブチ様を止めて頂きありがとうございました。
未熟な私は慌てるばかりでとっさに動く事ができませんでした。』
己の未熟さを嘆いて伏し目がちになる藍をアデューは明るく励ます。
『騎士道大原則、騎士は命を粗末にしてはならないからな。
それに未熟だなんて謙遜するなよ。
あんな速い太刀筋、俺には出来そうもないや。』
何でもない事のように笑うアデューを藍はジッと見つめる。
当たり前のように相手を認め、善行を重ねる。
藍はアデューの勇者たる一面を見られて嬉しくなってしまう。
あの日、リューロードの力を押し返し邪竜族もろとも貫いて世界を救ってみせた憧れの勇者の本質を見た気がしたのだ。
藍は小走りでアデューを追い抜くと笑顔で振り返る。
『うふふ、太刀筋が見えているという事は防げるという事です。
やはり私に勝ち目はありませんね。』
そうしてまた振り向くと、その先には長く続く無人の道が見えた。
だが、誰もいない道の先には自分よりも強い人がたくさんいる。
少しでも早く会いたいという気持ちが藍に小走りさせたのだ。
藍は幼いながらも武人なのである。