一方その頃、洞窟の入り口前で馬車を守っていたこいけはと言うと…
『はぁー…涼しくて気持ちいいー…』
馬車と自分の周囲を氷の壁で囲い、優雅にお茶と菓子を摘まんでいる。
油断してとろけた顔はシノビとは思えないほどに怠け切っていた。
だが、そんな彼女のひと時を邪魔する者が草むらの茂みから現れる。
『へっへっへ、お嬢ちゃん一人かい?』
山賊である。
数は8人、全員が武器を持ってこいけの氷を囲んでいる。
『ふっふーん、馬車が狙いなんでしょうけどそうはいきませんよー!
こいけの氷は完璧です!』
こいけはえっへんと胸を張る。
分厚い氷の前に何も出来ず山賊たちは諦めていくだろうとこいけは考えていた。
『しゃらくせぇ!こんな氷割っちまえ!!』
山賊たちが武器を叩きつけるが氷には傷一つ付かない。
『ダメだおかしら、全然割れねぇ!』
『ちっ、じゃあ火ぃ付けろ!』
山賊たちは火を起こして氷を炙るが、氷は一切の炎を受け付けず水滴一つ落とさない。
『私が作った氷は精霊の加護があるから炎は効きませんよー!
さぁ帰った帰ったー!
こいけの優雅な時間を邪魔しないでくださいー!』
勝ち誇るこいけに山賊たちは悔しそうに顔をゆがめる。
『ちっくしょう、獲物を目の前にして帰るってのかよ。』
そう言って山賊が氷に手を触れると、手のひらがわずかに濡れた事に気付く。
『兄貴、この氷は炎じゃ無理だが人肌の熱は通じるみたいだぜ。』
『…みてぇだな。』
山賊は少しだけ思案すると、すぐにバカげた行動に移った。
『よしお前ら服を脱げ!!』
山賊たちは一斉に服を脱ぎだす。
『え?え?何をしてるんですかぁー!?』
状況が理解できずこいけは狼狽える。
目の前には薄汚いおっさん達の裸、男嫌いのこいけがパニックに陥るのは必然と言える。
『お嬢ちゃんの氷と俺達の熱い思い!
どっちが勝つか勝負だぁー!!』
下着姿の山賊たちが氷に張り付いて大声を挙げる。
『いやぁぁぁああああ!!』
内側から見た光景は地獄絵図そのものなのでこいけはパニックに陥り絶叫する。
『はやく!みなさん!はやく!そっこーで戻ってきてくださいー!!』
こいけの声が辺りに響き渡る。
その声を、ある一人の男が察知していた。
一方、アデュー達は大穴を抜けて広々とした空間を進んでいく。
ほとんどが跡形もなくなっているが、空間のあちこちにどことなく品のある形状をした何かが残されている。
それはまるでこの空間がかつてはヒノデ国の王宮であったかのような雰囲気を醸し出していた。
『ここは一体…?』
『わかりません。
このような場所に国があったとも聞いておりません。』
不安げなパッフィーの声に藍が答える。
ここがかつて王宮であったとして、物を残したまま放棄された理由は何なのだろうか。
考えられる理由は敵に滅ぼされてしまう事だが、普通は物は盗られ建物は完全に破壊されるだろう。
そもそもリューが自由に動けるほどの生活空間とは何なのか。
『…ここに住んでいたのは人じゃないのかも…』
『この大きさじゃ邪竜族が住んでたっておかしくないぜ。』
『…待て!みんな静かにしろ!』
杏樹とアデューの会話を遮ってサルトビが仲間を制止する。
静寂が訪れた空間に、何かの足音が少しずつ迫りくる音が響き渡る。
『不死身野郎のお出ましか?』
アデューのゼファーが一歩前に出て敵を迎え撃つ。
『お待ちくださいアデュー様。
何か反応がおかしいんです。』
先手を取ろうとするアデューを藍が制止する。
やがて足音はどんどん大きくなり、目の前の暗闇から大きな何かが姿を現す。
『…おい、なんだよコイツは…これじゃまるで…』
その姿にとまどいながらアデューが後ずさる。
現れたのは白いボディに黒と金色で塗装された二足歩行の兵器。
神々しさすら感じさせるデザインは、乗り手が神聖な者であることを伺わせる。
『こ、これがドゥームの姿なのか?』
『ううん、セイメイのモニターにはリューって表示されてる。』
杏樹はリュー・テラーの能力でリューの基本情報を見抜いた。
セイメイが目の前の兵器をリューと鑑定しても仲間達は警戒を緩めない。
目の前のリューは神聖さを感じさせながらも明らかに異質なのだ。
『やはりリューなのですか…?
…ですが、この禍々しい魔力反応は一体…』
魔法使いであるパッフィーが目の前のリューから邪悪な魔力を検知する。
『…リューのようですが間違いなく不死身です。
油断しないで下さい。』
不死身退治の専門家である藍の言葉を聞いてアデューは目の前の存在を敵と断定した。
『お前が何かは知らないが、邪悪な存在なのは間違いない!』
アデューは恐怖を振り払うように叫び、ゼファーは剣と盾を構える。
そのまま姿勢を低くして突撃した瞬間、杏樹の大声が響き渡った。
『アデュー止まって!!逃げて!!』
『いぃっ!?』
アデューは急ブレーキをかけてゼファーを止めると、目の前の空間が歪みゼファーの盾が割れ装甲に大きな切り傷が付いた。
目の前の不死身が目にも留まらぬ速さで居合い斬りを放ったのだ。
『じょ、冗談じゃない!
盾ごとゼファーの装甲がもっていかれちまった!
な、なんだよ今の!?』
アデューの大声に負けじと藍が悲鳴にも似た大声を挙げる。
『そのリューはリュー・ソウデン!
あ、アーククラスのリューなんです!』
杏樹が見下ろすセイメイのモニターには【リュー・ソウデン、アマノハバキリ】と表示されている。
『アーククラスだとぉ!?』
『冗談じゃない!
パラディンのさらに上の最高クラスのリューじゃないか!
なんだってそんなのが不死身になってるんだ!』
爆裂丸とゼファーが後ずさる。
マスタークラスのパラディンですらリューナイトの10倍ほどのルーンを持っていた。
アーククラスとなれば何倍なのか検討が付かない。
『そんな…!
アーククラスが実在して…不死身になっているなんて…!』
アーククラスは人間の域を脱していると言われている。
つまり一般論では人間はアーククラスに到達できないとされているのだ。
アーククラスの記録はほとんどなく、その存在を疑う者さえいるほどである。
『くそっ、まともにやり合っても無駄死にするだけだ!
全員逃げろ!!』
サルトビが煙幕を投げつけると同時に全員が本能に従って一斉に逃げ出す。
あっと言う間にアマノハバキリが見えなくなり、逃走は成功したかのように思われたが
煙幕が張れて目の前に敵がいなくなったのを確認すると、アマノハバキリは恐るべき速さでアデュー達の追跡を開始した。
その追跡は完璧で分かれ道で迷う素振りが少しも見られない。
『アイツ、音に反応してやがるのか。
動くもの全てを破壊する装置みたいなもんらしいな。』
アマノハバキリの追跡が正確すぎる事からサルトビが考察する。
全ての命は死滅し、今この洞窟で動いて音を鳴らしているのがアデュー達だけだから完璧に追跡できているのだろう。
アデュー達は洞窟の不自然なまでの静けさの意味を理解した。
かなりの距離を開けていたはずだがアーククラスであるアマノハバキリは音速を名乗るゼファーよりも早く迫り
あっという間に一行をアマノハバキリの間合い内に捉えた。
『ダメだ!このままじゃ追いつかれちまう!!』
『アデュー止まるな!昨日約束しただろうが!!』
迎撃しようとするアデューをサルトビが制止するが、アデューは既に覚悟を完了していた。
『このまま全滅するよりマシだろうが!みんなは絶対にそのまま逃げろ!!』
ゼファーは反転するとアマノハバキリに向かっていく。
『アデュー待って、止まって!!』
マジドーラが反転しようとするがサルトビの爆裂丸がマジドーラを押さえつける。
『お願いサルトビ!マジドーラを行かせて!アデューが!』
『今の俺達に出来る最善は、この情報を持ち帰って然るべき戦力と共にアデューを助けに向かう事です!!』
『そんな事をしていたらアデューが殺されてしま…きゃぁぁっ!』
問答してる時間はない。
爆裂丸がマジドーラに電撃を流し、パッフィーを気絶させて強制的にリューと引き離した。
『お姉様、私達だけでもアデュー様を…あっ…』
凛とした藍の声が途中で途切れる。
杏樹が魔法で藍を眠らせたのだ。
『…杏樹様、ご理解いただき感謝いたします。』
爆裂丸はリューから放り出されたパッフィーを手に収めると、そのままセイメイと共に出口に向かって走り出した。