Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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10話 みんなで夏祭り

 

「あちぃ! プールがあれば飛び込んでるぞ、この暑さ!」

 

 和樹さんは汗びっしょりで椅子に腰をかけていた。

 来た時にはだだっ広いだけの会場だったが、サークル参加者用の長机や椅子が並べられている。

 どうやらもう設営準備は終わったようだ。

 

「和樹さん、お疲れ様です……これどうぞ」

「あ、キンキンの飲み物とは気が利くぅ! サンキュな!」

 

 この飲み物は南さんから和樹さんに持っていって、と渡された飲み物だ。

 今朝は気まずい雰囲気になってしまっていたが、少し離れて作業してたおかげで気持ちがまぎれたように感じる。

 

「彩ちゃんの方も終わった?」

「はい……南さんからもう大丈夫って」

 

 ちなみに事務室はエアコン完備で快適だったなんて言えない。

 お菓子もいただきながら楽しく作業させてもらいました。南さん、本当にありがとうございます。

 

「おふたりさん、おひさしゅう! 遅くなったけど到着したで~」

「お、由宇! 来たのか」

「由宇さん……電話ありがとうございます」

「ええんやって! ウチが彩はんと会いたかっただけなんやから。彩はんも和樹はんと南はんに声かけてくれて感謝やで!」

 

 由宇さんの登場で明るくなるのがわかる。

 やはりこの人の人柄は周りを元気にさせてくれる。そう感じた。

 

「設営は終わったんやろ? じゃあこれからどっか遊びに行こうや!」

「お、いいね! 由宇は荷物とか大丈夫なのか?」

「もうホテルに行って置いてきたから大丈夫やで。ほな、どうする?」

「あの……提案なんですが、縁日とかどうでしょう? 今日近くでお祭りやってます……」

「おお、お祭りかいなぁ! ええなそれ! 考えてみたら東京のお祭りなんか初めてやで!」

「お、楽しそうだな。行こう行こう!」

 

 ただその前に、由宇さんが南さんにも声をかけたい、と言うので、一度事務室に行って挨拶しにいく。

 南さんは由宇さんが来てくれたのに気づいてこっちに来てくれた。

 その際、一緒にお祭りはどうかと誘ったが、まだ仕事が残っているという。

 

「やっぱり完全には終わらなかったわ。先に行ってて」

「あの……何か手伝えることありますか?」

「ありがとう。でもこの仕事はスタッフじゃないとできない作業なの。後で追いかけるから遠慮せず先に行ってね」

 

 南さんは笑いながら手をヒラヒラさせた。

 その姿を確認して、私たちは事務室を後にした。

 

「牧やん、相変わらず忙しそうやったなぁ」

「だな。さっき設営で長机と椅子の搬入やってたけど、その時のスタッフさんはもっと余裕なさそうな感じだったよ」

「せやな。だのに牧やんはいつも丁寧に接してくれるから感謝感謝やで」

 

 考えてみればこんな大規模なイベントならスタッフはやることがいっぱいなはずだ。

 それなのに、南さんはいつも笑顔で優しく接してくれる。

 今日はなにからなにまで南さんに助けてもらいっぱなしだ。後で改めてお礼を言わないと、と感じた。

 

 ---

 

「おお! これが東京のお祭りかぁ! ええ感じやんか~」

 

 お祭りに来ると、由宇さんは目を輝かせてはしゃぎだした。

 東京の縁日は珍しいのだろう。先を歩いて色んな屋台を見ては、私と和樹さんを呼び寄せた。

 

「由宇、テンション高いな」

「ですね……考えてみれば、由宇さんって絶対お祭り好きですよね……」

 

 和樹さんと2人で話していると、由宇さんはお好み焼きが食べたい、と言って屋台に入っていく。

 

「お好み焼き1つちょうだい! ……なんやその焼き方! あんた慣れてへんなぁ。お好み焼きの焼き方ってもんがわかってへんで! ちょいヘラ貸し! ウチが教えたるさかい!」

 

 そういうと由宇さんは店主からヘラを奪い、慣れた手つきでお好み焼きを作り始めた。

 自分の屋台ではないというのに、どこに何の材料があるか一目瞭然といった具合で、道具を使いこなす。

 

「お好み焼きは、ヘラで上から押し付けちゃアカンねん! じっくり蒸らしてやる方がふんわり食感になるんやで! え、それだと時間がかかる? ダホッ! まずいお好み焼きを出す方が()()()やろ! あと腹の底から声出すんや! こうやで! いらはい、いらはい! 猪名川由宇直伝お好み焼きがなんと1枚600円! 見ていって食べてって~!」

 

「……この間こみパで見た呼び込みを披露し始めましたね」

「すげぇ、なんかどんどん人だかりになってきたぞ……」

 

 由宇さんの呼び込みにつられて、その屋台にはすぐに人だかりができて行列になった。

 先ほどまではなかったが、由宇さんが作り始めた途端、ソースの香ばしい香りが屋台を包み込み、それがまた呼び水になり、人が増えていった。

 作り手が違うだけで、こんなに繁盛するのかと、和樹さんと2人で目の当たりにした。

 

「彩ちゃん、由宇が戻ってくる時間かかりそうだから、少し一緒に回らない?」

「そうですね……そうしましょう」

 

 そうして2人で境内(けいだい)を回り始めた。

 一瞬、由宇さんと合流できなくなることを心配したが、この縁日は神社の一角で行われている小規模なお祭りのため、周辺を回るくらいなら大丈夫そうだ。

 

 和樹さんがどこからかラムネを買ってきてくれて、2人で飲みながら歩いた。

 お祭り特有の祭囃子が、なんとも聞き心地いい。

 柄にもなくはしゃいでしまって、あれ見に行きましょ、と和樹さんを引っ張って連れまわした。

 

「お、おみくじがある。一緒にやってみないか?」

「あ……そうですね、やってみましょうか……」

 

 その誘いに、一瞬躊躇した。

 おみくじを引いて、いい思いをした記憶がない。

 いつも何故か凶か末吉ばかりで、内容も碌なことが書いていた試しがないからだ。

 だけど、そのことを伝えていい雰囲気を壊したくなかったので、引くことにした。

 

「お、俺は『吉』だな。願事は『早くは叶わず、但し努力は必ず力になる』か。今後の同人活動はどうなのか気になったけど、まぁこんなもんか。彩ちゃんはどう?」

 

 わずかに緊張する。こんな時に凶を引きたくなかった。

 でもこういう時は必ずイヤな思いをするのが通例で、いい思いをした試しがない。

 和樹さんに気づかれないよう、深呼吸をしながらおみくじを開く。

 

「彩ちゃんの結果は……お、すごい。大吉じゃん!」

 

 え、嘘、本当?

 真逆の結果が出て驚く。まさか大吉を引くだなんて思わなかった。

 

「なになに? 願事は『叶う、近いうちに大成する』か。学業も『努力しただけ、力になる』だってさ。いいじゃん! 受験もあるしいい結果だな!」

「すごい、私いつも悪い結果ばかりで……あ、まさかこれで運を使い果たしたのかも……」

「ないない! 大吉引くのに運を使うだなんて。いい結果なんだから財布かなにかに入れときなよ」

 

 確かにそうした方がいいかもしれない。

 なにより気になった恋愛を見ると『迷うことなかれ、心に決めた人が最上』と書いてある。

 なるほど、と心の中で納得し、財布の中にしまい込んだ。

 

 おみくじの場所から離れ、行きかう人々の中を泳ぐように歩く。

 

「彩ちゃんは、お祭り好き?」

「はい……大好きです。でも誰かと一緒に来るの、本当に久しぶりです」

「そっか。お、水ヨーヨー釣りだ! ちょっとやってみね?」

 

 そういうと和樹さんは水ヨーヨー釣りの屋台に行ってやりだした。

 首尾よく釣って2つ確保して、両手に1つずつつけて水ヨーヨーを披露してくれた。

 

「ほら、なかなか上手いだろ? 俺結構好きなんだよね」

 

 両手で水ヨーヨーをテンポよく弾ませて見せる。

 祭囃子の音。浴衣姿で行きかう人々。なんだか、本当に懐かしい風景――。

 

『ほら、彩。お父さんは上手だろ?』

 

 ――ふと、頭の中に父の声がよぎった。

 

「お父さん……」

「どうした、彩ちゃん?」

「いえ……その、お父さんも得意だったなぁって思い出して……」

 

 言葉にした途端、胸の奥がじんわりと痛くなった。

 昔、縁日に連れてきてもらった父の記憶がよみがえる。

 水ヨーヨーを披露してくれたり、肩車をしてお神輿が見やすくしてくれたり、と縁日には楽しい思い出ばかりだ。

 

 ――それを思い出して俯いてしまう。

 

「こらこら、彩ちゃん! 楽しい祭りだってのに、なにしけたツラしてんだ?」

「えっ……」

「ほら、笑った笑った! そんな顔してると、せっかくの縁日も逃げちまうぞ」

 

 私の表情からなにかを察したのだろう。

 和樹さんはニコッと笑い、私の手をそっと引いてくれた。

 

「どもども~、おふたりはん! いや~お好み焼きのこととなるとつい興奮してしまってなぁ!」

「もうすごい人だかりだったわ。屋台から由宇ちゃんの声が聞こえたから、まさかと思ったら店主差し置いて焼いてるんですもの」

「まあまあ牧やん。おかげで合流できたわけやし、固いこと言わんとってや~。って和樹はん、なに彩はんの手ぇ握ってるん?」

 

 引いてくれた手をすっと離す。

 私も突然声をかけられて、隠すように後ろに手をまわした。

 

「ちょっとあたっただけだよ。由宇こそ勝手にお好み焼き焼き始めるんだから、驚いたぞ」

「堪忍してなぁ。結局あの屋台大繁盛してお礼にってお好み焼きもろたわ! ウチ特製やからみんなで食べようやぁ!」

「でも……由宇さん、なんだかカッコよかったです」

「イヤやわぁ、店主からも最終的には弟子入りされてしまうし、ウチも罪な女やわぁ!」

 

 座れるところを探して、みんなで横並びになって食べ始める。

 生地がふんわりとしていて、今までのお祭りで食べたどのお好み焼きよりもおいしかった。

 和樹さんも南さんも笑いながら食べている姿を見て、ほっこりした気持ちになる。

 

 みんなと食べるごはんは、それだけで楽しかった。

 




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