Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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12話 初めての購入者

 

 こみパが開始してから数時間が経った頃、瑞希さんが私のブースに訪ねてきた。

 

「はぁい、彩ちゃん! 調子はどう?」

「あ……瑞希さん。いえ、あまりよくは……」

「ふ~ん、ねぇ。ちょっと見てもいい?」

「……はい、どうぞ……」

 

 そういうと瑞希さんは、私の本を手に取って読みだす。

 1ページずつ真剣に読む様子を見て、私も瑞希さんの顔を凝視してしまった。

 

「へぇ~、なんだか。すごいのね……」

「すごい……ですか……?」

「うん、私普段からマンガとかあまり読むほうじゃないんだけど、彩ちゃんの同人誌って他の人たちが書いているものと別格って感じよね」

 

 『別格』という言葉は誉め言葉なのかどうかわかりづらいところだ。

 言葉の真意がわからず、頭を傾けてしまう。

 

「あ、ごめんね。伝わりづらい言い方しちゃって。ただ他の人たちと全然違うなぁと感じちゃったの」

「他の人……ですか……?」

「そう。こみパって要はオタクの祭典でしょ? 和樹の言う通り私の認識には偏見があるけど、おそらく一般の人たちから見たら、多分そんな認識だと思うの。だから、総体的にアニメやゲームのキャラを自分好みに可愛らしく、アレンジして描いてる人多いじゃない? ほら『()え』っていうの? ああいうのって、一般の人から見ると()()()()()()()の。正直なにが楽しいんだろうって」

 

 瑞希さんは、思っていたよりずっと率直(そっちょく)な言葉を使う。

 でも言っていることは確かに納得できるもので、世間の、俗にいう『オタク』への風当たりは決して良くない。

 私自身、アニメやゲームに興味がある方ではないが、即売会(ここ)で活動している以上、瑞希さんのいう『一般的な人たち』から見れば『オタク』の部類に入るだろう。

 ただ瑞希さん自身、素直な感想を口にしているだけで、悪気はないように感じる。

 少なくとも、私は悪意を感じなかった。

 

「ただ彩ちゃんの同人誌って、オリジナルよね? なんか本当にマンガにしてもおかしくない内容で驚いたの」

「……本当ですか……?」

「うん、私もマンガはほとんど読まないから『上手い』『下手』はわからないけど、彩ちゃんの同人誌は『読める』のよね」

「え……」

「他の人の同人誌を読んだことあるけど、例えば、可愛いキャラが可愛く転んで可愛いらしく泣くってシーンあるでしょ? たまにわざとらしく下着を見せたりして? ああいうのって正直見てらんないの。なんていうか脂っぽい料理を出されて胸やけがする感じ。読んでも5分後には下着を見せられたこと以外忘れてしまいそうで、どうしてそんなのにお金を出すんだろうって思っちゃう」

 

 瑞希さんは、私の同人誌を眺めながらすらすら感想を述べる。

 ただそれは非常に参考になりそうな、重要なヒントがありそうにも思えた。

 

「それはそれで需要があるのだから、とやかく言うべきじゃない、ていうのはわかってるの。でも同時に、そんなインスタント食品みたいなものばかり食べて(よんで)なんとも思わないのか、とも思うの。単純に栄養が偏る、みたいな。だから和樹が、そんなものばかり描くのだったら、絶対にやめてほしい、と思ってたの。なにがなんでも止めないとって」

 

 瑞希さんは本を閉じた後も饒舌に語る。

 きっと話がうまい方だと思っていたけど、今話している内容は意外という(ほか)ない。

 思わず聞き入ってしまうような、不思議な説得力があった。

 

「でもね。和樹が描いてる同人誌読んで、ああ、和樹は違うんだって。和樹は本当に心の底から描きたい作品があるんだって思ったの。だから私も応援しようって思って。彩ちゃんの同人誌からはね。それと同じものを感じるの」

 

 ここにきて『別格』という言葉が誉め言葉であることに気付いて、ふっと肩の力が抜けた。

 初見ではわからなかったが、話せば話すほど瑞希さんは聡明な人だと感じた。

 しかし、なんて返せばいいのだろう、と返答に困ってしまった。

 

「ごめんね。なんか変なこと言っちゃって、答えづらかったよね?」

「いえ……でも私の同人誌を褒めていただいたみたいで安心しました……」

「ねぇ、この同人誌っていくらなの?」

「え……200円です……」

「はい、じゃあこれ」

 

 すると瑞希さんは100円玉を2枚渡してきた。

 

「他の人たちの本はあまり好きじゃないけど、彩ちゃんの本は、私好きよ。応援してるわね! じゃあ今日のところは私これで帰るね。またね~!」

 

 そう言って瑞希さんは会場を後にした。

 手元には200円。この1年で初めての売り上げだった。

 

 ――本当に、素敵な人だな。

 

 瑞希さんの優しさと明るさに、感謝せずにはいられなかった。

 




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