Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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13話 ユニット結成

 

 午後を過ぎ、夕方に差し掛かった頃。

 和樹さんの様子を見てみると、後少しで完売するところだった。

 お昼から午後にかけて、参加者が途切れる様子はなく、瑞希さんと一緒に忙しそうに売り子をしていた。

 

 ――相変わらず盛況だな。

 

 瑞希さんが同人誌を買ってくれたことを思い出す。本当に嬉しい出来事だった。

 とはいえ、和樹さんの売り上げ部数を考えると、すずめの涙ほどの成果しかない。

 比べることさえおこがましいが、なんとなく口惜しい気分になった。

 

 またいつものようにため息が出る。

 人が行きかう様子を眺めていると、目の前に見知った人が通り過ぎていって、視線を上げる。

 すると、前回和樹さんのブースで騒ぎを起こした『大庭 詠美(おおば えいみ)』さんが、和樹さんの方に向かっていった。

 

 ---

 

 詠美さんを後ろから追いかける。

 前回は見ているだけでなにもできなかったけど、今回は違う。

 制止をできないまでも、いざとなったら南さんたちスタッフを呼んでくることもできるかもしれない。

 

 そう思いながら、後ろから近づいて様子を見ていた。

 

「ふん、この程度で満足してるなんて、まだまだアマアマちゃんねっ!」

 

 和樹さんのブースに近づいて、少し離れた位置から詠美さんは声をかける。

 

「……その声は大庭 詠美(おおば えいみ)か?」

「ぱんぱかぱーん! もう、あたしってばちょう有名人なもんだから、下々にも顔知られて、もう街も歩けないってかんじねぇ」

「いや、俺は単に前回の事件の被害者だったから、顔を知ってるだけなんだがな……」

「ま、ま、まあ☆ 謙そんしないしない」

 

 そう言って、会話がなくなってしまった。

 ある意味当然だろう。和樹さんとしては、前回あんなことをした相手だ。

 あしらうように目をそらして、話そうとしない。

 

「なんでなにも言わないのよ!」

「なんだ? 同人誌でも買いに来たのかよ」

「なんで、あたしがあんたの同人誌、買わなきゃいけないのよっ! フツーは、そっちから、もらってくださいって言うものなの! あたしはビッグなんだからっ!」

「ほら、これが今回の新刊。もってけどろぼう」

「あ、どもども……で、って……その、なによ。あの、その、だからねえ……気のきかない男ねえっ! まったくもおっ!」

「なんなんだっ! お前はさっきから! 言っとくけど、また同人誌を投げたりしたらスタッフ呼ぶぞ!」

「ふーんだっ! こんかいはそんなことしないもーん。後で南さんに怒られるし! どっこいしょっと☆」

 

 そういうと詠美さんは長机に腰をかけて、和樹さんの同人誌に目を通し始めた。

 

「うっふふふふっ! ちょーつまんない。同人誌作っていい気になってるなんて、かわいいものね」

「だったら返せよ、その同人誌」

「やだ。返したら絵にならないじゃない」

「なんだよそりゃ。もしかして、わざわざ絵になる構図を演出してるのか?」

「でもさ、こーんな紙くず作って喜んでるなんて、ちょっと期待はずれだったかしら? マンガは売れて、なんぼ。売れない同人誌は、トイレットペーパーにもならないわけ。わかる?」

 

 聞きしに勝る、とはこのことだろう。

 なんて傲慢不遜(ごうまんふそん)な言い分。由宇さんから事前に聞いていたが、本当にこんなことを言う人いるんだ。

 しかし、どうして詠美さんは前回といい、和樹さんをあそこまで挑発するのだろうか?

 

「そこでよ。……あんた、あたしみたくなりたくない?」

「あたしみたく、てどういうことだ?」

「あったま悪いわねえ。あたしみたく、ビッグにならないかって言ってるの! いまの10倍、ううん、100倍、1000倍でもいくらでも同人誌を売れるようになってみない? あんたがなりたいって言えばなれるのよ。このあたしが、あんたを世界で2番目の同人マンガ家にしてあげる」

 

 その話を聞いて――脳が真っ白になる。

 

 それって、ユニットの誘い……?

 だって、そんな……そんなのって……!

 

 昨日、私が誘われたはずだった。

 私のはずだったのに……。

 

 鼓動がうるさい。喉が焼ける。頭がしびれる――。

 

 ――和樹さんからの誘いを断ったことを後悔する。

 

 まさか、こんなことに、なるだなんて、思わなかった……。

 こみパNo.1サークルからの誘い。

 誰もが羨む特等席。

 

 だって、そんなの――――。

 

 ――イヤ……イヤ……イヤ……イヤッ!!

 

 そこは……その人の隣りは……私のなの……。

 その人は、私とユニットを組むの――。

 

 ――どうか、お願い――。

 

 ――――私からその人を奪わないで……!

 

「いや、いい。というか、余計なお世話かもしれないけど、おまえ、そんな勝手なことばっか言ってて、友だちなくさないか?」

 

 ピシッと、場が凍り付く。

 詠美さんはその一言で完全に固まってしまった。

 

 先ほどの私の葛藤とは裏腹に、あまりにもあっさりと和樹さんは断った。

 そして言われた当の本人は、未だに動けないでいる。

 

「おまえ……ホントに友だちいないとか……」

「い、いるわよ! ほら、ええっと……」

 

 そうは言ったものの、詠美さんの口から『友だち』の名前が出てくることは一向になかった。

 先ほどまでとは形勢逆転。

 痛いところを突かれた詠美さんは、完全に主導権を失ってしまった。

 

「な、なによ! その同情とあわれみに満ちた目は! 天才は孤独を愛してるの! ちょお天才は、ちょお孤独なの! ぱんぴーなんかとは、慣れあわないんだからっ!」

「だったら、一般人でトーシロの俺にかまってどーすんだよ」

「そ、そ、それは……だから、その……。天才の気まぐれってやつじゃない! なんで『詠美さまにいっしょーついてきます』って言わないのよ! あたしの隣りのスペースは、特等席なのにぃ」

 

 既に詠美さんのヒットポイントは0である。

 さっきまでとは打って変わって、なんだか可哀想に思えてきた。

 

「あのなあ、悪いけど俺は当分、1人でやるつもりなんだよ」

「またまたあ! ホントは誰かと一緒に同人やりたいんでしょ?」

「おまえ! ホントポジティブだなあ! ああ、そうだ! 一緒にやりたい人がいますよ。でも詠美じゃない!」

「……ホントに組まない気? じょーだんでしょ? あんたは、この天才! 大庭詠美ちゃんさまに選ばれたのよ!」

「俺はマンガ描きはじめて半年も経ってないから、なにがそうなのかわからないけどさ。詠美のそれって、なんか違うよ。俺と組みたいからじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ッ! え、え、えらそうにっ! あんたもあいつらみたいなこと言ってえ! い、いいわっ! ぜーったい、あとで後悔させてやるんだから! 覚えておきなさい!」

 

 そういうと『ふみゅうう~ん!』と言って、走ってどこかに行ってしまった。

 途中、スタッフに注意を受けて歩き出している。

 ……案外律儀な人なのかもしれない。

 

 和樹さんは疲れた顔をして椅子に座っている。

 そこに近づいて声をかけた。

 

「……あの……」

「ん? ああ、彩ちゃんか。どうかしたのか?」

「どう……して……どうして……断ったん……ですか?」

「断ったって……。ああ、詠美のことか? 見てたのか? どうしてって、それは……」

 

 和樹さんは、一瞬躊躇った様子で、俯いて頭をかいている。

 

「……俺にはほかに、組みたいヤツがいるから……いまのところ、そいつ以外と組む気はないんだ」

「そう……ですか……」

「なあ、彩ちゃん。もう一度言うぞ」

「はい……?」

「俺と一緒にやらないか?」

「…………えっ? で、でも……和樹さんの……邪魔になるから……」

「だから、邪魔なんかじゃないって。な?」

 

 (さそ)いの手を、掴むべきか迷う。

 邪魔はしたくない、迷惑をかけたく、ない。でも、でも…………!

 それでも、同時に本当に私なんかがいていいのか、と思う。

 もう5年近く、ほとんど売れてない私が、本当に和樹さんの横にいていいのかって――。

 

 『――よくできました。じゃあ今度誘われた時は迷ってはダメよ?』

 

 不意に、以前言われた南さんの言葉が頭によぎる。

 先ほどの詠美さんのやり取りを、思い出す。

 そう、そうだ。例え相手がこみパの女王にだって、和樹さんの隣りを()()()()()()()……!

 

 ……コクッ!

 言葉にできない。でも精いっぱいの勇気を込めて、首肯した。

 

「え、彩ちゃん。それって、OK、ってこと……?」

 

 ……コクッコクッ!

 なんとかそれだけ答えて、和樹さんの元から離れていった。

 

 ――後ろでは和樹さんが喜びの声を上げたのが聞こえる。

 やった、やった! うなずけた! これから和樹さんと一緒に原稿を描ける!

 胸が高鳴って、じっとしていられない。駆け出したい気持ちを必死で抑えて、会場の外へと足を運ぶ。

 喜びのあまり、叫び出しそうだった。

 

 顔が熱い。自分でもわかるくらい、顔が火照ってる。頬もついつい緩んでしまう。

 周りから見られたら、さぞ気味悪がられているだろう。それでもよかった。

 

 和樹さんの誘いの言葉の余韻に浸りながら、湧き上がる気持ちをどうにか押しとどめるのだった。

 




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