Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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17話 瑞希の訪問

 

 それから和樹さんの家に通い続ける日が続いた。

 和樹さんは教えるのが丁寧でわかりやすい。説明する際は決して否定せず、まず肯定した上で、例を用いて説明してくれた。

 

 たまに指摘を受けたところで、私の理解が及ばないところもあるが、和樹さんは私の顔色や反応を見ながら、説明を補足してくれる。

 聞きすぎかな? と思うことでも私の背景を汲みとってくれた上で、優しく教えてくれる。

 

「……和樹さん、ネーム出来たんですが、見てもらえませんか?」

「ん、どれどれ……おお、相変わらずコマ割りは上手いね。これは俺なんかじゃ指摘できないよ。ただこのキャラクターについては、もう少し若くした方がいいんじゃないかな? 例えば、こみパ参加者の年齢層って若い人が多いだろ? 同じ話だとしてもキャラクターが若いと読む人も多くなると思うんだ」

「そうですね。……でもそれだと、今設定的にこのキャラクターは『20年以上黒魔術を学んできた導師』で、後々の展開に響いてしまうんです」

「うん、それは俺も思った。おそらく『長年非情に徹してきた導師が、無垢な子供に出会って憑き物が落ちた』ところを描写したいんだろうなぁと思ったんだ。だからさ、この導師の見た目だけ若くできないかな? 腕のいい導師なんだから何かの子孫で特別強い魔力を持ってる、とか若作りの魔法で見た目が若い、という設定を追加するのはアリじゃない?」

「……そうですね。ただこの導師を特別な存在にしたくないんです。例えば実は魔王の子で強い、みたいな設定です。あくまでただの人間が鍛錬の果てに行きついた姿を描きたいんです」

「それであれば、なにかの子孫説はなしだね。若作りの魔法とかはどう?」

「私の考えてる世界観だと、時間に干渉するタイプの魔法を作ると、なんでもありになってしまうんです。それだとなんでもありのご都合主義になってしまうのがイヤで……」

「なるほど、人は空を飛べない、みたいにちゃんと制限をつけたいんだね」

「……そうです。最後の展開はその制限の隙を突いて敵を倒す展開なので……ここで安易な設定をいれたくないんです」

「それじゃあ単純だけど、少し肉体派みたいな設定をいれてみてはどうかな? 例えば現実の世界でも60歳の女性アスリートで30代前半のように若々しい女性っているだろ? 世界観がファンタジーなら導師といえど、フィールドワークは欠かせないだろう。そこを取り入れることで物語の幅ができる」

「なるほど……それだったら無理なく話が描けます……」

 

 会話は終始こんな感じだ。

 一度話し始めたら20~30分は話しっぱなし。お互いの意見が通るよう、納得いくまで終わらない。

 最初は、和樹さんの時間をとってしまって迷惑になっていないか、と心配していたが。

 

『いや、彩ちゃんの思考の深さと設定にはいつも驚かされる。こっちも勉強になるから遠慮しなくていいよ。』

 

 と言ってくれた。

 最初は、社交辞令かなって疑っていた。

 でも和樹さんの方から話を振ってくれたり、私の設定の話を真剣に考えてくれたり――そういうひとつひとつを見ているうちに『あ、本当にそう思ってくれてるんだ』って、少しずつ受け取れるようになった。

 

 話が終わると、二人とも集中して描き続ける。

 私の集中力に驚いていたが、和樹さんも負けていない。

 気が付いたらお互い2~3時間描いているのはよくあることで、帰りが遅くなると和樹さんが駅まで送ってくれた。

 

 和樹さんから学ぶことは多く、非常に勉強になる。

 美術で絵に関する下地の知識と経験がしっかりしているからだろう。アドバイスも的確で納得感がある。

 なにより私の書きたいものを汲みとって話してくれるので、自分の描きたいものを損なわずにいられるのが嬉しかった。

 

 ――そんな毎日を過ごしていたある日のこと。

 

 『ピンポーン』

 

 作業をしてると和樹さんの家のチャイムが鳴った。

 返事をして玄関を開けると瑞希さんがいた。

 

「も~、和樹っ! 実習のレポート来週まででしょ!? 一緒にやろうって言ってたのに、講義が終わったらすぐ帰っちゃうんだから……ってあれ? 彩ちゃん?」

「あ……こんにちは……」

「なんで彩ちゃんが和樹の部屋にいるの?」

 

 その発言からすると、瑞希さんにはユニットを組んだ話をしていないようだ。

 和樹さんはかいつまんで事情を説明した。

 

「そうなんだ、同人ってそうやってペアを組むみたいなこともやるのね……。って和樹っ! 部屋に彩ちゃんを連れ込んで手ぇ出そうと思ってるんじゃないでしょうねっ!」

「おまっ……! する訳ねぇだろ! 今も原稿描いてたよ!」

 

 瑞希さんが部屋にあがってくるのを横目に、私はそっと立ち上がった。

 冷蔵庫を開けて、いつもの場所にある麦茶のポットに手を伸ばす。

 新しいグラスに麦茶を注ぎ、テーブルの前に座った瑞希さんの前に置いた――。

 

 ――それにしても、自分でも驚くくらい、慣れた手つきで用意してることに気づいた。

 

「驚いた! まさか彩ちゃんがいるとは思わなかったから。最近まっすぐ帰ることが多いと思ってたけど、こういうことだったのね」

「まぁな。最近暑いし、こんな中彩ちゃんを待たせるわけにはいかないだろ? エアコンとかもつけておきたいから早く帰りたかったんだ」

「なんか言ってくれたらよかったのに。でも彩ちゃんに会えたのは嬉しいわ、この間の即売会じゃありがとうね」

「……いえ、こちらこそ。同人誌も買っていただいて嬉しかったです……」

「瑞希おまえ、彩ちゃんの同人誌買ってたのか? それにお互い下の名前で呼んで……いつの間にそんなに仲良くなってたんだ?」

「帰る前に彩ちゃんのブースに行って話したのよ。すっごくかわいくていい子そうだし。同人誌もちゃんとしてるし、すぐに好きになっちゃった」

 

 ……なんだか照れくさくなることを、堂々と言う人だなぁ……。

 うれしい気持ちと、どこか落ち着かない感情が混ざって、自分の頬が少しだけ熱くなるのがわかった。

 

「ね、彩ちゃんはどれくらいの頻度で和樹ん()に来てるの?」

「平日はほぼ毎日だな。ね、彩ちゃん?」

「そうですね……逆に土日はアルバイトがあるから来られなくて」

「ふ~ん、そっか。ねぇ、私もたまに来ていい? 同人誌のことはわからないけど、私も彩ちゃんと話したいし」

「いや、瑞希な。俺ら原稿描いてるんだぞ。そんな中でなにするんだよ?」

「あらいいじゃない。少なくともお茶くみやサポートくらいはできるわ。最近こみパにも興味わいてきたし、彩ちゃんみたいな子がいるならもっと知りたい。彩ちゃんはダメ?」

「……いえ、私は大丈夫ですが……和樹さんが……」

 

 ――ほんの少しだけ、胸の奥がチクリとした。

 邪魔なんて思っていない――けれど、こちらもどう反応すればいいかわからなかった。

 

 とはいえ、問題は和樹さんがなんていうか、だ。

 瑞希さんと2人で和樹さんを見てみると、難しそうな顔をしている。

 

「わかった。でもたまにだぞ。 あと原稿の邪魔をするなよ。今回は結構忙しいんだ」

「やった! じゃあ今日は遅いから帰るわね。彩ちゃんはまだいるの?」

「いえ……今日はそろそろ帰ります」

「そっか。じゃあ駅まで送るわ」

「いや、俺が送るよ」

「だーめーよっ! どうせ原稿ばっかでレポートのことなんてやってないんでしょ? 今期の単位取れるかの瀬戸際なんだから、あんたはちゃんとやるの! じゃあ、行きましょ、彩ちゃん」

 

 ――そうか、今日は一緒に駅まで行けないのか。

 

 ふと、そんなことを考えている自分に気が付いて、ハッとする。

 瑞希さんに引っ張られるように、帰宅準備をして部屋を後にするのであった。

 




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