Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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18話 脱稿

 

 それから瑞希さんは顔を出すようになった。

 

 顔を出す、と言っても週1・2回くらいのペースで、夕方以降の時間帯にやってくる。

 どうやら原稿の邪魔をしないよう気を使っているらしく、瑞希さんの配慮が感じられた。

 

 最初は和樹さんとの時間が少なくなることに抵抗を覚えたが、瑞希さんの気遣いを感じているうちに自然と気持ちが薄れていった。

 いつも私たちが気を遣いすぎずに済むようなタイミングを見計らって差し入れをしてくれるし、遅い時間帯には夕食を作ってくれることもあった。

 

 最初は遠慮したが、瑞希さんの笑顔に押し通されるかたちでいただくことになり、先日は『瑞希特性冷水パスタ』をご馳走になった。

 少し申し訳ない気持ちになりながら、一口食べたが、思わず目を丸くした。

 冷たさが心地よくて、さっぱりとした味付けがこの暑さにぴったり。瑞希さん、料理まで上手なんて……。

 

 その優しさに触れて、最初は嬉しかったけど、同時にある疑問が生まれてきた。

 

 ――和樹さんは、瑞希さんのことをどう思ってるんだろう……?

 

 まだ会って1ヶ月も経っていないけど、瑞希さんが魅力的なのは疑いようがなかった。

 利発で気遣いができて優しい。おまけに容姿端麗で料理もできる。

 さらにここ最近接していてわかったけど、スタイル抜群で胸も大きかった……!

 

 正直、女性として瑞希さんに敵うところを見つける方が難しい。

 こんな素敵な女性に、甲斐甲斐しく料理を作ってもらう和樹さんは、いったいどう思ってるんだろう?

 最初に会った頃は『腐れ縁』だ、と言っていたが、実際のところは不明だった。

 

「和樹。冷蔵庫になにもなかったから買い出ししておいたわよ」

「お、サンキュ。いつも悪いな」

 

 といった具合に、和樹さん自身も瑞希さんが自宅で家事をすることは慣れているようだった。

 

 ――恋人、だよね。普通に考えると。

 

 そう思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

 ここは、もともとふたりの世界だったのかもしれない。

 そんな場所に、私がいていいのだろうか……。

 

 でも、それはいろいろと考えすぎだと、ぶんぶんと頭を振って邪念を払った。

 

 とはいえ、瑞希さんがいい人であることは変わりなく、和樹さんは相変わらず丁寧で的確なアドバイスをくれる。

 ユニットを組んでからの数週間は、新しい人間関係の中で、楽しく過ごせていた。

 

 ---

 

 原稿用紙にペンを滑らせる。ベタ描きをする。トーンを貼り付ける。

 

 こみパまであと5日。

 既に追い込みの時期に差し掛かっており、ひたすら原稿を進めていた。

 

 いつもだったら1週間前には原稿を仕上げている私だが、今回は割とギリギリまで作業している。

 和樹さんから教えてもらったり、アドバイスを盛り込んだところ、絵柄の調整がうまくいかずに時間がかかったからだ。

 時間に追われると余裕を失う性格なので、なるべくそういう状況を作らないように努力してきたが、今回ばかりはそうも言ってられない。

 

 連日原稿を進め、今日も既に4時間が経過している。

 さすがの私も集中力が切れてきた。和樹さんも煮詰まっているのがわかる。

 こういった時は休憩を取った方がいい、というのはわかっているが、焦りが勝って休み気になれない。

 

「ふぅ……」

 

 とはいえ、ようやく終わりが見えてきた。あと1ページトーンを貼れば終了する。

 一息ついて顔を上げると、和樹さんは以前下を向いたままで、作業に没頭している。

 入稿のことを考えると、今日中には終わらせておきたいところだろうけど、まだ数ページ残っている。

 

 再び自分の原稿に視線を落とし、作業を再開する。

 最後のトーンを貼って……と。キレイに貼り付けられたことを確認し、完了した。

 

「……和樹さん、原稿終わりました」

「ああ、お疲れ。よかったなぁ」

「あの……なにか手伝いましょうか?」

「いいよ、悪いし。それにあとちょっとなんだ」

「あとちょっとっていっても数ページあるじゃないですか。……この2ページはトーン貼るだけですよね? 何番貼るか決まってますか?」

「ああ、決まってる」

「じゃあ……教えてください。私貼りますね」

 

 そういって、原稿を手元に持ってきてトーンを用意する。

 カッターでトーンを切り出し、原稿に貼り始めた。

 

「悪い。サンキュな」

「いえ……これくらい……なんともないです。一緒に仕上げてしまいましょう」

 

 煮詰まってる時ほど、他人のフォローで作業が一気に進むものだ。

 和樹さんも気が楽になったのか、先ほどよりも進みが良くなったように思えた。

 

 それから更に2時間経過したところで、ようやく和樹さんも原稿が終わった。

 

「終わったーーーっ! ありがとう、彩ちゃん」

「いえ……大丈夫です。お疲れさまでした」

「これで明日印刷所に持っていけばいいだけだよ。マジサンキュな。今日中に終わるとは思わんかった」

 

 和樹さんと共に脱稿を祝っていると、家のチャイムが鳴った。

 瑞希さんかな? 和樹さんに断って玄関に行き、鍵を開けた。

 

「よう、マイブラザー! 切磋琢磨してるかね! ……ん? 失敬。家を間違えたようだ」

「いやいや、あってるよ大志。帰ってもいいけど」

 

 やりとりに気が付いた和樹さんが後ろからやってきて声をかける。

 瑞希さんの時と同じで、ユニットのことは知り合いに報告してなかったらしい。

 

「君は……確か以前こみパで会ったな。どうしてマイブラザーの家に?」

「ああ、言ってなかったな。俺、その子とユニットを組んだんだ」

「なに?! おい同志よ。いつの間にそんなことになったんだ?」

「この前のこみパの時に誘ったんだ。ちょっと組んでやってみたくてな」

「なんだと、それは急だな。なんで一言もなかったのだ?」

「こういったタイミングで言おうと思ってたんだよ。大志も瑞希もちょいちょい来るしな。お前こそ最近来てなかったじゃないか」

「ふっ。桜井あさひちゃんの限定アルバムが発売されたのでな。こちらに来る暇がなかったのだ。改めてだなマイシスター、吾輩は九品仏 大志(くほんぶつ たいし)である。同志和樹とユニットを組んだとなれば、これから顔をあわす機会も増えよう。以後よろしく頼む」

「あ……長谷部 彩(はせべ あや)です。よろしくお願いします……」

 

 お互いに挨拶を終えると、大志さんは部屋にあがって部屋の様子を見た。

 

「ちょうど今回のこみパの原稿が終わった、というところかな?」

「そうだ、ついさっきな。今回はいろいろやってみたいことがあって時間がかかっちまった」

「ふむ。少し原稿を見てもいいか、ブラザー」

「ああ。感想を聞かせてくれ」

 

 それから大志さんは和樹さんの原稿を読み始めた。

 先ほどの軽い口調から一変して、今は食い入るように見ている。

 時折、額にしわを寄せながら、1ページ1ページ丁寧に確認していた。

 

「ほう! 素晴らしいぞっ! 同志和樹! 今回も良い出来ではないか。また新たな取り組みにチャレンジしているのも良い。どんどん腕を磨くがいい! そして、世界征服の野望を遂げようぞっ!」

「……おい、そういう話は彩ちゃんの前ではよせ。気味悪がられてるぞ」

「ふん、よいではないか。最初はカルチャーショックを受けようと、毎回話していれば慣れるもの。吾輩は己を偽ったりはしない。この際マイシスターにも慣れてもらおうではないか」

 

 前回会ったときは気にならなかったけど、以前もこんな喋り方だった気がする……。

 なんともクセの強い人だ。悪い人ではなさそうだが、少し苦手なタイプかもしれない。

 

 その後も原稿に対して細かい部分で、感想を話し合っている姿が印象的だった。

 私も和樹さんから感想をもらえるのは嬉しい。

 自分の作品について、こだわった個所をわかってもらえるのは作家冥利に尽きるというものだ。

 

「ではな、マイブラザー、あ~んどマイシスター。今度はこみパで会おう!」

「おう、またな」

「……さようなら」

 

 バタリッ、と玄関の扉が閉まる。

 由宇さんとはまた別のタイプの嵐のような人だった。

 

「……和樹さん、大志さんとは仲良いんですね」

「幼稚園の頃からの腐れ縁だよ。こみパが近くなると、サークル参加用のチケットが欲しくて、ああやってアドバイスをする(てい)でうちに来るんだよ」

 

 『腐れ縁』という言葉は、瑞希さんにも使っていたことを思い出す。

 恋人かどうかは推し量れないが、和樹さんは親しい人にわざと辛辣な言い方をするきらいがある。

 

 ――和樹さんは大志さんに対しての物言いは、信頼の表れなのかもしれない。

 

 子供のように自分の同人誌のことを大志さんに話していた姿を思い出し、ふとそんなことを思う。

 なんとなくおかしくなって、クスリッと笑ってしまった。

 

「ん? なんだよ、彩ちゃん」

「……いいえ、なんでもありません」

 

 以前より砕けた言葉を使う和樹さんを見て、ちょっとだけ嬉しくなった。

 私の姿を見て、きょとんとした顔を横目に、テーブルに戻った。

 

「……さあ、もう遅いから後片付けをして帰らなくちゃ」

「そっか、送ってくよ」

「……はい、お願いします」

 

 ――なんだか、今日は楽しかった。

 

 足取りが軽い。

 原稿が終わった達成感からか、はたまた和樹さんの一面が理解できたからか、軽やかな気分だった。

 

 外は相変わらず蒸し暑く、体にまとわりつくようなじめじめした空気。

 途中、和樹さんがコンビニで飲み物を買って渡してくれた。

 どうやら原稿を手伝った労いの気持ちらしい。

 

 別れの挨拶を済ませ、電車に乗り込んでいくのであった。

 




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