Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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22話 急接近

 

 9月になり、夏の暑さが和らぎ始めた頃。

 風にほんの少しだけ冷たさが混じるようになり、空の色もどこか高く、澄んで見える。

 

 あれだけ厳しかった暑さが嘘のように落ち着いてきて、街の空気が柔らかくなってきた。

 暑さに辟易していたあの夏が遠ざかるにつれ、不思議と自分の気持ちも、すっと整っていくような気がした。

 

 以前と同じように、私は今日も和樹さんの家へ向かっていた。

 足取りは軽く、空気が肌に心地よくて、歩いているだけでなんだか幸せだった。

 

 部屋の前についてチャイムを鳴らすと、いつものように気の抜けた返事が返ってくる。

 

「は~い、あがっていいぞ~」

 

 もはや到着時刻も読まれていて、玄関すら開けずに迎え入れられるのが当たり前になっていた。

 

「ごめん……ください」

「いらっしゃい。紅茶でいいか?」

「……いただきます」

 

 夏にはとても飲む気になれなかった紅茶(ホットティー)

 けれど今は、こうして温かいカップを手にするのがなんだかうれしい。

 湯気の立つマグを両手で包んでいると、心の奥までぽっと温まってくるような気がする。

 

 原稿の準備をしながら、ふと横目で見ると、和樹さんがいつものように紅茶を淹れてくれていた。

 自分の席に戻ってきた彼が、湯気とともにカップを置いてくれる。

 

「ありがとうございます」

「いえいえ。じゃあ、今日も始めるか」

 

 そう言って、いつものように作業が始まる。

 変わらない光景。だけど、私の中には小さな変化が積もっていく。

 

 原稿に向かう和樹さんの横顔。

 その表情の凛々しさに、ふっと頬が緩む。

 

 ――この人と過ごしている時間、落ち着くな。

 

 そう思った瞬間、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

「どうしたんだ? 俺の顔ばっか見て……」

「なんでも……ないです……」

 

 微笑みながら、私はまた、自分の原稿に視線を落とした。

 

 ---

 

「和樹ー! 彩ちゃーん! いるー?」

 

 2人で原稿を描いていると、瑞希さんの声が聞こえた。

 和樹さんに代わって玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは、小春日和にぴったりの装いをした瑞希さんだった。

 

 紫のボーダー柄タートルネックに、ショート丈の白いジャケットを羽織り、裾の短いスカートと膝上まで伸びた白いハイソックスが、元気で可愛らしい雰囲気を際立たせている。

 頭にはおなじみの大きなリボンをつけた高めのポニーテール。

 秋の風に揺れる髪が、彼女らしい明るさを添えていた。

 

「……いらっしゃいませ、瑞希さん。服装……似合っていますね」

「ありがと! 彩ちゃんも秋服かわいいわねっ!」

 

 そんな会話をしながら、部屋にあがってもらった。

 テーブルの前に座ってもらい、私は瑞希さん分の紅茶を用意する。

 湯気があがるカップを前に置くと、瑞希さんはニッコリ笑いながらお礼を言ってくれた。

 

「ねぇ、和樹、彩ちゃん、原稿は順調?」

「まぁ順調よ。とはいっても、あんまり楽観視できる感じではないけど」

「そっか、ねぇ和樹。今度学祭があるじゃない? その時に彩ちゃんも来てもらったらどうかなぁって思ったんだけど、どう?」

「え、どうって俺に聞かれてもな。彩ちゃん、学祭とか興味ある?」

「学祭……ですか?」

「そう。今度の土曜日にうちの大学で学祭があるの。2人ともいつもマンガばっかり描いてるじゃない? たまには外で羽伸ばすのどうかなぁって」

「まぁいいけど。俺も今年初めてだし。でも彩ちゃん土曜日ってバイトだろ?」

「あ……偶然なんですけど、その日はバイトお休みなので行けます」

「わー、よかったっ! 彩ちゃんと一緒に行きたかったの。ちょうどバイト休みでよかったわ。じゃあ、土曜日の10時に大学の門で集合でいいかな」

「はい……大丈夫です」

「まぁそれくらいなら原稿も大丈夫か」

「やった! じゃあ今度も土曜日よろしくね」

 

 そういうと瑞希さんは紅茶を一気に飲んで、部屋を後にした。

 

「あいつ、要件済ませてあっという間に帰ってったな」

「でも……大学の学祭なんて楽しみです」

「まぁ俺も今回初めてだし、行ってみて損はないかな。学祭で遊ぶために、気合入れて原稿やっちまうかっ!」

「はいっ……!」

 

 そう言いながら再びテーブルに向かい合いながら作業を開始しようとしたところ、「しまった」と和樹さんが声をあげた。

 

「どうされました?」

「トーン買っておくの忘れてた~。この間画材屋に行って買おうと思ってたのすっかり忘れちまってたんだ。ここら辺に余ってるのないかな……」

 

 そう言いながら、和樹さんは自分の机の周りを探し始めた。

 

「……何番のトーンですか? 種類持ってるから……」

 

 和樹さんから番号を伺い、カバンの中を探してみると……あった、このトーンだ。

 

「和樹さん、ありました」

「お、マジで?」

 

 トーンの袋を手に取って立ち上がった瞬間だった。

 和樹さんも同じタイミングでこちらを向き、思わず至近距離で目が合ってしまった。

 

「――っ」

 

 肩がふれてしまいそうな距離。

 和樹さんの吐息が、ほんのかすかに肌を撫でる。

 心臓の鼓動がひときわ強く響いて、自分の呼吸音さえ気になってしまうほどだった。

 

「…………」

「…………」

 

 お互い何も言えないまま、視線だけが絡み合う。

 動こうにも、金縛りにあったように体が言うことをきかない。

 言葉を発したら、この空気が壊れてしまいそうで――。

 

 ――ほんの数秒が、永遠に感じられた。

 

「あ…………ありがとう! 悪い、変にタイミングが合っちゃって!」

「いえ……私も……なんだかすみません」

 

 そう言ってお互い距離をとり、ようやく一呼吸つく。

 胸がドキドキしてる。和樹さんの吐息が頬にあたるほど顔が近かった。

 

 ――あのまま近づいたら唇がふれたのに――。

 

「あ……あの、これさっき言ってたトーンですっ」

「あ、ああ、サンキュな」

 

 お互いに取り繕うようテーブルの前に座り、作業を再開する。

 和樹さんの顔を見ないよう、原稿に集中したが、胸の鼓動だけはいつまでも止まらなかった。

 




最後まで読んでくれてありがとう。
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