Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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26話 風はいつも春一番

 

 来場してから、和樹さんのブースにすぐ人が来た。

 参加者の多くは、最初壁サークルから回るのが定石だ。購入までに時間がかかるし、人気サークルは部数も制限されている場合が多いので、できる限り手に入りにくい同人誌を購入する。

 その定石を打ち破り、壁サークルを差し置いて一般サークルに来るというのは、優先して購入する価値がある、と参加者に思われてるということだ。あれよあれよと人が集まり、すぐにちょっとした列になってしまった。

 瑞希さんが要領よく売り子をして、お客様を(さば)いている。

 

「……早速すごい行列になりましたね」

「この時間帯に来るのは珍しいね。少しは名が知られてきたのかも」

 

 少し、どころではない。たった数ヶ月でこれほど知名度が上がるものだろうか?

 謙そんしている傍から、またお客様が来だして、購入を希望する。少しずつではあるが、常に売れている状態が続いた。

 

 ――やっぱり、すごいな。

 

 購入者は目的を達成すると、すぐに次のブースに移動していく。この時間帯の参加者は人気サークルの新刊を買うのに必死だ。その人気サークルに、和樹さんが食い込んできている、というのだから不思議な気持ちになった。

 時折、購入者が私の新刊に気が付いて視線を向ける。が、すぐに興味なさげな顔をして、次のサークルに向かって歩き出していく。和樹さんの隣りだからこそ、少し注目が集まるのだろう。ただ、表紙を見て立ち寄る人もいなければ、あとで戻ってくる人もいなかった――少し惨めな気持ちになる――。

 

 大丈夫。いつものことだ。

 そう自分に言い聞かしながら、隣の列がなくなるのを待った。

 

 ---

 

「だいぶ落ち着いてきたな。部数もはけたし、いい感じだ」

「お疲れ様です。相変わらずすごかったですね」

「うん、調子よかった。ちょっと今のうちにお手洗い行ってくるよ」

 

 そう言いながら和樹さんは席を立って、行ってしまった。

 ボーっと和樹さんの後姿が小さくなるのを眺めていると、瑞希さんが声をかけてくれた。

 

「……彩ちゃん、大丈夫? 元気ないよ」

「え……す、すみません」

「和樹の売り上げを見て、落ち込んだ?」

 

 図星を言い当てられて、ドキッとする。

 反射的に瑞希さんの顔を見上げると、少し困った顔をして見下ろしていた。

 

「やっぱりそっか。前もそんな顔してたから、もしかしてと思ってたんだけど、和樹と比べて売り上げが少ないのが辛いのね」

「いえ……そんなことは……」

 

 取り繕って出した言葉に、嘘が混じっているのがわかる。なにを言っても気を遣わせてしまいそうで、なにを言っていいかわからなかった。

 

「もう! 和樹ったら、自分のことばかり考えて、全然彩ちゃんのこと気にしてあげないんだから」

 

 瑞希さんの言ってくれることが嬉しかったが、変な気の使われ方されても辛くなるだけだ。口にして理解したのか、それ以上瑞希さんはなにも言わなかった。

 

「ね、彩ちゃん。隣座っていい?」

「はい……」

「よいしょっと。ちょっと今日の新刊見せてね」

「え……」

 

 そう言うや否や、瑞希さんは積まれた新刊を1冊とり、私の同人誌を読み始めた。

 以前読んでくれた時と同様、真剣な眼差しで目を通していく。

 

「……すごいわね、彩ちゃん。この間私が購入したのって2か月前だっけ? この間見た時とはだいぶ変わったわね」

「……和樹さんに、教えてもらいましたから……でも、和樹さんと比べたら私なんか……」

「ううん。負けてないわよ。彩ちゃんの本。私もマンガのことには詳しくないけど、マーケティングとかの話なら少しわかるわ。なんでもね、誰かに認知してもらって、購入してもらうのって大変なことなの」

「え……?」

「普段の人間の知覚ってね、99%が遮断されてるの。それはね、全ての出来事を知覚してたら脳がパンクしちゃうから。だからね、他人に認知・知覚されるのって、大変なことなの。この同人誌即売会では何千種類って数の同人誌がある中で、一瞬でも興味を持ってもらうのは、きっとすごく大変なこと」

「……」

「さっき和樹のところから離れていった時に、彩ちゃんの本を見た人もね。次の目的のために行っただけなんだよ。だから全く興味を持たれなかったわけじゃない。みんな広い会場の中で目的を達するのに必死なんだから。まず『知ってもらう』。そこから初めて行きましょ」

 

 そういうと、瑞希さんは私の肩をトントンと叩き、席を立って声を張り上げた。

 

「いらっしゃいませ! 『Jamming Book Store』の新刊がありますよ! 鬼才・長谷部 彩(はせべ あや)さんの新刊がなんと200円! SFファンにはたまらない一作になっているから、ぜひ手に取ってみていってください!」

 

 いつだかの由宇さんよろしく。瑞希さんは宣伝し始めた。

 由宇さんほど口が達者ではないものの、それでもその呼び込みには目を惹いた。通行人の足は止まり、なにがあるのかとブースを見つめた。

 その光景に、思考が止まる。

 自分のブースを見ている。誰かに見られた緊張感で、一瞬たじろいでしまう。

 

「ほら、彩ちゃんも。まずは誰かに認知してもらうことが大事なの。弱小サークルは、まずは地道に泥臭く頑張んなきゃ!」

「え、え……」

 

 瑞希さんが腕を引っ張って席を立たす。通行人の視線が一気に集まる。

 ……ダメだ、とても声を出せない。それでも隣で瑞希さんは声を張り上げて私の本を宣伝し続けてくれた。

 どうしよう。瑞希さんが頑張ってくれてる――。でも人前で声を出すなんて、私には……。

 

 『見てもらって()うてくれん、てわかっただけでも一歩前進なんや。だからまずは呼び込み! ちゃんと自分を知ってもらうって大事なんやで!』

 

 ふと、思い出される由宇さんの言葉。

 そうか、私は絵を描くばかりで、()()()()()()()()()()()()。買ってくれない、とわかるだけでも前進なんだ。だから私も頑張らないと……!

 

「い……い……いらっしゃいませ、『Jamming Book Store』です。し、新刊あります。一度……ご覧に……ご覧になってください!」

 

 勇気と共に、力いっぱい声を絞り出す。

 しゃべり慣れてない。うまく声も出せない。出したところで声が小さく、通行人には聞こえてない。

 それでも少しずつ声を大きくだし、呼び込みを続けた。

 

「はい、いらっしゃいませ! 『Jamming Book Store』へようこそ! 一度足を止めてみていっても損はないわよっ! 未来の大物作家の至極の一作! 寄っていって見ていって!」

 

 瑞希さんはますます慣れた口調で呼び込みをする。それにしても瑞希さん、『鬼才』だとか『未来の大物作家の至極の一作』だなんて、いくらなんでも話を盛りすぎ!?

 次から次へと出る瑞希さんの口上に、頬を赤めながら、私も呼び込みを続けた。

 

「あの、新刊拝見させてもらえますか?」

 

 そうすると、通行人の一人が足を止め、私の同人誌に興味を持ったのか、笑顔で話しかけてきてくれた。

 

「はい、いらっしゃいませ。ぜひご覧になってください」

 

 咄嗟のことで対応できなかったところを瑞希さんがフォローしてくれる。

 参加者は新刊を手に取り、真剣な眼差しで内容を確認していくと、本を閉じて、

 

「これ、1冊お願いできますか?」

 

 と言ってくれた。

 

「はい、新刊1冊200円です。旧刊もありますが、ご一緒にいかがです?」

「あ、ほんと? じゃあそれも合わせてもらえますか?」

「はい、合計400円です。……ちょうどですね。ありがとうございます」

「あ、ありがとう……ございます……!」

 

 瑞希さんは400円を持って、ニコッと得意げに笑ってみせた。

 

「ほら、彩ちゃんのも負けてないって言ったでしょ?」

「は、はいっ……!」

 

 売れた。やっと売れた。しかも旧刊合わせて2冊同時に!

 そうか、こんな簡単なことだったのか。私は『売り込み』という、単純な努力を怠っていたんだ。だから売れなかった。

 由宇さんも同じことを言ってたはずなのに、なんで気付かなかったんだろう。きっとこれだけじゃないと思うけど、これもきっと要因の1つだ。

 前回は呼び込みをせずに6冊売れたんだ。なら、内容的には一部の人に刺さる出来にはなってるはず。だったら、今度は呼び込みをちゃんとしないと。

 

「……瑞希さん……ありがとうございます……!」

「はい、どういたしまして☆」

 

 そういうと春一番のような笑顔を見せてくれた。

 




最後まで読んでくれてありがとう。
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