Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
こみパも終盤に差し掛かってきた。
まばらになってきたが、まだこの周辺にも人がいる。最後でも諦めずに呼び込みを続けた。
「いらっしゃいませ。新刊あります。どうかご覧になってください」
慣れない呼び込みだったが、ようやく少し感覚を掴んだ気がする。
とはいえ、由宇さんどころか、瑞希さんにも到底及ばない。それでも今は泥臭く頑張ってみるしかない。
和樹さんの方を見ると、既に完売し、少し席を外している。瑞希さんが後片付けとこちらのサポートをするために残っている。
――比べてもしょうがない。今はただ、自分がやれることを精一杯やろう。
「――ねぇ、あんたさ。辛くないの?」
「え……」
声がする方を見ると、そこには詠美さんが立っていた。
「それ、新刊?」
「……は……はい」
「じゃあ、ちょっと見るわよ」
そういうと詠美さんは、新刊を手に取ってその場で読みだす。
「…………」
以前、和樹さんにしたような行為はする様子がなかった。
ただただ、私のマンガを、1ページずつ丁寧に読んでいる。最後のページまで読むと、ゆっくりと本を閉じ「ありがと」と言いながら、丁寧に元に戻した。
「ま、技術はあるけど、まだまだね。マンガは売れてなんぼ。今日は何部売れたの?」
「……12部、です」
「そっか。売れっ子になるまではほど遠いわね。でもま、前回よりかは良くなってるんじゃないの? でも、売れたかったら自分の描きたいモノばかりじゃなくて、ちゃんと『ニーサ』ってものを把握していないとダメよ」
おそらく『ニーズ』と言いたかったんだと思う。
指摘しようと思ったが、それ以上に、気になることがあった。
「詠美さん、あの……」
「あによ?」
「今、和樹さんは離れていていません。今日は……なにしに来られたんですか?」
「別に! あいつによーがあったから来たわけじゃないの。あたし、そんなにひまじゃないし!」
「でも……なぜ私の同人誌を読んで、感想を言ってくれたんです?」
「なによ! あたしのアドバイスがいらなかった、ていうの!」
「そうではありません……でも、前回も、今回も丁寧に読んでくれました。ちょっと気になるだけなら数ページしか読まないはず……なのに、最後まで読んでくれました……だから、なにが言いたいのか、気になったんです」
「ふん、そんなの気まぐれよ。でもね、ちょっと気になったのは、あんたたち、そんだけほーこーせいが違うのに
「……え?」
「気づいてないの? あいつとあんたじゃ、同じ創作系でもほーこーせいが違うじゃない。あいつは確かにアニメやゲームの二次創作は描いてないけど、少なくとも『ニーサ』は掴んでるわ。でもあんたは掴んでない。そんなのほーこーせいが違うじゃない。私もユニットは組んだことあるけど、そこが違うと、一緒にやっていても辛いだけよ」
「そんなこと……」
「あるわよ! それに自分のところが売れずに隣が売れてたら、ちょーみじめな気分になるわ! 現に隣のあいつは、完売してるじゃない。あんた、辛くないの?」
痛いところを突いてくる。詠美さんはまさに、今朝私が感じた心境を代弁した。
あの時は瑞希さんが助けてくれたから、泥臭くても頑張ろう、って思えたのに気持ちがぶり返してくる。
あまりにも的を得た指摘で、声が出ない。
なにか言わなければ。そう思っていると、
「くぉらー! 大バカ詠美! あんたまたちょっかい出しとんのかいな!」
「ふん、出たわね温泉パンダ! ちょっかいなんか出してないわよ!」
「噓いうなや! 彩はんが困った顔しとるやろ!」
「ちょっと、どうしたの?」
由宇さんと詠美さんのやり取りを見て、瑞希さんが隣からやってきた。
私を含め、3人の顔を見合わせて、起こったことを把握しようと努めてる様子だ。
「ちょっと話してただけよ。じゃ、あたしもう帰るから」
そう一言いうと、詠美さんは離れていってしまった。
「いったいどうしたの、彩ちゃん。なんか揉めてたみたいだけど」
「詠美のやつが、彩はんに絡んではったんや。あいつ、和樹はんとユニット組めなかったからって彩はんに因縁つけとんねん。なんやっちゅうねん」
「そうなの? 彩ちゃん」
「いえ……そんなわけでは……」
咄嗟のことで、なんて言っていいかわからない。
別に因縁をつけられたわけではないが、かといって内容が内容だけに、なんて話せばいいかわからなかった。
「彩はん、ウチはあんたらのこと、応援しとるで。あんな大バカ詠美のこと、気にする必要ないんや。なんかあったらウチに言うんやで。……ところでこちらの
「あ……初対面なんですね。こちら
「そかそか、あんたが瑞希はんか。和樹はんから聞いてるで。ウチは猪名川由宇。よろしゅうな」
「初めまして猪名川さん。高瀬瑞希と言います。これからよろしくお願いしますね」
「なんや水臭い。由宇って呼んでや。下の名前で呼ばれる方が
「わかったわ。じゃあ由宇さんって呼ばせて」
そういうとお互い笑い出した。2人とも社交性が高いせいか、すぐに仲良くなってる。
先ほど詠美さんに言われたことが気にしていたが、見ていたら私の心も軽くなった気がした。
「由宇。来てたのか。……どうしたんだ?」
「あ、和樹はん。詠美のやつがまた来て、彩はんに絡んでたんよ。ウチがちょうど来た時にいたから追い返してやったわ」
「そうか、あいつ定期的に来るな。彩ちゃん、なんか言われなかったか?」
「いえ、すこしの間だけだったので、特には……」
「ふ~ん、毎回顔出すなあいつ」
そう話していると、16時になり閉会を告げる放送が流れた。
「よっしゃ! 終わったで! 和樹はん、瑞希はん、彩はん。お疲れ様やー!」
そう言ってお互いに拍手をしだした。
今日はいろいろあったけど、少しは前に進めた気がする。
たくさんは売れなかったが、それでも前回の倍の12部が売れた。和樹さんとユニットを組んで、着実に成長できている気がする。
ブースを片付けて、帰宅する準備をしようとしたところ、和樹さんから声がかかる。
「そういや、彩ちゃん。今回はどれだけ売れた?」
「今日は……12部売れたんです。……たくさん呼び込みをして、瑞希さんにも手伝ってもらって……」
そう話すと不意に、和樹さんは真顔になった――また、前回と同じ――。
すると少し俯きがちに顔を下に向け、表情を隠すのであった。
「あの……和樹さん……」
「……ごめん……。俺、が…………」
「え……」
「いや、なんでもない。前回の倍だな。頑張った。また今日も飯食って帰ろうぜ」
「……」
そう言って取り繕うと、それ以上は何も言わずに、片づけを再開させるのであった。
胸がモヤモヤする。
何を言ったのか気になったが、とても聞ける雰囲気じゃなかった。
……なんで、謝ったんですか。なんて言ったんですか? 和樹さん……。
今日は、私なりに頑張った。いつもより売れたし、呼び込みもした。それなのに――。
褒めてほしかった。喜んでほしかったのに、なんで……。
『そんだけほーこーせいが違うのに
逡巡する、先ほど浴びせられた詠美さんからの言葉。
――そんなの決まっている。私があの人と一緒にいたかったからだ。
何度も悩んだ。たくさん考えた。迷惑をかける前に、ユニットを解消しましょう、って言いだそうと思ったこともあった。
それでもあの人と離れたくなくて……あの人と一緒に原稿を描く時間が、言葉が、優しさが、私には必要だったの……!
きっと私は、あの人と一緒にいられるためならなんでもやる。
今までは呼び込みなんてできなかった。みじめな気分に浸るだけで、現状を打開するための行動なんてとれなかった。
和樹さんと一緒にいられるためなら、好きになってくれるなら……!
「どうしたんだ、彩ちゃん? 早くいこうぜ」
「彩ちゃん、片づけはもう終わってる?」
「あ……は、はい。今行きます」
「ほな! はよ来てんかー!」
ふと、声をかけられて現実に戻る。
詠美さんの言葉を一度忘れ、和樹さん達と一緒に会場を後にするのであった。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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