Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
そして今回もこみパに参加した。
ブースの机をセッティングして、いつものように新刊、旧刊を並べて、開場の準備をする。
「おはようございます。『Jamming Book Store』の長谷部さんですか?」
返事をして、振り返る。
いつも確認しに来てくれるスタッフだ。見本誌を渡して、確認をしてもらう。
「はい、結構です。本日も頑張ってくださいね」
お礼を済ませて、再びブースの準備に戻る。
後30分もすれば参加者が入場してくるだろうと思っていた。そんな時に――。
「あー! っと、ここか?」
と、慌てて隣のブースに駆け込む人を見つけた。
明らかに慌てていて、準備しようとするたびに行ったり来たりを繰り返し、なかなか作業が進まない。
要領の悪さは、不器用さからくるわけではなく、単に慣れていないように見えた。
慌ただしく過ごすその様子から、初参加であることが、なんとなくわかった。
見本誌チェックをしていたスタッフも、遅れてきた彼を見つけて声をかけている。
「初参加ですね! 今日は頑張ってください」
「ありがとうございます! 南さん」
どうやら知り合いだったらしく、スタッフは素早く同人誌を確認して、待機スペースに戻っていった。
要領を得なかったとはいえ、用意するものも少なかったのだろう。
準備を終えた様子だったので、挨拶のために近寄った。
「うわっ、びっくりした!」
背後に近づくと、準備して慌てていたのか、その人は驚いて振り向いた。
「1日……よろしくお願いします……」
「あ、挨拶か。ありがとう! はい、これ俺の新刊!」
言いながら自分の同人誌を渡すと、向こうも習って自分の同人誌を出した。
頭を下げてお礼を伝え、ブースに戻るとちょうど開場の時間になった。
『これより、こみっくパーティーを開催します』
館内に溢れる歓声。響き渡る拍手。そして雪崩のように押し寄せる来場者。
5月のこみパは始まったのである。
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いつものように1人座って店番をする。
と言っても、今はやることがなく暇な時間帯だ。
最初は大手サークルの壁スペースに人が集まる。そのためここらのブースには、ほとんど人はいない。
壁スペース方面を眺めると、スタッフが『押さないでくださ~い』と列整理をしている。
視線を戻す途中、ふと隣の人が目に入った。
やはり初参加だったのだろう。
最初は、いつお客様が来るのかと立ちながら来場者を迎える姿勢だったが、今の時間帯は来ないのだとわかると、座って店番をし始めた。
するとそこにサイドポニーテールの綺麗な女性が現れた。
「やっぱり参加しちゃったの?」
「瑞希か? どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないわよ! 心配してきてあげたのに!」
「別に心配されるようなことをしていないだろ?」
さすがに場を気にしているようで、大きな声は出していないが、会話内容はあまり穏やかとは言い難い雰囲気だった。
少しの間口論して、女性が怒って離れていってしまった。
どうしたんだろう?
なんとなくそのやり取りが気になって、また隣の人に目線を戻すと、私が渡した同人誌を取り出して読み始めていた。
読み始めて、10分くらいは経っただろうか?
内容からして5分もあれば流し読みできる内容だったが、まだ読み続けている。
こんなに長く自分の同人誌を読んでいる人を見るのは初めてかもしれない。
挨拶以外で隣のブースの人に声をかけたことなんて、一度もない。
しかしどんな気持ちで読んでいるのかが気になって、つい話をかけてしまった。
「……どう……ですか?」
「え……? ああ、何?」
「その本……どう……ですか?」
「ああ、この本ね。いやすごい引き込まれたよ。なんか夢中になって読んだ感じ。世界観が渋いよね」
「……本当……ですか?」
「うん。童話のようなそうでもないような。祖父と孫の絆をよくこの短い話でよく表現してる。このお爺さんが亡くなったお孫さんを生き返らすために、命を燃やすところは、お爺さんの生きてきた背景や人間性を感じさせる。『生きる』ことをコンセプトにしているのかな? いや、面白かったな……」
感想は実に的を得ていた。戦争の中で生きてきた老兵が、孫と暮らすことで心の平穏を取り戻す。
そして戦場で『死』を嫌ってきたからこそ慎重に生き延びてきたお爺さんが、大胆に自分の命を使って孫を助ける、という命の尊さを描きたかった。
その後も同人誌に視線を落としたまま、口早に感想を伝えてくれた。すると私自身が思いもしなかった観点まで意見をくれた。
瞬間、俄かにときめいた。
席を立ち、キャリーカートに閉まっていた旧刊を、あるだけ取り出してその人に差し出した。
急に差し出されて驚いたのだろう。反応に困っている様子だ。
「え、っと、もしかして、これを俺にくれるのか?」
咄嗟のことで声が出ない。ただ意思表示しなければと、コクコクッと首肯する。
その人は呆然としながらも旧刊を受け取り、1冊ずつ読みだしてくれた。
新刊だけでも10分かけて読んでくれた。5冊あるのでそれなりに時間がかかるだろう。
ただ、いち早くその人からの感想が欲しく、体を向けて返事を待った。
「うん、どれも面白い。これは浮沈艦と呼ばれた船が、異世界の海に飛ばされて航海する話か……」
「……そうです。精強な軍人が、極限の精神状態で繰り広げられる人間ドラマが描きたかったんです」
「渋いテーマだね。ここの隊員1人ひとりが祖国を憂いて挫けそうになる中で、指揮官が激励を入れて士気を上げる姿は、真に迫るものがあるよ」
「……以前ドラマで自衛隊の特集が組まれていて、あんな人たちが時代背景や地球以外の海を彷徨った時の心象心理を、うまく表現できないか、と思ったの」
「なるほどなぁ。こっちは荒廃した地球の話だね。異形な姿で進化した人間? かな、荒廃した世界で生きる新人類のラブストーリー、ってところかな?」
「……人間が異形な姿になったら、きっと今の時代みたいな関係性や意識も変わってくると思ったんです。それでも変わらないものがあるところを、表現できれば……と」
その人は丁寧に感想を伝えてくる。私が考える物語の背景やコンセプトを話すと、感嘆の声を漏らした。
思わぬ感想と誉め言葉に心が躍った。
――楽しい。
私は喋るのが得意じゃない。でも今はスラスラと言葉が出てくる。
感想を聞くのがこんなに楽しいだなんて思いもしなかった。
何よりも嬉しかったのは、コマ割りや細かい描写で表現していた
確かに狙ったものだが、本当にさりげなく描いたのだ。
そこに気が付くのは、私の描き方や表現力だけではなく、鋭い観察力があってこそだろう。
感想を聞く中で、この人はどういう本を描く本なんだろうか、と気になり始めた。
ブース準備をしている姿から、初参加だということは察しがついた。だけど交換した同人誌の表紙を改めて見ると、ベテラン顔負けのイラストが目に入った。
絵柄も、最近のゲームやアニメの画風に寄せ過ぎず、それでいてオリジナル色が強い。一朝一夕で描けるような絵ではない。
ということはこみパ以外でマンガを描いていたのだろうか?
話しながらあれこれ考えていると、先ほどの同人誌についての質問を受けた。
「ねぇ、この描写はどういうシーンなの?」
「……そこは、先ほど言ったまさに変わらないところを描ければと思った点ですね。棘のような手をしても、触る時や愛撫する時はとても優しいんです。その行為こそが愛おしいと。相手もその気持ちを受け取って恍惚な表情を浮かべて、お互いの愛を感じ合って…………」
――あれ、私何言ってるの……?
旧刊の中にラブストーリーものを入れてしまっていたことに、今更ながら気が付く。
作風が作風なだけにわかりづらいが、このシーンはまさしく絡み一歩手前のシーンだ。
確かに質問されてもおかしくないけど、私はなんてモノを見せてしまったの!?
汗が噴き出る。体温が上昇し、顔が紅潮していくがわかる。
「あの……すみません……」
ペコッ、と頭を下げて席を立って席を外した。トイレの前まで来て両手で顔を覆う。
――絶対に、変な子だと思われた……。
気が動転している。やってしまった。
変なことを口走ってしまったとはいえ、急に席を立って立ち去ってしまうのはいかがなものだろう?
羞恥心と反省で気持ちの整理がつかない。
自己嫌悪に駆られながら、どうやって席に戻ろうかと頭を悩ませた。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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