Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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30話 大切な仲

 

 公園で紅葉を見た時から、私たちの関係は著しく変化した。

 あの一件(キス)で気持ちがわかってから、お互い意識するようになった。

 元々、私に対して優しい人ではあったが、以前よりもさらに優しさや労わりが増したように感じられ、嬉しくなった。

 

 いつものようにテーブルを囲んで原稿を描く。

 顔を見上げると和樹さんの真剣な表情が目に映る。ふと、唇をこする仕草をしてドキッとした。

 

 ――私たち、キスしたんだよね。

 

 そう心の中で呟いて、1人で恥ずかしくなった。

 瑞希さんと恋人関係だと思っていたけど、どうやら違った。2人は本当にただの幼馴染なようだ。

 そう思えるようになったのは最近のこと。

 確かに瑞希さんは、和樹さんの自宅のことを平然とこなして、和樹さんもそれを受け入れている。ただ、本当に恋人同士だったら、きっと私を自宅に招き入れたりしないし、いくら瑞希さんだって普通じゃいられないだろう。

 だというのに、瑞希さんは怒るどころか日に日に親切に、優しく接してくれる。私が瑞希さんの立場で恋人関係だったら、きっと嫉妬に狂っている。

 裏で付き合ってる可能性も考慮したが、ここ数ヶ月、平日はほぼ毎日会っているのだ。そんな時間があるようにも思えなかった。

 瑞希さんが普通の人よりもお世話好きだったので誤解してしまったが、やはり2人は仲が良いだけの幼馴染と考えるのが妥当だろう。

 

 2人が付き合っていないなら、私が和樹さんと付き合うのは問題ないか、と思うのは自惚れだろうか。それとも和樹さんとの関係が確立できたことにより少し余裕ができたから、そんな思考になったのだろうか。

 そうだとすると、私もなかなか性格が悪い。

 私は人より余裕があったり、上の立場にならないと、嫉妬してしまう人間だったのか。

 そういえば以前、南さんといた時や由宇さんと食事に行った時、それと詠美さんからユニット勧誘されていた時も、随分モヤモヤした。

 今まで男性付き合いなんてしたことがなかったから全然わからなかったけど、私は依存心が強いタイプらしい。ちょっと気を付けておこう。

 

「彩」

「は、はひ……!」

「? どうしたんだ、変な声出して」

「い、いえ……なんでも……ないです。どうしましたか?」

「紅茶でも淹れようと思うんだ。少し休憩にしないか?」

「あ、それでしたら私がやります」

「そうか――いつもありがとうな」

 

 お礼の言葉が、とても優しい。

 気持ちを受け取りながら台所に行ってお湯を沸かし始めた。

 湯気があがる紅茶を和樹さんの前に置いて、私も元の位置に戻ると一口飲んだ。

 

「最近さ、マンガのネタに詰まることが多くなってきたんだよな」

「……ネタですか?」

「そう。もう5・6回やってきたから毎回どんな話を書こうかと悩むのが多くなってきたんだ。彩はいつもどうしてるんだ?」

「わたしは……夢に出てきます」

「……夢?」

「はい、夢のなかでキャラクターが出てきて、こうしたい、ああしたいっていうの。それをマンガにするの」

「……」

「あの……なんか変なこと言いました……?」

「いや、そんな羨ましい夢を見るのかと、思ったんだ。そんな便利な夢だったら俺も見たい。そうか、彩のあの独創的な世界観は夢からきているのか」

「和樹さんは違うんですか?」

「俺はそうだな、これが一般的かどうかはわからないけど、マンガや小説を見てインスピレーションを感じたり、講義を聞いている中で『あ、この設定使えるかも?』と思ったことを描いてるかな」

「あ、確かにそれはありますね。意外に学校の授業や雑談や小話が参考になったりします」

 

 他愛のない話が続く。

 恋人同士になったからといって、普段からイチャイチャしたり、マンガに集中できなくなる、ということはなかった。

 お互い基本的にマンガが好きだし、同人活動に対する熱意があるから成り立っている関係だと思う。

 少し寂しい気がしないでもないが、今はこんなものなんだろう。

 互いにやるべきことをやって、尊重し、称賛し合っていければいいと思う。

 

 ピンポーン。

 

 チャイムが鳴り響いて玄関を開ける。大志さんが立っていた。

 

「よー、マイブラザー、マイシスター! 切磋琢磨してるかね?」

「……こんにちは。えっと、この間はありがとうございました……」

「おー、あの学祭の日のことか。こちらもマイシスターと話せてよかったぞ」

「お、大志か。……学祭の時ってなんかあったのか?」

「なに、朝早く来すぎて暇を持て余したマイシスターと会ってな。同志瑞希が来るまでの間、会話してたのだ」

「そうだったのか。今日はどうしたんだ?」

「なに、成長具合でも確認しようと思ってな。原稿の進みを見に来たのだ」

「変な理由で邪魔しに来やがって。まぁいいや、上がれよ。彩、紅茶入れてくれないか?」

「……はい」

 

 大志さんの分のお茶を淹れに台所に向かう。

 お茶を沸かす間に、ティーカップとティーパックを用意して準備をした。

 

「……ふむ。時にマイブラザー、次のこみパではどういうマンガを描くのだ?」

「また創作系ジャンルで描くよ。今まではSFが多かったと思うけど、別分野で描いてみたくなってな」

「おお! 良いではないか! それが今描いている原稿か? 見せてみるがよい」

「おい、描いたばっかりだから丁寧に扱えよ」

 

 2人は楽しそうに話している。やっぱり和樹さんは言葉こそ辛辣なところはあるが、仲良い人への信頼の証なんだろう。

 私も早くそうなれるといいけど、そこは乱暴な言葉遣いを好まない私への配慮なのかもしれない。

 

「大志さん、どうぞ」

「ありがとう、マイシスター」

「ありがとうな。彩」

「いいえ……これくらいどうってことありません」

 

 短いやり取りの間で、和樹さんと目を合わせ、お互いニコリと笑いあう。

 

「……時にマイブラザー、マイシスターとは以前より随分親しくなったようだな」

「そうか? まぁ毎日いるからな。頼み事なんかも増えてきたよ」

「頼み事か……なるほど。ふむ、今回の出来はわかった。あまり原稿の邪魔をするものではないな。吾輩はこれで失礼するとしよう。では2人とも原稿頑張るのだぞ」

 

 そういうと大志さんは紅茶をグッと一気飲みし、帰宅していった。

 ……それより紅茶は先ほど淹れたばかりで熱湯に近かったのだが、火傷していなかっただろうか?

 

「なんだ、あいつ。いつもはもっと騒ぎ立てていく筈なのに、今日はやけに大人しかったな」

「そう……ですね」

 

 確かに、いつもだったらもっと賑やかに話していく印象があった。

 けれど、今日はどこか様子が違っていた――その理由を、この時の私はまだ知らなかった。

 




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