Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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32話 初めての飲み会にて

 

 昨日こみパの準備を済ませた後、和樹さんから電話が来て、有開駅(ありあけえき)まで一緒に向かおう、という話になった。

 待ち合わせ場所に行くと南さんが既に待っており、一緒に声をかける。

 

「南さん、こんばんは」

「もう来ていたんですね。待ちましたか?」

「あ、和樹さんと彩ちゃん。一緒に来たんですね。私も今来たところですよ」

 

 南さんの配慮のある言葉をかけられて頬が緩む。

 起毛感のある柔らかそうなラベンダー色の長袖セーターと、紺色のスカートを身に着けている。

 柔らかで落ち着きのある雰囲気が南さんらしい。見ている人をリラックスさせそうだと思った。

 スタッフの衣装を見ることが多いので、私服姿を見るのはなんだか新鮮な気分だ。

 これが大人の女性か、と思いながら和樹さんを見ると、心なしかいつもより笑顔のように思える。それを見てなんだか気持ちがモヤッとしたが、自分の気持ちの変化に気付いて、いけない、と誰にいう訳でもないのに心の中で一人言い訳をした。

 

「由宇はまだ来てませんか?」

「ええ、もうちょっとだと思うんですけど」

「土地勘がなくて迷っていたりしないでしょうか?」

「それは大丈夫だと思うわ。こみパ参加のために結構な頻度でこっちに来てるし、わからなくても人に聞いていろいろ探せるタイプだから」

 

 その話を聞いて、確かに大丈夫そうだ、と和樹さんと頷いた。

 それから程なくすると、駅の階段を下ってくる由宇さんの姿が見えた。

 

「おっまたせー! なんや余裕持ってホテルから出たつもりやったけど、少しだけ道に迷ってもうたわ。なんとか時間に間に合ってよかったで」

「由宇さん、こんにちは」

「彩はん、まいど。一緒に飲みに行けて嬉しいで! 牧やんと和樹はんもありがとう!」

「由宇ちゃん、お誕生日おめでとう。一緒にお酒飲めるようになって嬉しいわ」

「牧やん、ありがとう! ウチもやっと胸張って酒飲められるようになって嬉しいで!」

「由宇、誕生日おめでとうな」

「おめでとうございます。あの……これ、私と和樹さんからです」

 

 そう言って、長方形の箱を取り出して由宇さんにプレゼントする。

 

「わぁ~! ありがとう! なんやぁ、一緒に飲んでくれるだけでよかったのに」

「由宇にはいつも世話になってるからな。用意する時間がなかったから彩と一緒になっちゃったけど。開けてみてくれよ」

「ええの? じゃあ遠慮なく……。お、Gペンやん! しかもなかなかええやつやないの」

「私、画材屋でアルバイトしてるから……そこで扱ってる私のおすすめのを買ったんです。気に入ってくれるといいんですけど」

「かえって気をつかわせてしもてすまんなぁ。でも大切にするで! ありがとうな!」

「それじゃ、お店に行きましょうか。私オススメのワインのお店よ。すぐそこだから着いてきてください」

 

 お店の話は聞いていなかったが、今回のお店は南さんが考えてくれたのか。しかしワインのお店とは、ますます南さんの大人っぽさを感じる。

 程なく歩くと、お店に到着して、店内に入る。店員さんに予約した旨を伝えると席に通された。

 

「おお、すごい良さげなお店やん……。ざっくばらんに飲むのが好きやから、こんないい雰囲気のお店だと、ウチ緊張してまう」

「最初の一杯目はビールにしましょ。二杯目で少しワインを飲みましょうね。あ、でも和樹さんと彩ちゃんはジュースね」

 

 慣れた様子で注文すると、程なくして飲み物がきた。

 

「それじゃ、由宇さん、二十歳の誕生日おめでとう! カンパーイ」

 

 お祝いの言葉を伝えながら、お互いのグラスを合わせ、カランッという景気の良い音が響いた。

 南さんと由宇さんはビールを傾け、喉を潤している。私と和樹さんもジュースを傾けた。

 

「ぷは~、ようやく堂々とお酒が飲める年になったで! 牧やん、ありがとうな」

「うふふ、私も一緒に飲めて嬉しいわ」

「南さんは結構お酒強いんですか?」

「たしなむ程度です。飲みすぎるとすぐに酔っぱらっちゃうから程々って感じ。でも嫌いじゃないですよ」

「ウチはそこまでは強くないなぁ。昔、実家で飲まされた時はすぐべろんべろんになってしもた。ワインとか飲んだことないから大丈夫やろか」

「一緒の量くらいのお水を飲めば悪酔いはしないわ。アルコール度数も少し高いから勢いよく飲まないでね」

 

 確かに強い方ではないのか、2人ともビールを少し飲んだだけで顔がほんのり赤くなっている。

 ビールを空にすると、ワインと一緒に何品か食べ物を注文して、テーブルに料理が並んだ。

 南さんは普段から飲酒している口ぶりだったから大丈夫そうだけど、由宇さんは大丈夫だろうか?

 

「なぁ! ウチめっちゃ嬉しいねん! とうきょーでできた同人仲間がぁ、ウチの誕生日を祝ってくれるぅ!? こんな嬉しいことはないでぇ!」

 

 どうやら強くない、というのは本当らしい。

 由宇さんの顔は真っ赤に紅潮しており、呂律(ろれつ)も若干怪しい。

 ――それにしても出来上がるの早すぎではないだろうか?

 

「由宇、わかったから少し水を飲みながら飲めよ」

「わかったわぁ、和樹はん。しかしぃ牧やん、ワインって意外に美味しいねんなぁ、アハハハハハ!」

「ええ、そうよねぇ。ワインを飲むと、ふわぁって気分になって、それが気持ちいいのよねぇ」

 

 和樹さんは一生懸命由宇さんに水を飲まそうとしている。その勧めを聞かず、由宇さんはワインを傾けている。

 由宇さんは笑い上戸のようで、先ほどから笑い続けている。頼みの綱である南さんも、いつも以上に表情が緩く、ふわふわした口調になっている。

 ワインを追加注文しようとする由宇さんを静止して、お店の人に頼んで白ワインだと言って持ってくるようにお願いする。お店の人も状況を察してくれたようで、頼みに応じてくれた。

 由宇さんは白ワインと称した水を傾けると、大いに笑った。もはやアルコールではないのだけど、気分が良くなってしまっているらしい。これは大変だ。

 

「あ~、ええ気持ちや。こない楽しい日は久しぶりや。やっぱ同人仲間ってええなぁ」

「ええ、私も由宇ちゃんと飲めて楽しいわぁ」

「そうやなぁ……本当は、詠美のやつも呼んでやりたかったなぁ……」

詠美(えいみ)? 詠美ってあの大庭詠美(おおばえいみ)のことか?」

「そうやぁ、前にも少し話したかもやけど、ウチとあの子とユニット組んでてん。昔は大人ししゅうて、ひたむきで一途な可愛いやつやった」

 

 突然の由宇さんの告白に、私も和樹さんも驚いた。

 確かに最初に詠美さんが和樹さんのブースを荒らした時に、ユニットを組んでいたと言っていた。お互い罵りあう口調で話していたから、相当仲が悪いものだと思っていたから、由宇さんがそんな風に言うのは少し意外だった。

 

「由宇がそんなこと言うなんてちょっと意外かも……仲良かったんだな」

「そうやなぁ。あの子が初めてこみパに参加した時、ウチは隣のブースやった。その時に初めての読者にボロクソ言われてもうて、あの子すごい悔しそうでなぁ。それからめっちゃ努力して売れるようになったんやけど、同時に『天才だ』とか『こみパに舞い降りた女王』だとか、周りにチヤホヤされすぎて増長してしもった。それからや、ウチとあの子の意見が合わなくなって、仲違いしだしたのは」

 

 突然の話でなんて反応したらいいかわからなかった。

 南さんを見ると、先ほどのふわふわした雰囲気から一転して暗い顔をしている。

 確か詠美さんは南さんから話を聞いて、和樹さんに近づいたと言っていたと思う。どうやら2人のコトの経緯を知っているのだろう。

 なんとも言えない顔つきで、由宇さんの話を聞いている。

 

「もうプロになるほどの実力はある。ただし、あの子は『売れる』ことだけに固執して、肝心なマンガへの情熱がないねん。ウチから何度説明しても、『売れない同人誌に意味はない』の一点張りや。確かに、あの子と比べてウチは売れてへん。だからなに言っても届かへんのやろなぁ。あんなんやから(さわ)ちゃんからも声がかからんのや」

「……今でも詠美と仲良くやりたいのか?」

「それはなぁ。本音いったらそうや。未練タラタラみたいな感じやけどなぁ。でも、詠美は本当にマンガが大好きな子なんや。あの子と一緒に活動している時は――ホンマ楽しかったなぁぁ……」

 

 そういうと由宇さんは顔を伏せてしまう。

 ……若干涙声になっているところもあり、どう声をかけていいかわからなかった。

 

『そんなのほーこーせいが違うじゃない。私もユニットは組んだことあるけど、そこが違うと、一緒にやっていても辛いだけよ』

 

 この間の詠美さんのセリフを思い出す。

 あの言葉は、由宇さんと組んでいた経験から出てきた言葉だったのか、と思った。

 よくテレビで音楽グループが方向性の違いで解散した、というニュースを見かける。実際のところはなにがあったかわからないが、違いだったら合わすことできないものだろうか、と思うことがあった。

 ただ今の由宇さんと詠美さんの話を聞いていると、そう簡単ではないらしい。

 確かに情熱を注ぐのが正義と思っている人と、売り上げを伸ばすのが正義と思っている人では、行動が大きく異なる。

 由宇さんが体験したのは、そういった類のものだろう。

 

「時に彩はん、和樹はんとユニット組んでて楽しいか?」

 

 先ほどから話題が一変したばかりか、突然の問いに、咄嗟になにも答えることができなかった。

 

「和樹はんと組んで活動するのは楽しそうやでぇ。ウチも組みたかったぁ。なにかのために、誰かのためにマンガを描こうと思って動いている人からは良い影響を受けられると思ってん。そういった意味で、和樹はんはすごいでぇ」

「おいおい、由宇。ちょっとよいしょしすぎじゃないか?」

「そんなことあらへん。デビューしてわずか半年足らずで500部売り上げるって、普通の人がそこに到達するまでにどれだけの月日がかかる思ってねん。和樹はんはすごいで」

「ふふ、由宇ちゃんは和樹さんのこと、本当に買っているんですもんね。ユニット申し込んだときはフラれちゃったけど」

「だから告白したわけやないって!」

「そうね、でも由宇ちゃんはぁ、恋に関しては直球に見えて変化球を投げるタイプなのよねぇ。ふふふ」

 

 先ほど暗い表情を見せていた南さんだが、今はまたふわふわした表情に戻っている。

 珍しく人を揶揄(からか)うような口調が目立つが、元々こういった側面もある人なのかもしれない。

 

「彩はんも覚えとき、マンガに限らずクリエイターはな、この人に届ける! そしてそのためにめっちゃこだわる! って精神がメチャクチャ大事やねん。それを持ってない奴はダメや。あやふやでもいいからちゃんと持たんといかんでぇ」

「……」

 

 今日は驚いてばかりいる。

 ただその中でも、今のなにげない由宇さんの言葉は、特に私の胸に刺さった。

 ――だってそんな気持ち、私には何もない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私はただ、それしかなかったから描き続けてきただけだった。

 

『それを持ってない奴はダメや』

 

 その言葉ばかりが頭の中で反芻する。

 そういった精神(きもち)を持っていないと、描いちゃダメですか? 持ってないから誰かに迷惑をかけちゃうんですか?

 

 ――きっと由宇さんは『私が何にも持っていない』という側面に気付いている。

 

 その後も由宇さんは、和樹さんとユニットを組みたかった、と話して次第に泣き始めた。笑い上戸から泣き上戸に変わるタイプらしい。

 さすがにまずいと思った南さんは止めに入り、和樹さんは暴れる由宇さんを介抱しながらお店を出た。

 私の中には、由宇さんが言った言葉ばかりが、頭に残っていた。

 




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