Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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34話 孤独感

 

 お昼近くになり、午前の慌ただしい雰囲気が少し落ち着いてきた頃。館内扉の向こう側を見ると、まだ和樹さんのブースの列は途切れていなかった。

 あんな長蛇の列になる予想はできていなかったので、売るのに手間取っているんだろう。あの勢いだと午前中に完売するかと思っていたが、まだ続いているところを見ると苦戦しているらしい。

 

 私はといえば、売り込みの甲斐あって午前中だけで12部を売れた。

 既に前回と同じ部数を売り上げている。以前、私の本を買った人と思われる人も来てくれた。最初はどうなるかと思っていたが、着実に成長してきているのだと思う。

 午前中は壁サークルに人が集まりやすい時間帯で、これだけ売れているのであれば、今日は20部以上いけるかもしれない。

 めげてなんていられない。私は私のペースで、一歩一歩前に進むしかないんだ。

 もう少しだけ呼び込みを続けようと思ったが、お昼の時間だ。さすがに休憩して、なにか食べないと体が持たない。

 『離席中』の看板を机に置き、お手洗いを済ませたらお弁当を食べよう。

 

 小用を足して戻ってくると、机の前で私の同人誌を読む人がいることに気が付く。

 離席中の看板を置いたはずだが、とブースに戻ってみると、そこには詠美さんがいた。

 どれくらいその場にいたのだろうか。(めく)っているページを確認すると、半分近くまで読んでいるのがわかる。どうやら私が席を離れたあと、すぐに来ていたようだ。

 

「あの……詠美さん」

「ああ、あんたか。いつもみたいに下々の様子を見に来たら、誰もいないからどうしたのかと思った。あいつはどうしたの? あんたたち、ユニットじゃなかったっけ?」

 

 聞かれたくないことを聞かれて、顔を伏せる。

 一瞬なんて答えたらいいかわからなかったけど、館内扉の向こうに並んだ列を指さして、移動したことを伝える。

 

「ふーん、あいつもやるじゃない。ま、私と比べちゃまだまだって感じだけど」

「そう……ですね」

 

 そういうと、詠美さんは再び私の同人誌に視線を落とし、次のページを捲った。

 何しに来たんだろう? この間もそうだったけど、超売れっ子の詠美さんが、なぜ毎回私の同人誌なんかに興味を持つんだろう?

 しばらく待っていると、全て読み終えたようで元の位置にそっと戻してくれた。

 

「あの、詠美さん。今日は……どういったご用事ですか?」

「べっつにー。用がないと来ちゃいけない? あたし、こみパの女王だし。下々の働きをたまに見に来たくなるの」

「でも……前回もその前も見に来てくれました。さすがに何度も来ると、どうしてか気になってしまって」

「なに、邪魔だから来るなって言ってんの?」

「そうじゃありません。ただなにか理由があるように思えたから……」

「ふん、特に理由はないわよー」

 

 そうは言いつつ、詠美さんはその場を離れようとしない。

 新たに話題を振るわけでも、何か話をするわけでもなく、その場に突っ立っている。

 以前、和樹さんには『気のきかない男!』と怒っていたが、なにも話さなかったら、私もそう言われてしまうのだろうか?

 会話に困った私は、自分の新刊をとり、詠美さんに差し上げてみた。

 

「ん? なにこれ?」

「私の……新刊です。既に読んでくれてみたいですが、よかったらどうぞ」

「あ、どもども……ってちがう!」

 

 受け取ろうと思って伸ばした手を引っ込めて、詠美さんは頭に両手を当てる。

 

「ねぇ、前回いった言葉、覚えてる?」

「はい……」

「ちょっと聞いてみたかったの。あんた、辛くないの?」

「……」

 

 その問いに答えられない。

 前回は、私がそばにいたかったから大丈夫だと思っていた。でも今は、同じユニットでありながら、離れ離れで活動している。

 詠美さんや由宇さんが言う『方向性』とは少し違うと思う。ただ、今朝感じた疎外感を誤魔化す言葉は、今の私になかった。

 

「わかったわ。言いたくないけど、毎月あんたの本は良くなってる。成長してると思う。でもね、マンガは売れて、なんぼ。売れない同人誌は意味ないの。それから目を背けてると、もっと辛い目に遭うんだからっ!」

 

 それだけ言うと、詠美さんはブースから離れていってしまった。

 あの人はなにが言いたいのだろうか? やっていることの意味は分からないけど、言っていることは胸に刺さった。

 

 ――目を背けてなんて、ないのに。

 

 再び湧いてくる疎外感と孤独感。もう何度も経験しては、振り払ってきているというのに。いったい私のなにがいけないというのだろう。

 和樹さんと出会ってから、同人仲間が増えて、楽しいことも増えた。でもその分、以前よりも悩みも多くなった気がする。

 

 館内扉の向こうを見ると、大分列が短くなってきているのが見える。きっとあと少しで完売するのだろう。

 今日は700部部数を用意したと言っていた。デビュー僅か半年でそれだけの部数を完売するとは、本当に驚異的な人だ。

 私たちも、由宇さんや詠美さんのように、方向性の違いで離れる日が来てしまうんだろうか?

 




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