Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
お昼近くになり、午前の慌ただしい雰囲気が少し落ち着いてきた頃。館内扉の向こう側を見ると、まだ和樹さんのブースの列は途切れていなかった。
あんな長蛇の列になる予想はできていなかったので、売るのに手間取っているんだろう。あの勢いだと午前中に完売するかと思っていたが、まだ続いているところを見ると苦戦しているらしい。
私はといえば、売り込みの甲斐あって午前中だけで12部を売れた。
既に前回と同じ部数を売り上げている。以前、私の本を買った人と思われる人も来てくれた。最初はどうなるかと思っていたが、着実に成長してきているのだと思う。
午前中は壁サークルに人が集まりやすい時間帯で、これだけ売れているのであれば、今日は20部以上いけるかもしれない。
めげてなんていられない。私は私のペースで、一歩一歩前に進むしかないんだ。
もう少しだけ呼び込みを続けようと思ったが、お昼の時間だ。さすがに休憩して、なにか食べないと体が持たない。
『離席中』の看板を机に置き、お手洗いを済ませたらお弁当を食べよう。
小用を足して戻ってくると、机の前で私の同人誌を読む人がいることに気が付く。
離席中の看板を置いたはずだが、とブースに戻ってみると、そこには詠美さんがいた。
どれくらいその場にいたのだろうか。
「あの……詠美さん」
「ああ、あんたか。いつもみたいに下々の様子を見に来たら、誰もいないからどうしたのかと思った。あいつはどうしたの? あんたたち、ユニットじゃなかったっけ?」
聞かれたくないことを聞かれて、顔を伏せる。
一瞬なんて答えたらいいかわからなかったけど、館内扉の向こうに並んだ列を指さして、移動したことを伝える。
「ふーん、あいつもやるじゃない。ま、私と比べちゃまだまだって感じだけど」
「そう……ですね」
そういうと、詠美さんは再び私の同人誌に視線を落とし、次のページを捲った。
何しに来たんだろう? この間もそうだったけど、超売れっ子の詠美さんが、なぜ毎回私の同人誌なんかに興味を持つんだろう?
しばらく待っていると、全て読み終えたようで元の位置にそっと戻してくれた。
「あの、詠美さん。今日は……どういったご用事ですか?」
「べっつにー。用がないと来ちゃいけない? あたし、こみパの女王だし。下々の働きをたまに見に来たくなるの」
「でも……前回もその前も見に来てくれました。さすがに何度も来ると、どうしてか気になってしまって」
「なに、邪魔だから来るなって言ってんの?」
「そうじゃありません。ただなにか理由があるように思えたから……」
「ふん、特に理由はないわよー」
そうは言いつつ、詠美さんはその場を離れようとしない。
新たに話題を振るわけでも、何か話をするわけでもなく、その場に突っ立っている。
以前、和樹さんには『気のきかない男!』と怒っていたが、なにも話さなかったら、私もそう言われてしまうのだろうか?
会話に困った私は、自分の新刊をとり、詠美さんに差し上げてみた。
「ん? なにこれ?」
「私の……新刊です。既に読んでくれてみたいですが、よかったらどうぞ」
「あ、どもども……ってちがう!」
受け取ろうと思って伸ばした手を引っ込めて、詠美さんは頭に両手を当てる。
「ねぇ、前回いった言葉、覚えてる?」
「はい……」
「ちょっと聞いてみたかったの。あんた、辛くないの?」
「……」
その問いに答えられない。
前回は、私がそばにいたかったから大丈夫だと思っていた。でも今は、同じユニットでありながら、離れ離れで活動している。
詠美さんや由宇さんが言う『方向性』とは少し違うと思う。ただ、今朝感じた疎外感を誤魔化す言葉は、今の私になかった。
「わかったわ。言いたくないけど、毎月あんたの本は良くなってる。成長してると思う。でもね、マンガは売れて、なんぼ。売れない同人誌は意味ないの。それから目を背けてると、もっと辛い目に遭うんだからっ!」
それだけ言うと、詠美さんはブースから離れていってしまった。
あの人はなにが言いたいのだろうか? やっていることの意味は分からないけど、言っていることは胸に刺さった。
――目を背けてなんて、ないのに。
再び湧いてくる疎外感と孤独感。もう何度も経験しては、振り払ってきているというのに。いったい私のなにがいけないというのだろう。
和樹さんと出会ってから、同人仲間が増えて、楽しいことも増えた。でもその分、以前よりも悩みも多くなった気がする。
館内扉の向こうを見ると、大分列が短くなってきているのが見える。きっとあと少しで完売するのだろう。
今日は700部部数を用意したと言っていた。デビュー僅か半年でそれだけの部数を完売するとは、本当に驚異的な人だ。
私たちも、由宇さんや詠美さんのように、方向性の違いで離れる日が来てしまうんだろうか?
最後まで読んでくれてありがとう。
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