Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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36話 決意

 

 話は少し遡る。

 今回のこみパはいつもと違った。具体的に違う箇所をあげると、()()()()()()()()()()()()()()

 当然、壁サークルになるほどの部数を売り上げていない私とは、別々のスペースで配置されることになった。

 前回のことで予想できた話だ。長蛇の列を捌くための特設ブースでの対応。それほどの人気と売り上げを誇るのであれば、壁サークルに割り当てられるのは無理もない。

 それに、和樹さんが11月のこみパで用意した部数は1000部だ。もはや一般ブースに収まる量ではない。部数の意味でも会場の混乱を避ける上でも、至極妥当な措置だった。

 

 片や、私の十月のこみパの売り上げは31部だった。9月の倍以上。今までの最高記録を更新したが、和樹さんの売り上げと比べたら雀の涙ほどの成果でしかない。

 ユニット申請しているとはいえ、ここまで差があるのではしょうがないことだった。

 

 ただ、和樹さんはこの措置に難色を示した。なぜユニットで申請したのに一緒じゃないのかと。

 さすがにこれは私も耳を疑った。自分が売り上げた部数と発注した部数がわからない訳じゃないと思う。

 なにより、私の10月の売り上げ部数を聞いて、和樹さんはいつものように落胆していたではないか。

 それなのに、なぜ今の結果に納得がいかないのか、正直私自身、よくわからなかった。

 

 途中、南さんに相談してみようと言い出したが、これについては静止した。

 いくら南さんでもそんな無理は通らない。それに、全然売れないで壁サークルに配置される私の気持ちも考えてほしかった。

 和樹さんはしぶしぶ納得して、今回のこみパに参加した。

 

 当日の和樹さんのブースの並びようはすごいものだった。

 開場されると、参加者の多くはまっすぐに和樹さんのブースに足を運び、あっという間に前回を上回る長蛇の列と化した。

 その様子は私のブースからも遠目で分かるほどで、隣のサークルの人たちも「すげぇ」と感嘆の念を漏らしていたほどだ。

 前回は長蛇の列を捌くのに慣れていない、瑞希さんと大志さんの対応で完売するのが遅れたが、今回はスタッフや大志さんの仲間の協力もあり、一気に同人誌を売り捌いていった。

 まさに壁サークルにふさわしい売り上げと人気。破竹の勢い、とはこのことだ。

 

「すごいわね。和樹さんは」

「あ……南さん」

 

 振り向くと、南さんが立っていた。

 ブースが別れた私の様子を見に来てくれたようで、少し心配そうな顔をしている。

 

「スタッフの間でもね、和樹さんのサークルって有名なの。デビューわずか半年で1000部を用意する大手同人作家でしょ? 『怪物級』とか『第二の大庭詠美』なんて言われているの。それとコミックZの編集者も和樹さんに興味を持って、今度スカウトの話が来るんですって」

「……」

 

 私が想像していたより、ずっとすごいことになっていた。

 私なんかじゃ相手にもならない。私が30部売るのに必死になっている横で、和樹さんは1000部売り上げようとしているのだ。レベルが違かった。

 和樹さんはまだまだ発展途上だ。その気になれば1年以内で5000部売ることだって可能だろう。そうなれば、こみパの女王と呼ばれている詠美さんに並ぶほどの売り上げ部数だ。

 

 そんな人が、私とユニットを組んで、時間を割き、売り上げを伸ばすためにいろいろアドバイスをしてくれる。

 今回の新刊だって、ギリギリまで私に時間を使ってくれた。自分の原稿は後回しにして、夜遅くまで付き合ってくれた。

 だから今回の和樹さんの新刊は、満足に時間をとれていないはずだ。時間をとれば売り上げ部数が伸びる訳ではないけど、それでも今後のファンからの信用を積み重ねるための重要な1冊だ。

 私なんかのために時間を使っている場合ではないというのに、なぜいつも、あんなに真剣に、私に教えてくれるのだろうか?

 なにか変な形で、表面化しなければいい、と心の中でそっと祈っていた。

 

 ――そう思っていたのも束の間。私の不安は的中した。

 私が抱いていた疑念は、大志さんの指摘で明確化したのだ。

 

 夕日の中で叱責される和樹さん。

 的を得た大志さんの指摘に、ただなにも反論できず、話を聞いていた。

 

 どうしてそうなった? そんなのわかりきってる。()()()()()()()()()()()()()

 売り上げ部数が少ない私のことを(あわ)れんで、和樹さんは時間を割いてくれていただけだ。

 

 逃げるように帰宅して、自室に閉じこもった。

 こみパの荷物も(ろく)に片さずに放りだし、ベッドの上に寝転がった。

 

 自分の不甲斐なさに涙がこぼれ落ちる。

 そうだっ! (はな)からわかっていたことじゃないかっ! 和樹さんと私じゃ釣り合わないっ! だからいつか迷惑をかけるって! そんなことがわかったら悲しくなるだけだって――最初からわかっていたのに!

 それが恋人になって、浮かれて、人に迷惑ばかりかけて……幸せになろうだなんて、バカみたいだ。

 

 枕に顔を押し付け、声が漏れないように大声を出して泣いた。

 一頻(ひとしき)り泣いて、涙が枯れた頃、ひとつの答えが浮かんだ。

 そうだ。今からでも遅くない。邪魔者(わたし)がいなくなれば、元に戻れる。

 

 ユニットを組まず、それぞれの道を歩く。そうだ、それがいい。

 私は売れない同人作家として、和樹さんは売れっ子の同人作家として、それぞれの道を歩けば――。

 

 ――そこまで思考が至って、枯れたと思った涙が再びボロボロと溢れ出してくる。

 

 ………………イヤ、そんなの、絶対イヤッ! もう一人で、同人誌を描くのは絶対イヤッ!!

 和樹さんの優しさを感じてたい。和樹さんの声を聞いていたい。大好きなあの人と、お互いのマンガを見せあって『今回の新刊も楽しかったね』って言いあいたいよぉ……。

 あの人との時間が失われるなんて、絶対にイヤッ!!!

 

 だったら――私が足を引っ張らなければいい。私も売れるようになればいいんだ。

 

 そうだ。()()()()()()()()()()()()()。自分のこだわりも、描きたいものも、全部捨てるっ!

 私も売れるようになって、和樹さんとずっと一緒にいられるようになるんだっ!

 

 そう決意し、自分の机に向かう。

 ノートを開き、今まで避けてきた流行ジャンル、表紙のデザイン、宣伝方法――思いつく限りの方法を書き記す。

 和樹さんの隣に立ち続けるためなら、何だってやるっ!

 

 必ず結果を出して、もう二度と和樹さんを失わない――。

 




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