Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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37話 裏切り

 

 ――最悪な気分で、目を覚ました。

 階段を降りて洗面所の前に立つ。鏡を見ると泣き腫らした目にクマができていた。

 

「酷い顔……」

 

 昨日の感情がまだ目元に残っているようで、見ているだけで胸が重くなる。こんな見た目では外を歩くのも(はばか)られる。

 顔を洗えば少しはマシになるかと思いきや、全然変わらない。

 今日はやめておこうか、とも思った。ただ先送りにしたらした分だけ、決意が鈍るような気がした。出来れば早めに行動したかった。

 リビングのソファーに座り、冷やしたハンドタオルを目の上に置いた。それを何度か繰り返し、目元の腫れが引くのを待った。

 少しはマシになったのを確認し、母親のメイクを借りて、目元に化粧をした。普段からお化粧をする年ごろではないが、今日ばかりはしょうがないだろう。

 

 やる事は大きく分けて2つある。

 1つ目は、和樹さんに12月のこみパの参加申し込みをしないことを伝えることだ。

 今の私では一緒にいても迷惑をかけてしまう。悔しいけど、今はそうするしかなかった。

 『申し込みに間に合わなかった』って言えば、どうしようもないはずだ。そう和樹さんに伝えよう。

 2つ目は――もっと切実な問題だった。

 ()()()に会えるのは、おそらくこみパの時だけ。

 今からでも会いに行きたいけど、どこに住んでいるのか、連絡先も知らないのだ。正直こみパで本当に会えるかどうか、今から不安でならない。

 ――考えてみても、本当に他人任せな方法だ。

 それでも、なんとか今持っている情報だけで、行動してみないといけない。

 心臓がドクドクなっている。緊張して手に汗がにじむ。普段からこんなに追い込まれることはない。

 

 ――でも、やるしかない。

 

 決意が揺らぎそうな心を抱えながら、まずは和樹さんの自宅を目指した。

 

 ---

 

 ピンポーン。

 

 和樹さんの自宅のチャイムを鳴らす。中から「開いてるぞー」と声がするが、中に入るわけにはいかない。そのまま待つことにした。

 しばらく待っていると、玄関を開けて和樹さんが顔を覗かせた。

 

「どうしたんだ? 鍵開いてるぞ」

「あ……あの……今日は……用事が……あるから……」

 

 緊張で声が震える。喉が張り付いて一瞬声が出なかった。足がガクガク震えているが、悟られてはいけない。

 勇気を振り絞って、声を出した。

 

「私……次のこみっくパーティーは……やめます……」

「……えっ?」

 

 和樹さんの表情が変わる。

 怪訝な顔を浮かべて、真意を探ろうとしている。

 

「彩、その、やめるってどうして?」

「その……申し込みを……出すのが遅れて……だから」

「まさか、この間の大志の話を気にしているのか? あれは彩のせいじゃない。だから、気にしなくていいんだ」

「それは……関係ないんです……単純に出さなかった……だけですし」

「そうだ! だったら委託って形にして、俺のところで売ればいいんだ」

「えっ……」

「うん、そうだ。それがいい」

 

 ――委託? そんな言葉が和樹さんの口から出るなんて、想像すらしていなかった。

 なんでその手段を考えなかったんだろう。そんな方法があるだなんて、ちょっと考えればわかったのに。

 考えが至らなかったのは、私と和樹さんのサークルの売り上げが違いすぎるからだ。しかし、ほとんど売れていない弱小サークルの本を、壁サークルに置こうなんて考えなしにも程がある。

 また、もしそんなことをしたら私はもっと居づらくなる。和樹さんは私と一緒にやることを優先して、そこのところにはあまり気が回っていない節がある。

 でも、ここで引き受けたら元も子もない。全部台無しだ。

 頭をフル回転させる。和樹さんが引き下がってくれる方法を、なんとしてでもひねり出さないといけない。

 

「あ……でも……その……今度……テストがあるから……」

「えっ……テスト?」

「私……受験が……あるから……だから……ごめんなさい……」

「そっか、考えてみたら受験生だもんな。残念だけど、仕方ないか」

 

 なんとか和樹さんが引き下がってくれて、一安心する。

 ただ、同時に嘘をついて強引に断ってしまったことへの、深い罪悪感が沸いてきた。

 ――本当は受験などない。もう大学は推薦で決まっているから。だから受験のために、というのは真っ赤な嘘だった。

 

「ごめん……なさい……」

「いや、いいって。仕方ないし」

 

 和樹さんが首を振る。それでも言葉は止まらなかった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「そんなに、謝らないでも……」

 

 罪悪感が止まらない。昨夜の気持ちと一緒になって、謝罪の言葉が溢れ出してきた。

 私は今、目的のためとはいえ、和樹さんを裏切ったのだ。

 和樹さんは困った顔を浮かべている。きっと、私の言葉の真意など届かない。

 それでも今は、ただただ申し訳なく、謝罪の言葉を並べるしかできなかった。

 

 ---

 

 次回のこみっくパーティーを断る旨を伝えて、帰宅するところだった。

 和樹さんのアパートから、駅までの道のり。もう何度も通った道をトボトボと力なく歩いた。

 距離がいつもより遠く感じる。足に力が入らない。このまま(うずくま)って泣いてしまいたかった。

 でもこんなところで泣いてなんかいられない。泣きたくなる気持ちを抑えて、足を引きずるような思いをして、自宅まで帰った。

 

 自宅について、ベッドに寝転がる。

 自然とまた涙が流れてきて、昨日のようにまた枕に顔をうずめて泣きじゃくった。

 軽く考えていたわけではない。ただ、好きな人に嘘をつくことがこんなに辛いとは思わなかった。

 目的はどうあれ、私がやったことは完全な裏切り行為だ。和樹さんが私の指導をしてくれていたのに、私は結果のために、別の人に師事を求める。

 

 ――本当のことを明かした時、和樹さんは私を許してくれるだろうか?

 考えなかったわけではないが、いざ行動を開始すると、そんな不安まで付きまとう。

 でも、負けていられない。ようやく最初の一歩を踏み出したばかりなのだ。いつまでも泣きじゃくってなんかいられなかった。

 重い身体を起き上がらせ、机の前に座る。12月のこみパまでは、まだ時間がある。

 それまでにやれることは全部やっておかなければならない。

 そう思い、また机に向かって、改めてやる事の整理をした。

 




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