Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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39話 説得

 

「あの……これ、どうぞ」

「ふん、ありがと」

 

 通路のベンチに腰をかけている詠美さんに、飲み物(ジュース)を手渡す。

 不貞腐(ふてくさ)れたような顔をしている。無理もない。私もどうかしていた。

 逃げないように手を掴んで押し問答すること5分。詠美さんから『わかった! 逃げないから!』という声を聞き、私もようやく手を離した。

 これから売れる同人誌を描けるようになるためにも、詠美さんは重要な人物(ファクター)だ。私自身必死過ぎて、行動を(かえり)みている余裕がなかった。

 息を荒げてベンチに座る詠美さんを見届け、飲み物を買ってくると提案し、今に至る。

 

 詠美さんがここにいる、という確たる情報はなかった。

 しかし、由宇さんと詠美さんが口論している時、由宇さんはふと、こう言ったのだ。

 

『はっ! 通路が居場所の女に言われとうないわ! とっとと引っ込めや!』

 

 以前、和樹さんと口論していたことを思い出してみても、きっと詠美さんは友達がいない、というのはなんとなくわかっていた。

 おそらく仲の良い友人がいないけど、同人誌はすぐに売り終わってしまうため、一人通路で時間を潰しているんだろう。

 正直詠美さんの居場所に関する情報が、由宇さんのあの一言しかなかったから、こちらも不安でしょうがなかった。

 サークルに直接行ってもよかったけど、会えたとしても他のファンもいる中でまともに話すことは出来なかっただろう。会って話すには、これしかなかった。

 とはいえ、あの一言を覚えていたおかげで、詠美さんに遭遇することができた。思い出せて、本当によかった。

 

「で、なにがどうなっているわけ? あんた和樹(あいつ)とユニット組んでるでしょ? なんで急にあたしのところなんかに」

「それは……その……」

 

 いざ説明するとなると、言葉にしにくい。

 しかし、ちゃんと話さないと、詠美さんも聞いてくれない。中途半端な嘘は逆効果だろうし、そもそも嘘が得意な方でもなかった。ちゃんと事情を話さないければならない。

 

「和樹さんとのユニットとは、ちょっといろいろあって、離れて活動することになりました……」

「いろいろってあによ?」

「……一言で言えば、詠美さんが言ってた『方向性』の違いです……。私と和樹さんの売り上げ部数が違いすぎて、一緒のブースで活動できなくなったんです……」

「ま、そりゃそうよね。あれだけ売り上げの差が出たんじゃ。言ったでしょ? 『辛くないの』って」

「……はい」

「それで、なんであたしのところにきたわけ? あたしと組んでも、別々のブースになるのは同じでしょ?」

「ユニットを組むのではなくて、その、売れる同人誌を描く方法を、教えてほしくて……」

「あんであたしが、あんたにそんなことを教えないといけないの? それに全然あたしにメリットないじゃない」

「……私が詠美さんと組めば……由宇さんたちに少し後悔させること、できませんか?」

「……えっ?」

「以前……由宇さんと口論した時に、言ってましたよね? 『ぜーったい後悔させてやるんだからっ!』って」

 

 詠美さんの目が丸くなる。

 そう、これも以前由宇さんと口論していた時の話だ。今回詠美さんに師事してもらうにあたり、私は当時の由宇さんと南さんの発言を思い出した。

 私は詠美さんのことを表面上のことしか知らない。だから二人の会話から、由宇さんと詠美さんは何に不満があったのか、どうしてユニットを解消したのか、詠美さんはどういう言葉に動く人なのかを考え続けた。

 まさか、そんな提案をされるなんて、思ってもみなかったんだろう。

 先ほどまでの不貞腐れていた顔から一変し、私の顔を直視してきた。

 

「由宇さんと、昔ユニット組んでたって話、聞きました。由宇さんは『同人誌に対する情熱』。詠美さんは『売れてなんぼ』。その方向性の違いで、お互いすれ違ったんですよね? そして『こみパの女王』と呼ばれた今でも、あの人たちは詠美さんのことを認めていない。だからいつもケンカされているんですよね?」

 

 驚くほど、舌がまわった。

 自分は、なにかにつけこむような物言いができないタイプの人間だと思ってた。だから、こんなこと思っていても言えないのではないか、そう思ってた。

 ただ、同人誌のこと以外は流暢(りゅうちょう)に喋れないと思っていたが、今は面白いくらいに話せる。

 

 ――あまり褒められた説得方法ではないのに、だ。

 

「詠美さんの言う通りでした。私は今、すごくみじめで辛いです。いえ、和樹さんとユニットを組んだのはよかったんです。和樹さんの教えもすごく勉強になったし、一緒に同人活動して、少しずつ売れるようになって、すごく楽しかった。本当にそれだけでよかったのに。でも一緒に活動していくうちに、周りからの見られ方が、どんどん変わってきたんです」

「……」

「和樹さんの仲の良い人から、言われたんです。『お互い自立した関係じゃないと足を引っ張る』って。部数に差があると、一緒にいることも許してもらえないんです……」

「……だからあたしに、売れる同人誌の描き方を教えてもらいたいの?」

「……はい。私は詠美さんに売れる同人誌の描き方を教えてもらえる。詠美さんは自分の考えを認めなかった人たちを後悔させる機会を得られる。利害は……一致しているのではないかと」

 

 言い終えて、詠美さんを見る。まだ目を丸くした状態で、私を見ている。

 おそらく詠美さんは、自分で言うほど由宇さんのことを憎んでない。それは向こうも同じだと思う。

 ただ、どこかでお互いの考え方を認めてほしい。そんな願望があるからこそ、お互い離れるでもなく、寄りを戻すでもなく、近づいてはケンカばかりしているんだと思う。

 そういった意味でいうと、私の提案は2人の仲を決定的にしてしまう可能性があった。そして、私と由宇さんの関係もだ。

 でも、そうまでしても同人誌を売れるようにならなければならない。そのためには、なんとしても詠美さんを説得する必要があった。

 目を丸くした顔から、少し俯いて考えた顔をしたと思ったら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「いいわね、それ。気に入ったわ。あたしがあんたに売れる同人誌の描き方を教えてあげるわ」

「……ありがとうございます」

「改めましてだけど、あたしは大庭詠美(おおばえいみ)。このこみパの女王よ。あ、先にいっとくけど、あたしのめーれーは絶対服従っ! 反論は許さないわ。そこのところ、しっかり覚えておいてよねっ!」

長谷部彩(はせべあや)です。なんとしてでも、売れるようになりたいんです。ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、よろしくお願いします」

「ん、じゃあ彩って呼ぶわね。甘やかしたりしないんだから、覚悟してよねっ!」

 

 そう言って、右手を差し出される。握手を求めていることがわかり、その手を握り返して、詠美さんの気持ちに応じた。

 

 先月から詠美さんの居場所にしても、なににしても、情報が少なすぎて、まるで薄氷の上を歩くような心境で今日まで過ごしてきた。

 今回の計画で、最難関だった詠美さんの説得を、無事にやり遂げて、胸を撫でおろした。

 

 しかし、計画はまだ始まったばかりだ。

 詠美さんの指導は、きっと厳しい。それに全てクリアして、売れる同人誌を描けるようにならなければならない。

 




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