Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
詠美さんに教わる約束を取り付けてから、すぐに連絡先を交換した。そして、どこで作業するかの話になった。
以前、和樹さんの時も同じような話をしたなぁ、と思い出しながら考えていたところ。
『あたしの家に来なさい。両親もうるさく言わないし、なにより、あたし自分の机や道具じゃないとテンション上がらないの』
とのことだった。
和樹さんと違ってご両親がいる分、少し気持ちが引けたが、贅沢なんか言っていられない。それに場所を提供してもらえるのは大変助かる。
しかし、詠美さん宅が遠かったらどうしよう、と住所を聞いてみたら、私の自宅の最寄り駅の隣りだった。
和樹さんと南さんの時もそうだったが、こみパで出会った人がこんなに近くに住んでいるなんて驚きだ。それにこれから通おうと思っている人が近くに住んでいるのは嬉しい誤算だった。
とりあえず初めてなので、詠美さんの最寄り駅で待ち合わせをして、自宅に向かうことで合意し、その日は別れた。
翌日、詠美さんの自宅に訪問した。そして早速、『売れる同人誌の指導』が始まった。
「まずはこの同人誌を見てみて」
差し出された同人誌は、大手同人サークルの作品だ。
他サークルに疎い私でもわかる。詠美さんと同じで、午前中には完売してしまう程の人気サークルの同人誌だ。私も何度かブースを見たことがある。
どうやら最近流行りのゲームのキャラクターだろう。
表紙には黒白の学生服の青年とヴィジュアル系風の青年が立ち、炎を背に睨み合っている。
内容は因縁あるライバルとの死闘を描いたバトル物で、迫力ある絵は確かに圧巻だった。
……だが、恋人や友人が唐突に出てきたり、理由も曖昧なまま戦い続ける展開に、私は首を傾げざるを得なかった。
「読み終わったみたいね。で、どうだった?」
私が読み終わった事に気が付いた詠美さんが声をかけてくる。
感想を求められているのだが、率直な感想を口にして良いのだろうかと戸惑った。その様子を見て気分を害したのか、早く感想を言うように声を荒げ始めたので、素直な感想をいう事にした。
「まず絵が素晴らしいと感じました。多分、この作者は主人公に愛着を持っていて、いろいろ思いを馳せているのだと思います」
「うんうん、それから?」
「えっと……。ただあまり、こういう言い方は何なんですけど、いろいろ話に脈絡がなくて……。急に恋人や友人が出てくるし、結局何を理由に戦っているかがよくわかりませんでした。なんだか先走った思いが全面に出ているような、読み終わった後に大きなはてなマークが頭に浮かぶような感じで……。あの……これって大手サークルの作品なんですよね?」
「キャハハ! ちょーウケるー! 彩、あんた良い性格してるわね!」
詠美さんは話の途中から笑い始め、最後の話を言う頃には声に出して笑い始めた。何かおかしなことを言ってしまったか、と気持ちを落ち込ませた。
「ああ、ごめんごめん。あまりにも期待通りの感想だったからおかしくなっちゃった。でもそこまでわかったのは大したものだわ」
「……そこまでわかった、とは?」
「へんな話ね、こみパで売れるマンガは
「……えっ?」
「凝った話を描いたり、しっかりした情熱なんていらないのよ。読者が望むキャラを、望む展開で、上手な絵で描いてあげれば売れるのよ。ありきたりな話でいい。主人公が苦しむなんてダメ。苦しんでもカッコよく! そうすれば売れるのよ」
あまりのシンプルな説明で驚きを隠せなかった。
それから詠美さんから次々と大手サークルの同人誌を貸してもらった。
2冊目の同人誌は3000部売り上げているという。しかし内容を確認すると、少し小柄だが可愛らしい女の子が、可愛く転んで可愛いらしく泣いて、わざとらしく下着を見せている。そして、もう1人の可愛らしい女の子と恋人らしい発言を
都合、10冊ほど見せてもらったけど、どれも同じような内容だった。
――胸の奥が冷たくなるのを感じる。
確かに画力はみんな素晴らしいものだった。
しかし、内容については驚くほど中身がなかった。こう言っては作者に申し訳ないが、脳の表面だけを使ってマンガを描いたのではないか、と思ったほどだった。
「わかった、彩。売れる同人誌を描くってことはね。
「……でも、詠美さん。なんていうか、その、こんな中身のないものを描いていて、楽しいんでしょうか?」
「楽しい楽しくない、じゃないの。売れる同人誌ってのはこーゆーものなのよ」
「……詠美さんも、こういう本を描いてるんですか?」
「……なに? 文句あるわけ?」
「いえ、そういうわけでは……」
「前にも言ったわよね。マンガは売れてなんぼ。売れなきゃトイレットペーパーにもならない。それくらい『売れる』と『売れない』とじゃ差があるの」
「……」
由宇さんと詠美さんが
確かに、これでは揉めるはずだ。由宇さんがこの話を聞いたら激怒するだろう。
『あの子は『売れる』ことだけに固執して、肝心なマンガへの情熱がないねん』
いつかの由宇さんとの会話を思い出す。詠美さんも以前は、情熱を持ってマンガを描いていたのだろう。由宇さんとユニットを組んでいたというのは、そういうことだ。
それがいつからか、売れることに固執して、今の考えに固執してしまったのだろう。
――どんな辛いことがあっても、耐えられると思ってたのに。よりにもよって、こんなマンガを描かなければならないなんて、夢にも思わなかった。
「どうしたの、彩。売れるようになりたいんじゃないの?」
「売れるように、なりたいです……」
そうだ。あの日覚悟を決めたんだ。もう後には引き返せない。
なんとしてでも売れるようになって、和樹さんと一緒に、また同人誌を描くんだ。
「私、描きます……まずはどうすればいいんですか?」
「ん、わかったわ。あらためていっておくけど、絶対服従だからっ! 口ごたえしないでよね!」
そして、詠美さんの本格的な指導が始まった。
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