Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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41話 叩き上げの日々

 

 詠美さんからの指導は、想像よりはるかに大変だった。

 

 まず指示されたのは、とにかく流行りの『上手い絵』を描けるようになること。

 試しに絵を描いて、と命じられる。お題は奇しくも『美少年』と『美少女』だった。

 いつかの教えと同じだ、と思いながら、あの時よりも出来の良い『美少年』と『美少女』を描いたつもりだった。が、にべもなくダメだしされた。

 

『なにこの絵? さっき大手サークルの同人誌をみたでしょ!? ちょっとはマネするとかないわけ! まずは画力をあげることから始めるわよ。彩の今の絵じゃ、誰も見てくれない。その線だらけの読みにくい絵を徹底的に直すわよ』

 

 そうして参考に、と詠美さんの数か月分の同人誌を渡される。

 そして、まずは出てくる12種類のキャラクターを50回ずつ模写せよ、命じられた。

 その回数に一瞬怯んだ。つまりは600回書き続けろということだった。しかも作品ごとに絵のタッチが違うのだ。どれほど時間がかかるか想像できなかった。

 

 『まずは徹底的に描きなさい。目をつぶってもそのキャラが描けるくらいに、描いて描いて描きまくるの。今の彩の絵なんかじゃ、永遠に売れないんだからっ!』

 

 詠美さんの言葉には容赦がない。胸に刺さる言葉を、平然と言ってくる。

 しかし、今は言われた通りに描くしかない。徹底的に模写していった。

 1枚描くごとに提出を求められた。最初からうまくいく筈もないが、今できる最高の出来、というくらいの完成度で提出すると、頭から否定される。

 

『彩、線が多いって言ったでしょ? 私の絵を見て。こんな線ある? 模写しろって話してるんだから、ちゃんとしてよね』

 

 話にならない、とばかりにダメ出しをくらう。その後も同じように言われ続けた。

 

『彩、先ほど注意したところと同じところ間違えているわよ。何度も言わせないでちょうだい』

『まだ線が多い。デッサンみたいな描き方はいらないの。1回で全て描き切るようにやりなさい』

『また同じところを……! 彩、やる気がないならやらなくていいのよ』

 

 配慮のない言葉に胸を締め付けられる。

 ダメなところは徹底的に叩かれて何度もやり直しを命じられる。

 こんな日々が来る日も来る日も続いた。

 

「あの……今日はこれで失礼します……」

「ん、またあしたねー」

 

 詠美さんの素っ気ない返事が返ってくる。玄関から外に出て、ほっと一息ついた。

 ダメだしされ続ける時間が、ようやく終わった。息を吐くと、白い息が立ちのぼった。

 雪こそ振っていないものの、気温は零下を切っているだろう。冷えた手に息をはきかけて温める。

 

 ふと、空を見上げると、自然と涙がこぼれ落ちてきた。

 

 ――和樹さんとは、まるで違う。

 

 あの人の言葉には優しさがあった。

 どんな小さい疑問でも、質問したら丁寧に教えてくれる。そして間違っていても決して否定するのではなく、こうすればいい、と私の考えを尊重しながら伝えてくれた。

 和樹さんが恋しい――。まだ詠美さんに師事を請うてから1週間しか経っていないのに、心が折れかかっていた。

 もう売れなくてもいいのではないか。そんな言葉が頭にちらつく。

 流れる涙を服の袖で拭く。泣き顔が周りの人たちにバレないように、少しストールで隠しながら、自宅に帰った。

 

 お風呂で冷えた体を温め、ベッドに倒れて、また少し泣く。

 最近、こんな事ばかりだ。和樹さんと一緒に描いていた頃は、少しも辛いと思ったことなかったのに。

 なんでこんなことになったんだろう? 決意が揺らぐ自分に気が付いて、あの時感じた無力感を思い出す――。

 

 ――そうだ。和樹さんといられるようになるため、最善と思う道を進んでるのではないか。

 

 そう思い立ち、机に向かい、原稿用紙を広げてペンをとった。

 詠美さんは徹底的に模写しろ、って言っていた。詠美さんも昔は売れていなかったって聞いたけど、努力をして今の栄光を手にしたんだ。

 だったら、私もそれと同じ――いいや、それ以上に努力しなければならない。

 

 少し詠美さんに言われたくらい、なんだというのだ。今まで散々売れる努力をしてこなかったから、苦労しているだけだ。だから、今、頑張らないと。

 そう決意し、今日注意されたところを思い出しながら、徹底的に模写する。

 ペン先を走らせながら、涙が原稿用紙に落ちて、インクが滲んだ。

 それでも手を止めない。止めたら、もう二度と描けなくなってしまう気がした。

 




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